おいでなさいませ、血霧の里へ!   作:真昼

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大変遅くなりました。


アカデミー編 第五話

 初任務の当日。ユキトたち三人は朝早くに霧隠れの里のアカデミーの会議室の一つへと呼び出された。

 前の様な重々しい雰囲気こそ無いものの、どこかピンと張ったような空気がある。そこには、すでにアカデミーの先輩がたや担当していた教官達が集まっており、顔色は十人十色であった。これから受け渡される任務に期待を抱く者。逆に不安に駆られているが必至にそれを隠そうと押し留めている者。任務が終わった後の自分達の栄光を想像し、任務の成功を信じて疑わない者。そして、そんなアカデミー生を頼もしそうに見ている者、心配そうに見つめている者。

 

 ユキト達が会議室に入り、それから少し経ち他のアカデミー生も完全に揃う。そして教官からそれぞれの班に任務を次々と受け渡される。

 

鬼灯満月(ほおずきまんげつ)油樹ユキト(あぶらぎゆきと)御保花ムズミ(おほかむずみ)の3名は、今から青4の班とする」

 

「「はっ!」」

 

「青4の班には、前線の補給部隊の元へ物資を運ぶ任務をやってもらう。補給班長のもとへ行き、他の忍びとともにすぐに発ってもらう」

 

 ユキト達へ拝命された任務は前線への補給任務であった。戦闘の可能性自体は少なくユキト達の様なひよっ子でも達成出来るだろう。戦力の有効活用として理に適っている。勿論だからといって危険が無いかと言えばそうでもない。もし敵が補給線を絶ちにきたら戦闘に巻き込まれることになる。そんな事があれば楽しそうでいいなと満月は考え、ムズミは逃げても問題ないんだろうかと考える。ユキトもムズミと同じようにまだアカデミー生如きでは太刀打ち出来ないだろうと考えていた。

 

「任務の間は、この額当てをつけよ。霧隠れの里の忍びとして恥ずかしくない行動をせよ。以上だ」

 

 本来なら正式に忍者として認められないと授かる事の出来ない額当てを授かる。ある意味で額当ては忍者の象徴ともなっている。そんな大層な物を貸与とはいえ身に着けれるという事にユキトと満月の二人以外のアカデミー生はまんざらでもない様子であった。教官から額当てを授かり、ユキト達は会議室から出る。これから、補給班長の所へ行ってから初任務を行う。

 歩いて補給班長の元へ向かう三人だが、胸中ではそれぞれ違う事を考えている。満月は少し今回の任務に不服そうな顔をしている。敵がこちらを襲って来ないと戦闘が出来ないからだろう。ムズミは初めての任務に緊張した表情を浮かべている。ユキトはどうか戦闘に巻き込まれませんようにと祈っていた。

 

 補給班長の所へ着くと、そこには同じアカデミー生の班が一班居た。どうやら、今回の任務にアカデミー生の班が二つ加わる形となるようだ。すぐに他の忍者と合流して前線の補給部隊の陣地へ物資を運ぶこととなった。物資の運び方は、補給任務の忍者が補給用の口寄せの術が書き込まれた巻物を持っていくという形だ。一回一回持っていくのは物資を他国の里に奪われないようにするためだそうだ。昔は前線で戦っている忍者に巻物を持たせていたそうだが、殺された時に巻物ごと物資を奪われるケースが発生したため、このような形になったそうだ。

 

「緑1の班及び青4の班には、主に消耗品の物資の巻物を運んでもらう。他の巻物より重要度は落ちるが、これも非常に大切なものだから、しっかりと任務を遂行するように」

 

 補給班長から巻物を渡される。

 重要度の低い巻物を渡されるのは当たり前といっても可笑しくない。アカデミーの忍者見習いに食料や医療関係等の戦争に直に繋がるような物資を運ばせるのは何か起きた時に致命的なことになるからだ。だからと言って、消耗品の物資が重要でないかといえば、そうではない。消耗品は直接戦力の有無に繋がりはしないが、それでも戦争中の士気に関わる事には間違いない。これは三人が思ってた以上にちゃんとした任務であった。

 

 ―――てっきり原作の最初の方にあったつまらないけど安全な任務かと思っていた。やはり、戦争中だと色々と違うのだろうか。それとも、この里の場合はこれが普通なのか?

