それからの展開は長かった。
戦いは一瞬でケリがつくかに思われたが、竜は驚くべき力で敵を迎え撃ち皆を驚愕させた。
しかし流石に竜とはいえ、数え切れない程の相手を前に勝利の可能性はかなり低かった…
「…まだ生きてる。私の夢想封印やら魔理沙のマスタースパークやらを受け止めて、よく生きてるわね。」
巫女服の女が言った。私がお礼を言うと
「…何か人が変わったみたいだな。あ!人じゃなかったぜ。」
と、いかにも魔法使いっぽい金髪の女性がそう言って笑った。
確かにその女性の言うとうりだ、私は今は竜ではない。
竜は先程の戦闘で力尽きてしまい、内側で寝ている。
(それにしても凄いキズ、体中がズキズキする。)
私は草原に仰向けで寝そべっていた。動くことがないので体中の傷の痛みが一身に襲い掛かってきて、とても痛い。だからといって立って動けるかと言うと、その力も残ってないのでどうしようもなかった。
(当たり前だろ、あんな激しい戦闘したらそうなる。それに、1つの体を2人で使ってるんだから、怪我も共通だな。)
(まだ、起きてたんですか、あんまり怪我しないで下さいよ、竜は痛みに慣れてるかも知れませんけど、私は人間だから痛いんですよ)
ははは、と竜は笑った。
(人間も竜も痛みの感じ方は変わらないさ。私だって痛みだけはどうしても慣れないからな。)
竜はそう言い、最後にまた眠るとだけ伝え黙った。
私はおやすみなさいと言った。ただ私も少し気を許すとすぐに眠ってしまいそうだ。こんな状況で眠くなるのはおかしいので、多分体の血液が出すぎたことが原因で脳が体を強制的に眠らせようとしているのだろう。
ただ私はまだ眠る訳にはいかない、眠ってる隙に殺されたりされかねないからだ。なので眠る前に私は弁解をしなくてはならない。
私は空を見上げた。いつの間にか紅い霧は消え去り空は薄暗くなっている。空には星が薄々と見え、西の空がほのかに明るいので今は明け方の時間帯なのだろう。
(もう1日も経った。)
彼女の思い描いていたビジョンとは少し違ったが、彼女はさほど悲しんでいる様には見えなかった。
「…貴方は竜でいいのかしら?」
私は竜ではないので、いいえと答えた。彼女は「そう…」と答えた。
金髪の女性は私にいくつか質問をした。なぜ山を壊したのか、どうやってここに来たのか、目的は何なのか、などの質問だった。
質問の合間に金髪の女性は別の誰かと会話しているようだったが、仰向けなので誰と会話しているのかは見えなかった。ただその会話相手は少女のような声だった。
「詳しく話が聞きたいのだけれど…聞けそうにないわね。出血も酷いし今は眠っていいわよ。」
私は殺される心配をしたが、それを察したかのように金髪の女性は言った。
「安心しなさい、殺したりはしないわよ。ただ今のままだと詳しく話が聞けないから治療するだけよ。それに貴方は嘘をついていない様だしね。」
その言葉に安心したが彼女が嘘をついている可能性や、目覚めた際に酷い拷問にあう可能性も否定しきれない為に少し不安が残った。
しかし私は、その時に考えればいいか、と考えて目を閉じた。
「それじゃあね~」
私は戦いに参加していた最後の一人をスキマで送りとどけると自分の家に戻ってきた。
眠りについた竜の彼女はこの世界の医者、永琳に治療を任せて私は藍という名前の式神と共に皆を各場所に送っていた。そして今終わったところだった。
今の時刻は午前の4時前ほどなので凄く眠い。ただ昨日は竜の対応に忙しく夕飯も食べれていないのでお腹も減っている。寝る前に少しだけご飯を食べよう。
「紫様、ご飯の準備が出来ましたよ~!」
タイミング良く藍がそう言った。
「お茶漬けでいいですか?」
「さすっが~!分かってるわね~!」
「私ももう眠いんで早く食べて寝ますよ。」
私たちは2人でご飯を食べた。
「2人だけでいるなんて久しぶりよね」
「ええ、いつもは橙がいますもんね」
そうだ、いつもは橙がいるのだが今日は1人で寝ている。
橙はまだ子供なので戦闘が長引くと思い、家においてきたのだ。
「それにしても…何年ぶりかしらね。まだ幻想郷を創ろうとする前だから…長いこと経つわね。」
「はい。あれから随分経ちましたね。」
私達は昔の思い出話に花を咲かせた。私達も妖怪なので数え切れないぐらいの年月生きている。藍や橙と出会う前も長いことあった。
妖怪達が暮らせるような理想郷を創ろうとして…すべてを受け入れられる世界を創ろうとして…
私は色々な経験をしてきたが今回のようなことは初めてだ。外の世界から来る人間は偶にあるのだが、自ら結界を壊して幻想郷に入ってくるのは今まで一度もなかった。
私の結界はかなり強固に作られているはずだった。並みの攻撃では破るなど不可能だ。
幻想郷では最近、不可解なことがたびたび起きている。そのことと何か関係があるのだろうか?
「ご馳走様でした。」
そうこう考えていると藍がそう言った。
「紫様、早く食べないと冷めてしまいますよ」
「ええ、そうね。ありがとう」
いつのまにか時計の針は4時半を示していた。
難しい事を考えるのは止めにして私は残っているお茶漬けを飲み干した。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます!
次回からは2章目に変えようと思います。少し早いと思いますが、ちょうどキリがいいので…
次回も心待ちにしてくれると嬉しいです!