ダンジョンで双璧が暴れるのはまちがっているだろうか 作:よづき
ノエルに方角だけ教わりそこから2人を探知する。厄介な相手に目をつけられてしまったベル。これはどうしようもない。これからどう動くかだ。
「俺がフレイヤ見ておくから、ノエルはヘスティアを追え」
「…それって」
「フレイヤの動向を見ておくだけで、近づかないさ。流石に簡易式の槍一本であの女神の美に対抗出来る気がしないしな」
彼らとっては毒でしかないあの魅了。あの女神の美は逃げるにも逃げられない、理不尽な毒。全能をほこるノエルでさえ本調子でなければ自由が効かなくなるという。
「…私がいないところで、あの女神に近づかないで」
ノエルの長いまつ毛がその柔らかい肌に影を落とす。あの女神までとは言わないがこちらも少々蠱惑的ではとアルトは思わずにいられなかった。だがノエルがいればあの女神の美から逃れられるのも事実。もとよりアルトは近づく気もないのだが。ノエルの言い方が悪い。
「わかったから。ほら、行ってこい」
ノエルの背を軽く押してやると、彼女は小さく頷き気配を消した。アルトもあの女神の魅了が効かない距離を保ちながら追う。ベルに今日なにかするとは限らない。だが彼の勘が告げる。あの女神は執着した男を決して逃したりはしない。早めに手を打ち始めるのは間違いないと。折りたたんである槍をいつでも組み立てられるよう常に手をかけ、一定の距離を保つことで気配を察知されるのを防ぐ。それを繰り返しているとガネーシャ・ファミリアの領域にたどり着いた。
(ガネーシャ・ファミリア?ここは、モンスターを檻に…)
女神に悟られぬよう距離をとり、ガネーシャ・ファミリアの未来を見る。未来予知の唯一の制限は、同じ時間軸が見れないという点だ。昨日はベルとヘスティアが合流する時間までを見たので、次に使えるのは2人が合流した後の未来。恐らく既に合流しただろう時間なのでここからはあの女神の未来を見る。
そこにはあの女神がモンスターを放つ最悪の光景が広がっていた。止めようにも、あの女神の魅了を振り切って事態を集約させる術を今の彼は持たない。ノエルと追跡する相手を逆にすべきだったかと思うが、彼女は未来を見ることは出来ないので回避はもとより出来なかったのだ。
迷った挙句、モンスターを離したフレイヤに近づいた。
「ひさしぶりだな、フレイヤ」
「あら、お久しぶりね。どうかしたの?」
「神とあろうものが知らない振りがお粗末すぎるんじゃ?」
「…あなた一人で私のもとへ来るなんて珍しいわね」
全くかみ合わない会話。ノエルほどまではいかなくても、上級冒険者のアルトもある程度【魅了】に抵抗できる。
正直ギリギリだな、と思いながらも会話は終わらない。
「ベルに目を付けただろ、何がしたい」
いつも微笑を浮かべているアルトの顔に今そんなものはない。
「警戒のしすぎじゃなくて?」
「どこがだよ、お前が一番オラリオで厄介な女だろ」
「身に染みてるのね」
あぁ______××××。
冷静でいられそうもない。
この女を今追いつめても仕方ないと判断し、ベルの気配を追う。ノエルは気配を消していて観測できないがベルの近くに必ずいる。
「ベルがほしいなら、俺とノエルがいること忘れるなよ」
「わかっているわ」
この女に今攻撃しても仕方がないと、屋根へ飛び、人混みに邪魔をされないオラリオの空を走る。Lv6の足で屋根を走る様は祭りで浮かれた冒険者と思われるだけだろう。ヘスティアとベルが合流する場所は昨日見た。その場所を目がけて彼はメインストリートまで最短距離を走った。