魔法科高校の留年生   作:火乃

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日常の表側2

 達也の計画した実験がスタートした次の日。

 本日は土曜日なので、午前しか授業がない。午前授業は三限あり、一限は魔法工学、二限は基礎魔法学、三限が選択科目1となっている。そして、一限目の魔法工学は一年生の内はソフトウェアが中心となる。その授業を受けながら、紅葉は昨日の説明を思い返していた。

 

 達也の計画した実験は恒星炉実験といい、常駐型重力制御魔法を中核技術とする継続熱核融合実験のことをいう。

 紅葉がわからなかったこの実験を行う意味も同時に説明されていた。

 最近、毎朝テレビで紅葉が見飽きてきた反魔法師特集。その一環で野党議員が取り巻きの記者と一緒に第一高校を視察し、魔法科高校は軍事と強い結び付きがあるという反魔法師パフォーマンスを計画しているとの情報がもたらされた。その情報が誰によってもたらされたのか紅葉は軽く突っついてみたが、華麗にスルーされている。達也はその計画を逆に利用して、魔法科高校は軍事目的以外にも魔法教育の成果が出ていることを示す為に恒星炉を用いて、常駐型重力制御魔法式熱核融合炉の実現可能性をデモンストレーションし魔法の平和利用を主張することを計画した。

 これが恒星炉実験の全容になる。

 

「(よくもまあ、そんな計画考えつくもんだ)」

 

 紅葉にとって前期の魔法工学は二度目になる為、復習感覚で授業を受け流している。その意識の八割は恒星炉の詳細が表示された電子ペーパーに向いていた。

 

「(準備に四日か)」

 

 議員が視察に来るのは四月二十五日水曜日。今日が四月二十一日土曜日なので、実験の予行を行えるのは二十一日~二十四日までの四日間となる。

 

「(三限終了後、関係者は生徒会室集合だったな。俺は出る必要ないと思うんだがな)」

 

 実験の主要メンバーに紅葉は含まれていない。

 主要メンバーは以下の通りになる。

 

 企画、司波達也。

 監督教師、廿楽計夫。

 実験リーダー兼クーロン力制御魔法担当、五十里啓。

 全体のバランス監督、中条あずさ。

 ガンマ線フィルター担当、光井ほのか。

 中性子バリア担当、桜井水波。

 第四態相転移担当、七草泉美、七草香澄。

 重力制御担当、司波深雪。

 

 このように紅葉の役割はなかったように思えるが、重要な役割が残っていた。

 

 三限目が終わり、昼。

 それぞれが昼食を済ませ、生徒会室に集合した。そして達也と五十里、廿楽が各魔法担当者と話し合いが始まっている隅で、紅葉はあずさに話しかけられていた。

 

「留守番?」

「うん、留守番。正確には連絡係りだね。実験メンバーのほとんどが生徒会役員だから、皆で実験室に行っちゃうと、生徒会室を空ける事になるんだ」

 

 確かにと紅葉は相槌を打つ。実験メンバーに選ばれていない紅葉までもが実験の何かしらを手伝ってしまうと生徒会室が空となり、何かトラブルが起きた際に生徒会はすぐに動けず困ってしまう。だから、紅葉は生徒会室で連絡係りになってもらう為に、メンバーから外したのだという。

 

「じゃあ、実験中はここに待機してればいいってわけですか」

「そうだね。何かあったら、私か司波くんの端末に連絡入れてもらえればいいかな」

 

 その中に五十里が入っていないのは、魔法を担当しているからだろうなと予想できた。

 

「滅多な事でトラブルは起きないから、退屈だろうけどお願いします」

 

 軽く一礼してあずさは、達也、五十里の方へと向かっていった。

 

「激務フラグ立てんなよ」

 

 さらっと要らぬフラグを立てるあずさに、余計な事をと立ち去る背中に向けてジト目をプレゼントした。

 

「ふーん、阿僧祇はメンバーじゃないんだ」

 

 あずさと入れ替わるように近付いてきたのは、達也達との話し合いを終えた香澄と泉美の二人。泉美は紅葉の対面にある自分の端末席に座り、香澄はその隣に腰を下ろした。

 

「そっちは第四態相転移担当だったな」

 

 第四態相転移魔法とは、液体を第四態つまりプラズマに状態変更する発散系魔法である。

 

「まあ、二人なら問題なくやれそうだわな」

 

