桃華ちゃまにお兄ちゃまと呼ばれたいだけの小説   作:しゅちゃか

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長くなりそうなので分割、途中で力尽きたとも言います。


第八話

「桃華さん、橘さんのCDデビューが決定しました」

 

 ある日の午後、久々に桃華とありすちゃん、そして俺の三人で久々に三人そろっての基礎レッスンを行っている時、急に武内さんがこんなことを言い出した。

 

「わ、わたくしたちがですの?」

 

「はい、お待たせしてしまって申し訳ありません」

 

 二人して目を見合わせる桃華とありすちゃん、少しの間そうしていると、どちらからともなく手を握りあって喜び合った。

 

「やりましたよ、桃華さん! CDデビューですよ!」

 

「ええ! わたくしたちの華々しいデビューですわ!」

 

 やったやったと握った手を振りながら喜ぶ二人。桃華は最近少し悩んでいたこともあって本当に嬉しそうだ。本当に良かった。

 

「良かったね、二人とも。これで名実共にアイドルの仲間入りだ」

 

「ええ、このわたくしの歌声で、全国の皆さんを虜にして差し上げますわ!」

 

「私が歌を歌うんですね……何だか、現実感がないです」

 

「大丈夫さ、きっとありすちゃんに似合うクールな曲だよ」

 

「クールが、私に似合う……えへへ、椿さんがそう思ってくれてるのなら、きっとそうですね」

 

「お兄ちゃま! わたくし! わたくしはどうですの?」

 

「桃華はどっちかって言うと……キュートって感じかなぁ」

 

「キュート、ってまた子供扱いして! もう、お兄ちゃまなんて知りません!」

 

 そ、そんなつもりじゃなかったんだが……許してヒヤシンス。

 しかし二人同時ってことはLMBG関連だろうか。二人のデビューに少し時間がかかった事にも関係しているのかもしれない。今後のためにもちょっと聞いておいた方が良いだろう。

 

「武内さん、ユニットってLMBGの代表として組むんですか?」

 

「いいえ、ユニットはまた別です。お二人にはそれぞれ別々のユニットで、ユニットでの曲と、ソロ曲を収録していただきます」

 

 別々のユニットか、時間がかかったのはユニットの他のメンバー待ちだったのだろうか。

 

「別々のユニットですか……」

 

「少し残念ですわね……」

 

 しゅんとなる二人、最近は二人ともとても仲良くなった、きっとユニットも一緒だったらもっと嬉しかったのかもしれない。

 すると、桃華がありすちゃんに言った。

 

「ありすさん、わたくし、アイドルの櫻井桃華として全力を尽くしますわ。ですから、ありすさんも別のユニット、きっと成功させて下さいまし」

 

「桃華さん……わかりました。成功したら、また乾杯しましょう」

 

「ふふっ、いつものアレ、ですわね」

 

「ちなみに……アレって、何?」

 

「秘密ですっ」

「秘密ですわ」

 

 ああん、ひどぅい。

 まあ秘密と言うのなら深くは聞くまい、気になってなんかない! ないんだからな!

 

 秘密云々は置いといても、ユニットでは当たり前だが俺たち以外の他のアイドルとの出会いもあるだろう。仲良くなれる人もいれば、相容れない人間もいるだろう。そんな出会いを通じてアイドルとしてだけでなく、人としても成長してほしいと願うばかりだ。

 

「それと、椿さん」

 

「はい」

 

「椿さんにTV出演のオファーがきています」

 

「はい?」

 

 ―――

 

「はぁ、この前のライブを見て、ですか」

 

「はい、番組ディレクターの方が是非に、と。どうやら椿さんのアイドル像がディレクターの方が持つイメージと合致した様で……私も椿さんに合っているオファーだと思っています、詳しくはこちらをご覧ください」

 

 そう言って資料を渡してくる武内さん。

 そこまで推されるとは、いったいどんな仕事なのだろう。俺のイメージ像と合うっていうと……スポーツ系か?

