ダンジョンで双璧が暴れるのはまちがっているだろうか 作:よづき
処女作ですので温かく見てやってください。
W主人公スタイルをとっていきますが、基本男主目線の女主目立ちです。
文章をねり込めてはいませんが、アポロン編までの流れとオチは出来ております。
慈悲深き女神から成る【ヘスティア・ファミリア】の団員でレベルは6の冒険者。アルト・バインは戦い方を教わったことがないという団長ベル・クラネルの現状を知るべく、相棒のノエルとベルとともにダンジョンの上層に来ていた。
だがどうしてこうなった。
ベルへある程度の基礎を叩きこんで傍観を決め込んでいるとミノタウロスに襲われており、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインとノエルに助けられ逃走。もう一人の同僚、ノエルは剣姫につかまり見つめあって硬直。
急に背後から殺気立った蹴りが飛んできた。反撃か、回避。
少しだけ迷ったが、この状況で戦っても負けは見えているので避けることに専念した。俺の黒く長い癖のある前髪を2,3本持って行った蹴りは、空を切り、蹴った本人____【凶狼】ベート・ローガへと戻る。
どうやら【ロキ・ファミリア】の遠征帰りに遭遇したようで。
「何してくれてんの?」
「うっせぇ、雑魚はだまってろ」
「先に仕掛けてきたのは君だよね」
「まじでうぜぇな。なんでテメェが品行方正で通ってんだか」
まさに一触即発。ベートとサシであれば普段は応戦するところではあるが、向こうの幹部がそろっている状況ではどう考えても分が悪い。相棒であるノエルに目線を送ってみると反応を示してくれた。白金色の髪を揺らしながら美しい声音で俺の名を口にする。
「アルト、任せた」
そう言って剣姫を振り払ったノエルは、一緒に逃げるのかと思いや俺を盾にして逃走した。同時にベルも脱兎のごとく出口へ走り出す。え、まって。剣姫もベートも、後ろにいる方々もあなたを見つめていますがノエルさん。
「久々じゃねぇか。今あの女とどういう関係だ?」
案の定、銀の狼は俺の胸ぐらを掴み逃がすまいと壁に押し付けた。
【ロキ・ファミリア】の首脳陣でも特に剣姫と凶狼の反応は最悪。どうして俺だけ残していったんだ。
「同じファミリアの同胞だ。何か問題でも?」
ベート一人に向けてではなく、【ロキ・ファミリア】全体に聞こえるように大声で言う。少し芝居がかってるが、そうでもなきゃこの第1級冒険者達を前にやってられるか。レベルに差がないとはいえ、向こうは首脳陣勢揃い。
ノエルが逃げたということは、あまり話したくはないタイミングなのだろう。俺が適当に話をつけて終わらせるべきだ。彼女に1つ貸しができるのも素晴らしい。
「・・・ファミリアに、入っているの?」
心底意外そうな顔で剣姫は問うてきたが、2度言うことでもないので笑顔で流す。俺が質問に答えようとしていないことが伝わったのだろう、剣姫はうつむいたままで顔を上げることもなくなった。相変わらず能面のような顔は、彼女のそれと被る。
いつの間にかこんな面倒くさいことに…。ベルもノエルも逃げるし、【ロキ・ファミリア】には絡まれるし。
辛気臭い雰囲気の中、ベートの腕を振り払い堂々とその場の真ん中を歩き抜け出した。
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オラリオの一角、教会の隠し部屋の扉を開けるとファミリアの仲間である3人が一斉に俺に振り向いた。
「ただいま」
「アルトさん!お、おかえりなさいっ!?」
俺を放置し逃げ帰ってしまったことを申し訳なく思っているのか、それとも怒られると思っているのか。ベルは縮こまっていた。ちょこんとソファーの前で正座で。可愛い。
「ベル、気にしなくていいぞ。まずあの階層でミノタウロスに遭遇すること自体が驚きだったな」
