おいでなさいませ、血霧の里へ!   作:真昼

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下忍編
下忍編 第一話


「貴様たち、赤2の班と青4のニ班にはアカデミーを繰り上げ卒業してもらうこととなった」

 

 教官の発言にユキト達呼ばれた二班の面々は固まった。その内の思い思いは別としても、全員が同じように綺麗に固まる姿は第三者が見れば滑稽に映るだろう。

 

 赤2の班の先輩方は教官の言葉を理解し始め徐々に興奮し始めたのか、口元が綻び顔も赤くなっていく。

 赤2の班と対称に困惑を隠せないで居るのは青4の班ユキト達。

 

 ―――俺たちは実地研修を行っているアカデミー生の中では最年少学年の筈だ。しかも、俺と満月は飛び級でさらに年が他の同期と比べても下だ。赤2の班のように最上級学年ならわかる。実際に、実地研修を行っていた班には、俺たちより年上の人たちが沢山居た筈だ。それなのに俺たちが繰り上げ卒業することになるとはどういうことだ。

 

 表情を引き攣らせながらもユキトが不思議がっていると、丁度その理由を教官が説明し始めた。

 

「貴様たち二班の繰り上げ卒業になった理由は、任務の成功具合にアカデミーで習う術の習得進行具合を鑑みた結果である。最年少の青4の班が含まれてるのは、実地研修の任務でトラブルとはいえ実践を経験し、下忍とはいえ敵方の忍びを倒し生き抜いていることが今回の評価につながった」

 

 結局のところ、ユキト達が選ばれた理由は最初の任務であの戦いの評価が思った以上に高かったっということだった。

 

 ―――それでも他の班が合格できないのは不思議だな。俺たちが評価が高かったのは理解出来たけど、他の班……俺達より年上の最上級学年の班ならもっと居てもいいと思うんだけどな。

 

「他の班については、任務を成功しきることができなかった。術の習得進度が悪い。もろもろの理由で今回の繰り上げ卒業は見送りとなった」

 

 ―――見事に俺が考えていることの返答をくれましたよっと、ありがとうございます。……心読まれていないよな。

 

 しかし、最初の任務はともかくとして、他の任務はそこまで内容はひどくなかった。そんな気持ちがユキトには強かった。青4の班にとっては、むしろ難易度は低い部類に入ってもおかしくない任務だったのだ。

 青4の班全員がそんな気持ちで一つになったのか、全員が先ほどとは違う意味で困惑気味だった。実際、ユキト達は他の班も同じような任務だと聞いている。最年少構成の自分たちの班が簡単だと思っていた任務が先輩方が出来ないとは思っていなかったのだ。

 

 ―――思った以上に先輩方の実力は低いのか?そんなので将来この里は大丈夫なんだろうかねぇ。

 

 ひそかにユキトはこの里の将来に不安を覚えるのだった。

 そんなユキトの心情は別として、簡易式卒業式は続いていく。

 

「今から。卒業の証として、霧隠れの額当てを支給する。これを受け取った瞬間から貴様らは一人前の忍びとして扱われる。今までのようにアカデミー生とは見られない。実地研修の時にも言ったが、霧の忍びとして恥ずべくない仕事をしろ。額当てを受け取ったら、小班の班長となる中忍を紹介する。以後はその中忍の指示にしたがえ。以上だ」

 

 ユキト達は額当てを受け、ユキト達は教官に指定された自分たちの班長となる中忍のもとに歩いて行く。

 

 ―――原作では新米を担当するのは上忍だったはず。霧隠れの里だからという理由より、戦争中である今、戦力である上忍を新米につけるのは難しいという理由だろうな。俺たち新米の下忍が足手まといになって、上忍が死ぬことになったら目も当てられないしな。

 

 ユキトは霧隠れの里やこの大陸の現状からそう推理した。事実として、紛争という規模ではなく大戦と呼ばれる戦争中の今、優秀な者を前線や司令部から引き剥がせる筈がなく、ユキトの推理は正しかった。

 

「お前らが青4の班か。えらいちびっこどもじゃねえか。本当に卒業出来たのかよ!? まぁその額当てを持ってるってことは、そういうことなんだろうな。……俺の名前は中吉だ。今日からお前らの班長になるからよろしくな」

 

 指定された場所に居た人物は、ユキト達3人に驚くだけ驚き勝手に納得し自己紹介を行った。ユキト達の班長となる中吉という中忍は、顔に歌舞伎化粧を塗ったようなものとメガネをつけた体格のいい人だった。

 