 

 ええと何々、『企画名「もふもふきんぐだむ(仮)」、今話題のもふもふえんの三人が別の動物に扮したゲストとトークや歌とダンス等を行う番組企画』……

 

 あれ? 何だろう、俺の目がおかしくなってきたのかな。ちょっと俺の理解の範疇を越えているような文章が見えたような……

 

 ……俺、動物のコスプレさせられんの?

 こんなに俺と武内さんで意識の差があるとは思わなかった……!

 

「武内さん」

 

「はい、なんでしょう」

 

「武内さんが持つ俺のイメージって、何なんすか……」

 

「は……? あっ! 違います! 椿さんにオファーがきているのはゲストとしてではありません。追記の部分をお読みください」

 

 え、何、違うの。

 どれどれ、『追記、先方のプロデューサーに問い合わせたところ、もふもふえんの三人だけではMCは困難との返答。他の男性アイドルを「飼育員さん」としてメインMCに据えるよう提案する』

 

「って事は、俺にオファーがきてるのは……」

 

「はい、MCの「飼育員さん」としてです」

 

 なんだ、良かった。思わずユニットでもないのに「解散だ!」って叫ぶところだったわ。

 つーか、MCってアイドル始めて半年と経ってない新人にやらせる仕事かよ。まあやってはみるけどさ……これも上からの企画なんだろうなぁ、346プロはチャレンジ精神の塊か何かよ。

 

 ―――

 

 巡り巡って本番当日。

 ここは都内にあるスタジオの中の楽屋だ。まさか人生の中で所謂TVの楽屋の中に入るとは思ってもいなかった。内装は普通の休憩室等と変わらないのに何だかそわそわする。机の上には弁当が置いてある。こ、これが噂のロケ弁か……時間的に微妙だけど食べてしまうか。

 

 ……うん、ちょっと美味しい普通の弁当だ。

 俺がロケ弁を食べていると武内さんから連絡が入った。何でも今日の出演者と顔合わせをするらしい。そう言えば今日のゲストっていったい誰なんだろうか。まあその確認も合わせた顔合わせなんだろうが。

 

 そんなこんなを考えていると、顔合わせの場所である待合室に着いた。

 

「失礼しまーす」

 

 扉を開けると、三人の子達がテーブルに座っているのが見えた。おそらく彼らがもふもふえんのメンバーなのだろう。その中の一人薄い茶髪の、前知識なしでは女の子だと錯覚してしまうような子が歩いてきた。

 

「はーい……あーっ! もしかして、飼育員さんの人!?」

 

「うん、そうだけど、君は?」

 

「えっと、かのんはねー姫野かのんっていうの、よろしくね! しろうくん、なおくん、飼育員さんが来たよー!」

 

 その言葉に先に反応したのは、髪を後ろでひとまとめにした快活そうな子だ。身がるそうに机を飛び越えたことから、その身体能力の高さが伺える。

 

「おっ! 来たのか!? 俺の名前は橘志狼、しろうって呼べよな! あ、シローじゃねえからな、志狼だぞ、狼だかんな!」

 

「狼か、カッコいい名前だね」

 

「だろー? へへっ、わかってんじゃん飼育員の兄ちゃん!」

 

 ……同じ橘でも名前に対する感覚が真逆だなあ。

 

「え、えっと、あの……」

 

 そしてもう一人のメガネをかけた子は緊張しているのか中々声を出せないでいる。すこし人見知りの気があるのだろうか。

 

「なおはビクビクしすぎなんだよー、そんなんじゃビッグになれねーぞ」

 

「うう……ごめんなさん」

 

「大丈夫だよ、ゆっくりでいいから」

 

 少しでも緊張が解けるように声をかける。少しでも緊張が解けるといいが……

 

「あの、ボク、岡村直央です。よろしくお願いします……! い、言えた……」

 

「うん、良く頑張ったね」

 

「ふわわ……えへへ、ありがとうございます」

 

「みんなありがとう、俺は櫻井椿っていうんだ。これからよろしくね」

 

 仲良くできそうで良かった。これから何度も顔を合わせるのだ、仲良くすることに越したことはない。四人でワイワイと話していると再びドアがノックされる音が響いた。このタイミングはおそらくゲストの人だろう。

 

「邪魔するぜ……おーおー、集まってんなヤローども!」

 

 入ってきたのは特攻服を着た長髪の女性だ。いや特攻服って……なかなかパンチの利いた方のようだ。

 

「お、アンタが話に聞いてたMCってやつか? アタシは向井拓海、今日は夜露死苦な!」

 

 あ、この人レディースだわ。しかもちょっと古いタイプだわ。

 もふもふえんの皆は大丈夫か、ビビってないか?

