このストーリーはifストーリーとなります。
留年生本編とは別と思ってください。
これで本編のヒロインが決まった訳ではありません。
では、どうぞ
クリスマスIF(香澄)
二〇九?年十二月二十四日。
それは学生にとっては、二学期最後の日であり、同時にクリスマス・イブでもある。
「で、いいのかよ。確か七草家主催のクリスマスパーティーがあるんじゃなかったのか?」
そんなクリスマス一色の街を歩く男女一組。一人は白い息を吐きながら若干呆れている阿僧祇紅葉。そしてもう一人は、紅葉より少し先を足取り軽やかに歩く七草香澄だ。
香澄は身体ごと振り返る。
「うん、行事はお姉ちゃんが出るから大丈夫だよ」
「ホントかよ。後日、お前を誘った罪で俺が裁かれない保証はあるだろうな?」
「もう、心配性だな、紅葉は。たぶん、大丈夫だよ」
「おう、たぶんは止めろ。余計に不安になる」
「はいはい、大丈夫大丈夫! ほら、時間ないんだし行くよ!」
そう言って香澄は紅葉の手を取って引っ張っていた。
「ボクと紅葉の初クリスマスデートなんだから、楽しまなくちゃ!」
二人が向かったのは街の中心部にある大きなクリスマスツリー──ではなく、その外周部にあるショッピングモールだ。
モール内もクリスマスカラーに彩られ、陽気な音楽が流れている。その雰囲気が恋人達を招き寄せるのか、モール内はカップルでいっぱいだった。
「えへへ~」
「気持ち悪い笑い方してんな」
そんなモールに入る前からずっとニヨニヨとしている香澄を見て、紅葉は思わず本音がこぼれていた。
「ちょっと!彼女に向かって気持ち悪いは酷くないかな?!」
さすがにそのセリフは寛容できないと頬をぷっくりと膨らませる香澄。その面白可愛い姿に、今度は本音ではなく笑みがこぼれる。
「ぷっ。くくく」
「こーうーよーうー」
尚もふくれっ面のまま、抗議のまなざしを向けてくる香澄を紅葉は真っ向から受け止め、
「悪い悪い、あまりにも可愛いくてな」
「っ?! 」
不意打ちなる一撃を放ち、彼女を赤面、沈黙させる事に成功させていた。まあ、効果の程は数秒だったのだが。
「って、そんな事じゃ誤魔化されないよ!」
しかし、赤い顔はすぐには収まらないのか香澄は隠すようにそっぽを向いていた。それがさらにおかしくて、笑いそうになるがここは我慢する。
「誤魔化されかけてんじゃねーかよ。ほら、あそこでひと息つこうぜ」
そっぽを向いた香澄とは反対側にあるカフェを指さすと、彼女はなんの抵抗もなく首が回っていた。
あまりのちょろさに紅葉は再び笑いがこみ上げ、香澄はしてやられた事に気づいて怒ったのは言うまでもないだろう。
カフェに入った二人。香澄は見てもわかるほどに怒ってますとブスッとしている。
「たく、そんな拗ねることないだろうに」
「拗ねてないもん」
付き合いだしてからわかったことだが、二人きりになると香澄の口調が少し可愛らしいものに変わる。それが自分に甘えてくれていることなんだろうと思うと嬉しくなり顔が微笑んでいるのが紅葉自身でもわかっていた。
「お待たせいたしました。クリスマスケーキセットです」
そんな香澄の機嫌が治らない内に、注文していたケーキセットが二人の前に置かれた。このケーキセットはカップル限定品で、カフェに入って紅葉が迷わず注文したモノだった。
紅葉の前にチョコレートケーキとコーヒ、香澄の前にショートケーキと紅茶が置かれている。カップル限定にしては普通のケーキセットである。
「ん、美味しい」
香澄はさっきまでの不機嫌はどこへやらとばかりにケーキを味わっている。しかし、紅葉はチョコレートケーキをジッと見つめるだけで動いていなかった。
「紅葉? 食べないの?」
「ん、ああ、いや、食べるよ」
「うん、そっちも美味しぃ?!」
心の中でクスリと微笑む。フォークでチョコレートケーキを掬った紅葉はそれを自身の口ではなく香澄の口許へ寄せていた。
「こ、紅葉?」
香澄はチョコレートケーキと紅葉の顔を行ったり来たりしている。
「香澄、あーん」
「っっっ」
そして何をさせたいかわかる、決定的なセリフに彼女の顔は一気に赤くなっていた。
それをニコニコと笑いながら紅葉が見ている。彼が持つフォークが引っ込む気配はない。逃げ場のない香澄は意を決して、チョコレートケーキを食べた。
「どーだ?」
「(恥ずかしくて味なんかわかるわけないでしょー!)」
少し涙目になりながら咀嚼している姿も紅葉にとったら可愛いと思えるものだった。
そんな姿を可愛いと思われているとは思わない香澄は、口の中のケーキがなくなったあと、自分の前にあるショートケーキをひと掬いしていた。そして、それを紅葉の口許へ差し出す。
「はい、紅葉。あ、・・・・・・あーん」
彼女はやられたからやり返したかったのだろうが、セリフで恥ずかしくなったのか半分自爆しているようになっていた。
そのケーキを紅葉は躊躇わずに頂く。
「あむ・・・・・・うん──」
彼は香澄がやり返してくるのがわかっていた為、カウンターを用意していた。
「香澄の味も合わさって、美味しいな」
「へ?」
そのセリフに固まる香澄。彼女の視線は紅葉の口から自分が持つフォークに移り、最後にショートケーキへと移った。
彼女は紅葉にケーキを差し出す前に自分でショートケーキを味わっている。そのフォークを使って、彼にケーキを差し出したのだから、それは間接キ──
カフェを出ると日は落ちて、街がイルミネーションで輝いていた。二人はキラキラ輝く街道を手を繋いで歩く。
「なんかずっと紅葉にやられっぱなしで悔しいんだけど」
「やられっぱなしって、お前な」
香澄の半自爆からの追い打ちで今日一の赤面になった香澄はカフェを出てから歩いている間、ずっとプンスカしながら歩いていた。しかしながら、紅葉が差し出した手を握り返しているのでそこまで怒っているという訳ではなさそうだった。
そんな二人は目的地である街の中心部の広場にたどり着いた。そこには飾り付けられて綺麗に輝いている大きなクリスマスツリーがあった。
「はー」
「うわー」
二人してあまりにも大きなクリスマスツリーに思わず見上げてしまう。
「すごいね、紅葉」
「ああ、すごいな」
「えへへ」
紅葉の隣から笑いがこぼれると同時に繋いでいる手が離れたと思ったら、腕に重みが増した。思わず顔を向けると香澄が紅葉の腕に抱きついている。
「香澄?」
「紅葉、好きだよ」
紅葉の思考が一瞬停止する。不意に色っぽく言われた言葉を理解する前に香澄がニヤっと笑みを浮かべたことで、彼はやられたと察した。
「ふふっ、紅葉のびっくり顔もーらいってね」
「このやろ。たく、はいはい、参りました降参ですよ」
「うんうん、それで紅葉は?」
一矢報いる事ができた香澄は満面の笑みを向ける。
「ああ、俺も好きだよ香澄」
そして二人はクリスマスツリーの下で──
クリスマス要素が薄い気もするけど気にしない!
留年生本編でこういうの書くのはだいぶ先だから、我慢出来ずに設けたのがifストーリーです。
ではでは、皆様、良いお年を!