「まぁ、今日は顔合わせなだけだ。というか俺にはまだ任務が残っていてな。実際お前たちと行動するのは一週間後からだ。卒業休みだと思ってゆっくりしな。一週間後の朝8時に再びここに集合しろ。任務はあくまで新米下忍用の簡単なやつだから安心しろ。以上だ、解散」

 

 中吉と別れたユキト達は、他の人達がいる場所とは少し離れた場所で会話を始める。

 

「しかし、俺たちが繰り上げ卒業ねぇ……。やっぱり去年の再不斬先輩の件が地味に効いてるのかねぇ。どう思う?」

 

「ああ、確かにそれもあるだろうね。何より今は戦争中さ。ボク達を繰り上げさせて卒業なんて、どこもかしこも人手不足なんだろ」

 

「でも、びっくりしたわね。まさかアタシたちが繰り上げ卒業だなんて。他の先輩方には悪いことしたかしら」

 

「卒業できなかったのはボク達より弱い連中なんだろ。赤2の班の先輩たちもボク達に勝てるかは怪しいんじゃないかい?」

 

 満月はさっき一緒に卒業した先輩たちを馬鹿にする。しかし、ユキトも先輩方を見た時に自分たちより弱いんじゃないかと思ってしまったので、満月の言葉を気にするわけではなくスルーすることにした。同様にムズミも満月の発言自体には苦い顔をしているが、内心では同じような感想を持っていた。その為、発言に注意はせずにいた。

 

 そんな二人をニヤリと見つめながら満月は言葉を続ける。

 

「それに、ボクとしてはこの繰り上げ卒業はありがたいね。夢にまた一歩近づいた」

 

 ―――満月の夢とは何なんだろうな。同部屋だったけど、そういやそういうことは聞いたことなかったな。忍者になる、なんてそんな簡単な夢ではないだろうし。水影にでもなりたいのか。

 

「夢って?」

 

 躊躇することなくムズミがストレートに聞いた。

 

「ああ、ボクの夢について話したことなかったかな?」

 

「聞いたことないな。何なんだ?」

 

「ボクの夢はね。忍刀七人衆のリーダーになることさ」

 

 ―――水影ではないのか。しかし、その忍刀七人衆ってのは何だ。聞いてみるか。

 

「その忍刀七人衆ってのは何なんだ?」

 

 聞いてみると、満月とムズミ両人はユキトに対して呆れた表情をする。

 

「この里の下忍にもなって、忍刀七人衆を知らないなんてね……。ユキトぐらいなんじゃないか?」

 

「ええ、そうね。たぶんユキトぐらいだわ」

 

 ―――……。なんかこの里では常識らしい。

 

「すまん、教えてくれ」

 

 素直に分からない事は聞くことにしたユキト。

 

「えぇっと、アタシが説明する? 満月がする?」

 

「ボクがしよう。ムズミさんより詳しいと思うしね」

 

 自信満々に満月がユキトに対して説明を始めた。

 

「忍刀七人衆とは、この里に代々伝わっている、ある忍刀受け継いだ人たちの部隊のことなんだ。里の歴史に残るようなすごい使い手がいるんだよ」

 

 ユキトは満月の説明を聞いて、前世でいう警察の特務部隊になるようなものだろうかと考える。それと同時に満月もそういうのに憧れるものなんだと少し微笑ましい気持ちになる。

 

「そして、その忍刀は代々受け継いでいく習わしなんだ。断刀・首切り包丁、大刀・鮫肌、雷刀・牙、鈍刀・兜割、長刀・縫い針、爆刀・飛沫、大双剣・ヒラメカレイ。この七本を持つ使い手七人を忍刀七人衆と呼ぶのさ」

 

 ―――ふむ、なんで大双剣・ヒラメカレイだけ刀って付かないのか聞きたいところだけど、きっと聞いちゃダメなんだろうな。俺は空気を読めるからな。

 

「その七本の刀には色々特殊な能力があるんだけど、聞くかい?」

 

「いや、いい」

 

「そうかい。まぁボクはその忍刀の七本すべての使い手になりたいのさ。そして、忍刀七人衆のリーダーになる。それがボクの夢さ」

 

 こぶしをぐっと握りながら、自分の夢を語る満月。

 

「そういやキミたちはなんか夢があるのかい?」

 

「うーん、俺はとりあえず寿命で死にたいな」

 

 ―――うん、自分のことながら非常に枯れている。信じられるか?見た目はこれで6歳なんだぜ。

 

「……まぁ、ユキトはずれてるからね」

 

「あはは……確かに。んーとアタシはまぁすごいくノ一になることよ!」

 

「すごいってどんなのさ?」

 

