桃華ちゃまにお兄ちゃまと呼ばれたいだけの小説   作:しゅちゃか

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SCP読みまくってたら遅れました
面白いですねアレ


第七話

 桃華とみりあの場合

 

 346プロ内に設置されたカフェ。そこで俺こと櫻井椿は、妹である桃華、そして桃華と同じユニットに所属している赤城みりあちゃんと談笑していた。最近は俺も個人のレッスンが忙しくなってきており、こうやって桃華達と話したりする機会も比較的少なくなってきている。

 

 まあそれでも同じプロダクション内のアイドル同士だ、顔すら合わせないということはあんまりないが。

 

 暫く話していると、みりあちゃんが唐突にこんなことを言いだした。

 

「ねーねー、桃華ちゃんと椿お兄ちゃんって、どうしてそんなに仲が良いの?」

 

「仲が……」

 

「良い……ですの?」

 

 そう言って顔を見合わせる俺と桃華。質問が唐突だったのもあるが、どうしてそんなことを聞くのかが解らなかった。好奇心だろうか?

 二人して首をかしげていると、みりあちゃんが答えた。

 

「あのね、みりあもうすぐお姉ちゃんになるんだ」

 

「まあ! おめでとうございます!」

 

「ありがとっ、それでね、妹か弟どっちになるかはわかんないんだけど、どっちが生まれても桃華ちゃん達みたいな仲の良い姉妹になりたいなーって」

 

「なるほどなぁ……」

 

 質問の理由はわかったが、あまり参考になる答えは返せそうにないだろう。なぜなら……

 

「うーん、でも俺は、仲良くしようと思って仲良くしてるわけじゃないからなあ……」

 

「そうなの?」

 

「ええ、お兄ちゃまは優しい方ですもの、喧嘩する理由なんてありませんわ」

 

 まあ、そもそも桃華が生まれてからは桃華の事を甘やかしまくってるしな!

 と言っても偶に桃華に注意したり怒ったりしたとしても、桃華はちゃんと言う事を聞くので喧嘩になった事もなかった。

 

「そっかー……椿お兄ちゃんは何で桃華ちゃんに優しくするの?」

 

「ええ? なんでって……」

 

「ふふ……わたくしも気になりますわ、どうしてですの? お兄ちゃま」

 

 え、何この流れ。

 と思ったら桃華が少し不敵に笑っているのが見える、俺を困らせようとしているのだろう。悪い遊びを覚えちゃってまあ。

 だが桃華、お前の兄のシスコンぶりを少し見くびっているようだな。

 

「そうだなあ……当たり前だけど、俺と桃華は兄妹でかなり長い間一緒に暮らしてきたからね。今でこそ桃華の良いところも悪いところも知ってるし、そういうものの積み重ねって言うのもある。でも、俺の場合はきっかけもあったけどね」

 

「そうなの?」

 

「ああ、桃華が生まれてくる前、両親に妹を大切にしなさいってよく言われてたんだ。俺はわかったって返事してたけど、それは両親に言われたからだったんだ。でも、本当に心の底から桃華を大切にしたいって思ったのは……」

 

「思ったのは?」

 

「桃華がまだ小さい手で、初めて俺の指を握ってくれた時かな……」

 

 あの時は本当に嬉しかった。良く分からないうちに転生して、良く分からないうちに育ってきた俺が、この子のために生きようと初めて明確な意思を持ったものだった。

 

「だって、桃華ちゃん愛されてるねー」

 

「……」

 

「あーっ! 照れてる、かわいいー!」

 

 顔を真っ赤にして俯く桃華。

 ふははは、どうだ保護者目線で自分のことを語られるのは恥ずかしいだろう!

 俺も今すげえ恥ずかしい! ギップルだったら憤死してる。

 

「んんっ、と、とにかく、新しい家族なんですもの、きっと仲良くなれますわ」

 

 あ、持ち直した。

 

「ううーん、でも、椿お兄ちゃんみたいにしっかりお姉ちゃんできるかなぁ……」

 

 不安そうに呟くみりあちゃん、ある意味最初から物心ついていた俺と違ってみりあちゃんはまだまだ子供、自分の妹という未知に対してどうしたらいいか解らないのだろう。

 

「あら、お兄ちゃまはお兄ちゃまで、みりあさんはみりあさんですもの。無理してお兄ちゃまみたいに振舞う必要はありませんわ」

 

「え? そうかなぁ……」

 

