おいでなさいませ、血霧の里へ!   作:真昼

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遅くなりました。


アカデミー編 第六話

 ユキトたち青4の班は補給部隊が平地に作った陣から撤収準備をする為、補給部隊の手伝いを行うこととなった。補給部隊はサポートに特化している忍者が多く、直接的な戦闘力は他の忍者に劣るのだ。このまま今居る場所が戦場になれば補給部隊はあっさりと死ぬ事になるだろう。その為、少し向こうの高台まで逃げるのだ。流石に命の危機となるので撤収準備は速やかに行われている。その途中、何人かの忍者がこちらに合流し始めた。

 彼らは先ほど崩壊した前線から逃げてきた者や他の前線からの応援だ。彼らはここで新たに戦争のための陣をひき、罠などを今から敷くそうだ。

 ユキトや医療忍術を使える忍者は撤収準備のかたわら、医療忍術で負傷をしている忍びを治療していた。ユキトと一緒に回ったのは医療忍者は笑顔が素敵な女の人だった。

 

 ―――どうせ治療されるなら、こういう人がいいよなぁ。

 

 そんなこと思いつつ負傷した治療する。その治療は、撤収が開始されるギリギリまで行われた。ユキトも実践で治療するのは初めてであり、ここまでの人数を解剖するのではなく、治療する事が出来たのは一緒に回った医療忍者の女性が大きかったかもしれない。

 

 全身に治療の返り血を浴びながらも、ユキトと医療忍者の女性は必至に医療忍術を使って負傷した忍者達の治療にあたる。治療を終えた人から感謝され、次の負傷者へ向かう。それを何度も繰り返す。

 

「ありがとうな坊主。お前らが逃げるだけの時間は稼いでやるからよ」

 

 そう言ったのは崩壊した前線から何とか戻ってこれた忍者だった。そのセリフはまるで今から死ぬ事を予感させていた。思わずユキトの治療の手が止まる。その時、横から怒鳴り声が聞こえた。

 

「死なせる為に私やこの子は治療してるんじゃないっ!!」

 

 それは、ユキトと一緒に治療に回っている医療忍者の女性だった。彼女は泣きそうな顔をしつつも治療の為の手は止まらない。それを見て、ユキトも思い出したかのように治療を再開する。

 

「そうだな……。絶対生き残るとするか」

 

 怒鳴られた忍者はそう言って、目を閉じ自身の回復に努め始める。彼の治療を終え、ユキトは違う負傷者へと向かう。しかし、頭には先ほどのやりとりが頭にこびり付いていた。

 

 ユキトの治療のおかげでここに残る人数は指揮官が考えていたより増えたらしい。その為、ここに残る忍者の指揮官に感謝されることになった。流石はあのマッドの弟子だと……。ユキト自身にとって喜んでいいのか嘆いていいのか分からない感謝のされ方ではあったが。

 治療を行っている傍ら聞いた話では、ここ以外の他の里と戦っている前線は霧隠れの里が優勢だそうだ。だからこそ援軍も出せたようだ。そして本来、木ノ葉隠れの里と争っていた、この補給部隊が居る手前の前線も優勢を保っていたそうだ。しかし、一人の忍者が現れ、前線を滅茶苦茶にされ崩壊へと繋がったらしい。その忍者を殺すため、ここに陣地を引き、罠を敷いてるらしい。そう、たった一人のために。

 

 撤収準備が完了しユキトたちは高台へ目指すことになった。のんびり行くことは許されない。行きより多い荷物を抱えながら、ユキトたちと補給部隊の面々は木々の間を走り跳び駆ける。

 

 高台を目指している間、何回か他の里の忍者と戦闘に入ることになった。戦闘になったほとんどの相手は、補給部隊を包囲して逃がさないように画策している木ノ葉隠れの里の忍者達だ。ユキト青4の班が実際に戦闘に参加したのは二回。相手はどちらも年若い下忍だ。初戦で動揺して動けなかったムズミも一度目を乗り越えた為か今度は普通に戦闘に参加していた。流石に、色々と振り切れたのだろう。振り切らないと自分の命が危ないのも、あるのかもしれない。戦闘に入った時は、先日打ち合わせを行っていた通りの連携で戦うことになった。

