日課の朝のジョギング中、びゅーんっと音がした後、背後から何者かに襲われ、俺は勢いよく地面に突っ込んだ。
い、痛い……。
咄嗟に手が前に出たため、顔面から地面に突っ込むことはなんとか回避できた。ああ、手をポケットに突っ込んでなくてよかった。手を突っ込んで走っていたら顔面から地面に突っ込んで、俺の顔にハリーのような厨二くさい傷をこしらえるところだった。
とか、思っているとゾワっと背筋に悪寒が走った。突っ伏している俺の背中に重さがあり、何かが動いている気配がある。
えっ、何? 俺の背中にいるのナニ!? な、なんかオバケに憑かれた? えっ、この世界のオバケ、ゴーストって憑いたりすんの!? 俺どうすればいいの、ど、どうしよう……!?
とりあえず、背中がどうなっているのかだけでも調べなくてはいけないと思い、背中にいる何かを刺激しないようになるべく身体を動かさないように顔だけを背に向けた。
すると、どーんっと視界に入ってきたのは白いモフモフだった。
ん? んっ……………………?
とりあえず、背中からそのモフモフを引っ掴み、地面に突っ伏したままだった俺もむくりと起き上がる。
ひっ摑んだそいつを真正面から見る。お面のような顔でキラキラと輝く丸い瞳、雪のように白くてモフモフな羽。
俺を驚かせたその正体は、フクロウであった。
おいっ、フクロウかよ。俺めっちゃビビっちゃったんだけど、恥ずかしい……。
そいつは、俺の手から逃れると道端に落ちていた平べったい小包をくちばしで拾う。そして、それを俺にくいくいっと渡してくる。
何だコレ……?
小包を拾ってよく見てみる。宛て先には、ダドリー・ダーズリーという名前、送り主には、ハリー・ポッターという名前が書いてある。
ハリーからプレゼント?
あっ、もしかして誕生日プレゼントのお礼とか!? 何が入っているんだろうか。平べったいから本とか? 魔法界のプレゼントだからきっとすごいものが入っているはずだ!
こんな道端で、この小包を開けるのは危険だな。ハリーは、俺にそんなことしないと思うが、魔法界はイタズラ道具の宝庫でもあるからな。
俺は小包を開けるのが楽しみで、いつもよりペースを上げ、まるでスキップをしているかのような軽やかなステップで家まで帰った。
家に帰って自分の部屋にこもってから小包を開ける。本当は早くシャワーを浴びて汗を落とした方がいいと思うが、その小包の中身が気になって仕方がなかった。
ペリペリと小包の包装紙を剥がし、中から出てきた箱を開ける。箱の中から出てきたのは、分厚い紙の束だった。
……………………うん?
その紙の束には、びっしりと文字が書かれている。何なんだと思いながら、俺はその文字を目で追っていった。
* * * * * * * * * * * * * * * * * *
ダドリーへ
お元気ですか?
僕はとても元気です。
この間は、ごめんなさい。駄々こねたり、ダドリーにバカだなんて言ってしまって。今、僕はそんなことをしたり、言ってしまったことをとても後悔しています。
どうか、僕のことを許して、また仲良くしてくれたら嬉しいです。
僕はホグワーツに行くべきだと思います。だって僕は君の言う通り、普通じゃないから。
家にも帰りません。ハグリッドが漏れ鍋という宿屋に部屋を取ってくれました。新学期が始まって寮に入るまでここにいるつもりなので心配しないで下さい。お金は、僕の死んでしまった両親が僕のために貯めておいてくれたものがあるので大丈夫です。
お返事は、この白いフクロウに渡して下さい。このフクロウが僕に返事を運んでくれます。
このフクロウは、ダイアゴン横丁という、ありとあらゆる魔法道具が揃っている横丁で、ハグリッドが誕生日プレゼントに買ってくれました。名前は、ヘドウィッグと名付けました。雪のように白くて美しいフクロウだなと、僕は思っています。
魔法の杖も買いました。………………………………
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こんな調子で、永遠と言えるほど長々と手紙が続いている。手紙の枚数を数えてみれば21枚もあって、まさに大作だった。
ハリー、長いよっ! しかも色々と重い。これじゃあ読む方も一苦労だよ! ハリーは、一体何時間かけてこれを書いたんだろうか。
というか、よくそんなに書くネタがあるなぁ。逆に感心するわ。
『お返事は、このフクロウに渡して下さい』だなんて返事もらえる前提な事も、感心するわ。
うん。ハリーのそういう所、俺は嫌いじゃないよ。
まあ、手紙貰ったら、返事を書くのがマナーだと俺は思ってるんで、しっかりと返事は書く。どんな相手も無視はダメだよね。
チャカチャカとペンを走らせて、21枚もあるハリーのと比べればだいぶ短いかもしれないが、1枚半のまあ普通な分量の手紙を書く。
それをハリーご自慢のフクロウに渡そうとした。
しかし、くちばしにずっと咥えているのは大変そうだと思って、足にキュッと結んで上げた。
もう、飛んでいくのかなと思って窓を開けてあげたが、ふくろうは、飛んでいく気配がない。
ふくろうは、何だかぜいぜいと息をしている。これは、水を持ってこいということか? とりあえず、お皿に水を入れて飲ませてあげる。
何で、こんなに疲れているのだろう。ここからハリーのいる『漏れ鍋』まで、そんなに離れていないはずなんだけどなと思ったところで、納得する考えにたどり着く。
ああ、あの重い手紙を持っていたからか。と考えると最初に俺に突っ込んできたのは、その八つ当たりか? それともご主人様に対する嫉妬か?