「ええ、どう思うかなんて人それぞれですもの。それに、みりあさんなら真似なんてする必要なくとも、きっと仲の良い姉妹になれます。友人であるわたくしが保証いたしますわ」

 

 そう桃華が言う。俺もその通りだと思う。それは今こうやってまだ見ぬ妹を思いやっているみりあちゃんを見れば明らかだ。そのみりあちゃんはきらきらした目で桃華をみつめている。

 

「すっごーい! 桃華ちゃんお姉ちゃんみたい!」

 

「お、お姉ちゃん? わたくしが?」

 

「うん! すっごいかっこよかったよ、桃華おねーちゃん!」

 

 そう言いながら甘えるように桃華に抱きつくみりあちゃん。桃華は少し驚いていたものの、くすりと笑うとみりちゃんの頭を撫でた。

 

「ふふ、まったくしょうがないですわね、みりあさんは」

 

「えへへ、ありがと、おねーちゃん」

 

 尊いってこういう感情を言うんだろうなって思いました。

 

 ―――

 

 ありすと晴の場合

 

 午前のレッスンも終わり昼休み。午後から始まる晴のレッスンを控え一人で昼食を取ろうと考えていると、同じくレッスン終わりであろうありすちゃんがてとてと近づいて声をかけてきた。

 

「あっ、椿さん、お疲れ様です」

 

「ああ、ありすちゃん、お疲れ様。ありすちゃんも今からお昼?」

 

「はい、一緒に食べましょう」

 

 そう言いながら一緒の席に座る。

 こうやって腰を落ち着けて話すのも久々だ、最近は個人レッスンだけでなく、晴のレッスンもあり、中々時間が取れないでいる。まあせっかく貴重な時間を得られたんだ、ゆっくり話すとしよう。

 

「ありすちゃんはこの後は?」

 

「今日は午前で終わりなので、少し、自主練習をしていこうかなと……あ、椿さんも一緒に練習しませんか?」

 

「あ、ごめんこの後はちょっと用事が入ってて」

 

「用事? レッスンですか?」

 

「いや、うん、346プロの新人アイドルの指導を頼まれちゃってね」

 

「新人アイドルの指導……?」

 

「ああ、346プロはなんか俺に色々やらせてみたいらしくて、その一環としてね。」

 

「じゃあ、椿さんはその子に個人レッスンを?」

 

「うん、結城晴って子なんだけどね。まあ、力不足ながらなんとかやらせてもらってるよ」

 

「そ、そうなんですか……私だって、まだ教えてほしい事いっぱいあるのに……」

 

「あ、あの、ありすちゃん?」

 

「椿さん!」

 

「はい!?」

 

「わ、私もそのレッスンに参加させてください!」

 

「……へ?」

 

 ―――

 

 結局連れて行かない理由を悉く論破されて連れて行くことになってしまった……まあ別にどっちでも良かったんだけど、いやらしい話バイト代みたいな感じでお金もでてるしなあ、後で武内さんに確認しておこう。まあ生徒としてなら問題ないと思うが。

 

 そんなことを考えながらレッスンルームの扉を開ける。もうすでに晴はストレッチを始めている。どうやら少し遅刻してしまったようだ。

 

「おせーぞセンパイ……ってそっちのは誰だ?」

 

「ごめんごめん、この子は俺の同期のアイドルで橘ありすちゃん。今回一緒にレッスンしてもらう事になったから、よろしくね」

 

「そっか、オレは結城晴。よろしくな、ありす!」

 

 あっ、さっそく地雷踏んだ。

 相手より先に名乗るというスポーツマンシップ的な自己紹介が逆に裏目に出るとは……

 

「橘です、名前で呼ぶのは止めてください」

 

「お、おう、そっか、よろしくな橘」

 

 な、なんかありすちゃん今日3割増しぐらいでつんつんしてないか?

 いや、仲良くなる前はこんな感じだったか……っといかんいかん遅刻してきたんだから、さっさとやらねば。

 

「よーしじゃあ始めよう、今日はダンスの実践だけど……折角だから、ありすちゃん一度踊ってみてくれない?」

 

「え、わ、私がですか?」

 

「うん、お願いできるかな」

 

 ありすちゃんと晴は同年代とはいえ、ありすちゃんの方が経験はいくらか上だし、ダンスもまだありすちゃんの方が上手い。年上ならまだしも、自分よりダンスが上手な同年代となれば、負けず嫌いな晴にとってはいい刺激になるかもしれない。

 

「……つ、椿さんの頼みなら仕方ありませんね。結城さん、私がお手本を見せてあげます」

 

