ダンジョンで双璧が暴れるのはまちがっているだろうか   作:よづき

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NO.16

 

 

「…ノエル、2人はどの方向に居る?」

「南」

 

建物を壊さない程度に急いで少しすると、のオラリオでは珍しい真っ白の髪とルベライトの瞳を持つ少年を見つけ、さらにその少年の死角を辿ると白金の少女がいた。

 

「ノエル!」

「…!」

 

彼女の前に飛び出すと薄紫色の瞳が大きく開かれる。彼女が理解するより先に、ガネーシャ・ファミリアの方角から甲高い悲鳴が響いた。

 

「くそ、思ったより早いな…!」

「何、何があったの」

 

悲鳴が聞こえる方角を見ながら彼女が問いかける。

 

「あの女神、ガネーシャ・ファミリアがテイムしていたモンスターを放しやがった。テイムされたモンスターの強さはさほどでもないが、ステイタスを持たない市民や駆け出しの冒険者にあれが倒せるかよ」

「…ベルに、倒させる、ため?」

 

嫌な予感。当たってくれるなよ、とも読める顔でノエルが確認するように問うた。

 

「…恐らくな。あの女神には悪いが、先に全部潰す」

 

だから行くぞ、と声のするほうへ体を向けるが相棒はそうではなかった。

 

「……私は、ベルを守れればいい」

 

言外に、ベルのそばを離れる気は無いと、その他の市民は自分が守らなくてもいいのではないかと返される。昔から、ノエルは力を持たない人の気持ちが、自分ではどうしようも無いことがあるというのを理解できないのは分かっていた。それがここで発揮されるのかとアルトは頭を抱える。

 

全能が故の、できない人間への無慈悲な対応。慈悲深き女神の眷属でありながら誰よりも冷たいのがノエル。

だから、あの時ノエルが【ロキ・ファミリア】に入団した。

 

「…お前、これで被害が大きくなってみろ、俺らみたいな育ち方する子供が出てきていいのかよ」

「…」

「確かにな、俺らを捨てたオラリオを助ける義理はない。だがそれでいいのかお前。俺は行く」

 

より強いモンスターの気配がする方角を探った瞬間、自分の足元から強大な気配を感じノエルを突き飛ばしながら自分もバックステップで下がる。

つい先程まで自分たちが立っていた所から触手のようなものが顔を出し、地面を割って這い出てくる。

 

「…何、このモンスター」

 

アルトが突き飛ばしたにも関わらず、綺麗な受け身で触手を回避しながらノエルが問う。深層まで行った彼らの知らない極彩色のモンスター。

 

「っ!」

 

だがLv6の冒険者が手間取るほどの攻撃速度でもない。ある程度攻撃を見切ったノエルが反撃に出る。腰に吊るしていた片手剣を右手で掴み、軽いステップでかわしつつ剣を盾に迫る。そこでノエルは右手にかかる重さが急に軽くなったことに違和感を覚えた。

 

「剣が、溶けてる…アルト!」

「分かってる!」

 

目を一瞬合わせ、ノエルは丸腰のままモンスターに突っ込む。打撃で攻撃するがあまり効果はない。それでもアルトが一瞬でも集中し全知でこの未知なるモンスターを調べればどうにかなるとノエルは確信し、下段で繰り出した蹴りに反応したモンスターをあざ笑うかのように上段で蹴りを5連打。そのまま重力などないようにモンスターの頭上に飛び出ると踵落しで怯ませた。

 

【全知】

対象 :極彩色のモンスター

発生場所 :Error

特徴 :すべてを溶かす酸が体液。敗戦時爆発する習性。魔力に反応する。

 

「…!ノエル、そいつの体液はなんでも溶かす酸だ!しかも倒すと爆発しやがる!」

 

言われるが否や、ノエルは強烈な蹴りを叩き込みモンスターから間合いをとる。

 

「打撃も効かないし剣は溶ける。面倒」

 

今のノエルは丸腰だ。剣は溶かされノエルの魔法は夜、もしくは暗い場所で真価を発揮するもの。しかも彼女は剣を携えることでステイタスに補正がかかり、剣以外で戦おうものならマイナス補正がかかるスキルもち。真昼で剣がなく、また敵が1体のこの状況は彼女が1番弱体化するタイミングだ。

 

「こいつ魔力にも反応しやがる。ノエル、お前あの星の魔法撃て」

「明るい場所だと効果半減だけど」

「いい。並行詠唱してろ。気を引け」

「…」

 

それでどうするつもり、と視線を寄こす。

 

「俺がその後魔法撃つ。俺のはショボイが近距離で魔石に撃てりゃマシだ。ショボくてもレベル6の魔法を2発もくらって耐えきるほどの耐久力はない。ノエルもできるだけ核にあてろ」

 

俺がそう伝えるとノエルは黙って頷く。こういう時に純粋に信じてくれる彼女に安心する。

 

「輝く無数の星々 、荒れ狂う人々の切望」

 

今まで幾度となく口にしてきた詠唱が紡がれる。マイナス補正でレベル5程度の動きしかできないノエルの動きはぎこちないが、モンスターから吐き出される酸を避け、アルトから視線を逸らす。

 

「時は来た、終焉の予言は今詠われる 」

 

アルトの詠唱が近距離で完了したことを確認し自身も詠唱を終わらせる。

 

「地を穿てーーー アステリズム」

 

本来の輝きからは程遠い鈍い光がモンスターを襲い、その体を刺す。ダンジョン内や夜であれば四肢を舐め溶かす程の広範囲殲滅魔法と考えればノエルの舌打ちも仕方ない。だが、おかげで魔石が丸見えだ。

 

「咆哮」

 

ノエルがつくったモンスターの隙を逃すことなく、選択式2重魔法という無茶苦茶な魔法でモンスターの体を焼き尽くす。

直後極彩色のモンスターが爆発し、軽いジャンプで被爆から逃れたノエルが険しい顔をする。

 

「…アルト、他にわかったことは?」

「特性以外は分からない。…恐らくだが、神が関わってる。そういう見えなさだ」

「フレイヤ?」

「どちらとも言えないな。めんどくせぇな…、ベルを守るので精いっぱいだぞこっちは」

 

それを聞くとノエルはうんざりした様子で答えた。

 

「武器を使うにしても燃費悪い。アルトはコレと戦える?」

「アスフィとマジックアイテム考えるかデュランダルの武器を使うかだな」

 

アスフィ・アル・アンドロメダ。現ヘルメス・ファミリア団長でアルトを巡ってはノエルといがみ合う神ごとき才能を持つ女。

 

「アンドロメダの手を借りる…」

「アスフィはひとまず忘れろ。ここまでの騒ぎになっちゃあ各地の冒険者が倒し尽くしてそうだが…」

 

アルトが何となしに空を見上げると、風を使って空を飛ぶアイズ・ヴァレンシュタインを見た。

 

 


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