「具体的にはそこまで決めてないんだけど、いつか綺麗な羽織を着ながら任務に就きたいのよ。でも実力がないとすぐに狙われちゃうでしょ?」

 

 当たり前でしょ、とばかりにムズミは説明をする。ユキトは内心であの時の言葉は本気だったのかと驚愕し、同時にムズミも絶対に他の人と比べてずれてると確信する。

 

「あれ、本気だったんだムズミ姉さん」

 

「もちろん! アンタたちがアタシの部下になったら、アンタたちにも着せるわよ?」

 

「ぜってぇ、ムズミ姉さんの部下にはならない!」

 

「同じくだね」

 

 あんなヒラヒラして、派手で目立つものを着たら殺されてしまう。そう思って否定するユキト。対して満月はムズミの部下にはならないという意味での否定のようだった。

 

 

 

 その後、その場で解散したユキト達。急ではあったが折角空いた時間が取れた為、ユキトは一回実家に帰ろうと思っていた。

 

 帰る前にユキトはアカデミーを卒業したことをマッドの所へ報告しにいった。

 気づいたら実験台にされていたり、命の危険を何度も感じた人だが、世話になってないというのは嘘になる。そして、今は助手みたいなことをしているが、正式に忍者になったため今までのように来れるかはわからない。そういうアレコレを報告しにいったのだ。

 すると、マッドから卒業祝いということで、いくつかの忍術が書かれている巻物を貰うことが出来た。中には禁術一歩手前のような術もあるから気を付けるようにと言われたが、そんなものを下忍に渡すなよとユキトは思いつつもしっかりと巻物は貰う。自分の力になって死へと遠ざかるのなら禁術だろうが何だろうがユキトは利用し尽くすつもりだった。

 

 そして、今まで起きたことや色々なことをを解剖しながらも朗らかに会話する二人。途中で、満月の夢である忍刀七人衆の話になったところで、マッドの機嫌が急に悪くなった。

 

「あんな、かび臭い古い武器ヲ使いたがるトは鬼灯一族モ落ちたモノだな。技術トは進歩するモノだ。だけドね、コノ里は古い武器に、骨董品にずっトすがっている。古い有名な武器ホド対策がしやすいモノはないトいうノにね。……断刀や大刀、雷刀に大双剣はまだ、まだわかるヨ。古臭くて、かび臭い骨董品だが、忍具と考えればソコソコ優秀な能力があるからね。残りは酷いモノだヨ。ただ、同じトコロを二回攻撃して割るだけノ鈍刀に、細い剣にワイヤーがついただけノ長刀、剣に起爆札がついてるだけノ爆刀。ドれモコれモ普通に代用が効くモノばかりだヨ。そんな骨董品ノ使い手になりたがるなんて、進歩、進化、成長トいう言葉に対してノ侮蔑だヨ」

 

 マッドはものすごい勢いで忍刀七人衆とその忍刀に対して否定的な意見を説明する。開発や技術の進化が大好きなマッドからすれば古い物を使い続けるなんて進歩の無い奴らに見えるのだろう。そうユキトは納得した。

 

 ―――たしかに、古い有名なものほど対策は取りやすい。いくら使い手がすごくても、いくら有用な武器でも対策を取られることで、あっけなく死ぬ可能性があるだろう。無いと思うが、俺が万が一に忍刀七人衆になってしまったら、マッドが叩きのめした3本は持たないようにしよう。

 

「あぁ、忍刀七人衆で思い出したヨ。卒業祝いにコれモあげヨう」

 

 マッドが口寄せの術で大きな物体を呼び出す。

 

「コれは、昔私があんな古臭い骨董品ヲ超える武器ヲ作ロうト思って、長年ノ研究ヲ重ねた上に作り上げた、ただ殺すためだけノ忍刀。毒刀・海蛇だヨ」

 

 そういって出された武器はでかかった。今のユキトには振るう事さえ難しく、上手く使えないことは間違いない。刀身を見ると、それは蛇腹剣のように刀身が一つ一つ分割されている刀だった。しかし、ただの蛇腹剣と違ってワイヤーがない。

 

「コノ忍刀は、チャクラヲ流すコトで柄から毒ヲ出すコトができる、ソして刃に毒は流れ相手ヲ傷つける時に毒ヲ流し込む。まぁチャクラノ質にヨって毒ノ効力は変わるけドね。コノ忍刀ノ素晴らしい所は対策ノしにくさだヨ。チャクラヲ流し込む時に出る毒は100種類程からランダムに選ばれる。まぁ対策しにくいトいってモ、すぐに毒抜きしたり、医療忍者が居れば、解毒はできる可能性は高い、そノ程度ノ毒だけドね。ただ、戦闘中に、しかも毒ノ種類モわからない毒ノ対処は難しいだロうね。対処ヲ間違えば相手ヲ必ず殺す、ソんな忍刀さ」