「お手本? へへっ、オレもまだまだルーキーだけど、ダンス勝負なら負けねーぜ?」

 

 うん、レッスンを始めて暫く立つが、前より全然アイドルに前向きになってくれたみたいだ。その言葉が嬉しくてつい晴の頭をわしゃわしゃと撫でてしまう。桃華にはやらないような乱暴なやつだ。

 

「よし! その意気だぞー晴」

 

「わわっ、やめろよなーセンパイ。ったく、うちの兄貴達みてーだぜ」

 

「ははは、すまんすまん」

 

「……椿さん! 曲の方! お願いします!」

 

「あっ、はい、すいません」

 

 なんかありすちゃん怖い……

 

「んーと、曲は何にしようか」

 

「Trancing Pulseでお願いします」

 

「了解、トライアドプリムス好きなの?」

 

「はい、目標とするアイドルの一つです」

 

 確かにトライアドプリムスはどちらかと言えば歌唱力に重きを置いたアイドルだし、所謂クール系である。ありすちゃんが目指すアイドル像としてはぴったりだろう。ありすちゃんはクールというよりキュートだろとか思ってはいけない、いけないのだ。

 

 やがてCDのセットが終わり曲が流れだす。最初はアカペラで、音楽こそ流れていないものの、晴はありすちゃんのしなやかな動きに驚いているようだ。

 

 音楽が流れ始め、ダンスも少し激しくなってくる。だが、ありすちゃんの動きに殆ど狂いは無い。サビのステップも綺麗に踏めている。

 比較的激しいダンスの少ない曲とは言え、ここまでミスらしいミスなく踊れるようになっていたのは驚いた。ダンスは余り得意でなかったありすちゃんがここまで上達するのに、どれだけ努力を重ねたのだろう。

 

 曲も終わり、ありすちゃんが動きを止める。

 こちらに向き直ったありすちゃんは会心のドヤ顔をしていた。どうやら自分でも手ごたえがあったらしい。でも確かにドヤ顔するに違わぬ良いダンスだったと思う。

 

「ふふん、どうですか結城さん。これが私の実力です」

 

「すげーじゃん橘、カッコ良かったぜ!」

 

「え? あ、ありがとうございます」

 

 そう言ってありすちゃんに詰め寄る晴。

 お、あのありすちゃんが押されている。珍しい光景だ……珍しい光景か?

 

「アイドルってカワイイ格好させられるだけじゃないんだな……何となく解ってきた、良いお手本だったぜ、橘!」

 

「どういたしまして……」

 

「なあなあ! 橘もサッカーやらねーか? きっといいストライカーになるぜ!」

 

「え、ちょっと、待って。私サッカーなんてできませんよぅ」

 

「だいじょーぶ、だいじょーぶ、センパイだってできたんだから、ほらいくぞー、パス!」

 

「えっ、今どこからボール出したんでへぶっ!」

 

「ああっ、ありすちゃんの顔面にボールが!」

 

「うおっ!? 悪ぃ! 大丈夫か!?」

 

 ありすちゃんふっとばされたーっ!!

 ってボケてる場合じゃねえ。大丈夫かありすちゃん!

 

 このあとなんやかんやあって二人は仲良くなりました。

 

 ―――

 

 桃華の場合

 

「桃華の様子がおかしい?」

 

「ええ、椿様は一緒に夕餉をおとりになられませんでしたからご覧になっていらっしゃらないでしょうが、どこか落ち込んでいるような雰囲気でおられました」

 

 一日のレッスンも終わって夜、家に帰ってきた俺は桃華の専属メイドであるばあやさんからある報告を受けていた。ばあやさんは桃華が生まれてからの専属メイドだ。桃華もばあやさんのことを慕っており、ばあやさん自身も桃華の事を実の孫の様の事に想っていてくれている。

 

 そんなばあやさんが、桃華が落ち込んでいるかもしれないという。普段だったら理由を探るのだが、ここ数日に関しては心当たりが多すぎる。

 

「確かに、帰って来てからも何故よそよそしかったな……もしかして」

 

「ええ、ご想像の通りかと」

 

 そう、ここ数日はアイドル活動やレッスンが忙しく、346プロで桃華と話すことも少なければ、家に帰って来るのも遅くなってしまっている。武内さん曰く、ここまで忙しくなるのはそう長くは続かないそうだが。それでも何日間も話さなかったり、食事を一緒にとらないなんて殆どなかったことだ。

 

