魔法科高校の留年生   作:火乃

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八握剣1

 グラウンドを飛び交っていた魔法が全て吹き飛んだタイミングで、服部から執行部、風紀委員に指示が出される。そして魔法を使っていた乱闘者、乱入者は突然使っていた魔法が消えた為、わけがわからずに呆然としていたところを執行部と風紀委員によって次々と捕まえられていった。

 その様子は、生徒会室のモニターに映し出されていた。生徒会室にはあずさ、五十理、ほのか、泉美がいた。それぞれが執行部、風紀委員会、紅葉達をサポートしていた時、グラウンドで事件発生の報告を受け、ほのか以外が対応につくことになった(ほのかは達也達のサポートを優先)。その為、飛び交っていた魔法が消えた瞬間を見たのはあずさ、五十理、泉美の三人になる。そして、その中で固まってしまったのは泉美だけだった。

 

「やつかの、つるぎ?」

 

 紅葉が付けているインカム伝いに聞こえてきた言葉を呟く。聞いたことのない言葉だった。

 

「やっぱり凄いね」

 

 驚いている泉美を余所に、あずさと五十理は何が起きたのか理解して対応を続けている。

 

「会長はあの魔法をご存知なのですか?」

 

 泉美としては、こういった事態不明な出来事が起きた場合、真っ先にあたふたしそうなあずさが手を止めずに対応を続けている事に少なからず驚きがあった。だから、何かを知っているはずと思いあずさに聞いてしまっていた。

 

「あっ、えっと」

 

 しまったとあずさが焦り出す。すでに服部と花音から紅葉の魔法を使うと聞いていた為、グラウンドで起きた出来事に驚きはしなかった。しかし、この場に紅葉の魔法を知らない人がいる事を失念していた。

 

「うん、知ってるよ」

 

 そこに五十理から助け船が出される。

 

「だけど、ごめんね。僕達の口からは何も言えないんだ」

「っ。失礼しました」

 

 そして、説明拒否の言葉が告げられた。

 他人の魔法を詮索するのはマナー違反だと思い出した泉美はそれ以上聞くことはしなかったが、顔には気になって仕方がないと表れている。その様子を見て五十理は無理もないと思っていた。魔法が一瞬で消える魔法など、滅多に見れるモノではないのだから。

 

『別に構わないさ』

「っ?! 阿僧祇さん?!」

 

 突然、インカムから紅葉の声が聞こえて泉美はハッとなる。インカムのON/OFFを見るとONのままになっていて、今までの会話を全て聞かれていた事に気付いたのだ。

 

『ククク。会話、筒抜けだったぞ』

「っっっ」

 

 微笑と共に指摘され、やましい会話をしていた訳ではないのだが、会話を聞かれていたという事が妙に恥ずかしくなり声にならない声が洩れてしまった。

 

「阿僧祇くんかい?」

 

 そんな、顔が真っ赤にしつつ驚いたり慌てたりしていた泉美とインカムからの会話が一段落したのを見計らって、五十理は誰なのかがわかっていながら尋ねていた。

 

「は、はい、阿僧祇さんです」

 

 なぜまだ慌てているのかと不思議に思ったが、顔が真っ赤だったのでスルーして、聞きたい事を口にした。

 

「彼はなんだって?」

「あの、このまま、説明すると」

「このまま? ……ああ、そういう事か。なら、七草さんは引き続き阿僧祇くんのサポートをよろしくお願いします」

 

 泉美の回答にどういう事かと疑問に思うも数瞬、意味を理解した五十理はいつもの穏和な表情を浮かべて自分の仕事へ戻っていった。

 

 

 

 

 少し時間は遡り、生徒会室で泉美が魔法を見て固まっていた時、紅葉は一仕事を終えたと地面に座り込んでいた。彼の視線はグラウンドで繰り広げられている逮捕劇に向いていたが、意識はインカムから流れてくる会話に寄っていた。

 

「(泉美には話しておくか)」

 

 会話はちょうど、泉美があずさにあの魔法は知っているのかと聞いているところ。

 

「(三年連中以外に一人ぐらい知らないといざって時、大変だろうからな)」

 

 現在、紅葉が八握剣を使えると家族以外で知っているのは、あずさ、服部、五十理、花音の四人だけ。この四人の前で八握剣を使えば、説明不要でいられる上に他の魔法だと誤魔化すことに協力してくれる。しかし、その四人が卒業していなくなると、八握剣を使う度に説明を求められてしまう可能性があり、面倒だと感じていた。

 

「(しかしあの時インカムをOFFにしてたら、八握剣で説明しなくても済んだかもしれないんだよなぁ)」

 

 魔法を放った時、インカムの存在を忘れて魔法名を叫んでいた。八握剣に音声入力は必要ない。念じれば使える魔法なのだが、荒事の雰囲気にのまれたのか思わず叫んだことを後悔する。