 

 ―――……恐ろしいなぁ。ハンター×ハンターのように0.1㎎でクジラも動けなくする毒ってわけではないけども、対処を間違えた瞬間に死亡確定か。逆にいうと対処を間違えなければそこまで問題ない武器ではある、戦闘中に間違えなければ、ね……。しかし、これほどの武器なら本当に忍刀七人衆の忍刀より強いんじゃないのか? なんで有名じゃないんだろう。

 

 そんな疑問が顔に出ていたのだろう、マッドがユキトの心の中の質問に答えてくれる。

 

「あぁ、後コノ忍刀は使い手ヲ選ぶヨ。ソモソモ水ノ性質変化ヲ持たないト毒液は出ない。医療忍術や毒霧ノ術ぐらいは使えないト毒ノ効力が落ちる。次に、蛇腹剣に分類されるコノ忍刀は傀儡ノ術がないト操作ができない。コノ3つノ条件ヲ満たさないト、コノ忍刀は使えないんだヨ」

 

 ―――完全にマッド専用に作った武器って感じだな。蛇腹剣のワイヤーが無いのは傀儡の術で代用するのか……。俺はマッドから色々習ってるから、条件はクリアはしているがな。まぁ、使いこなせる気はまったくしないが。

 

 ユキトは一通り毒刀・海蛇の使い方をマッドから習い、海蛇を口寄せする巻物をもらってから帰った。ユキトのこれからの修行の内容に海蛇の訓練も入ることが確定した。使いこなせれば強力な武器になることは間違いない。

 

 

 急遽アカデミーを卒業することになった為、やらなければいけないことがいっぱいあった。寮からも出なければいけないので、新しい住処を探したりした為、ユキトが実家に帰るのは卒業してから次の日になった。

 

 ユキトは実家に帰るとアカデミーを卒業し正式に忍者になったことを両親に話した。

 任務のことも、話せることは話した。勿論、機密に関することは以外の話だ。こんな所でミスして両親共々抹殺されるのはゴメンであった。そして、木ノ葉の下忍と闘いの末に初めて人を殺したことを話した。

 話した時、ユキトの父親の体がビクンと反応した。そして父親は、初めて人を殺したことを忘れるな。そいつにも家族がいたことを忘れるな。そいういうことをユキトに語ってくれた。

 

 ユキトの両親は、ユキトが人を殺したことを一言も責めることはなかった。それはユキトにとって、とてもありがたかった。

 

 

 ユキトは四日ほど実家で過ごすことになった。その間は、昔のように狩りに出たり、実家の職業である傘作りを手伝ったりした。

 手伝っている傘作りに好奇心からユキトは、ムズミの好きな女歌舞伎を意識した少し派手な傘を作ってみた。すると、「俺にはない若い感性だな」と父親から絶賛された。ユキト自身少し怒られることを覚悟していただけに、まさか高評価だとは思わなかった。それ以上に、精神は大人のはずなのに、父親から褒められたことが単純に嬉しかった。

 そうやって実家で、ユキトは久しぶりにゆっくりとした日々を過ごしたのだった。

 

 

 四日後、ユキトはゆっくりと過ごした実家を出発して里に戻ってきた。里に戻ってきてからは新しい住処に荷物を移動したり、任務に必要な忍具を買いにいったり、修行を行っていると時間はあっというまに過ぎた。

 

 

 そして、任務の日。

 

「任務が急遽変更になった。まず、霜の国と湯の国との国境で戦争が始まった。そこまではよくある事だったんだが。そこに、雷の国が参入しようとした。そのため我々霧隠れの里の忍びが雷の国をけん制するため、霜の国まで行くこととなった」

 

 中吉から言い渡されたのは簡単な任務ではなく、任務変更という言葉だった。

 

「あくまで、けん制のためこちらから戦争をしかけることはない。しかし、戦争もありうるという事だけは、しっかりと覚悟しとけ。これが霜の国の地理だ、頭に入れろ」

 

 そうして、霜の国の地理が書かれた地図を受け渡されるユキト達。

 

 戦争が起きる可能性のある場所へ行く。

 

 ユキトは木ノ葉の金髪の忍者を思い出し、少し身震いした。




リアルの友人に続き書けと脅されてしまいました(泣)

とりあえず、リハビリがてらなので何か前話と雰囲気違うくない?ってなるかもしれませんが、とりあえず勘弁して下さい。

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