魔法科高校の留年生   作:火乃

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懐かしき日3

「それで久しぶりに戦ってみてどうだったかな、服部くん?」

 

紅葉達が那由他で店主に叱られている時と同じ時間、生徒会室では服部とあずさがモノリス・コード組の事を振り返っていた。

その少し前まで五十里と花音もいて他の競技について話していたのだがこの話に入る前に五十里が花音を連れて出て行った。

花音としては服部の話を聞きたかったようだが、五十里がそれを許さないかのように珍しく花音をやや強引に連れ出した形だった。

 

()()()()()()()()()()()()()()よ。多少強引にいったが八握剣以外は使わなかったなあいつ」

 

苦虫を嚙み潰したような顔をしながら悲しい声色で服部は言葉を吐く。

戦闘中は楽しかった。

久しぶりに戦えた事もあって楽しかったのは間違いない。

だが、時間が経てば経つほど悲しさが胸に広がっていったのも事実だった。

 

「やっぱり昔のようにはいかないんだね阿僧祇くん」

「あいつが防戦一方の時点でおかしいだろ?」

「確かに。彼、攻撃一辺倒の人だもんね」

 

二人して昔の光景を思い出して笑いあう。

三人が同じクラスになって紅葉が服部に勝負を挑み始めたのが始まり。

その時偶然、あずさの目の前で事が展開されてしまい巻き込まれる形で審判をやらされるはめに。

それからというもの二人がなにかいざこざを起こせばあずさが巻き込まれるといった形が生まれて、あずさとしては困っていたがそれが楽しくもあった。

これがずっと続くといいなと思っていたが。

 

「中条、大丈夫か?」

 

笑いあった後、あずさの表情が沈んだのを服部は見逃さなかった。

 

「え? あ、うん、大丈夫だよ」

 

いけないいけないと顔を軽くパンパンと叩くあずさ。その行動が大丈夫ではないと言っているようなものなのだが服部はそれ以上踏み込むことはしなかった。

あずさが何を思って気が沈んだのかが少なからずわかるからだ。

 

「もう少ししたら閉門時間だ。俺達も帰るとしよう」

 

これ以上、紅葉に関係する話をしてもあずさの気持ちが沈むだけだと思った服部は鞄を手に取り立ち上がった。あずさに帰宅を促すと彼女はゆっくりと顔を上げお互いの視線が合った。

 

「……服部くん」

「なんだ?」

「まだ諦めてないよね?」

 

その言葉の意味はわかる人にしかわからない。

だからわかる人、服部は少しムッとした顔になった。

 

「俺が諦めたように見えるのか?」

 

少し怒らせてしまったかなとあずさは思うが、その顔に少しだけホッとする。

良かった全然気持ちが変わってなくて、と。

 

「ううん。そんなことないよ。……絶対に助けようね」

「あぁ、もちろんだ。おいそれとあいつを楽にさせるつもりはない」

 

そうして二人はまた軽く笑いあって生徒会を後にした。

 

 

 

 

 

「ぶえっくしょん!!」

 

龍善、七宝と別れた紅葉は突然盛大にくしゃみがでた。

幸いにも周りに人はいなかった為、人目を引くといった事はなかったが不意の盛大なくしゃみに少しだけ恥ずかしさがあった。

 

「あー。誰か、噂でもしてるのかねぇ?」

 

そう言葉をこぼしながら噂しているのは誰かなどと想像してみるが

 

「ひーふーみー……いっぱいいるなー」

 

第一高校内だけでも沢山いるというのに、学校外でも沢山いる予想が簡単についた。しかも数日前に増えたことを思い出し少しげんなりする。

 

「七草先輩に知られたのが少し怖いよな。あの人の情報網を使えばワンチャンありそうな気もするが、七草家に知られるのがだいぶまずいからな」

 

紅葉の抱える秘密は七草家というよりは十師族に知られたくないことだった。

知られてしまえば何が起こるか、考えただけでぶるりと体が震えた。

 

「姉貴の事だからそこら辺、釘はしっかり刺しているだろうけど」

 

その釘がどこまで機能するかはわからない。

紅葉は真由美の事は信用しているが、七草家含む十師族というか()()()()()()()()()()()()()はまったく信用していない。その中でも、とまで思考して止めた。

 

「はぁ、やめやめ。今は九校戦の事だけ考え……そういえば」

 

これ以上自分の事を考えても一切プラス思考にはならない。

それならば今、楽しいと思える事を考えようと九校戦の事を考え始めようとしてこれも一旦停止。九校戦よりも前にやっといたいことがあったのを思い出した。

 

「姉貴の誕生日プレゼント買っとかないとな」

 

姉の双葉の誕生日が近い……九校戦後ではあるが。

ただ、その付近はもしかしたら色々と忙しいかもしれないので買ってる暇はなさそうだなと思っていた。

 

「次の休みに買いに行くか」

 

そうこうしている内に自宅が見えてきた。

明かりが灯っている事から母親はもう帰宅しているのだろう。

その光景に思わず言葉がもれる。

 

「これがあと何日続くんだか」

 

ハハと乾いた笑いでもれた言葉をなかった事にして「ただいま」と玄関をくぐった。

 

 

 




次話より泉美ルートへと入ります。

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