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入学式1
二〇九六年度 国立魔法大学付属第一高校入学式。
会場となる講堂の前に多くの新入生が集まっている。率先して中に入っていく者、様子を見ている者と様々。そんな講堂入口を気怠げに見ているのは、講堂から少し離れたところにあるベンチに座った男子生徒一人。
彼は「はぁ」とため息一つつきぼんやりと空を仰いだ。空は入学式に相応しく、清々しい青空。「空は青いな」などとぼやきながら意味もなく空を見続ける。このまま誰にも気付かれる事なく入学式が終わってくれないだろうか、などと淡い期待を抱くもその期待は見事に裏切られるのだった。
「どうしたの? もうすぐ始まるよ」
「さっさと中に入ったらどうだ」
片方は女性の声、もう片方は男性の声。それらは見知らぬ人にかける口調ではなく、よく知った相手に向けての口調。仰いでいる空から視線を降ろすと、目の前に背の低い女子生徒と真面目そうな男子生徒が立っていた。
「いやいや、お前らこそここにいちゃいけないだろ」
ベンチに座っている男子生徒は二人を見るや隠す気もなく顔をしかめている。彼は二人の役職を知っていた。だからこそ、ここに居ないで仕事に戻れと手で追い払う仕草も付け加えている。
「お前が入ったら行くさ」
「キミの事だから、ここにいるだけで入学式に参加したとか言うつもりだったんでしょ?」
「チッ」
顰めっ面や仕草を気にすることなく言い放たれた女子生徒の言葉にこれまた隠す気もなく舌打ち一つ。
本来なら彼は入学式に参加する必要はない。だから、彼女の言葉通りやり過ごすつもりでいた。
「ほら、行くぞ。何事も始めが肝心なんだからな」
「はぁ、わかったよこの真面目野郎め」
促されるままベンチから立ち上がり、両腕を上げて背中を伸ばす。一回深呼吸したあと、二人の間を通り抜けて講堂へと歩き出した。
「
「阿僧祇くん」
そんな二、三歩進んだところで、二人から名前を呼ばれ足を止める。
「なんだよ?中条、服部」
振り返ると二人─中条あずさと服部行部─が笑っているではないか。急な笑顔に身構えると同時に、二人から言葉が贈られた。
「おかえり。またよろしくな」
「おかえり、またよろしくね」
「……」
「おかえり」「よろしく」なんて、彼が意識を取り戻してから家族、友人達に何度も言われ続けた言葉だった。それを学校で改めて言われるとは思ってもいなかった。予想だにしなかった言葉に、やたらと嬉しさが込み上げてくる。おかげですぐに言葉を返すことができないでいた。
「どうしたの?」
そんな、言葉を返せないで居る彼を見ながら二人は笑ってる。二人とも彼がどういう気持ちかわかっているのだ。そして彼もわかられているからこそ、いつもなら恥ずかしくて言葉を濁すところを、濁すことはせずに素直に言葉を返していた。
「……ただいま、またよろしくな」
ここから、阿僧祇紅葉の二度目の魔法科高校一年生が始まる。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
メインは、2096年の一年生(七草、七宝etc)と三年生(服部、中条etc)とオリキャラの阿僧祇くんです。