 そう思って振り返ると、案の定直央くんは結構ビビっていた。それと対照的に志狼くんは向井さんに興味があるのか凄くキラキラした瞳で見つめている。そういうお年頃なのね……

 

「はわわ……」

 

「すげー! ねーちゃんヤンキーなのか? すざくのあにきみてーだ!」

 

「お? なんだおめー走り屋に興味があんのか? でもまだ駄目だな、単車転がせるようになるまでは我慢しな」

 

 あ、割と常識人だった。

 

「俺は櫻井椿です、どうぞよろしく」

 

「……アンタもアイドルなのか?」

 

「? ええ、そうですけど」

 

「へぇ……手ェ出しな、アタシが確かめてやる」

 

 え? 何だ、手相でも見てくれるのかな?

 無邪気にそう思って掌を差し出す。すると向井さんは握手するようにその手を握り、そしてゆっくりと力を込めてきた。

 

 ああー、なるほど、確かめるってそういう……本当に体育会系だなこの人。

 このまま痛い痛いと言ってこの儀式を終わらせるのは簡単だが……それでは男として面白くない。俺だって、男の子だもんげ!

 

 俺は向井さんに呼応するように手を握り返した。幼少期から戸愚呂100%を目標として鍛え続けてきたこともあってそれなりの筋力はあると自負している。俺が握り返した事によりお眼鏡に適ったのか、向井さんがにやりと笑った。

 

「へっ、アイドルなんてちゃらちゃらしたやつらばっかりだと思ってたが……なかなか力入ってんのがいんじゃねーか」

 

「そ、そいつはどうも」

 

 が、次の瞬間まだまだこれからだと言わんばかりに向井さんが握る力を上げてきた。

 ……上等だ、こうなったらとことんまで付き合ってやる!

 

「あわわ……ど、どうしよう、止めなきゃ……」

 

「すっげー! 漫画みてーじゃん!」

 

「勝負だ勝負だー! どっちもがんばれー!」

 

 もふもふえんの皆が三者三様の反応を見せる。が、俺もそれに反応している余裕がなくなってきた。つーかこの人握力強すぎるだろ……

 

 暫く硬直状態が続く。

 なんかノリで始めたはいいが、これどうやったら勝敗が決まるんだ? 頭部の破壊か?

 じりじりと二人でこの儀式を続けていると、再びドアがノックされた。入ってきたのは武内さんで、俺達の様子に驚いているようだった。

 

「失礼します、そろそろリハーサルに……って何をしていらっしゃるんですか!?」

 

 まあ自分の担当アイドルとよそのアイドルがガチの握力比べ合いしてたらそりゃ驚くか。

 けどここまできたら最早意地だ。負けられない戦いがここにはある!

 

「止めんでくださいよ武内サン、こういうのは"イモ"引いた方が"負け"なんスよ……」

 

「へぇ、アンタ"解"ってんじゃねーか、まだまだ"馬力"上げていくぞオラァ!」

 

「!?」

 

 

 ―――この後、言葉遣いとか、他のアイドルとは仲良くしなさいとか、そんなことを二人とも説教された。俺達は喧嘩してるつもりは特になかったが、武内さんからはそう見えたらしい。特に向井さんは凄く気まずそうだった、小学校のころ友達のお母さんに怒られてた奴があんな感じだった。

 

 なんであんなテンションになってたんだろう……

 




徳川君やっとロリ以外のアイドルが出てきたぞ……

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