「すいません、ばあやさん。ありがとうございます。寝る前にちょっと話してみます」

 

「いいえ、お休みなさいませ、椿様」

 

 落ち込んでいると言っても、少しいじけているだけかもしれないし、怒っているかもしれない。なんにせよ、俺にとってこのままにしておくという選択肢は無い。それが俺のせいかもしれないというのなら尚更だ。

 

 二階へと続く螺旋階段を上り、桃華の部屋の前まで向かう。薔薇を模したドアノッカー叩き、声をかけた。

 

「桃華、俺だよ」

 

 すると、少しだけドアが開き、間から気まずそうにしている桃華が見えた。桃華自身も俺が来た理由が分かっているのだろう。どうぞ、と言うか細い声とともにドアが開いた。

 

 桃華は枕を抱きながら無言でベッドへと座る。何を言われるまでもなく俺もその隣に腰かけた。

 

 ほんの少しの間無言が続いたが、言葉を詰まらせる理由もない。俺は本題を切り出した。

 

「ごめんな桃華……ここ何日か、寂しかったか?」

 

「……ええ、少し」

 

 やはりそうだったらしい。それに、普段から大人として振舞おうとする桃華がこういう事を素直に言うのは珍しい。それだけ桃華に寂しい思いをさせてしまったのかもしれない。

 

「でも、それだけではありませんの」

 

「それだけじゃ、ない?」

 

「ええ……」

 

 どういうことだろうか。そのまま続きを促して待っていると、枕をより強く抱きしめた桃華が、理由をぽつぽつと語り始めた。

 

「最近、お兄ちゃまはアイドルとしてとてもお忙しいでしょう? それ自体は喜ばしい事ですわ。でも、わたくしはお仕事もまだした事が無くって……もちろん、プロデューサーさんのことは信頼していますし、レッスン自体に不満があるわけではありませんわ」

 

「……」

 

「でも、なんだか、お兄ちゃまが遠くの人になってしまったみたいで……」

 

 遠くの人、か。

 正直俺には解らない感覚だ。俺はもし桃華だけがトップアイドルになったとしても諸手を上げて喜ぶし、遠いステージ上の桃華のことを俺の妹だといって憚らないだろう。俺は桃華が拒まない限り桃華の兄を辞めるつもりなんて毛頭ない。

 

 でも桃華はアイドルとして一歩進んだ俺に距離を感じてしまったのだろう。

 なら答えは簡単だ。遠くになんて行っていない。すぐそばに居ると教えてあげれば良い。そう考えた時、俺はいつかの事を思い出していた。

 

「大丈夫だよ、桃華」

 

 そう言って俺は桃華を抱きしめ、その背中を―――いつかみりあちゃんがやっていたように―――ゆっくりと一定のリズムで叩いた。急な事に桃華が疑問の声を上げた。

 

「お、お兄ちゃま?」

 

「俺は遠くなんかに行ったりしてない。仮に俺がアイドルとして大成功したとしても、その逆になったとしても、俺は桃華のお兄ちゃまでいるよ。桃華が望む限りね」

 

 優しく語りかける。俺はここに居ると、宥めるように。

 

「……でしたら、お兄ちゃまはずっとわたくしのお兄ちゃまですわね……」

 

 桃華が俺の寝間着をきゅっとつかんだ。俺は桃華の寂しさが癒えるまで、暫く背中を優しく叩くのだった。

 

「ありがとうございます、お兄ちゃま。もう大丈夫ですわ」

 

「ん、そっか」

 

 そう言って桃華から離れる。その言葉の通り、桃華はいつもの笑顔を見せてくれた。俺もこれで一安心だ。

 

「ごめんなさいお兄ちゃま、心配させてしまって……」

 

「いいよこのくらい。じゃあ、お休み桃華」

 

「あ……お休みなさい、お兄ちゃま」

 

 俺が部屋から出ようとすると桃華が名残惜しそうに声を上げた。

 ……俺も相変わらず桃華に甘いし、桃華もまだまだ大人のレディーとは言えないようだ。

 

「あー、桃華、俺も最近桃華と話せなくて寂しかったからさ、眠くなるまでちょっとお喋りしないか?」

 

「!……もう、お兄ちゃまも寂しかったなら仕方ありませんわね、さ、お掛けになって」

 

 そう言って自分の横をぽんぽんと叩く桃華。俺は再び桃華の隣に座ると、今日あった事を一から話し始めるのだった。

 




Q:何かと理由をつけてちゃまに抱きつきたかっただけでは?
A:そうです

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