俺の名は、ダドリー・ダーズリー   作:トメカ

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「父さん、気が変になってない?」

 

夕方近くになって、俺はぐったりしながら母さんに問いかける。父さんは、海岸近くで車を止め、俺たちを車に閉じ込めて鍵をかけ、姿を消した。

鍵なんかかけなくたって逃げる気力なんか残ってないよ。

窓の外では、叩きつけるような雨が降り始めている。

俺の問いかけに答えるような気力は、もう誰にも残っていなかったので、俺の問いかけは、いつしか雨の音に消えてしまった。

 

もう、いい加減つかれた……。

けど、確かこの後……ハグリッドさん?とかいうモジャモジャした人がハリーのことを迎えに来るんだよな。

ゴールまで、もう少しだっ! ガンバレ俺っ!

 

しばらく経つと父さんは、笑顔で車に戻ってきた。血走った目で、疲れた顔で、なんだかニタニタ笑っているので、完璧近づいちゃいけないアブナイ人に見えた。

この人、大丈夫かな……。

手には、細長い包みを抱えている。何を買ったのか母さんは聞いていたが、父さんは答えようとしなかった。

確か、映画ではあの小屋で父さん銃持ってたよな? ってことはあれ、まさかの銃……? あんなヤバそうな人に誰か銃売っちゃったの?

はぁ……、嘘だろ。やめてよ。

 

もうやだ、おうちに帰りたい。

 

「申し分のない場所を見つけたぞ。来るんだ。みんな降りろ!」

 

外は、とても寒かった。父さんの狂った笑みも相まって寒気がしてくる。

父さんは海のかなたに見える大きな岩を指差している。その岩の上には、ちょこんとボロそうな小屋が建っていた。どうやら、俺たちはこれからあんな危険そうな場所に連れてかれるらしい。これなら、車の中で寝た方がマシそうだったが、今の状態の父さんに意見すれば何されるか分かったもんじゃないので、おとなしく従うことにする。

 

「今夜は嵐が来るぞ!」

ひゃっほーいっと叫びだしそうな程、上機嫌な父さん。確かにこの雨じゃフクロウは手紙を届けに来ないだろうが、俺たちの命が危険にさらされることをこの人は、理解できていないだろう。

 

ボロ船に乗り、俺たちは海を渡って、岩の上にあるボロ小屋に向かった。

感想? 死ぬかと思った。まず、寒い。氷のように冷たい波と雨が身体を濡らし凍死するかと思った。それから、こんな雨の中、こんなボロ船で海を渡る、まずそこから間違っている。以上。

 

小屋の中も外の外見と同様ひどいもんだった。

板壁のすき間から風が吹き込んでくるわ、火の気のない暖炉は湿っていて火がつかない。

寒い……。

 

おまけに父さんが用意した食料は、1人ポテチ1袋とバナナ1本。バナナは、まだしもポテチはご飯にはならねぇーよ。ポテチは、父さんのソウルフードかもしれませんが俺にとっては違います。もっとマシなもん持ってこいやーっ!

はぁ……。

 

「ああ、寒いさむい。今ならあの手紙が役立つかもしれんな。え?」

父さんは楽しそうだった。

ああ、そうだな、燃やせばこの部屋を暖めることができる手紙の方が、使えないてめぇよりは、よっぽど役に立つだろうよ。

 

夜になると、予報どおり嵐が吹き荒れ、さらに寒くなった。母さんは、奥の部屋からカビ臭い毛布を2、3枚見つけてきてくれて、俺のためにこれまた虫食いだらけでボロボロのソファにベッドをこしらえてくれた。父さんと母さんは、奥の部屋のデコボコとしたベッドに寝るようだ。

ちらりとハリーを見ると、寒さで震えていた。ああ、ハリーは、俺よりも食べていなくて栄養不十分で、細身の俺よりもさらに細いからな。

ベッドにされたソファから1枚毛布を剥ぎ取り、床でたった1枚だけのボロい毛布に包まっていたハリーに掛けてあげた。

よしっ、これでオーケーおーけー。

そういえば、この後は、何が起こるんだっけ……?

モジャモジャが侵入してきて、父さん銃で脅すが意味がなく、モジャモジャが尻に敷いたかもしれないケーキをハリーがもらって、モジャモジャホグワーツの入学許可証渡して……。

んっ、ん? ケーキ? あっ、そういえばハリー今日、あっ、まだ今の時点では明日か。とにかく誕生日じゃんっ!

