魔法科高校の留年生   作:火乃

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モノリス・コード選抜戦6

モノリス・コード選抜戦決勝、阿僧祇紅葉対七宝琢磨の試合は千代田花音の開始の合図と共に始まった。

紅葉は左手に短銃型CADを握り、七宝は腕輪型CADに手を添えお互い後退して一定の距離を取ったあと平行に走り出した。

すかさず七宝は手元を操作して魔法を起動した。

起動したのは使い慣れているエア・ブリット。数は一発。

すでに七宝の頭の中で紅葉は術式解体を際限なく使えると思っている。さらに術式解体を連続で使える上に、紅葉がとどめに使っている魔法『幻衝(ファントム・ブロウ)』も術式解体後になんなく使っていたことから紅葉のサイオン保有量は莫大なのだろうと予測していた。

その事からまず牽制で一発撃って様子見する事にした。

今までの紅葉の戦い方は後出しだった事に七宝は気づいていた。

一回戦では術式解体で相手の魔法を消し、相手が何が起こったのかわからず混乱しているところに幻衝を放った。

五回戦では勝負をかけた龍善の魔法を一回打ち消し、もう術式解体はないだろと思わせたところで二回目の術式解体。その後、幻衝を放ち勝っている。

 

「(まだ何か隠しもってると見るべきだろうな)」

 

だから、そう思っての様子見の一発だった。

紅葉が術式解体で防ごうが、回避しようが、次の手は考えている。

例え予想していない動きをされても対応できる余裕は頭にはあった。

ただ、予想していない動きが常軌を逸していなければの話ではあるが。

 

「……は?」

 

エア・ブリットを放った七宝の口から信じられないものを見たと驚きの声が漏れる。

それは誰もが予想できなかったこと。

 

紅葉がエア・ブリットを受けて吹き飛んだ。

 

あの一回戦、五回戦ともに今まで一度も被弾しなかった紅葉が攻撃を受け吹き飛んだのだ。

それにこの試合を見ていた全員が驚いた。

全員、吹き飛んだ紅葉を見て固まっている。

そう全員、対戦相手である七宝までもあまりの驚きに思考が止まってしまった。

ピクリとも動かない紅葉にこれで終わりかと誰かの頭によぎったその時

 

「ぐぁ?!」

 

突然の呻き声があがった。

紅葉に釘付けされていたギャラリーの目は一斉にその発声元、七宝へと向く。

 

「な、ん、ぐぅ!?」

 

そのタイミングで二回目の呻き声。

 

「(こ、れは、幻、衝? づぅ)」

 

七宝は頭に響く衝撃に耐えながら、この衝撃がなんなのか行き着くも三度目の衝撃に膝が折れた。

 

「あー、くっそいてーじゃねーかちくしょう」

 

七宝が片膝をつくと倒れていた紅葉が魔法の当たった胸をさすりながら身体を起こしていた。

それを目の当たりにした七宝は顔が苦痛に歪みながらも精一杯紅葉を睨みつけている。

 

「ぐっ、あそう、ぎぃ」

「げっ、まだ意識あんのか。龍善といい、お前といいタフな奴しかいないのかよ」

 

対して紅葉はまだ気を失わない七宝に驚きながらもゆっくりと短銃型CADを七宝に狙い定め

 

「ま、失うまで撃ち続けるがな」

「あそうっ──」

 

引き金を引いた。

最後、何かを叫ぼうとした七宝は紅葉の四度目の魔法にとうとう意識が吹き飛び、身体から力が抜けてそのまま横に倒れる。

 

「……さてと」

 

そのまま座り込んでいたい紅葉だったが、七宝が起き上がる可能性もあったので左手に短銃型CADが握り七宝に狙い定めたまますぐに起き上がった。

 

「(俺みたいに演技して逆転狙っててもおかしくはないからなー)」

 

しかし、紅葉の警戒は無駄となる。

七宝はピクリとも動くことはなく沈黙。審判である花音が勝負は決したと声をあげた。

 

「勝者、阿僧祇紅葉!」

 

ワッとギャラリーの歓声があがる中、紅葉は全身の力を抜いて天を仰いだ。

 

「あー、疲れた」

 