まだ浅い階層だからと俺もノエルも油断していた。本来ならミノタウロスごときをベルに近づけずに済んだはずだ。
くしゃくしゃとベル頭をなでながら俺はヘスティアに話しかける。
「ヘスティア。今日の更新は二人とも終わらせたのか?」
「いや、まだだよ。ベルくんが君を待つときかなくてね」
「そんなのよかったのに。ほら、更新してこい」
俺やノエルは今日は何もしていないし、ステイタスも上がっていないだろうから伸びの早いベルからするべきだ。ベルを送り出すと申し訳なさそうながら、それでも数字に表れる成長を嬉しそうに見つめていた。
「・・・!」
特に会話もないまま更新が終わったが、ヘスティアの動揺した様子を俺は見逃さなかった。神様とは思えないほど抜けてるんだよなあ。俺が知ってる神はもっと、掴ませてくれないというか。その分ヘスティアのほうが読みづらい時もあるけれど。案の定、ヘスティアはわざとらしくベルに話題を振る。
「ベルくん、今日死にかけたというのは?」
そこで【剣姫】の話に移ったが、どうにもベルは剣姫に恋に落ちたらしい。
ヘスティアの気持ちに微塵も気づいていないベルは嬉しそうだが、ヘスティアは見たことなような顔をしていた。
基本無表情を貫くノエルも、今回ばかりはヘスティアに同情の顔。そりゃそうだ、あんなにわかりやすくベルに好意を示しているというのに。
「腹減った、今日はベルが用意してくれるんだったよな」
「は、はいっ!今すぐ用意しますッ!?」
不穏な空気をベルに察せられる前に話を切り上げ、ベルがご飯を作ってくれるようなのでヘスティアをとっ捕まえて座らせる。
「ヘスティア」
「なっ、なんだい!?」
「隠し事、しようとしてるな?ノエルは神聖文字読めるぞ」
ベルのステイタス____覗くぞ。女で、美人で、ベルがあこがれるノエルがベルの背中を見るんだぞ。ヘスティアのいないところで。そう脅すとどんな妄想をしたのか青い顔であっさりと白状した。
「・・・レアスキルだよ。【憧憬一途】。想いの丈により効果上昇。早熟する」
やっとヘスティアの不貞腐れた理由を理解した。ベルの一目惚れは小さなものではなく、スキルに出現するほどの大きな想いだとヘスティアは否が応でも悟ってしまったのだ。
「あー。それは…ベルには黙っていよう」
素直なことはいいことだ。ただベルは他人に秘密を隠すのが下手なのだ。ベル自身の秘密をベルに伝えないことがいい事もある。
「ノエルに傾いているんだと思ったら、剣姫ねぇ。俺の中での剣姫がでノエルにかぶることがあるんだけど。お前と剣姫ってやたらと似てないか?」
今日逃げられた恨みもこめて、横目でノエルを見る。
「アイズには、私が剣を教えた。それに、アイズには風があるから」
「あー…。風ねぇ。普通に忘れてたな。それにしても、ヘスティアに会うまでのお前は荒れてたから師範してたのは意外だな」
その言葉に反応したのはノエルではなく、ヘスティアだった。
「そうなのかい?君たちはとてもいい子だから意外だよ。でもまあ、ランクアップの経緯を考えると荒れていたのも納得だ。でも約束してくれ。無茶はしないでくれよ、大事な子供たちなんだ」
かわいく、それでいてきれいに笑うヘスティアに俺もノエルも頷いていた。
「それで、キミたちはステイタスの更新をするかい?」
「んー、俺は今日何もしてないから、いいや」
「ん、私も」
「そうかい。…キミたちは、どうしてボクのファミリアにーーーー…」
ヘスティアが何かを言いかけたところでベルが戻ってきた。どうやら夕飯の支度ができたらしい。ヘスティアも興ざめしたのか、ベルに聞かせたくないのか、それ以上は何も言わずベルに駆け寄った。
「…そりゃあ、気になるよな」
「アルト、ヘスティア様にはいつか言わなきゃ、」
「うん、まあでもそれは俺が決める」
それが俺の役割だから。