 

 補給の巻物はユキトが持つ事になった。この青4の班のリーダー役は満月だ。しかし、戦闘に巻き込まれた場合、巻物を持っていると満足に戦うことができないとか考えたのか、満月がわざわざユキトが良いと指名。ムズミも自分が未だ満月やユキトに比べて実力不足と認識していた為、満月の案に便乗した。

 巻物の取扱い方や諸々の注意事項を聞かされ、その後ユキト達三人は他の忍者とともに前線少し手前の補給部隊の陣地へ赴くこととなった。

 

 今回の物資の移動を行う任務では中忍が二人、下忍が三人、そしてユキト達アカデミー生六人という構成になっている。下忍三人でスリーマンセルを組み、中忍とアカデミー生でフォーマンセルを組むという形になった。

 たぶんアカデミー生三人で下忍一人から二人分という扱いなのだろうとユキトは当たりをつけた。満月が下忍を見たところ、戦ったらユキトや満月自身なら勝てそうだと感じていた。なのにそんな扱いなのかと少し不満気を見せる。ムズミ姉さんは緊張しすぎで顔が少しひきつってる。

 

 そしていよいよ霧隠れの里の門を出て出発と成りかけた時、一人の中忍が気配が怪しく変化した。

 

 この雰囲気は霧隠れの里ではよく見かける気配であった。気配の変化に気づいたのはもう一人の中忍と満月とユキトのみであった。下忍の三人、ムズミやアカデミー生は今から行う任務に緊張しつつも眼を輝かせていて気配の変化に気づいていない。

 このある種特有の気配、それは殺戮中毒(キリングジャンキー)のそれで間違いない。ユキトと満月は何が起きても対処が出来るように僅かに腰を落とす。

 そして、気配を変えた陰惨な笑みを浮かべながら中忍が口を開く。

 

「今は大戦中でな、足手まといはいらねぇんだよ。俺はよぉ、何でお前らが選ばれたのかも知らないんだよ。だから確かめさせてもらうぜ」

 

「オイッ!」

 

 もう一人の中忍が口で諌めようとする中、陰惨な笑みを浮かべた中忍は苦無を六本同時に投げる。ユキト達アカデミー生に向けて。

 

 狙いは正確に、そして速さは下忍達のそれを超えて。

 

 満月はわずかに体をずらして躱す。ユキトは隣に居たムズミを蹴ってその反動で回避する。蹴られたムズミは尻餅を着くが、そのおかげで投げられた苦無の被害は無い。

 

「ぇ?」

 

 声を出したのは誰だっただろうか。苦無を避けた青4の班と違って、緑1の班は棒立ちのままである。見た目では数秒前と何も変わらない。ただ、首元に刺さった苦無を除いて。

 

 そして、苦無に巻かれていた起爆札が起動する。

 

 先ほどまでの晴れやかな初任務を期待していた雰囲気は既に無かった。あるのは三つの遺体と鮮明までに映える赤色。

 

「何をやっている! ただでさえ、今は人材不足なんだぞ!」

 

「足手まといが増えても意味ねぇだろ。実際にもう一つの班はしっかり避けてるしな。ガキの遠足の引率じゃねぇんだよ。あの程度避けれなかったら、どうせ死ぬ。違うか?」

 

「……死体の処理はどうするつもりだ?」

 

「カラス共が勝手に処理してくれるだろ」

 

 苦無を投げた中忍ともう一人の中忍が口論を始める。しかし、すぐにそれも終わる。結局、遺体は放置していくようだ。中忍は死体から補給物資の巻物だけを回収し、をれを下忍達へと投げる。

 たった今起こった凄惨な光景。しかし、そんな光景が眼前で起きても下忍やユキト達三人は何も言わない。それは、霧隠れの里であるならある程度起きる可能性がある事だったからだ。実際、目の前に居る下忍達はあの卒業式を乗り越えてきており、ユキトと満月は再不斬先輩の凶行を目の前で見た。ムズミもこの里で育ってきた。