実のところ紅葉自身、一日でこんなに戦った事は今までなかった。

ペース配分もそうだが、普段使わない技術を使っているように見せかけるのに相当気をまわしていた。

 

「(何人騙せてることやら。ま、しばらくは考えなくていいか)」

 

とにかく終わったと盛大に気を抜く。

そこに近づく数人の気配。チラッと横目で見れば四人の影。香澄と泉美、彩愛に龍善の一年生四人の姿があった。

 

「いやー、勝っちまったな紅葉」

 

いの一番に話しかけてきたのは五回戦で紅葉に負けた龍善だ。言葉は驚いているが紅葉が勝ったのがかなり嬉しいのかやたら笑顔である。

 

「うんうん、七宝くんの攻撃を受けた時は負けちゃうかなって思ったけど、そこからの逆転が凄かったよ!」

 

彩愛は素直な気持ちを口にしていた。

 

「結局、あんたの負け姿を一回も見れなかったんだけど?」

 

その横で不満げな顔をしているのは香澄だ。腕を組んで半目である。

 

「そりゃ悪かったな。そんで今後も見せる事はないから諦めろ」

「言うじゃない。ま、優勝おめでと」

 

紅葉の強気発言と笑顔に見ていられない恥ずかしさからプイッと顔を逸らし若干頬を赤らめて賞賛の言葉をボソッと言った。

 

「あ? なん……って、なんだこれ?」

 

それをまるっと聞こえていたにも関わらず聞こえていないフリをして追求しようとした紅葉だが、いきなり目の前に影がさし首を傾げた。

 

「お疲れ様です。どうぞ」

 

影の正体は泉美から差し出されたタオルだった。それを紅葉は左手で受け取ろうと動かそうとして。

 

「あ、あぁ……っ」

 

出来なかった。

さらには小さく呻いてしまった事に内心やばっと思いながら目線を泉美に向けると、案の定彼女から心配そうな目が向けられていた。

 

「阿僧祇さん? どこか痛むのですか?」

「(痛むどころの話じゃないけど)」

 

それが紅葉の本音だ。

だが身に起きてることを言う気がない紅葉は異常を悟られないように右手でタオルを受け取ってニヘラと笑ってみせた。

 

「タオル、サンキューな。まぁ、あいつの魔法が直撃したからな。そりゃ痛くもなる」

 

受け取ったタオルを首にかけてはぁと息を吐いた。その際、四人に見えない様に右手で左手を掴んでポケットに突っ込む。

 

「そうよ、あんた。よく魔法が直撃してたのに無事だったわね」

「痛いつってんだろ。お前の耳は節穴か?」

「なんですってー!!」

 

ていよく言った言葉に香澄が食いついてくれたことに内心で感謝しつつ、紅葉は動かなくなった左手に誰の意識も向かないように会話を続けるが、どうやら泉美の気はそらせなかったようだ。

 

「香澄ちゃん、落ち着いてください。阿僧祇さん、痛むようでしたら救護室に行かれてはどうですか?」

「そうしたいのは山々だが、今行けばなー」

 

そう言って目を向けるのはタンカーに乗せられ運ばれる七宝の姿だった。

紅葉の言葉と視線の先で彼の言わんとする事を理解した四人はなんともいえない顔になるのも仕方がない。

今、救護室に行けば気を失っているとはいえ七宝と一緒にいる事になる。運が悪ければ七宝が目覚めてしまうかもしれない。そうなれば、とまで考えた紅葉は頭を振った。

ただでさえ疲れているのに、余計に疲れたくないと思ったからだ。

 

「多少、ズキズキするぐらいだからな。行くほどでもないさ」

「そうならいいのですが」

「それに、まだ色々やる事が多そうだしな」

 

今度はギャラリーの方に目を向ける。

そこには笑顔で手招きしているあずさの姿があった。他にも服部達が紅葉の名前を呼んでいる。

 

「あれを放置したら後が大変だろ」

 

紅葉は軽く笑ってみせて、行くかと歩きだした。

その後は、軽い表彰とモノリス・コードの残りのメンバーをいつ決めるかを話して解散となった。

 




これにてモノリス・コード選抜戦は終了です。

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