電話が鳴り、母さんはキッチンを出て行く。
母さんが再び戻ってきた時には、その表情に怒りと困惑を浮かべていた。
「バーノン、大変だわ。フィッグさんが足を折っちゃって、この子を預かれないって」
母さんは、ハリーの方をあごでしゃくる。
今日は、家族3人で動物園に行ったり、買い物をしたりする予定だった。原作では子分がいたじゃないかって? 子分なんかになる奴なんているだけ邪魔だから、はじめから仲よくなっていない。
そして、もちろん両親から嫌われているハリーは、置いてけぼり。まあ、ハリーを連れて行けば問題を起こし、周りの人にも迷惑がかかるから、ハリーにはかわいそうだが正しい選択だと思う。
ハリーが預けられる予定だった、ふた筋向こうに住んでいる変わり者のフィッグおばさんの家は、キャベツ臭い。しかも、猫が大好きなおばさんで猫の写真を無理矢理見せてくる。
一度、あのおばさんに捕まって、延々と長い時間飼い猫について話されてからはあの家とあのおばさんには近づかないようにしている。
「どうします?」
母さんは、ハリーの仕業だと思っているらしく、恐ろしい顔でハリーを睨んでいた。
「マージに電話したらどうかね」
「バカなこと言わないで。マージはこの子を嫌っているのよ」
俺は、黙ってこのやり取りを見つめていた。ハリーの起こす面倒ごとに巻き込まれるのだけは、勘弁してほしいからだ。
しかし、こんな風に本人の目の前で、本人を無視して、邪険に扱うのは、教育上に頂けない。もし、俺だったら大人になって力を手に入れたら、絶対仕返しに来るぞ。原作には、ハリーから何か直接仕返しされることはなかったが……。
もしかしたら仕返しされることもあるかもしれない!
よしっ! ここは、ハリーに恩を売りつけておこう。もともとハリーにはあまり関わらないようにしていたが、ハリーが偉大な魔法使いになった暁には、何か大きな恩返しをしてくれるかもしれない。ハリーの力を借りて、新しく商売を始めたりしたら、すごい儲かるんじゃないか?
「ねえ、母さん、父さん。俺、ハリーと一緒に動物園に行きたい」
その言葉を口にした時、父さんも母さんも、そしてハリーですら、俺のことを驚愕の表情で見つめていた。
そして、その30分後、俺は車の後部座席にハリーと仲よく座っていた。
ふふふ、ふっふっふ、あっはっはっは……。
笑いが止まらんなぁ。
ハリーは、俺に懐きまくりだ。いやぁー、実に順調じゅんちょう。ハリーも両親も実にちょろい。
ハリーと一緒に動物園に行きたいという俺に、始めはなかなか了承しようとしてくれなかった両親だが、俺が両目に涙を浮かべるとすぐに許可を出してくれた。
ハリーは、あまりの嬉しさに俺に抱きついてきた。
おい、お前がかわいい女の子なら別だが、俺は男に抱きつかれて喜ぶ趣味はない。さっさと退け。
ここで嫌がる仕草を見られては、困るから不自然にならないように気をつけながら、ハリーから身体を離し、代わりに頭を撫でてやった。
ハリーの力を借りて、商売をして億万長者の大金持ちになるのも夢ではないな。
くくく、くっくっく、ぐわっはっはっは。
うるさい耳障りな音に窓の外を眺めるとオートバイがむちゃくちゃな音を出して走っていた。
「……ムチャクチャな音を出して走りおって。チンピラどもが」
オートバイに抜かれた時に父さんが不平をこぼす。おお、父さん。久しぶりにあなたと同意見だよ。
「ダドリー、ダドリーそれでね。僕オートバイの夢を見たんだ。空を飛ぶオートバイっ!」
とたんに前の車にぶつかりそうになった。運転席からグルッと振り向きざま、父さんか赤カブのような顔でハリーを怒鳴りつける。
「オートバイは空を飛ばん!」
おい、父さん危ないよ。あぶねぇーよ。そんな急にスピード上げたら前の車にぶつかるだろうが、事故るだろうが。たかが子供の夢にそうカッカするなよ。たかが夢だろ。
是非とも、安全運転でお願いしたい。
「飛ばないことはわかってる。ただの夢だよ」
あっ、ほらせっかく俺がハリーの気分盛り上げてやったのに。ハリーのテンションだだ下がりだぞ。
動物園に到着して車から降りると、天気がよく、土曜日で、動物園は家族連れで混み合っていた。
こんな天気だから入り口にあるアイス・スタンドも賑わっていた。俺もアイスが食べたいなと母さん達にお願いすると大きなチョコレートアイスクリームを買ってくれた。母さん達は、ハリーにはアイスを買ってあげる予定ではなかったが、愛想の良い売り子のおばさんにまんまとアイスクリームを買わされていた。
うーん、なかなかやり手だなぁ、あのおばさん。
チョコレート・アイスクリームも何口か食べるうちは甘くて美味しかったが、大きいそれは、半分食べたところで飽きてしまった。
ちらりとハリーの方を見ると、爽やかそうなレモン・アイスを食べていた。
うわ、俺もレモンにすれば良かった。
「ハリー、アイス交換しない? 俺チョコ飽きちゃった」
俺に懐いているハリーは、うん、いいよと頷き、アイスを交換してくれた。
ああ、レモン・アイスうまいわー。
園内のレストランでは、父さんがハンバーガーとチョコレート・パフェを買ってくれる。
再びのチョコに俺は、一瞬うげっという顔をする。なんなのこの親子。俺別にチョコレート大好物じゃないからね! チョコレート・パフェとかどっちかというと父さんの好物でしょ。ぜったい。
そんなんだから、豚みたいな身体になっちゃうんだよ。お願いたがら俺を太らせようとしないでよ。
半分ぐらい食べると、父さん達には気づかれないようにこっそりとハリーにあげた。
その後、俺は原作通り、ニシキヘビのケースに落ちた。
疲れたなーってニシキヘビのガラスに寄りかかっていた時のことだった。
なんだかハリーがシューシュー言ってるのを見て、そういえばハリーは、蛇語、確か、ぱ、ぱーせるなんとか? とかいうの喋れるんだよなと思い出した矢先のことだった。
ニシキヘビのこと、全く頭から消えていたわ。
しかも、ケースから出ようとしたらまたガラス元にもどってるし。ニシキヘビのケースどころか、動物園のケースに閉じ込められるという経験をしたのは前世を含めても初めてだよ。
ていうか、ハリーから恨みかっていないのにケースに落とされるとか解せぬ。
ハリーが涙を溢れさせながら、すっごい謝ってきたので、一応は許してあげた。いや、わざとじゃないんでしょ。わざとじゃないよね? 俺、信じてるからね。わざとだったりしたら泣いちゃうよ?
それにこの後、ハリーは父さんによって物置に閉じ込められ、食事抜きが言い渡された。
ごめん、ハリー。いくらわざとじゃないとしても、俺、ニシキヘビのケースに落とされてまで君を助けてあげる心の広さは持ってないわ。
けど、さすがに、食事抜きは可哀想だなと思ったので、ちょくちょくハリーには、母さん達にバレないようこっそりとチョコレートやクッキーなんかのお菓子を差し入れてあげた。