ダンジョンで双璧が暴れるのはまちがっているだろうか 作:よづき
【ロキ・ファミリア】のLv1のパーティは、本日の当番である朝食の片付けをしながら、漆黒と白金のコンビについて噂していた。
「あの人たちって何者なんだろう?」
ロキの意向で全員で食べるための食卓はかなり広い。片付けも簡単ではなく時間もかかるので、普段はパーティ会議に近い会話をしている時間だが今日は違った。
「ん?豊穣の女主人でベートさんと戦ってた人?」
キャットピープルの少女の質問に対しヒューマンの少女が反応する。
「そうそう、ベートさん相手に互角以上に戦ってたでしょ。でもそれで無名って変だなーって。外から来たっていう噂もないし」
「確かに…女の人の方は元々うちのファミリアにいたみたいだし。何か聞いたことある?」
「ううん…だけど、ベートさんと仲いい人がいたとか、アイズさんには姉的な存在がいたとかは聞いたことあるかも。あの人のことかなあ」
【ロキ・ファミリア】という大手派閥である以上、下位の団員でもオラリオについては出来るだけ知っておくようにしている。にもかかわらず、知らない実力者がいるのは問題なのだ。
「すげぇ、綺麗な人だったよな…」
「あんたはそればっかりね!」
ロキの趣味で【ロキ・ファミリア】の面々は総じて顔がいいのだが、ヒューマンの少年が思わずそう思うのも頷けるほどあの二人は顔がよかった。すると食堂から顔を出した少女も会話に加わる。
「そういえば、ベートさんとアイズさんの反応がわからなくて言えなかったけど、朝買い出しに行った時にバベルの掲示板に乗ってたよ。今頃超ウワサになってるって。あの二人、Lv3からLv6で再登録した冒険者だって!」
「はぁ!?Lv3からLv6ぅ!?しかも再登録って…何年前にいたわけ?」
「3年前だよ。」
パーティメンバーではなく頭上から聞こえてきた声に、一同はいっせいに上を向いた。2階へ続く階段の手すりに腰掛けていたのは、Lv3の第二級冒険者カナ。【ロキ・ファミリア】で単独行動が目立つ、問題児の1人だが実力は本物でLv3の団員の中ではレフィーヤ・ウィリディスに次ぐ到達階層を誇る。
普段団員とさえ距離を置く彼女が、珍しく反応した。
「3年前、ノエルは遠征途中に突如として前線から消えた。タイミングはサイアクの深層到達後。もちろんダンチョー達は強いからどうにかなったけど、普段の遠征より深い層には行けなかったし、下位冒険者の被害は凄かったよ。ノエルは守りの要だったから」
一段一段階段を降りながら、うっとり当時のことを話すカナは、まるでダンジョンの中にいる時のような殺気を纏っていた。
「…詳しいんですね…その場にいたんですか?」
「もちろん!あの人は私の憧れだ。だが【ロキ・ファミリア】の守りの要であり第一線で戦い続けた彼女はオラリオのアンタッチャブルになった。彼女の名前を言おうものならベートに潰され、前線を急に去った彼女を悪くいえば剣姫の逆鱗に触れる。ここ3年で入った奴らが知らないのは当然だね」
「3年前…3年の間で、Lv6になったと言うんですか…?」
自分たちがファミリアに入団して2年。まだLv1で足踏みをしてると言うのに、ただでさえ上がりにくいレベルを3つもあげたなど信じられるはずもなかった。
「あの人ならやるね。あの人は選ばれし人間。私も追いついた気になっていたけど…まだ足りないか」
紡がれる言葉は悔しそうなのに、声の響きは喜びを隠しきれていない。これではまるで崇拝だ、あの白金は一体何者だというのだ。
「出生不明で年齢も不明、消えた先も不明であの人は人の記憶から消えるはずだった。だがあの人は帰ってきた、馬鹿げたレベルアップと共に!やはりあの人は、オラリオの頂点に立つべき人!」
オラリオの頂点ーーーーそれは【猛者】オッタル。
【ロキ・ファミリア】の首脳陣が一度にかかっても勝てない相手を越えるとこの人は言うのか。
「隣のあの男も、認めたくはないがその領域の男。元【ヘルメス・ファミリア】の団長にしてあのペルセウスが憧れている男だ」
ノエルについて語っている時とはうって変わり、次は嫌そうに顔を歪めた。
「あの2人は別のファミリアに所属していながら、対ラキア戦でコンビを組み完璧なコンビネーションをみせた。あの二人は双璧だと、そろってたら勝てる人はいないと言われたね」
私がその隣にたちたかったと、カナはそう零す。だが受け入れられようか。そこまでの人が本当にベートとアイズという存在でアンタッチャブルまでになるというのか。他にも「何が」があるはず。そう思わずにはいられなかった。