 

 最初の戦闘時では、相手は下忍とはいえ3人いた。相手の力量が分からない為、ユキトたちは必ず各個撃破をするように心がけた。満月が最初に水遁系の術を使い、相手を一人と二人に分断。そして、ユキトが影分身の術で分断した二人の足止めを行う。その間に、残りの一人を3人で潰す。ムズミが忍具や補助系の忍術で遠距離から援護し、満月が近距離戦闘を行い、ユキトは満月と共に近距離戦闘や少し距離を開けて中距離攻撃を繰り返す。そうして速やかに一人を殺し、再び先ほどとまったく同じ方法で残り二人を分断する。そして、また一人殺害する。残り一人となったところで、相手は逃げ出し隠れ始めた。しかし、隠れているところをムズミの感知の術で暴かれ、俺と満月に瞬身の術で一気に距離を縮られ呆気なく旅立った。

 

 一回目の戦闘が終わり、補給部隊は再び高台へと急ぎ目指す。程なくして、二回目の襲撃があった。今度の襲撃は相手が少なかったので、上忍や中忍といった人たちだけで対応することになった。ユキト達や下忍等はその間に、少し離れた場所で休憩を行う。残念ながら、ユキトに限っては一回目の戦闘で負傷した人の治療を行っていた為、ほとんど休憩が出来なかったが。

 医療忍術を使える忍者は本当に少ないようで、先ほど一緒に治療に回った医療忍者達は全員が前線に残った。そのため、高台へ目指す一団の中に医療忍術を使えるのは、ユキト一人だけだった。

 二度目の襲撃もどうにか返り討ちにすることが出来た。しかし、こちらも被害が無いわけじゃなく中忍の一人が死亡した。ユキトたちと共に物資を運んで来た暗い笑いをする殺戮中毒(キリングジャンキー)の中忍だった。その死に顔は殺戮中毒(キリングジャンキー)に相応しい凄惨な笑顔だった。手向けに補給物資の酒を一瓶置いて、そこから離れることなった。埋葬する時間は無かった。

 

 そして、あと少しで高台という所で3度目の襲撃が来た。今度は人数がそこそこ多くユキト達も戦闘の参加を余儀なくされた。

 

 ユキト達が相手するのは下忍と思われる二人のようだ。襲撃してきた中では一番弱かった為、ユキト達に充てられたのだろう。しかし先ほどと違い、今度は相手側に先手を取られてしまう。

 相手の忍者二人は一瞬で距離を縮めてきた。そして、そのまま満月とユキトは一対一で戦う状態になってしまい、人数の利を生かした各個撃破が難しくなる。ムズミは後ろからユキト達二人の援護を行う。しかし、今度の二人は体術が相当得意な様で距離を開けさせてくれない。まだ、印を素早く結べないユキトでは体術で対応するしかなかった。

 

 常に一定の近距離で戦ってくる相手、下忍ではかなり体術が上手い方なのだろう。アカデミーの中ではユキトの体術も上位に入る。しかし、それでも相手が常に一枚上手を行く。もしかしたら、幼いが中忍なのかもしれない。

 行動の一つ一つが早く印を結ぶ隙がない。距離を開けたいユキト、距離を開けさせたくない相手。ユキトは円を描くようにしながら相手から離れようと後ろに下がる、相手は離させまいと常に近い距離を保ってくる。

 

 ―――くそっ離れやがれ、このストーカー野郎。忍者なら少しは忍術を使えよ。しかし、こいつ体術上手すぎだろ。俺もなかなか自身はあったんだがなぁ。致命的な攻撃は貰わないようにしてるが、なんにしても相手が上手で防戦一方で徐々にダメージが溜まるし、ストレスも溜まる! このまま、戦っていくと流石に不利だな。応援が来ればいいが……。

