魔法科高校の留年生   作:火乃

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生徒会3

「それじゃ泉美、私適当に待ってるから終わったらメールちょうだい。先輩方、失礼します」

 

 これから生徒会でどういった仕事を受け持つかの説明が始まるところで、香澄が生徒会室を出て行った最後、達也に一睨みする事を忘れずに。

 

「司波先輩、香澄に何かしたんです?」

「何もしていないが」

 

 相当な事をしていないとあの様な嫌われ方にならないと達也に質問するも、当の本人に心当たりはないらしい。しかし、紅葉はふと入学式の時に聞いた、香澄が達也をナンパ男と言っていたことを思い出す。彼女のあの嫌い方からして単純に考えられるのはと、つい口にしてしまったのがいけなかった。

 

「もしかして香澄をナンパしました?」

「え?」

 

 紅葉の言葉に、達也が何をいきなりという驚きの表情になり、

 

「え?」

 

 泉美がなぜか驚き、

 

「え?!」

 

 ほのかが驚きの表情とともに勢い良く達也の方を向き、

 

「お兄様?」

 

 深雪の言葉から温かさが消え、

 

「ひっ」

 

 あずさは深雪を見て顔が青ざめ、

 

「……」

 

五十里は『あーあ』と苦笑いになっていた。

 

「(あ、やらかした?)」

 

 誰がどう見ても爆弾が落ちた後である。

 

「阿僧祇さん、詳しく教えて下さい」

 

 まるで彼女の背後に、吹雪が見える様に周囲に凍えた感覚+冷たい笑顔が紅葉に向けられる。これが噂に聞く氷雪の女王と呼ばれている理由か、と思いながら逆らえる雰囲気ではなかった。

 

「待て深雪。阿僧祇君は誤解をしている」

 

 しかし、紅葉が口を開く前に、これ以上爆弾を落とされたくない達也が割り込んでくる。そこから達也が香澄にナンパ男だと思われていた理由の説明が始まった。

 簡単にまとめると、入学式前に達也が第一高校OBの七草真由美と会話している姿を香澄が目撃。それで真由美が達也にナンパされていると香澄が勘違いしたことが発端とのこと。

 

「そういう事でしたか」

 

 それで納得したのか、氷の笑みはなにもなかったかのように消えていた。

 紅葉は、深雪が達也の女性関係に敏感のようだから気をつけないといけないなと強く心に留めることにした。

 一悶着はあったが、その後は問題もなく生徒会の役割や仕事内容の説明されて無事に終了。

 

「他に質問はありますか?」

 

 あずさの言葉に紅葉も泉美も首を横に振る。それを見て、あずさ達生徒会役員が全員立ち上がった。それに二人も合わせて立ち上がる。

 

「それでは、阿僧祇くん、泉美さん、明日からよろしくお願いします」

「宜しくお願い致します」

「よろしくお願いします」

 

 こうして生徒会の説明が全て終了。

 泉美は香澄が待っているためか、カバンを手にとり出入口に向かい出る前に振り返る。そこでなぜか首を傾げていた。

 

「阿僧祇さんは帰らないのですか?」

「ん、あぁ」

 

 紅葉が帰り支度もしないで席に座ったままなのを見て不思議に思ったのだろう。

 

「ちょっと五十里先輩に聞きたい事があってな」

 

 正確には五十里ではなく中条にだがと心の中で訂正。

 さっき質問はないと返しているので五十里と言っているだけである。泉美は紅葉と五十里が知り合いと知っているから、特に気にする様子はなく、

 

「そうですか。それでは、皆様失礼致します」

 

 一礼して生徒会室を出て行いった。最後に深雪に熱い視線を贈っていく事を忘れずに。

 泉美の退室後、ドアがしっかりと閉まったことを確認した紅葉は、生徒会役員全員が視界に収まるように体を向き直した。彼の目がそれぞれに向けられたことで、数人の表情が変わる。五十里は少し緊張している面持ちになっていた。達也と深雪は最初見た時と変わらず平然としている。そしてほのかのを見ると最初に見た時よりも一層緊張しているのが現れていた。もしかしたら自分の勘違いかもしれないと少しは思っていたのだが、やっぱり知られていると確信が強まるだけだった。

