魔法科高校の留年生   作:火乃

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懐かしき日1

学校に隣接する丘を改造して作られた野外演習場。魔法科高校は軍や警察の予備校ではないが、その方面へ進む者も多い為、このような施設が屋内屋外、多種多用に充実している。

その野外演習場にある人工森林の中で二人の男子が激しく魔法を撃ち合っていた。

 

「(これで五発……あと二発)」

 

一人は魔法を放つ服部刑部。

 

「(相変わらず器用な奴だな!)」

 

もう一人は術式解体(やつかのつるぎ)でそれを撃ち消す阿僧祇紅葉。

 

なぜその二人が戦う事になったのか、それは少し時間が遡る。

 

 

 

 

 

紅葉がメンバーを決めた次の日の十七日火曜日。

放課後、メンバー決定を知らせる為に七宝と龍善をこの野外演習場に来るようにと呼び出した。

その野外演習場にはすでに紅葉の他に生徒会長のあずさ、部活連会頭の服部、風紀委員長の花音という第一高の最高幹部三人とモノリス・コード本選のメンバーである三七上ケリーと吉田幹比古とそうそうたるメンバーが揃っていた。

 

「お、来たな」

 

龍善と七宝が来たのを見た紅葉は全員揃っているのをざっと見回し確認したあと、あずさに視線を送った。それにあずさは一回頷き、一歩前に出る。

そこから龍善、七宝に対して新人戦モノリス・コードのメンバーに選ばれた事の説明が始まった。

 

二人に説明されたのを要約するとこうだ。

二人はメンバーに選ばれた。

ポジションは七宝琢磨が攻撃役(アタッカー)

遊撃に籠坂龍善

守備役(ディフェンダー)にモノリス・コード選抜戦を勝ち抜いて新人戦モノリス・コードのリーダーとなった阿僧祇紅葉が就く。

 

そこまで説明されて紅葉は二人の様子を伺う。

 

「(素直に喜べばいいのにな)」

 

その様子に苦笑が漏れる。

なにせ二人ともポーカーフェイスではあったが、ほんの少しだけ口角が上がってたり、後ろに回した手で拳を握っていたりと喜んでいる動作が見えていた。

 

「(もしかしたら七宝は辞退するかもとか思ったが、そんな様子もないしとりあえず一安心だな)」

 

紅葉の思う七宝はプライドが高くて人の下に着くのを嫌いそうな性格だと思っていたから辞退の可能性は十分有り得ると思っていた。

だが、七宝から喜びの感情が見え、拒否する様子はない。

その喜びが素のものか打算的なものかは判断は出来ないが、メンバーを再選考しなくて済むと安堵した。

 

「では、阿僧祇くん一言お願いします」

 

そんな自分の中で安心していると突然あずさから話を振られた。

なんの事かと周りを見れば全員の視線が紅葉に集まっている。

そこで締め的な言葉を求められているのを察した。

 

「うん、まぁ、よろしく」

 

が、そんな体のいい言葉がすぐに浮かぶはずもなかった。

 

「お前、今絶対にボーっとしてたろ」

 

ありきたりな言葉を口にするもジト目の龍善から即座にツッコミがはいった。

 

「ボーっとはしてないぞ。ただ話を聞いてなかっただけだ」

「余計悪いだろ!」

「阿僧祇」

 

紅葉と龍善がいつも教室で繰り広げている言葉の応酬が始まりそうだったところに服部が割って入った。

 

「時間が勿体ないから始めるぞ」

「あぁ、そうでしたね。龍善、七宝、準備するぞ」

 

服部の言葉に確かにと同意した紅葉は説明不十分なのを理解したまま二人を促した。

 

「?」

「何をだよ?」

 

当然二人の頭には?マークが浮かび上がる。

それを見た紅葉は意地悪い表情を浮かべた。

 

「もちろん、本選メンバーと模擬戦闘だ」

「は、はぁ!?」

「っ」

 

龍善はわかりやすく声を上げ、七宝は逆に息を飲んだ。

 

「今からかよ?!」

「今からだな。というか気づかなかったのか? あっちは始めっから準備万端だったの」

「はあ? そんな訳……あったな」

 

龍善が振り返って三七上と幹比古に目を向ける。改めて見て二人の姿は模擬戦闘を行っても大丈夫な格好つまり実習服だった。

 

「さ、さすがに急すぎるだろ」

「まぁ、急なのは認めるが、一日も無駄にできないからな」

「どういうこった?」

「単純な話、俺達の練習期間はそんなにない」

「え? マジ?」

「マジ。今日入れて二週間しかない」

「今日入れなかったら?」

「二週間ないな」

「……」

「ってな訳だ。七宝も理解したか?」

 

ずっと紅葉は龍善とやりとりしながらも七宝の様子は見ていた。そして龍善の慌てぶりのおかげか、一足早く冷静になったように見えていた。その証拠に七宝は落ち着いている。

 

「ああ、わかってる」

「ってことで俺達も実習服に着替えんぞ」

「……わかったよ」

「それじゃ服部会頭。準備してきます」

「あぁ」

 

そう言って紅葉達は更衣室へと向かった。

 

「三七上、吉田」

 

紅葉達の姿が見えなくなったところで服部が軽く雑談していた二人を呼び寄せた。

 

「なんだ服部?」

「実は頼みがあるんだ」

 

服部の言葉に申し訳ないといった感情がのっているのを感じた二人はお互いに顔を見合わせたあと、服部の顔を見て言葉を待った。

 

「阿僧祇と一対一で戦わせてほしい」

 

その言葉に三七上は「へぇ」と妙に納得気に、幹比古は「え?」と困惑した反応だった。

 

「その、どうしてですか?」

 

服部の真意が理解出来ずに質問を返したのは当然ながら幹比古だ。

 

「……あいつの今を知りたくてな」

 

服部は少し言い淀んだあとにでた言葉は幹比古にはいまいちピンとこなかった。

 

「今を……知る? それはどういう?」

 

言葉通りの意味ならば今の実力を知りたいなのだろうが、それならば選抜戦で見て測れているはずだ。

なのに、わざわざ改めて知りたいというのは理解できなかった。

そんな困惑を見せる幹比古を見てか三七上が服部の肩に手を置いて軽く頭を振った。

 

「服部、それじゃ吉田は納得しないだろ」

「なら、どう言えば」

「簡単な話だ。正直に話せばいい。久しぶりにあいつと戦いたいとな」

「っ」

「久しぶりですか?」

 

選抜戦の時もそうだったなと幹比古は思い出した。

この二人は阿僧祇の事を知っている風だったなと。その事が関係しているのかと思って三七上を見るとニカッと笑みを返された。

 

「そういうことで、ここは服部の我が儘に付き合ってやろう」

「え?」

 

幹比古の疑問をマルッとスルーして三七上はこの話を強制的に締め始めた。

それに面食らう幹比古。

 

「他の二人も面白そうだからな。気を引き締めろよ吉田」

「は、はい」

 

結局そのまま三七上ペースで話は進み、幹比古の疑問は有耶無耶のままとなった。

その後、紅葉達三人を待つ間、準備運動を始める為に幹比古が少し離れたところで服部が三七上の背中を軽く叩いた。

 

「助かった」

「どういたしまして」

 

三七上のフォローに感謝し、お互い軽く笑いあった後、準備運動に入った。

そこから二十分後、実習服に着替えた紅葉達三人が戻ってきてモノリス・コード本選メンバーVS新人戦メンバーの模擬戦が始まった。

 




泉美香澄成分が足らん

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