俺の名は、ダドリー・ダーズリー   作:トメカ

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夏休みが始まる頃になると、ハリーは母さん達からやっとお許しをもらって物置から出て来れることとなった。

 

俺といえば、この前のニシキヘビのこともあるし、今までどおりハリーとは、ほどほどの距離を保った方がいいという結論に達して、専ら1人で夏休みを過ごしている。

 

友達? 俺は学校では、読書好きな優等生で通しているんだ。大抵休み時間は、本を読んでいる。だって、子供特有のあの訳の分からないテンションの高さについていくにはとても労力がかかるんだよ。仕方ないだろ。あっ、けど別にハブられたり、イジメられたりはされていない。以前、俺を物静かな優等生だと勘違いして、イジメようとしてきた野郎をシメてからは、俺の周りは平和であった。

べ、別に友達がいないからって寂しくなんて、ないんだからっ!

 

毎日、誕生日に買ってもらったカメラで家族やハリー、庭に咲いている花の写真を撮ったり(3日前、突然爆発して大破)、ラジコンで遊んだり(2日前、突然墜落して大破)、レース用自転車で気持ちよく走り回ったり(昨日、突然自転車の操縦が利かなくなり、壁に衝突して大破。俺は傷1つ付かなかった)して、充実した日々を過ごしている。

原作のダドリーのように乱暴者ではないのだが、誕生日にもらったおもちゃはほとんど壊してしまった、何がいけなかったのだろうか……。

 

7月に入ると俺は、進学予定の私立スメルティングズ男子校の制服を買いに出かけた。父さんの母校で、『名門』と呼ばれる歴史のある学校だ。

 

その夜、俺はピカピカの新しい制服を母さん達に促されて着ることとなった。茶色のモーニングにオレンジ色のニッカーボッカーをはき、平たいカンカン帽をかぶり、最後にてっぺんにこぶがついた杖を持たされる。

この杖は、必要なのだろうか。片手がふさがってしまうし、ものすごく邪魔だ。

しかし、鏡で自分の姿を確認して、なかなかその制服が似合っていることに俺は満足した。

居間で、母さん達にその姿を見せれば、父さんは人生で最も誇らしい瞬間だと声を詰まらせて、母さんは感激のあまり嬉し涙を流した。ハリーは、どこか悲しそうな表情で俺を見つめていた。

自分は、公立ストーンウォール校に行かなければいかないのが、そんなに嫌なのだろうか?

俺は、公立に行けるハリーが羨ましいがな。だってこっちは男子校だぞっ! ざけんなよ、学生時代の淡い恋は? 女子と仲良くなる機会どこ行ったんだよ。男子校なんてむさ苦しいとこなんさぁー。最悪……。

 

夜になり、もう寝ようと、居間から部屋に行こうと思うと、廊下の物置部屋の前にハリーがうずくまっていた。

このまま何も声かけずに通り過ぎてしまおうかとも考えたが、感じ悪いので、一応声をかけることにした。

 

「ハリー、どうしたんだ?」

 

うずくまっていたハリーが顔を上げるとその瞳には大粒の涙を浮かべ、ずっと泣いていたのだろうか、目の周りはすでに赤く腫れてしまっていた。

 

「……リーは、なん……う…校に……の?」

 

虫の鳴き声のようなかすかな声で、聞き取ることが出来なかったため、聞き返してしまう。

 

「えっ?」

 

「ダドリーは、なんで違う高校に行くの? なんでこの前みたいに僕とお話ししてくれないの! 僕が変だから嫌いになったの?」

 

感情が高ぶったからかなのか、始めは怒鳴るように喋り出すが、途中から話している内容に自分自身が不安になったのか虫の鳴くような微かな声に戻ってしまう。

 

「ハリー、お前はどう頑張ってもスメルティングス校には行けない。父さんは、たとえ俺が頼んだとしても君をスメルティングス校に行かせはしない。また、俺がストーンウォール校なんかに行くと言って、俺のスメルティングス校への入学を楽しみにしている父さんや母さんを悲しませることは出来ない」

 

「決して俺はお前のことを嫌いになったわけでない。けど、あの日のことで、ハリーのことを少し恐ろしく感じてしまった。ごめん、ハリー」

 

すらすらと口から流れる嘘に自分でも驚いた。確かにこの前の蛇は恐ろしかったが、びくびくと怯えてハリーを避けるほどのことではない。ただ単純に彼と関わるのがちょっと面倒だっただけだ。

これじゃ、俺も立派な狼少年だな。

 

