魔法科高校の留年生   作:火乃

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新入部員勧誘週間1

 二〇九六年四月十一日水曜日、放課後。

 生徒会から召集を受けた紅葉は、同じく召集を受けた泉美と共に生徒会室へ向かっていた。

 

「たぶん、新歓の事だよなぁ」

「新歓? それはなんですか?」

 

 身長差から少し見上げている泉美の顔を横目で見ながら、紅葉は大きく息をつく。

 

「新入部員勧誘週間の事。昔は勧誘される側で大変だったが、今度は取り締まる側か。もっと大変なんだろうな」

 

 二年前に体験した新入部員勧誘を思い出したのか、紅葉はどこか遠い目をしていた。

 

「そんなにですか」

 

 泉美としては、中学校の部活勧誘を思い出していたが、そこまで大変な記憶はなかった。しかし二歳上の同級生が、まだ始まってもいない事に辟易しているのを見ては警戒せざるを得ない。

 

「ま、詳しい話は中で聞けるだろ」

 

 話している内に生徒会室に着いた二人は、IDカードを使ってドアを開け中へと入っていく。生徒会室にはすでに他の役員が揃っていた。自分達が一番遅かったと気付いた泉美は、慌てて深雪に向かって頭を下げていた。

 

「お待たせしてしまい申し訳ありません、深雪先輩」

「大丈夫よ。私たちも今来たところだから」

 

 今、という割にはいつでも話が始まってもいいように準備が終わっている。絶対に今来たところでないのは見てわかるが、指摘すると面倒だと思い紅葉はスルーした。

 

「遅れてすみません」

 

 その代わり自分の席に腰をおろす前に紅葉は、泉美が対象にしなかったあずさ、五十理、達也、ほのかに向けて頭を下げる。四人とも泉美の事は仕方がないと苦笑いを浮かべ、深雪と同じで気にしなくていいと態度や言葉を返していた。

 

「では、皆さんが揃ったので始めたいと思います」

 

 全員が着席した事を確認してから、あずさが開始の挨拶をする。それと同時に、すでに起動していた端末に資料が表示された。

 

「四月十二日の放課後から、新入部員勧誘週間に入ります」

 

 予想的中と紅葉は顔をしかめ、泉美はその紅葉を見て苦笑いを浮かべる。

 

「七草さんは、阿僧祇くんからすでに聞いているのかい?」

 

 その苦笑いから五十里は、すでに彼女は紅葉から新入部員勧誘週間の説明を聞いていると思って聞いてみたが、泉美は首を横に振って「いいえ」と否定した。

 

「詳しい事は聞いていません。ただ、大変な事とは聞いています」

 

 なんてざっくりした説明をと泉美以外の視線が紅葉に刺さる。

 

「え? いやだってあれ、大変でしょ?」

「はぁ、阿僧祇くんらしいと言えば阿僧祇くんらしいね。司波君、説明お願いします」

 

 まるであずさから任されるのが決められていたのか、あずさの言葉に頷いた達也は端末を操作し始めた。

 

「紅葉も二年前と少し変わった部分があるから、聞いてくれ。新入部員勧誘週間とは……」

 

 新入部員勧誘週間とは普段は一部の生徒にしか携行を認められていないCADを期間中、クラブ紹介で魔法を使う為に申請を出すことで誰でも携行できる週間の事。それによって無法地帯になる週間でもある。しかし紅葉が聞く限り、二年前と特に変わりはなかった。

 達也の説明は続き、ここから去年と違ってくると前置きが入った。それは取り締まる側の体制。とは言っても、二年前の紅葉は生徒会でも風紀委員でも、ましてや部活連執行部でもなかったため、説明されても「そうだったのか」としか思わなかった。

 わかったのは部活連執行部が増員した事により、風紀委員の巡回への負担が減る事ぐらいだった。

 

「二人ともここまではわかったか?」

 

 泉美はすぐに「わかりました」と共に首肯を返したが、紅葉はその事に対しては首肯するもすぐに質問を返す。

 

「それで、生徒会は何するんです?」

 

 風紀委員と部活連執行部の役目に対して説明はあったが、肝心の自分が所属している生徒会の役割についての説明がなかった。だが、それさえも聞かれるとわかっていたのか達也はしっかりと回答を用意していた。

 

「そこからは会長が説明してくれる」

「え?!」

 

 回答というよりは誘導が正しいか。

 全部を達也が説明すると思っていたようで、気を抜いていたあずさが座っているにも関わらず転げ落ちそうになっていた。

 

「司波くんが、全部説明してくれるんじゃないんですか?」

「いえ、こればかりは会長が説明するべきだと思いますが」

 

 事前に何を話すかは決めていたようだが、誰がどこまで話すまでは明確に決めていなかったようだ。しかしながらそれはわざと達也が決めなかったのではないのかと思える程、白々しい表情をしている。こうなっては真相は闇の中だ。

 

「うー、わかりました」

 