 

 

 

 ユキトが心の中で悪態をついていた時、ムズミは常にユキトと満月の戦闘が見える場所へ位置取り、援護に徹していた。

 時に苦無を投げ、牽制程度の術を使う。しかし、満月とユキト共に相手との距離があまりに近いうえに、特にユキト側の戦闘では離れようとユキトが動き回る為、ムズミも遠距離からの援護がしにくかった。また、ムズミ自身が割り込んでもあの体術のレベルにはついていけないと自覚していた為、唇を噛んで耐え忍び、相手の隙を伺っていた。

 

 ―――満月の方よりユキトの方が結構きつそうね……。こちらが、一人多いって事を意識して戦ってる。同い年ぐらいなのに相手の方が戦い慣れてる感じ……。

 

 再び、ユキトが戦っている相手へと苦無を投げつける。しかし、相手もこちらへの意識を完全には外していない。軽く躱され、再びユキトと近距離で戦い始める。しかし、適度にムズミが牽制を行う為、戦いはこう着状態へと向かっていく。

 

 

 

 

 ユキトが苦戦しムズミが歯痒い思いをしてる一方で、満月の方は互角より少し満月が優勢といった戦いを進めていた。

 

 こちらも近距離の体術をメインに戦っていた。しかし元々、満月自体が近距離戦闘を得意としていること。そして、鬼灯一族の秘術の一つ水化の術には近距離戦において、かなりのアドバンテージを得る。水化の術は相手の物理攻撃を無効化するうえに、一時的に怪力を宿すなど。体術で戦う相手には非常に凶悪な性質である。それも、相まってこちらの戦闘は満月が優勢に進めている。しかし、相手の体術もさるもので倒そうとするには時間がかかることが見て取れる。

 

 ―――ハッ! こいつ中々巧い。ボクの攻撃の……特に致命的な攻撃はしっかりと防いでくる。体術だけで見れば、ユキトやボクより少し上かな。ムズミさんだとこの体術にはついていけないだろうね。ユキト側も似たような力量みたいだし、コッチはさっさと決めたいんだけどねっ!!

 

 満月は戦闘を楽しみながらも冷静に分析していた。ムズミにはむしろ来られると逆に足手まといと判断し、ムズミに対して近距離に近づくな、遠距離で援護するようにと指示も出す。ムズミもそれをわかっているのだろう、頷きつつもあくまで遠距離で援護に努め続ける。

 

 

 

 この戦いは一見均衡していた。しかし、どちらか一方でも崩れれば、一気に戦況が傾くという事は戦っている全ての者が理解していた。

 

 

 

 

 ―――つまり、応援は期待できない。この戦いは俺一人で切り抜かなければいけない、と……。さて、どうしようかね。

 

 この引っ付き虫め、と悪態をつきながらユキトは再び距離を取ろうとする。戦闘ではたまに相手の攻撃がユキトの防御を抜けてダメージが入るものの、ダメージを受けた部分をユキトがすぐに医療忍術で回復させることで見た目的には互角に戦っていた。しかし、このままだとチャクラがなくなった時点で敗北は濃厚であった。

 

 ユキトは考える。戦っている最中に既に二通りの戦いの進め方を思いついていた。

 

 一つはこのまま、じり貧の戦いを続け、応援が来るのをひたすら待つ。メリットは今まで通りの戦いをすることで場の均衡を保ち、応援が来た場合には特に被害もなく戦いが終わる事だろう。しかし、デメリットとして応援が来なかった場合、チャクラ切れの瞬間に均衡が崩れて一気に押し込まれることになる。

 そして、もう一つは、一か八かの賭けに出ることだ。成功すれば、相手との距離を離せ、応援無しに相手を倒すことが出来る可能性がある。しかし、失敗すれば均衡が崩れ、さらに厳しい戦いになる可能性がある。もしかしたら、ムズミが的確な援護をしてくれることで、均衡は保つかもしれない。