何だ、可愛いじゃないかと思って、休んでいるふくろうを撫でようとすると、するりと俺の手を避けて空いている窓から飛び去ってしまった。
ああ、行っちゃった。あのモフモフもっと触りたかった……。背中から引き剥がす時に触ったが、あれは最高のモフモフだった。
俺もホグワーツで、ペットを飼うのもいいかもしれないと、近い未来のことに思いを馳せながらハリーの手紙を片付ける。
「ハリーが家から出て行ってしまったから心配しておったが、仲直りできたようでよかった、よかった。これから近いうちに、また彼と関わらなければいけないからのう」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。ああ、ほんとこの人とは関わりたくない。前回も酷い目にあったし。
振り返ると予想通り奴がいた。奴は、俺の嫌いな奴ランキングで間違いなく上位にランクインしている。
「ええ、あなたのおかげで」
「いやいや、そんなに感謝しなくてものう。ところで……」
何か言おうとしていた彼の言葉を遮っていう。
「どうぞ、おかえりください。もうすぐ新学期だから、学校の準備で忙しそうですし、俺もあなたとはなるべく関わりたくありません、ダンブルドア先生」
巨体がのそりのそりと俺に近づいてくる。
「ああ、ダドリー。わしのことを心配してくれるのかのう。学校なら大丈夫じゃよ。副校長のマグゴナガル先生に全部任してきた」
マグゴナガル先生乙と心の中で呟く。
「それよりも、ダドリー。君は、まだ学校の持ち物を揃えていないだろう?」
ああ、マグル界にはそれらの持ち物売っていないから揃えようがないな。
「だからわしが一緒に買い物に行ってあげようと思ってのう」
「嫌です。ホグワーツなんか行きたくないし、そもそもあなたなんかと買い物に行けるわけないじゃないですか。あなた有名な魔法使いなんでしょ。人が集まってわっさわっさですよ!」
「おや、ダドリーは、わしが有名な魔法使いということを知っているのかのう」
やばい……。
「あっ、そ、それは、ハリーからの手紙にそう書いてあったから」
やれやれと言った風に奴ははぁ……と溜め息をつく。
「まあ、そんなことはどうでもよい。さあ、行くぞダイアゴン横丁へ!」
なんだかにこにこと奴は笑っている。誰がお前なんかといくか。あっかんべー。お前が勝手に俺の道具揃えてこいっ!
「だから、あんたのその姿じゃダメだって言ってんだろっ!」
「それなら大丈夫じゃよ」そう言った奴は、いつの間にか手に持っていた瓶をチャカチャカと振る。
その怪しい液体は何かと聞けば、ポリジュース薬だと答えてくれた。なんだそれ?と思って見ていると奴は、その瓶の中身をぐびっと飲んだ。
すると、彼の身体がどんどん変化していくではないか。やっと変化が止まるとそこには、冴えない男が立っていた。
ポリジュースってそういえば、映画でハリー達が使っていたな。確か、髪の毛なんかを使って相手に変身する事ができる薬だ。だけど、俺の口は、間違いなく災いのもとなのでなにも言わなかった。
「これで準備はばっちりじゃ。さあ、行こうかダドリー」
冴えない男の見た目だか間違いなく、奴の声だった。
はぁ……。と溜め息を吐くと、どこか楽しそうな顔をした奴に引っ張られる。
「少し、目をつぶっておれ」
奴にもう何を言っても無駄なようなので、大人しく従おうとして止める。
「ねえ、大人しくダイアゴン横丁へ行くから先にシャワー浴びてきていい? 身体が汗でビショビショで気持ち悪いんだけど」
「ダドリー、タイミングが悪いぞ。今、もう行く雰囲気だったじゃないか」
ごちゃごちゃとうるさい奴を部屋に置いて行き、シャワーを浴びて、着替える。
服はフード付きで、なるべく暗い色のものにする。ダイアゴン横丁でハリーに会う危険があるからな。こういう、服の方が便利だ。
それから母さんに友達の家で遊んでくるねと伝える。
すると、母さんは、ダドリー坊やにお友達がいたのねと言って、泣き出した。
えっ、酷くない! 俺にだって友達の1人や2人、いる……いなかった。はい、ぼっちだったわ。すいませんでした。
部屋に戻るとジト目をした奴が俺のベットに腰掛けていた。
「遅い……」
はいはい、すいませんでした。と口では謝ったが、心の中では、あっかんべーを繰り返していた。
奴が黙って、立ち上がり俺にぺたりと触れる。目をつぶってという、奴の指示に従う。
そして、次に目を開けたときには、路地裏に奴と一緒に立っていた。通りの方からは、ざわざわとした賑やかな声が聞こえてくる。
「さあ、行こうか」
そう言った奴に手を引かれながら、俺はダイアゴン横丁に足を踏み出した。
先日は、というのには少し前すぎるほど時間が空いてしまってほんとにすみませんが、日間ランキング2位ありがとうございました。
とても驚いてしまいました。
お気に入りの数も以前の倍以上に増えたのでちょっとびくびくしています。
なかなかお話が進みませんが、早くダドリーをホグワーツにドナドナ……ゴホンゴホン、入学させれるように頑張ります。
次回は、「ダドリー、ダンブルドアと杖を買う」(笑)です。