 

「(今更、悔やんでも意味ないか。さてと)」

 

 生徒会室の会話は泉美が五十理から説明できないと言われていたところだった。雰囲気的に話が終わりそうだったので、内心ちょうど良いと思う。

 

「別に構わないさ」

『っ?! 阿僧祇さん?!』

 

 思いの外、驚いている泉美にびっくりしたのでクククと笑いがもれてしまった。

 

「会話、筒抜けだったぞ」

『っっっ』

 

 会話が丸聞こえだったのが恥ずかしかったのか、泉美は声にならない声になっていた。たぶん、彼女の顔は珍しく真っ赤になっているんだろうなと思いながら、紅葉は言葉を続ける。

 

「このまま、説明するさ」

『このままですか?』

 

 生徒会室に戻って説明しても良いと思ったが、もしかしたら達也達が戻って来ているかもと思い直しこのままインカム越しに説明する事にした。

 

「そ、このまま。とは言え、ちょっと場所かえるわ」

 

 今現在、紅葉の近くには指揮をとっている服部しかいない。しかし、この後人が集まる可能性もあるので人気の少ない場所へ移ることにした。その為、服部に声をかける。

 

「服部会頭。俺、巡回に戻ります」

 

 巡回に戻る訳ではないが、こう言っておいた方が都合が良い。言ってからグラウンドに目を向けると、逮捕劇は終盤を迎えていた。何人かが抵抗して逃走を試みようとしているが、手練れの執行部と風紀委員に阻止されお縄についている。

 

「わかった。お前のおかげで助かった。ありがとう」

「服部会頭からのお礼とか、明日は雪でも降るかな」

 

 二年前だったら、そんな素直じゃなかっただろと含みを持たせる。それはフッと微笑で返された。

 

「なら、司波さんに頼んで氷漬けにしてもらうか」

 

 こんな冗談も言わなかったのになと思い返す。

 

「いや、それは勘弁ですわ。お疲れ様でしたー」

 

 笑い返そうとしたら、服部の目に本気の色が灯っていた。これはまずいと思った紅葉はさっさとその場をあとにした。

 

 

 

 

 服部と別れて数分、本日の勧誘時間があと30分ぐらいで終わりそうだというのにまだ活気の溢れた中庭を抜け、校舎へと入る。そのまま上へ上へと昇っていく。そして数日前、泉美に暴露話をした屋上に着いた。

 

「待たせたな泉美。聞こえるか?」

『はい、問題ありません』

 

 紅葉が屋上に向かっている最中、二人ともインカムをOFFにしたわけでもないのに無言だった。紅葉としては、雑談を交えながらでも良かったのだがインカム越しに泉美からなぞの緊張感を感じ取れたため無言にならざるえなかった。

 屋上には紅葉以外の人影はなかったので、人目を気にせず空を見上げながらブラブラと歩き回る。

 

「さて、何から話したものか。とは言えまずは確認しなきゃならん事がある。泉美、あれ聞いちゃったよな?」

 

 無駄な足掻きとわかっていながらも聞いていない事を期待した紅葉だが、やはり無駄なことであった。

 

『やつかのつるぎ、ですか?』

「……正解。あんだけはっきり叫んでりゃ聞こえるわな」

 

 数十分前の自分を殴りたい気分の紅葉は、気を取り直して言葉を続ける。

 

「数字の八に握る剣と書いて、八握剣な。俺のトクイ魔法だ」

『(トクイ?) 』

 

 泉美は、紅葉が言った『得意魔法』のニュアンスに違和感を感じた。

 

「どした?」

『い、いえ、なんでもありません』

 

 しかし、その違和感を説明する言葉が思い浮かばなかった為、頭の片隅に気のせいだと追いやる。

 

「そうか? まあいいや。でだ泉美、お前、術式解体って魔法知ってるか?」

『術式解体ですか? 知っていますが』

 

 紅葉は唐突な問いながらも、言いよどむ事がなかった泉美にさすがと感心した。

 術式解体とは、圧縮された想子の塊を対象物に直接ぶつけて爆発させて、そこに付け加えられた起動式や魔法式と言った想子情報体を吹き飛ばすと言うもの。現存する対抗魔法の中では最強と称されているが、使うには並みの魔法師では一日かけても搾り出せないほどの大量の想子を要求するため使い手は極めて少ないと言われている。

 使い手が少ないので、滅多に見れる魔法ではないのに泉美が知っているのは、去年の九校戦の新人戦男子モノリス・コードで達也が術式解体を使っていたのを見ていたからだった。

 その術式解体が今どんな関係があるのかと首を傾げた所で、

 

「知ってるならちょうどいい。八握剣の中身は術式解体だ」

『え?』

 

 そのまま固まってしまった。

 紅葉は内心しくったと、泉美の面白い姿を見れない事を悔やんでいた。


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