 

 ―――さて、どうするか。しかし、まぁ……他人任せはあまり好きでないな。自分の力で。一人で生き残る為に忍者になろうとしたんだ。ここで、忍者になろうとしてるこんな所で、危なくなったら他人任せを行うのは……、格好悪いよなぁ。

 

 ならば、一か八かの賭けに出るのもいいだろう、とユキトは思う。失敗した場合はムズミの援護待ちになるだろう。

 

 つまり、どうせ他人任せになるのだ。

 

 ならばこそ、賭けに勝てばいい。他人任せにしない方法は賭けで勝つしかないのだ。勝てば自分ひとりで勝ち取れるのだ。ユキトは決心する。

 

 そうしてユキトは一か八かの賭けの準備を行い始める。

 

 

 

 

 ユキトが決心し、賭けの準備を始めた頃、満月側では戦いが傾き始めていた。いくら相手が体術的に上でも愕然とした差は無い為、ユキト側とは逆に体力が削られ始めていたのだ。しかし、それと同時に満月も焦っていた。体術的には相手が上であり、ユキトに向かっていった敵も同じぐらいに違いない。もし、ユキトが崩れれば二対一の戦いになることは必至、いくら満月でも負けることになる。その為、一刻も早く、この目の前の敵を倒さなければいけなかった。

 

 ―――チィッ! ほんっとうに早く倒れろよ! うっとおしい!

 

 イラつきながら、満月は水化の術で怪力を宿した腕で相手を殴りつける。相手はその怪力のパンチを避けることはせずに防御するも吹き飛ばされる。最初の頃は殆ど避けられていた、この怪力でのテレフォンパンチも徐々に当たる事が多くなってきた。吹き飛ばされた後も相手はすぐに近寄ってきて満月に印を組む暇を与えない。相手としても忍術は満月が上であることはわかっているのだろう。必死に喰らいついていた。

 

 

 

 戦況がユキト達へ有利なように傾き始めていたものの、そんな事は露知らない二人であった。唯一理解しているのはムズミだけであったが、それを伝える術が無い。このまま満月が押し切ればこちらの勝ち。なら、ユキトが落とされないようにユキト側に援護を回すべきだと判断したムズミは、より援護がしやすいようにユキト側の方へと近づいていく。

 

 

 

 そしてユキトは賭けの準備が終わった為、わざと相手の攻撃を貰いに行く。事前に当たる部位に医療忍術を施しながらだ。そして、ユキトは狙い通りの場所に相手の蹴りを貰う事で吹き飛ばされる。それで、距離を離さそうとしたのだ。ユキトの賭けは二段仕込み。ここが一段目だ。

 

 吹き飛ばされ、ユキトは体勢を崩しながらも相手を見る。ここで離れてくれるなら……、と考えながら。

 

 しかし、相手は油断をしなかった。

 

 ユキトは先ほどまでずっと医療忍術を使っていたのだ。相手からすれば非常にタフなやつに見えただろう。相手はユキトが今の一撃だけでは沈まないと判断してか、吹き飛ばされてるユキトにトドメを刺そうと距離をつめてくる。

 

 「ユキトォ!?」

 

 いつのまにか近づいていたムズミの悲鳴が聞こえる。

 

 ユキトは体勢を崩しながら、苦し紛れに右の掌底を相手に振り下ろす。体勢が悪いため威力はもちろん乗っていない。先に当たるだろうが威力の乗ってない掌底を、相手は脅威ではないと判断したのだろう。掌底を無視して致命的な一撃を与えようと突っ込んでくる。

 

 

 ゴリッ!