 決して頻度が高いわけではない。だが、この里では起きうる可能性がある光景。それだけであった。

 

 改めて、ユキト達三人は任務へ行う為に出発する。満月はさっきの光景を見て、血が高ぶったのか獰猛な笑みを浮かべている。ムズミは先ほどまでの緊張した表情から不安に駆られるような表情に変わった。ムズミからすればユキトが蹴らなければ自分も同じ末路を辿った可能性もあるのだ。他人事では済まない。ユキトはそんな二人の海と山程に差がある表情を見て一人溜息をつき、心の中で愚痴った。

 

 ―――初任務、早々にこれは運が悪いな。

 

 

 

 

 凄惨な出発から補給部隊が展開している場所までの道程の半分を過ぎた所までは、何事もなく進むことが出来た。

 元々は戦う任務ではないのだ。物資を運び、すみやかに里へ戻る。それが今回の任務だ。

 

 ……そう本来は。

 

 この任務は戦うことを想定していなかった。だが、運が悪いのか補給部隊の陣地まであと少しの所で、何処かの忍と鉢合わせしてしまう。この時、ユキトは思ってしまった。足手まといが居なくて助かったと。そんな考えが一瞬頭の中に横切った事にユキトは思わず自虐的な笑みを浮かべてしまう。

 

 中忍二人は急いで下忍とアカデミー生に指示を出す。

 

 相手の忍者はスリーマンセル組んでおり、よくを見ると、ケガを多くしている。もしかしたら、どこかの戦場から逃げてきたのかもしれない。しかし、こちらは下忍が三人、見習いが三人。相手が中忍以上である事を考えれば、余裕をもって勝てるとは言えない。ユキトは心の中でもう一度愚痴る。

 

 ―――ったく……本当に運が悪い。

 

「青4の班は後ろへ下がれ! 俺たち中忍が右二人をまず殺す。その間に、お前たち下忍三人で一番弱っている左のやつを殺せ。殺せなくても、とりあえず時間をかせげ。そしたら俺たちが相手を殺す」

 

 指示を出された以上、アカデミー生であるユキト達は上位権限には必ず従わなければならない。初実践でもあったユキト達はそれに素直に従う。

 

 

 

 

 ―――うん、最初から面白い事になったと思ってたけど運が良いね。ただボクが戦うには下忍が邪魔だな。まぁ、あの下忍三人程度なら弱っているとはいえ戦場に出かけるような忍者だったら倒してくれるかな。

 

 満月にとっての期待はそこにあった。先ほどの一件、下忍達は苦無の速さに眼でさえ追い付いていなかった。つまり、満月から見れば前に居る下忍達は格下も同然。せっかく出てきた獲物を盗られたくは無かった。今から起こる事態に一番期待を馳せているのは満月なのは違いないだろう。それと同時に、笑みを浮かべながらユキトの表情を伺う。心配性なユキトはきっと満月自身とはまったく逆の事を考えているんだろうな、と思いながら。

 

「殺れ!」

 

 中忍の冷酷とした合図と共に一斉に動き出す。

 

 そして戦闘が始まった。

 

 ユキト達三人はサッ後ろへ下がる。満月は戦闘をしたくてうずうずしている。ムズミ姉さんは今にも泣きそうな表情だ。ユキトは目を鋭くして、敵の忍との戦いの行方に視線を向けている。

 

 中忍の二人は、右側の二人へと一気に距離を縮め優位に戦いを進めている。あれなら問題なく倒せるだろうと満月は観ている。そう、問題は下忍三人だ。

 

 下忍三人は弱っている相手の忍者に対し、へっぴりごしで忍具を投げつけている。これでは自分が弱いですと言ってるようなものだ。案の定、弱っている忍者は下忍を見てニヤリと笑ってから前に出てくる。下忍三人は逃げまわりながら手裏剣や苦無を投げつける。時間を稼いでるつもりなのだろう。

 

 満月は、弱っている忍びを只管観察していた。相手は特に右腕の負傷が激しいらしい。かばって戦っていることがわかる。腕が負傷しているので、忍術はあまり使えないだろう。体術と下忍が投げる忍具をそのまま使って戦っている。つまり、忍具も自身ではあまり持っていないと考えられる、淡々と分析していく満月。図らずも満月とユキトは同じ考えに至っていた。