 

「阿僧祇くん、あのね」

 

 そんな自分達を見ているだけで何も言ってこない紅葉に、黙っていられなくなったのか、あずさは申し訳ないといった表情と共に遠慮がちに声を出していた。

 

「ああ、別に会長が言いふらした訳じゃないでしょ」

「え?……う、うん」

 

 突然、紅葉から言われた事になんのことかわからなかったため間が空いてしまう。しかし、あずさはすぐに理解してたどたどしく首を縦に振った。

 紅葉は口止めしている事もあって、あずさや五十里、それに他の留年を知っている人達が意味もなく言いふらすとは思っていない。先程、自分の中で考えついた可能性を答え合わせのように提示した。

 

「たぶん、試験結果あたりでバレたんだと思ってるんですが、どうです?」

「どうですって、司波くん達に留年が知られているって事はわかってるんだね」

 

 紅葉の質問に対して、五十里が別の解答をよこしてきた。彼は、あずさの目礼には気付いてなかったようだ。

 

「ここに入ってから俺に向けて変な緊張感がありましたからね。それに対して会長を見たら、即座に目礼で返されたので知られていると思ったんですよ」

「中条さん、そんなことしてたんだ」

「うん。阿僧祇くんの事だからすぐ気付いちゃうだろうなって思って。事後報告になってごめんね。阿僧祇くんの言う通り、司波くん達は復学の試験結果から留年していると知っています」

「やっぱり」

 

 紅葉の中でいくつかの可能性があった。その中で『生徒会』だけに知られるとなると、『試験結果』からの経緯が一番知られる可能性が高かった。生徒会ならある程度の生徒の情報は閲覧可能ということを忘れていた。

 ちなみに、復学するのに試験が必要なのではなく、復学するにあたって一科生か二科生かを決める為に試験が必要だった。それが復学の試験結果で、一応彼は一科生として合格している。

 

「それでは改めまして、阿僧祇紅葉十七歳一年生です。先輩達は態度を改めなくて結構ですので、よろしくお願いします」

 

 毎度恒例の後輩扱いよろしくを交えて自己紹介をする。彼の中で、これから留年がバレたら全部これで押し切っていこうや、いっそのこと学則で、留年者を後輩扱いしろとか定めてくれないものかなどと思ってしまう。

 そんな事を告げると、深雪とほのかは困惑顔になっていた。しかし、二人と違う反応が、達也だけは違った。

 

「わかった。では、紅葉と呼ばせてもらう。俺の事は達也で構わない」

 

 まさかの即順応。

 

「え、あ、はい、了解です。達也先輩」

 

 これには、さすがの紅葉でも驚いてしまう。

 そのあと、達也の態度から少しは困惑が和らいだのか、深雪から深雪と呼ぶ事を、ほのかからはほのかと呼ぶ事を許可され(もちろん先輩付き)なんとか後輩扱いしてもらえるようになった。

 

「そういえば阿僧祇くん」

 

 こっちの話が一旦落ち着いた所を見計らってあずさが会話に入ってきた。

 

「なんです会長?」

「泉美さんには話すの?」

「あー」

 

 考えていなかったと頭を悩ませる。

 確かに留年している事が泉美以外の生徒会役員全員に知られた。この状況で泉美だけ知らないまま生徒会活動が出来るかと聞かれた場合、『出来ない事はないが厳しい』が答えになる。ならばいっそのこと泉美にも知ってもらった方が色々と楽になる可能性が高い。それに、泉美の役職である書記の情報閲覧範囲に、試験結果が含まれているはず。黙っててもいずれ勝手に知られる可能性も高い。

 

「……泉美には、俺から直に言いますよ。言ったら報告します」

 

 これは言った方が楽という結論になった。

 

「うん、わかったよ。それじゃ、それまでは普通にしてるね。皆もそれでお願いします」

 

 あずさの言葉に、五十里達がそれぞれ肯定の意を返す。

 

「それじゃあ、いい時間だし帰りましょう」

 

 余談ではあるが、もし紅葉が生徒会入りを蹴っていた場合、部活連執行部と風紀委員会が確保する気満々だったようだ。


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