 この達也をいくら問い詰めても無駄と思ったあずさは、観念して説明を引き継ぐ。

 

「司波くんが説明してくれた通り、巡回は風紀委員と部活連執行部が行ってくれます。ただ、それによって、別の問題が起こる可能性があります」

「別の問題? まさかとは思いますけど、風紀委員と執行部で衝突なんて……」

 

 紅葉が最後まで言葉を口にしなかったのは、紅葉と泉美以外の顔が正解と語っていたからだ。

 

「去年、一件だけ発生してね」

 

 去年はとある一年生の風紀委員の活躍が目立っていた為、目立つことはなかったが細々とした事件は発生していた。その細々とした事件の一つが執行部と風紀委員の衝突。

 

「一年生同士だった事もあって、どっちも引っ込みが付かなくなってそのまま私闘に発展。なんとか服部くんが場を収めてくれたんだよ」

「さすが服部会頭。あ、当時は副会長か」

 

 何度も言うが、とある一年生の風紀委員の活躍が目立ち過ぎていたこともあり、影に隠れていたが生徒会もしっかり仕事をしていた。

 

「だから今年は、そうならないように執行部は風紀委員が来たら現場を任せて巡回に戻るようにしてもらう事になってます」

 

 風紀委員は執行部に比べ人数は少ないが、荒事や交渉事に慣れている。その為、執行部よりは仲裁がうまくいくだろうという理由だった。さらに、部活連会頭の服部も納得しているとの事で、周知徹底していくと約束しているともあずさは言った。

 

「そこまで確約出来ていたら、心配事はないんじゃないです?」

「うん、三年生と二年生は心配はないんだけど、一年生は何があるかわからないから」

 

 紅葉から「あー」と納得の声が漏れる。

 特に風紀委員は少人数の為、一年生でも一人で巡回させられる。去年のとある一年生の風紀委員の様にしっかりと取り締まれる方が異常であって、何かしらの問題を起こすの方が普通なのだ。

 

「その点を踏まえて、生徒会は風紀委員と執行部のフォローをします」

 

 妥当だなと紅葉は納得した。

 生徒会は風紀委員会よりも少数。巡回などに出ようものなら、生徒会室が空になってしまい通報を受けても取れる者がいなくなってしまう。これなら自分の仕事は思ったよりも楽になりそうだなと気を緩めた瞬間、聞き捨てならぬ言葉があずさから発せられた。

 

「阿僧祇くんは校内を巡回し、風紀委員と執行部が衝突していたら仲裁に入ってください」

「ちょっとストップ!」

 

 紅葉は思わず立ち上がって手のひらを突きだしていた。

 

「どうしたの?」

「どうしたの? じゃないですよ。なんで決定してんの?! つか、俺が巡回!?」

 

 それらの役目を今から決めると思いきやすでに決定していた事、さらに一番大変な役目にされていて驚かずにはいられない。さすがに反論しなければと、言葉を出そうとしたが一拍遅く。

 

「生徒会からの巡回については、生徒会だけじゃなく、執行部と風紀委員会にも関係するから、それぞれに相談して、全会一致で決めたんだよ」

 

 あずさからの先制口撃を受けてしまう。しかもすでに紅葉の包囲網が完成している状態での口撃だった。彼女は、この生徒会会議の場に達也がいるとはいえ、紅葉はあの手この手で巡回任務を拒否すると思っていた。だから、逆らえないように服部と花音の力を借りていたのだ。

 

「ぐぬ、卑怯な」

 

 紅葉としては、入院中に服部達から去年の新入部員勧誘週間で活躍したとある一年生の風紀委員が達也だと聞いて知っていた。それなら、巡回をするのは達也だろうと思っていたのだが、思わぬ包囲網に屈するしかなかった。言い返すのを諦めた紅葉を見てあずさは微かに笑みを浮かべて、説明を続ける。

 

「あと、阿僧祇くんのフォローは泉美さん、お願いします」

「フォローですか?」

 

 ここで話を振られるとは思っていなかったのか、泉美は驚いた表情のまま聞き返していた。この問いには五十理が答えた。

 

「うん。生徒会に寄せられた情報を、生徒会室から無線で阿僧祇くんに伝える役だね。あと期間中なら、監視カメラの映像を生徒会でも確認できるようになるから、そこから得た情報も伝えてほしいんだ」

「わかりました」

「マジか」

 

 巡回任務は避けれないと諦めた紅葉は、適当にサボってやると心に決めたのも束の間、泉美のフォローという名の監視がついた事により、打つ手なしとデスクに突っ伏してしまった。

 

「頑張ってくださいね、阿僧祇くん」

 

 紅葉は内心で「この野郎」と恨みがましく呟くしかできなかった。




それぞれの呼び方に自信がない。
調べてはいますが、間違っている可能性が。

間違っていたら指摘お願いします。

オリキャラに関しては
あずさ、五十理→阿僧祇くん
達也→紅葉
泉美、深雪、ほのか→阿僧祇さん

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