 

 

 

 ―――……それにしてもあの下忍三人は、攻撃用の忍術とか使えないのか? 使えないんだろうな。使えなかったとしても戦い用はあるだろうに。挟撃するなり、一人が体術で攻め二人がフォローするなり……。

 

 ユキトは下忍の戦いを見ながらげんなりしていた。これではこちらまで戦いが回ってくると。

 

 程なくして、下忍の一人の首に苦無が刺さる。泣きそうな顔をして崩れ落ちる下忍。残りの二人はそれを見て、完全に戦意を喪失している。このままでは、とくに時間も経たずに殺られるに違いない。中忍たち二人はまだ来ない。

 

 ユキトは満月の方に目線を向ける。待ってましたとばかりに満月はニヤリとした顔でうなずいた。満月は戦う気満々のようだ。この場合は、むしろ戦わないと殺される可能性があるので、二人は戦闘の準備にかかる。ムズミはこれから起きる事態を想像したのか恐怖に陥り、涙目になっている。これでは逆に足手まといになる。そう判断したユキトと満月はムズミを放置し、印を組みだし影分身の準備を行う。

 

 そして、下忍の最後の一人がやられ、弱っている忍者は他の二人の忍者の援護に向かおうとする。ユキト達三人は放っておいて問題ないと判断したのだ。その瞬間、ユキトが手裏剣を飛ばす。と同時に満月が相手に詰め寄る。

 弱っている忍者はユキト達が参戦しない、もしくは戦いに参加出来るようなレベルではないと判断していた為、不意を突く形となる。

 

 不意を突いた手裏剣は相手の足止めに成功する。そこに詰め寄る満月の腕が少し太くなり、そのまま殴りかかる。かろうじて満月の剛腕を避けた相手の忍者は間合いを取ろうとするが、今度はユキトが予め印を組んで生み出していた影分身が後ろ3方から飛び掛かる。敵の忍者はその分身がただの分身の術でない事に目を開き、応戦を開始する。弱っている忍者が影分身を相手取ってる間に、今度は満月が手裏剣を飛ばす。次々に前後を入れ替え襲い掛かっていくユキトと満月。それと同時に、ユキトは傀儡の術で下忍達が投げつくして落ちている忍具を浮かせ、弱っている忍者に一斉に飛ばす。とはいえ、傀儡の術に慣れていないユキトでは、飛ばした忍具にそこまで威力を乗せることは出来ない。そして敵は弱っているとはいえ正式な忍者。敵の忍者は影分身の相手しながら次々に飛んでくる忍具を躱し、一体の影分身を潰していく。

 

 ユキトは新たに朧分身の術で分身体を生み出し、相手に一斉に向かわせる。朧分身の術は一瞥しただけでは実体があるように見える事、先に影分身の術で実体のある分身体を生み出していた事。ただでさえ怪我をし弱っていて、次々と襲い掛かってくる忍具に判断力を徐々にだが削られていた敵の忍者は、ユキトの思惑通り朧分身の術の分身体を影分身の実体がある分身体だと勘違いした。そして、向かえ討とうと実体のない朧分身攻撃を仕掛ける。攻撃は空を切る。

 

 今までにない大きな隙ができた。

 

 その瞬間、残っている影分身2体が相手に組みつき、敵の忍者の死角から満月が水遁の術を発動させる。

 

‐水遁・水乱波‐

 

 満月の口から大量の水が勢いよく吹き出す。

 それは影分身ごと、相手の忍者を大量の水で吹き飛ばす。相手は吹き飛び、そのまま後ろにあった岩と盛大な音を響かせてぶつかる。そこに、ユキトが詰め寄り、相手の周囲にある満月が作り敵を吹き飛ばした水を使い、術を発動させる。

 

‐水牢の術‐

 

 ユキトは満月の術を食らって瀕死の忍者を水玉の中に閉じ込める。相手は満月の攻撃でかなりダメージを負ったのか、弱々しくもがく適度。しかし、水牢の術は一度決まれば抜け出すことは万全の状態でも非常に困難だ。そのことをユキトは演習の時に身をもって知っている。