ああ、すっかり忘れてたわー。もう、しばらくサヨナラしちゃうし、最後になんかあげられればよかったのになー。お返しに俺の誕生日に魔法界のプレゼントくれたかもしれないのにー。ああ、勿体無いことしたなー。なんか持ってなかったけ。

そこで、俺は腕に蛍光文字盤つきの腕時計をはめているのを見つける。たしか、父さんが買ってくれたものだったかな? 貰い物だけど、誕生日に何もないよりは、マシだよな。

かちゃりと腕時計を外して、ハリーを起こさないように近づく。そして、そっとハリーの腕にそれをつけてあげた。

まだ少し、早いが……。

 

「ハッピーバースデー、ハリー」

 

よしっ、これでホントに完璧だ。

やることは、すべてやりきった。さあ寝よう、おやすみ。

俺は、毛布が1枚なくなって硬くなったソファーに横になった。

おやすみ。

 

 

 

ドーンっ!

ドーーンッ!

なんだか、うるさい音で目が覚める。

父さんたちの部屋でガラガラガッシャンという、すげー焦ってんなーという感じの音がしたかと思うと父さんがライフル銃を手に、すっとんできた。

 

「誰だ。そこにいるのは。言っとくが、こっちには銃があるぞ」

父さん、叫ぶのはいいけど。声震えてて、全く怖くないよー。

一瞬の空白のち、ドアが吹っ飛んだ。

見事に吹っ飛んだ。

戸口を見ると大男が立っていた。長い髪とひげは、記憶していたとおり、モジャモジャだった。

うん、モジャモジャさんで正解だったな。

大男は窮屈そうに身を屈めて部屋に入ってくる。身を屈めてやっと部屋に入れる大きさだ。すごい大きいな……。

 

大男は、部屋を見渡してハリーを見つけると突然叫ぶ。

 

「オーッ、ハリーだ!」

 

モジャモジャとした大男がハリーの方を見て笑っている。ただ、怪しい大男が笑う様は、少し恐ろしく、ハリーはいつの間にか俺の後ろに隠れていた。

おい、俺を盾にするな……。

 

「最後にお前を見た時にゃ、まだ、ほんの赤ん坊だったのになあ。あんた父さんそっくりだ。でも目は母さんの目だなあ」

懐かしそうにハリーのことを話す様子にハリーも少しずつ、俺の背後から出てきた。

 

「今すぐ、お引き取り願いたい。家宅侵入罪ですぞ!」

父さんは、モジャモジャに銃を向けながら叫ぶが、

 

「黙れ、腐ったすもも」

 

と言われて、持っていた銃も奪われてやすやすと丸められて一結びにし、使えなくされてしまった。武器を失った父さんは、部屋の隅に逃げる。母さんは、隣の部屋から心配そうにこちらを見守っていた。

それにしても、よく言ったモジャモジャ。『すもも』か、いい表現だな。実にあの丸々とした赤い顔をうまく表現できていると思うよ。

 

「お誕生おめでとう。お前さんに渡したいものがある、尻に敷いちまったかもしれんが、味は変わらないだろう」

 

そう言って出したのは、俺の記憶にも残っていたケーキだった。ありがとう、それのおかげでハリーの誕生日が思い出せたよ。

 

「あなたは誰?」

 

ハリーの質問に大男はクスクス笑いながら答える。

 

「俺はルビウス・ハグリッド。ホグワーツの鍵と領地を守る番人だ」

 

そういうと暖炉の方にドシドシと、ハグリッドというモジャモジャは向かっていく。彼が屈むと次の瞬間には、暖炉に火が起こっていた。

わお、魔法すごーい。

 

「ハリー、お前に話があってきたんだ」

 

モジャモジャは、先ほどまで俺の寝ていたソファーにドシリッと腰掛けた。なんだか既にボロボロのソファーは、大男のモジャモジャに座られて今にも壊れそうだった。

 

「ハリー、お前は魔法使いだ」

 

そう言った瞬間、父さんが叫びだすがモジャモジャは、手元にあったテーブルを父さんの方に投げつけて一瞬にして黙らせてしまった。

わあ、なんだか見てて気分がいいな。今日1日というか、この数日で俺にはすごく鬱憤が溜まっていたようだ。

 

「これを見てみろ」

 

そう言ってモジャモジャがハリーに渡したのは、今日までずっと受け取るのを父さんに邪魔されてきた封筒。

ハリーが、手紙の封を切るとなかには、『ホグワーツ魔法魔術学校入学許可証』が入っていた。

 

「ハリー、お前の父と母は魔法使いだった。そして、お前も魔法使いだ。お前はホグワーツに通う権利がある。ホグワーツに通えばこの家から出て行くことができるぞ」

 

これでお前はこの家からおさらばできるな。

良かったよかったと俺は思った。

 

しかし、ハリーの口から出たのは予想外の言葉だった。

 

「ハグリッド、僕ホグワーツには行きたくありません」

 

 

んっ、えっ?

わんもあプリーズ?

 

「僕、ホグワーツには行きたくない。ダドリーと会えない生活なんて嫌だ」

 

ハリーは、ハッキリと言い放った。

 

ああ、やっちまった。

どうやら俺は、ハリーに懐かれすぎてしまったらしい。

 

 

 


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