「僕こそ、ごめん。ダドリー……」

 

「ハリー、違う学校に行く事になったとして僕らは、『家族』だよ。同じ家に住んでいるんだ。いつでも会えるよ」

 

まあ、お前はそのうちホグワーツとかいう魔法学校から手紙が届いて、この家から出て行く事になるんだがな。お前がこの家から、出て行ってくれればこの家もすごく平和になるだろう。

ハリー、お前は、ホグワーツで魔法使いのお仲間達と仲良く過ごすことが出来るから心配すんなよ。

俺もお前も平和に暮らせるさ。

 

「ありがとう、ダドリー。学校が違くても、僕たちずっと一緒だよね?」

 

「ああ、そうだよ。もう夜遅い、ハリーも早く寝た方がいい。おやすみ、ハリー」

 

 

「おやすみ、ダドリー」

 

ああ、眠いねむい。早くふかふかのベッドに横になって眠りたい。

なんか最近、ハリーが俺に異様に懐きすぎて、逆に怖い。大丈夫だろうか……。

 

次の日の朝、日課であるジョギングの後にシャワーを浴びて、さっぱりする。やっぱり朝シャンは、ちょー気持ちいいわ。

 

朝食を食べようと思って、キッチンに入ると、洗い場の方からひどい悪臭が漂っていた。

 

「あら、ダードリちゃん。おはよう」

 

キッチンの方からマスクにエプロンを着た完全防備な母さんが近づいてくる。

 

「おはよう、母さん」

 

あまりの臭さに顔をしかめてしまう。

うげ、臭……。母さんは、匂いがついてしまったのかめちゃくちゃ臭い匂いをさせていた。

何がこの匂いを発しているのか気になって、洗い場に近づいてみると、大きなたらいの中に灰色の液体がたっぷりと入れられていて、そこにボロ布がプカプカと浮いていた。

なんじゃコレ……。

理解できずに呆然とボロ布がたらいの中をゆらゆらと動くのを見つめていた。

 

ガチャリ、再びドアが開く音がするとそこにはハリーが立っていた。

あまりの臭さにハリーも呆然とするが、すぐに口を開く。

 

「これ、なに?」

 

「お前の新しい制服だよ」

 

母さんがキッチンの奥から出てきて、そう言う。

えっ、これハリーに着させるの……!?

どう考えてもボロ布で、これを着させるのは、あまりに可哀想だと思うのだけれども。

いや、いくらなんでもそれはないでしょ……。

 

そんなこんなをしているうちに父さんも入ってきて、匂いに顔をしかめた。それがハリーの制服を染める匂いだと知ると、諦めていつものように朝刊を広げる。俺も匂いは、気にしないように朝食を食べ始めた。

少し経つと郵便受けが開き、郵便が玄関マットに落ちる音が聞こえた。

 

「ダドリーや郵便を取っておいで」

 

新聞の陰から父さんの声。

 

ほいよー。食事の途中だったが、俺が取りに行かないとハリーが取りに行くことになるので、おとなしく手紙を取りに行く。

 

マットの上には、3通の手紙が落ちていた。

ワイト島でバケーションを過ごしている父さんのお姉さんのマージおばさんからの絵葉書と請求書らしいそれから、ハリー宛の手紙。

最初の2つは父さんに、ハリー宛のものはハリーにきちんと渡した。

「ダドリー、ハリーになにを渡したんだ?」

 

「えっ、ハリー宛の手紙だけど」

 

「ハリーに手紙? そんな訳ないだろう。だれがこいつなんかに手紙を送るんだ?」

 

ハリーをバカにしたように笑うと、父さんはハリーの手にあった手紙をひったくり、勝手に手紙を開ける。

そして、父さんの赤色の顔を素早く青に染めた。

おお、交差点の信号機のようだな。

数秒後には、青いを通り越して死人のように顔を真っ白くさせていた。

ちらりと父さんの手元を見る。

そこには、『ホグワーツ魔法学校』と書かれていた。

 

どうやらハリーとの別れも近いようだ。近いうちにハグリッドとかいうでかい男がハリーを迎えに来る。

やっと、ダーズリー家にも平和がやって来るだろう。

 

ただ、その前に数日、手紙から逃げ回ることになりそうだということを思い出した。

はあ、憂鬱だが、この数日を乗り切りさえすれば、ハリーは、この家から出て行くことになるんだということを自分に言い聞かせる。

 

さあ、俺の穏やかな生活も、後少しで手に入りそうだ。

 

 


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