 

「……捕獲完了」

 

 ユキトは静かに呟いた。初の実戦だったが、思った以上に動けたことに自分で自分を感心していた。

 

 ―――模擬試合にも意味があったのか、満月との組手が功を成したのか。……むしろ、出発直前にあんな事があったからか。

 

 清々しい顔をした満月と、涙目のままのムズミも近づいてくる。

 

「それ、どうするんだい?」

 

 満月が顎を向けて、弱っている忍者をどうするか聞いてくる。

 ユキトとしては、このまま溺死させてもいいと考えている。ただ、死ぬ前に中忍達が戻って来たら、解除して尋問を行うかもしれないなとも思っている。満月はきっと殺したいんだろうなぁと、確信を持ちつつ発言する。

 

「まぁ、中忍が戻ってきたら指示を仰ごう。俺たちがどうのこうのする問題じゃないだろうし。それまでに溺死したら……、その時はその時だ」

 

「それは残念だね。でも、わざわざチャクラの使う術を使わなくても、手や足を斬っとけば問題なくないかい? もう瀕死のようだしね」

 

 ―――……それもそうか。わざわざ溺死するかしないかで待つより確実か。止血だけなら俺が止めればいいだろうし。

 

 そんなことを考えていると。視界の中にムズミが入った。ムズミの目は、アナタもそんなこと行うの!? とばかりに訴え驚いてユキトを見ていた。

 

 ―――……残念ながら、俺もこの里に染まってきているみたいだ。

 

「……まぁ、そうだな。とりあえずどうするかは知らないけども、一旦解除するから確保する準備してくれ」

 

 そう言って、ユキトは術を解除する。溺れて死ぬ直前の相手に、嬉々として満月が手足を斬り落とそうとする。しかし、ムズミ姉さんが先に縄で相手をぐるぐる巻きにした。ただ、それだけだと縄抜けの術で逃げられる可能性があると判断した為、ユキトはこっそりと医療忍術で足の腱だけを絶っておいた。

 

 程なくして、中忍たちが戻ってきた。ところどころ血に染まってはいるが、ほとんど返り血のようだ。中忍たちは確保しているのがユキト達だと見ると、少し驚き。少し遠目に死んでいる下忍を見て、蔑みの目線を送った。

 

「青4の班がやったのか……。ふむ、よくやった。それに対して、あの下忍どもは……。アカデミー生にも後れをとるとは情けないな。本当に下忍なのか疑いたくなるな」

 

「分かっていたことだろ。あの苦無を見切れてなかった時点でな。どうせよぉ、使えないのは遅かれ早かれ死ぬんだからよ」

 

 そう言って、死んだ下忍を見るなり中忍の一人はため息をつき、もう片方の中忍は暗い笑いをこぼす。中忍達もあの苦無を下忍達が目で追い切れなかった事には気づいていたようだ。

 

 ―――辛辣だな。出発の時もそうだけど。下忍たちは確かにひどいものだったが、死んだことに対して嘲笑しかしないとは。まぁ、血霧の里らしいな。それより、こいつをどうするか指示くれないかな。

 

「生捕ったやつはどう致しましょうか」

 

「ああ、こいつらは戦場から逃げる途中だった木ノ葉隠れの忍だ。情報を持っているとは思えないし、殺せ」

 

 冷酷に告げる。それを聞いて、満月は嬉しそうな顔し、ムズミの表情は強張った。しかし、ムズミも一応は理解はしているのか、その顔は自分自身を納得させようとする顔だった。

 

 ―――まぁ、あの里で修行してれば、納得するようにもなるか。初っ端でもあんなことあったし。

 

「ボクがやってもいいかい?」

 

「ああ、俺はいい、好きにやっとくれ」

 

「ふふふ、流石鬼灯の一族のものだな。血が好きか。こいつはお前一人でやったのか」

 

 緑1の班に苦無を投げ、先ほど暗い笑いをこぼした方の中忍の一人が、興味深そうに満月を見る。

 

「ボクとユキトの二人さ。流石に一人で中忍を倒すのは、まだ無理そうだからね。まぁすぐに倒せるようになるけど」

 

 満月がユキトに目配せをして説明をする。ユキトは思わず満月の目線から首を逸らしたい欲求に駆られるが、何とか平静を装い小さく頷いた。

 

「ほぅ……」

 

 中忍の目線がユキトに向く。その眼は爛々と輝いており、機会があればユキトと戦ってみたい、と訴えている戦闘狂の目だ。

 

 ―――満月め余計なことを言いやがって。手柄を独り占めしてよかったんだぞ!

