ダンジョンで双璧が暴れるのはまちがっているだろうか 作:よづき
ヘスティアがホームを開けて三日目の朝、狭い教会の隠し部屋にベルの「行ってきます」という元気な声が響く。
「行ってらっしゃい」
「おー、頑張ってこーい」
レベルの差の問題で相変わらず別行動が多いのはいつも通りだが、本日はアルトが異様な二日酔いで珍しくベルが先にホームを出た。
「昨日は急にいなくなったっきり遅くまで帰ってこないし二日酔い…何かあったの…?」
朝食の片付けをしながらキッチンからノエルが顔を出す。アルトはソファでぐったりしながら目線だけノエルに向けたが答えしなかった。
彼のプライドが許さなかった。ノエルと2人でなら神とさえ渡り歩けると思ってたが、1人では英雄さえ目標に出来ないなど、ベルを羨んだなど言えるはずもない。
「聖なる光よ、癒しの加護を」
「【サンタマリア】」
アルトが問いに答えないことに若干の不満があるのか、彼女は不機嫌そうにその短い詠唱を唄った。
彼女の回復魔法の恩恵を受けながらさらに彼は落ち込んだ。ノエルのステイタス表記は曖昧な表現が多い。「全ての動作に補正」や「対峙する相手」や「想像力」に依存する力。そして今の「何に対しての効果」があるのか表記されない回復魔法。裏を返せば何に対しても効果があるのだ。相変わらず規格外の女。この詠唱の短さでこれを成し遂げられたらたまったもんじゃない。
「昨日見た限りじゃ、ベルとヘスティアは今日フィリア祭デートだけど俺らはどうすっかなー」
「…ヘスティア様のこと昨日口止めしたね。ベルになにか関係あるの?」
「んー。昨日はヘスティアはヘファイストスに頼み込んで、ベルの武器を作ってもらってた。それで2人が今日祭りで合流する所まで見えたから、サプライズはサプライズのままにしてやろうとと思って」
「そう…。じゃあ邪魔は出来ないね」
この様子だと、ヘスティアのこともベルのことも好きなノエルだ。一緒に行きたかったのだろう。俺もノエルの回復魔法で徐々に二日酔いが抜けてきてるし、ここ3年は荒れていたしいい機会かもしれないと思いノエルを祭りに誘った。
「俺らも行こうか?2人も何か食べて帰ってくるだろうし、俺らも食べに行こうぜ」
素直じゃない彼女のために軽い口実をのせる。
「…うん。行く」
そういうや否や部屋着から着替えるために脱衣所へ向かった彼女を見て俺も着替える。
ヘスティアに出会うまでノエルが休息を取るなど滅多になかった。あの女神はあの人らが信頼してるだけある。出会えて良かったと思いつつ支度が整い外に出た。
「じゃが丸くん食べたい」
「朝食で食べたろ」
「さっきは塩…次はバター醤油…」
祭りで何をするか話しながらメインストリートまで歩くと、ノエルがふと立ち止まった。
「ノエル?」
「…アルト、昨日はヘスティア様の未来じゃなくて、ベルの未来を見た?」
「…そうだ。目の前にベルがいたからその方が見えやすいし。不味かったか?」
アルトの問いに小さく頷く。常人の何倍も五感が働く彼女は、幼女神と美の神の会話を捉えた。美の神がベルの話になった途端、明らかに態度を変えたのを察知するのも容易かった。
「…フレイヤがベルに目をつけた。あの女…」
「…」
武器もほぼ持たず普段着では、オッタルが護衛し魅了を駆使するフレイヤに近づくことも出来ない。ノエルはいつだって綺麗なその顔を思いっきり歪めた。