 

 

 嫌な音がした。

 

 

 相手の左肩が粉砕した音だ。

 ユキトが無様に振り下ろした掌底が相手の肩の骨を粉砕した音だ。

 

 相手は激痛に顔をしかめ声を出す、肩を押さえてうずくまる。

 

 相手からしたら、全く持って訳が分からないだろう。ずっと自分が優勢で攻撃していて、トドメの一撃を与えようとしたらいきなり肩を粉砕されたのだ。おかげでユキトはトドメの一撃には程遠い軽い攻撃を貰っただけで済んだ。 

 肩を押さえている相手に、ユキトは悪いと思いながらもトドメを刺す。

 

 ……原作では主人公の住んでいた里だ。きっと霧隠れの里より住みやすく、良い里なのかもれしれない。しかし、俺は霧隠れの里の忍びとして学んでる身だ。……これについては考えるのを辞めよう。

 

 ムズミが泣きそうな表情をしながら、ユキトの元へ駆けつけてくる。

 

「今、何が起きたの!? ユキトがやられるって思ったのに!?」

 

「イテテ、ムズミ姉さん。ちょ、ちょっと待って! 負傷した部分を回復させて!」

 

「あ、ごめん。でもちゃんと話しなさいよ!」

 

 興奮して肩を揺さぶるムズミにストップを掛けて、医療忍術を施す。ユキトは治療を終えたところで、種明かしを始める。

 

「さっきのは、一応何故か医療忍術の一つに含まれてる術の一つ。桜花衝という術なんだ」

 

 ―――全然、医療忍術って感じがしないんだけどな。最初に考えて使った人が医療忍者だから、そのように分類されてるのかねぇ。

 

「本来は、こいつら木ノ葉隠れの里の医療忍者の一人が考えて使った術らしい。昔、マッド……、俺の医療忍術の先生みたいな人が右腕に受けたらしいんだ。そしたら右腕が吹き飛んで、自身もそのまま数十メートル飛ばされたって笑って言ってたよ。原理は簡単だったから、そのまま、術を盗んだらしい。そう考えると、少し皮肉なもんだよな。この忍術を考案した側の里の忍がこの術でやられるなんて……」

 

 ―――……。沈黙。本当に笑い話じゃないよなぁ。

 

「……恐ろしい術ね。よく生きてたわね、アナタの先生。それで、どういう術なの?」

 

「ん~、さっきも言ったけど、原理自体は簡単なんだ。木登りの修行の時、チャクラを集めすぎると反発したろ?」

 

「ええ、何回かそれで木から落ちたから覚えてるわ。……もしかして」

 

「考えてる通りだよ、原理はあれと一緒。ただ、チャクラコントロールが半端なく必要だけどな。体内で練り上げたチャクラを瞬時に集め、対象に叩き込む忍術。それが桜花衝という術さ。ちなみに、威力は集めたチャクラ量に比例するよ」

 

 ―――本当に、どこが医療忍術なんだか……。精密なチャクラコントロールと集中力が必要だから、医療忍者に適しているとは思うけどさ。

 

「桜花衝をくらわすために、わざわざ相手の攻撃をもらったのさ。あのままだと、桜花衝自体が当たらなかったからね」

 

「なるほどね。でも心配したわよ! 相談しなさいよ!」

 

「あの状況でどうやってさ……。まぁ賭けだったのは確かだけど」

 

 ユキトはムズミに一か八かの賭けだったことを正直に話す。

 

「追いかけてこなかったらってこと?」

 

「その時はその時で距離が離れるから、別に問題ないよ。賭けだったのは、見た目では攻撃威力がなさそうな掌底だよ。相手が念のために避けるか、避けないで突っ込んでくるかってとこかな」

 

 そう、二段仕込みの賭け。どちらかで勝てれば問題なかった。

 

「もし、相手が避けて、その時はどうしてたのよ」

 

「その時はムズミ姉さんの援護に期待してたさ。まぁ賭けに勝ってなによりさ」

 

「……はぁ。アンタねぇ」

 

 ムズミはユキトの賭けの話を聞いて、少し怒ってるように顔を顰める。ムズミからすれば、本当にユキトが殺されるように見えたのだから当然である。

 