 

「そうか、なるほど。こいつがアカデミーの神童の片割れか」

 

「はぁ、そんな風に呼ばれてるとは知らなかったですが……」

 

 ―――そういや、この前のサメの人もそんなこと言ってたな。あの時は、それどころじゃなかったけども。というか、だからどうした。嬉しそうに戦いたそうな目をしやがって。

 

「おい、何をくっちゃべてる。そろそろ任務に戻らないとまずい。さっさと行くぞ」

 

 もう一人の中忍が声をかけてきた。

 

「いやいや、下忍どもやさっきのアカデミー生と比べて、こっちのアカデミー生は優秀で将来が楽しみだっという話をな」

 

 もう一人の中忍が話しかけてきたことで話は切れることになった。ユキトは内心で助かったと呟きながら、満月はと目線を向ける。満月はすでに処理し終わり、清々しい程の満足顔で笑っていた。ユキトが処理された敵の忍者の末路を見ると、どうやら満月は手足をぶった斬った後で頭にとどめを刺したようだ。その処理作業を間近で見ていたのだろう。ムズミの顔色は見て分かるほどに悪い。実際にユキトもマッドのところで解剖の手伝いをしてなきゃ顔色を悪くしたに違いない。下手すれば吐いていた。吐かないだけ、ムズミ姉さんは頑張って我慢してるよ、と心の中でユキトは称賛を送る。 

 

 その後、ユキト達は戦闘での遅れを取り戻すために、急いで補給部隊が展開している陣地へと向かった。

 下忍達が持っていた巻物も勿論回収して、満月とムズミ姉さんがそれぞれ一つ持っている。

 

 そして、補給部隊の陣地に着くとそこでは、慌ただしく何かの準備が行われていた。

 

「お前らは……、うちの里の忍びか。何の任務でここに来た」

 

 ユキト達が到着したことに気づいた補給部隊の責任者の上忍らしい人が、こっちに来て中忍たちに質問をした。

 

「はい、私たちはこの補給の巻物をこちらへ届けるという任務を受け渡され、こちらに参りました」

 

「そうか、聞いている。しかし、思った以上に時間がかかったな。それに聞いていた人数より少ない」

 

「はい、途中で木ノ葉の忍に襲撃を受け、下忍三名、アカデミー生三名が殉職しました」

 

「……ほう。下忍が死んで、アカデミー生が生き残ったか」

 

「はい。それで、こちらはどうしたのですか。撤収準備に掛かっているようですが」

 

「……あぁ。今、我々は撤収準備をしている」

 

 ―――見事に、緑1の班まで殉職した事になってるな。っというかやっぱり、撤収準備か。ということは何か問題が起きたのだろうか。

 

「我々が補給を行っている前線はいくつかある。そのうち、この場所から最も近い一つの前線が崩壊した」

 

 責任者の上忍が一度言葉を切る。突拍子も無い言葉にこちらが理解するまでちょっとした時間を空けた。

 

「このままだと、この場が戦場になる可能性が高い。そのための撤収だ」

 

 その言葉を聞いて、ユキト達三名に緊張が走る。

 それは、あと少しでもこの場に到着するのが遅かったら、補給部隊は撤収し、ユキト達は戦争に巻き込まれていたということに違い無いからだ。

 

 ユキトが今までで一番、戦争というものをという身近に感じた瞬間だった。

 

 しかし、ユキトは戦争の残酷さをまだ知らなかった。

 

 

 そして、忍びの高みと脅威を知ることになる。




土曜日に書けると思ってたんですが、エヴァンゲリヲンのことをすっかり忘れていました。
おかげで、時間が……

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