魔法科高校の留年生   作:火乃

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懐かしき日2

「やっぱ、みたらし団子は旨い」

 

モノリス・コード本選組との模擬戦闘後、内容を振り返るために紅葉、龍善、七宝の三人は和菓子喫茶である那由多に来ていた。

那由多には普段は開放されていないが二階もあり、紅葉は店長である那由多隆弘に許可を取ってそこで反省会をすることに。

那由多に来たのだから和菓子は頼まないと、ということで各々頼みはしたもののやってきた和菓子に手をつけたのは紅葉だけだった。他の二人はというと、和菓子には見向きもせずにお互いに睨み合っている。その様子を団子を頬張りながら眺めている紅葉は内心でこうなる予想はしていた。

それほどまでに模擬戦闘の結果は酷いものだった。

 

「ズタボロだったな」

 

どちらからも話し出す気配がなかったため、紅葉は軽くため息をついたあとそう口にした。

 

「っ」

 

それに真っ先に反応したのはやはりというか七宝だ。しかし。紅葉を睨みはするが言葉は出てこない。ただ口を開けたり閉めたりしているだけ。すなわち七宝本人も悔しい事にこの結果を認めているということになる。

 

「二人してとっ込んで吉田先輩の魔法にまんまと引っ掛かり、そのまま三七上先輩の魔法でノックアウト……予想してたよりも酷い結果だったぞ」

 

紅葉の予想では、普段接する機会の少ない幹比古の精霊魔法にどちらか一人が翻弄されるも、それを残った一人がカバーし、なんやかんやあって善戦するのでは? と思っていたがそんな事は微塵もなかった。

 

「てか、なんで二人して突撃してんだよ? ポジションは伝えたろ。七宝がオフェンス、龍善が遊撃だって」

 

内心、作戦会議らしい会議をしていなかったのも原因なんだろうなとは思っているものの、少なからずポジションを知っていれば自ずとフォーメーションは取れるだろうと思っていた。

この二人は一科生の中では戦い慣れている部類でもある。だから少ない情報でも、七宝が前に出て龍善がカバーするといった形か、龍善が偵察に出て七宝が待つといった形をとれるのではと期待していたが蓋を開けてみれば二人して前衛の位置にいた。

二人同時にノックダウンしたと聞いた時に紅葉は「なんでだよ!」と自身が戦闘中にも拘わらず即座に口にしたのは仕方がないことだろう。

 

「それはわかってる。だから俺は訓練場が森林地帯だったから斥候は必要だろうと思って前に出たんだ。七宝にもここで警戒して待ってろって言ったんだが、こいつはそれを無視して前に──」

「お前が俺の話を聞かずに勝手に前にでたんだろ!」

 

紅葉の言葉に弁明するかのように龍善が話し始めたが、七宝が言葉を被せた。

 

「実力者相手に無策で行くとか考えなしかお前は!」

「だからそれを知る為に俺が前に──」

 

どうやら、お互いがどう動くかは考えていたようだ。

ただ、その意図が相手にまったく伝わっていなかったようだが。

 

「(結果はあれだったが思ったよりは悪くないな)」

 

お互いがお互いを考えていなければ、責任の押し付け合いの醜い争いになるが

 

「七宝お前、吉田先輩の精霊魔法に対応できるか?」

「っ。なんだ、お前は出来るっていうのか?」

「お前よりできるだろうよ。少しばかり精霊魔法に接する機会があったからな」

「なら、なんで対応できなかったんだ!」

「てめぇと一緒に嵌まるとは思わなかったからだよ!!」

 

と、こんな具合に語気は荒めだが話し合いのような感じにはなっていた。

 

「(こいつらなんだかんだでいいコンビになるかもな)」

 

妙にテンポのいい言い合いに、そんな事を思いながら紅葉は二人を眺めていたが突然、龍善の顔が彼の方を向いた。

 

「というか、てめえが『作戦はない! 任せた!』って言ったのも原因だと思うんだが?」

「そんなこと言ったか?」

 

言った。間違いなく、一語一句間違いなく言った。が、紅葉がそんな事を素直に認める訳がない。

睨み付けてくる龍善をよそに、二本目のみたらし団子を手に取りぱくり。

その謎の余裕に、龍善の額には青筋が浮かんだ。

 

「おう、てめぇはっ倒すぞ」

「ははっ、やれるもんならやってみやがれ」

 

開戦待ったなし状態の二人の間に「阿僧祇」と言って七宝が割って入ってきた。その顔の真剣さに紅葉は姿勢を正す……まではいかないが少しだけ気を引き締めた。

 

「どした?」

「お前は勝つ気がなかったのか?」

「勝つ気なしで勝負するわきゃないだろ」

 

七宝の質問に即座に真っ向から否定する。

 

「……あー、まぁなんだ」

 

ただ、その言葉を否定はしたが言葉に含まれる意図については返答しないといけない空気になっていると感じた。

 

「ぶっちゃけ、昨日の今日で作戦がたてられる訳がない」

「うわ、マジのぶっちゃけだ」

「うっさい。ただ、善戦する予想はあったぞ。その予想はそっこーで砕けたがな」

「勝てる予想はあったんだな?」

「数%程度だがな。大した話し合いはしなかったが俺たちは戦い慣れてる、と思っているからワンチャンあるだろうと。まぁ、課題は見えたんだが」

「へー、課題ってのは?」

 

あの一戦だけで圧倒的に足りない事がハッキリと見えていた。

しかし紅葉としてはそれはあまり改善したくはなかった。でも改善しないといい結果を出せないのも見えている。

だから一時の事だと諦めることにした。

 

「コミュニケーション不足だな」

「……」

「……」

「……なんか言え。身に覚えがあるだろうよ」

「いや、もっとこう技術面とかそっちの課題は?」

「安心しろそっちはこれっぽっちも問題とはおもってねーよ。それよりもお互いの実力を発揮するためには連携が大事だってこった。今日だって連携が取れてれば善戦するだろうなって予想だったんだからな」

「……」

「……」

 

七宝と龍善がお互いを横目に睨みあっている。

何かを言おうとして言葉にならず言えないといった事をお互いしているのだ。

このまま待って二人が話始めるのを待ってもいいが、下手したら閉店まで話始めないかもしれないので紅葉はパンッと自分の掌を合わせてニッコリ――二人からしたら嫌な笑顔――と笑った。

 

「って訳で、九校戦までの間、俺たちはお互い下の名で呼び合うことにする。これは決定事項だ」

「え?」

「は?」

「なんだったらあだ名でもいいぞ。ま、よろしくな龍善、琢磨」

「「はあああああああああああああああああ!?!?!?!?」」

 

紅葉の思わぬ提案に二人は叫び、その声は一階にいた客にまで聞こえてしまい紅葉達三人は店主からお叱りをくらうのであった。


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