「ムズミ姉さんを信じてたってことで勘弁して。流石に少し疲れたからね」

 

 その言葉を聞いて、ムズミはため息を吐き怒りは霧散した。

 

 その時……。

 

「オイオイ、ボクの事は放置かい?」

 

 ニヤニヤした顔の満月が戻ってきた。しっかり相手を殺してきたようだ。

 

「何言ってんだよ、俺と違って終始優勢に戦ってたくせに」

 

「クククッ、相性が良かったからね。体術的には上だったけど、ボクにただの接近戦で向かってくるとはね。最後の方は散々いたぶってあげたよ」

 

 満月は清々しい表情で語る。

 

「そりゃようごさんした。他の戦闘もそろそろ終わりそうだな。合流しよう」

 

 そして、補給部隊とユキト達は襲撃を乗り切り、高台へ到着した。その高台からは結構な範囲を見渡すことができた。遠目には先ほどまでユキト達が居た補給部隊の陣地だった場所が見える。

 

「ここは前回の戦いでの補給部隊の陣地だった場所だ。前線が優勢に進んで一度は移転したんだが。また戻ってくるとは……、な」

 

 補給部隊の責任者の上忍が俺たちに軽く説明してくれる。それと、同時に双眼鏡をユキト達に渡す。そして、静かに語る。これは見ろということなのだろう。

 

「見とけ。ちょうど先ほどの場所で戦闘……、戦争が起きるようだ。忍の戦争、それも特にレベルが高い物になるだろう。お前たちが将来しなければいけないものだ。しっかり見て、目に焼き付けとけ。見終わったら俺に結果を報告しろ」

 

 そうして、上忍は他の者に陣地の設置の指示を出しに行く。

 

 ユキト達は差し出された双眼鏡を受け取り、先ほどの場所を覗き見る。ちょうど戦いが始まる所のようだ。開けた場所で向かいあう両陣営。人数は霧隠れの里の忍者の方が多い。横一列に並ぶ形だ。それに対して、木ノ葉隠れの里の忍者は先頭に金髪の忍者が一人、他の忍者は少し下がっているという形だ。

 

 余りにも遠い距離だ。音は勿論聞こえない。何が開始だったのだろうか、霧隠れの里の忍者が一斉に金髪の忍者に襲いかかる。

 

 しかし、金髪の忍者はまるで瞬間移動のような動きで、次々に霧隠れの忍者を屠っていく。色々な忍術が飛び交うなか、金髪の忍者は飛び回って次々に殺していく。どんどん動く人数を減らしていく霧隠れの忍者たち。木ノ葉の忍者にも被害は出ているが、こちらと比べたら微々たるものだろう。

 

 双眼鏡から見える小さい丸の中で、次々と人が殺されていく。

 

 ユキトと一緒に負傷した人を治療に回った、笑顔が素敵な医療忍者の首が掻っ切られる。

 

 絶対に生き残ると言ってくれた忍者の胴体が吹き飛ばされ、無残な姿に変わり果てる。

 

 前線の指揮官だった上忍は全身に苦無や忍術をうけ、最後は木ノ葉隠れの忍者の集団に突撃をおこない、起爆札で爆発した。

 

「……やめて、もうやめてあげて」

 

 同じ場面を見たのだろうムズミが目に涙を浮かべてつぶやく。

 

「これは……。すごい……、ね」

 

 満月もいつものニヤケた表情ではなく、顔を強張らしている。

 

 そして、ユキトも目を離せないでいた。

 

 その間も、金髪の忍者は殺していく。返り血を浴びた様子もない。たまに、手から丸いものを出している。それを受けた忍者の胴体に穴が開いた。そして、次の獲物にまた、飛ぶ。

 

 無残に。ただ無残に人が死んでいく。金髪の忍者が殺していく。決して霧隠れの里の忍者が弱いわけでは無いだろう。今のユキト達では使う事での出来ない忍術が飛び交うのだ。それでも、一人また一人と倒れていく。金髪の忍者は強すぎた。