 本来なら一つの魔法を二人で行うのは難しい。しかし、香澄と泉美は乗積魔法の使い手なので失敗することはないだろうと紅葉は思っていた。しかし、その言葉に香澄と泉美が身構える。

 

「どした?」

「司波先輩もそうでしたが、阿僧祇さんも私達の事を知っているのですね」

 

 はて? と紅葉は首を傾げる。

 七草の双子の事は数付き(ナンバーズ)の家の者なら少なからず知っていると思うのだがと思案して、「ああ、知らないのか」と思い直した。

 

「そりゃ一応、阿僧祇は百家だからな。お前等の事は耳にするさ」

「「百家?」」

 

 双子の無駄なハモリを披露しながら、二人は身構えた表情から一変、ポカンと驚いた表情で固まった。

 

「なんで知らないんだよ。いや、知らなくても無理はないか」

 

 阿僧祇は、元は仏教用語で『数えることができない』の意味がある。

 いち早く再起動したのは、紅葉の言動になれている泉美だった。

 

「阿僧祇さん、一応と言うのは?」

「ああ、阿僧祇は分家でな、本家は数多なんだよ」

「あまた?」

 

 遅れて再起動した香澄が聞き慣れない言葉に首を傾げた。

 

「数多とはあの数多ですか?」

 

 そんな香澄とは別に泉美はそれが自身が知っているモノと同じなのか確認してきた。

 

「その数多で合ってる。それ以外があるんだったら教えてほしいところだな。てか、なんで泉美が知っててお前が知らないんだよ」

「し、知らないわけないじゃない!」

 

 二人は十師族な上、双子なのだ。同様の教育を受けているはずなのだが、紅葉は頭の出来が違うんだろととんでもなく失礼な事を思い浮かべて結論付けた。

 それが表情に出ていたのか香澄が喰ってかかる。

 

「お前、今失礼なこと考えたろ!!」

「いや、別に」

「こら、こっちを見なさい!!」

 

 形勢は圧倒的に紅葉が有利なのだが、実年齢を知っている泉美からしたら大人気ない&香澄を弄るの許さない精神から攻防続ける二人の間に割って入った。

 

「阿僧祇さん、続きを」

 

 その声色は、新入部員勧誘週間中に幾度となくサボろうとする紅葉を叱ってきたものだった為

 

「りょーかい」

 

 効果バツグンであった。

 

「というか、ウチの事情はどーだっていいだろ」

 

 紅葉は改めて説明に戻ろうとして、その内容は詳しく話すものではない気付いた。

 

「阿僧祇家は百家。その関係で、お前等の事は知ってた。OK?」

「確かに今はそれで充分ですね」

 

 泉美の疑問から始まった問答は、彼女が納得したことで終わりを迎えた。そのタイミングで「紅葉」と声がかけられた。三人は声のする方を向くと、達也が一人の女子生徒と一緒にいた。

 達也が来たことに対する反応は三者三様。香澄は鋭い目つきで達也を睨み、泉美は近くに深雪がいない事に落胆し、紅葉だけが普通の反応である。

 

「どーしました達也先輩?」

 

 香澄と泉美の反応に苦笑いを見せながら、達也は隣に立っていた女子生徒を自分より前に立たせる。

 

「まだ紅葉には挨拶していないと思ってな。水波」

「はい、達也兄様。桜井水波と申します。よろしくお願いします」

「ああ、あんたが対物理防壁魔法にかけては天性の才能がある桜井か。阿僧祇紅葉だ、よろしく」

 

 紅葉は特に考えもなく、恒星炉の役割分担時に聞いた言葉をそのまま口にしていた。それを聞いた水波はジト目になっている。

 

「阿僧祇さん、その紹介は誰がしたのでしょうか?」

「誰って、桜井の隣にいる」

 

 水波の中では犯人がわかっているのだろう。紅葉の言葉に合わせて、水波の視線が動く。

 

「達也先輩だな」

「達也兄様」

 

 水波のジト目が達也に直撃する。しかし、直撃しながらもそのポーカーフェイスは崩れなかった。

 

「本当の事を言ったまでさ」

 

 こう言われては何も言い返せなくなるので、水波は小さく息を付いていつものことと諦めることにした。その様子を見ていた紅葉はクツクツと笑っていた。

 

「なんですか阿僧祇さん」

「いんや、苦労してんだなって思っただけだ。お疲れさん」

「……」

 

 今度は水波のジト目が紅葉に直撃するも、本人は気にする事なく小さく笑い続けていた。

 


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