 

 ―――……あれは、あの術は原作で見たことがある気がする。原作の主人公が色々修行して覚えた術じゃないのか。……つまり、金髪の忍者は原作キャラといわれるやつなのかもしれない。きっと金髪の忍者はここで死ぬ運命じゃないんだろう。……俺はきっとイレギュラー。原作のキャラと違ってマンガみたいな展開は多分ない。俺の前にあるのは非常な現実に違いない。死ぬときは物語に関係ない、モブとして生きてモブとして死ぬ可能性が高い。……つまり、最低でもあのレベルに達しないと、原作キャラと出会った時に生き残るのは難しいのか。今までは少し楽観していたのかもしれないな。嫌になるよ。周りより少し強ければ死なないと思っていた。そんなのは、原作キャラの前ではどうしようもないのかもしれない……。

 

 ユキトは双眼鏡を手が青白くなるまで握りしめながら決意を固める。

 

 金髪の忍者と相対して倒せなくてもいい。ただ、逃げ切れる、生き残れる強さを手に入れると。

 

 そして、戦いは終わった。霧隠れの里の忍者の全滅という形で。木ノ葉隠れの里の忍者は半分以上、生き残っている。そして、金髪の忍者はあれだけの戦闘をして、負傷した様子は見られなかった。

 

 ユキト達は今見た無残な結果を先ほどの上忍に報告しに行った。すると、上忍は一度目をつぶる。そして、ゆっくりと語りだす。その上忍は金髪の忍者に心当たりがあるようだった。金髪の忍者は木ノ葉の黄色い閃光とまで呼ばれ畏怖されている忍者だそうだ。

 瞬身の術を得意とし、さらに何かしらの時空間忍術により空間を移動する手段を持っているとのことだ。

 ユキト達は忍者の世界に、まだまだ先があることを思い知らされた。

 

 ユキト達は補給部隊の陣地から里へ戻ることとなった。一緒に里から補給部隊へとやって来た中忍と、この事を報告するため補給部隊の上忍が一人。計五人で里へ戻る。

 

 行きも初めての任務ということで口数は少なかった。しかし、帰る道中のユキト達はそれに輪を掛けて口数が少なかった。それぞれ、さっき見たあの光景が頭から離れないのだろう。真の忍者たちの戦い。そして実力。あれと、比べると先ほどの下忍との戦いなんてお遊びだろう。

 

 ユキトは今日見たあの光景を忘れないだろう。

 道中の数少ない会話でユキト達は約束した。いつかは、いつかはあの高みに昇ると。

 

 そうして、ユキト達三人の初任務は終了した。

 決意の先に何があるか、まだわからない。




黄色い閃光、恐るべしです。実際、敵にいたらマジで恐怖だと思う。ただでさえ速い瞬身の術に。空間を飛ぶ、ガチの瞬間移動の飛雷神の術…会ったら絶望ですね。

主人公は原作をうろ覚えなので、原作キャラの名前とかはまったく覚えていません。キャラはイメージで覚えているので、原作と似た格好をされてやっと気づくレベルです。

例:再不斬先輩を原作キャラだと気づかない⇒断刀・首切り包丁装備の再不斬だと気づく。みたいな感じです。

例外:鬼鮫の場合、顔が特徴的なため、鮫肌なしでも気づきかけました。

今回の場合、ミナト(四代目火影)の強さが原作でどのくらいに位置するかを主人公は知りません。なので、原作キャラの強さの基準になってしまいました。勘違いって恐ろしいですね。
実際、この時期の戦争で原作キャラって伝説の三忍やミナトのような強キャラばっかなんですよね…。

また、原作をうろ覚えのため、原作に関わろうと思う思わない以前にどんな出来事が原作の内容かわかりません。
そのため、原作通りに進んでいます。なので、主人公の意思で原作崩壊を起こすことはありません。ただ、どこかでバタフライ効果が起きるかもしれません。

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