ファンタシースターオンライン2 「Reborn」EPISODE 4(休止中) 作:超天元突破メガネ
A.D2028:3/23 8:00
地球:天星学院高校学生寮
「えーっと、もう一度確認するわね」
制服姿でイスに座ったヒツギは、ベッドに座っている目の前の少年に向かって、問いかけた。
「貴方は、自分の名前がわからない」
「うん」
「自分がどこから来たかもわからない」
「うん!」
「ついでに、自分が何者なのかもわからない」
「うん! うん!」
「記憶喪失を喜ぶなァっ!!」
思わず立ち上がり、叫んでしまった。
「⋯ ごめんない」
「全く⋯ 」
ヒツギは腕を組み、考え込む。
(うーん⋯ ただでさえいろんな事が起きて、、頭の中パンク寸前なのに、こんな得体の知れない子供を抱える事になるなんて⋯ )
思い出すのは、先日の一幕。
(あのバケモノのこともあるし、警察に突き出した方が良いのかも知れないけど⋯ あたしを庇ってくれた、その恩を受けたまま見捨てるなんて⋯ )
「ヒツギ⋯ ?」
「⋯ そんな不安そうな顔しないの。起きちゃった事は仕方ないし、何とかなるでしょ」
不安そうな顔をした少年を、ヒツギはそっと宥めた。
(それにこの子、『PSO2』のあたしのアバターにそっくり⋯ 状況から考えても、偶然なんてことありえない)
視線を移し、待機画面のPCを見つめる。
(だったら、私がその謎を究明する⋯ 『マザー・クラスタ』に所属する、あたしが⋯ !)
「それにしても、名前が無いのが不便ね。何かいいのが欲しいところだけど⋯ ねえ、何かこう呼ばれたいーっていうの、ある?」
少年に視線を戻し、尋ねるヒツギ。
「ない。ヒツギの好きなように呼んで?」
「好きなように、かぁ⋯ 」
自分のTシャツを着た少年の姿を眺めながら、考える。
「その容姿だと、日本神話的なのは合わなそうだしなぁ⋯ よし!」
「なに?」
「フォルセティ、ってのはどう!?」
少年は目をぱちくりさせて、
「やだ」
はっきりと首を振った。
「即答!? 好きなように呼べって言ったじゃない⋯ 全くしょうがないわね⋯ 」
ヒツギは思い浮かんだ名前を、ぽんぽんと上げていく。
「ヘルモース!」
「や」
「ヘイムダル!!」
「だめ」
「ロキ!!!」
「ありきたり」
「最後のはダメ出しじゃないっ!あーもうっ⋯ 今日は生徒会に顔出さなきゃなのに⋯ 」
ヒツギはうんうん唸った末、苦し紛れに、
「えーっと、えーっと⋯ ! じゃあ、アル!! 無いの反対!!」
すると少年は、うーんと考えた末、にぱっと笑った。
「アル。アル⋯ アル! それがいい! ぼくの名前、アルがいい!!」
嬉しそうに両手を振る少年。
「え、こんな安直なのがいいの⋯ !?それよりガウェインとかの方が⋯ 」
「アル、アル! ぼくはアル!!」
どうやら相当気に入ったようで、立ち上がってヒツギに詰め寄ってきた。
「なんかちょっと腑に落ちない⋯ まあ、気に入ったんなら良いけど⋯ 」
ちらっと、ヒツギは壁の時計に目をやる。
「って! 時間よ時間!! すぐに行かなきゃ⋯ アル! あたしちょっと出掛けてくるから、ここで大人しくしてる事!!」
決まったばかりの名前を呼び、ドアの前まで来た所で、ヒツギはハッとして振り向いた。
「もし寮長とかに見つかったら、『八坂火継の弟です』って言っときなさい!!」
「⋯ ? ぼくは、お姉ちゃんの弟です⋯ ?」
「まあ、意味は通るからいっか⋯ 」
ドアを開け、今度こそ廊下に出ようとしたところで、
「いってらっしゃ〜い」
そんな声が、後ろから聞こえてきた。
振り向けば、にこにこと手を振るアル。
「あ⋯ うん、行ってきます」
部屋を出た所で、ヒツギはふと思い出す。
「いってらっしゃいなんて言われたの、いつ振りだろう⋯ まいっか」
今はとにかく時間が無い。
ヒツギは、校舎へと急いだ。
A.D2028:3/23 14:00
地球:天星学院高校
「はぁ〜」
天星学院高校、生徒会室。
PCの前で、ヒツギはぐた〜っと突っ伏した。
「もう⋯ 駄目だよヒツギちゃん。次期生徒会長さんが、一般の生徒の前でため息ついたりしちゃ⋯ 」
そんなヒツギの肩を揺さぶったのは、ヒツギと同じ制服を着た、黒髪の少女。
「あたしは唯の生徒会役員です〜。まだ会長じゃないので、問題ありませ〜ん」
聞き飽きた声に、適当に返事を返す。
ヒツギはむくっと起き上がると、
「それに、あなただって一般の生徒じゃ無いでしょ? ねえ、次期副会長、鷲宮
視線に入った少女⋯ コオリに、言い返した。
「や、やめてよその呼び方〜。私だってただの生徒会役員だよ〜」
「ふ〜ん⋯ いっその事、コオリが生徒会長になれば良いじゃない」
「私、そういうの向いてないし⋯ ヒツギちゃんがなるでしょって、生徒会のみんなも言ってるよ?」
ヒツギはそれを聞いて、またぺたっと机に突っ伏す。
「生徒会のみんな、かぁ⋯ そうは言っても、全員『マザー・クラスタ』のメンバーだから、出来レースだよね⋯ 」
「も〜。ヒツギちゃんはそうやって、すぐスレた事言うんだから⋯ それに」
コオリはちょんちょんと、ヒツギの肩を小突いて、
「そもそも『マザー・クラスタ』自体、選ばれた人しか入れないんだから、良いんじゃない?出来レースでも」
「そっか⋯ はぁ⋯ 」
「ため息つく程、ヒツギちゃんが生徒会長になりたくないんなら、私がやってもいいけど⋯ 」
両手を合わせ、ぽうっと天を仰ぐコオリ。
「そんな時は、ヒツギちゃんに支えてもらいたいなぁ〜なんて⋯ 」
ヒツギは半分呆れ顔で、そんなコオリを見た。
「そう言うわけじゃないんだけど⋯ 」
またため息をついて、PCに目を移す。
「そう言えばヒツギちゃん、昨日『PSO2』で会えなかったね。ログインはしてたみたいだったけど、何してたの?」
ぽつりと呟かれた、そんな質問。
「⋯ !」
ぱっと、ヒツギは顔を上げる。
そして、PCに目を向けたまま、問いを返した。
「コオリ⋯ あたし達にとって、『PSO2』ってどういう物?」
「え? どういうものって⋯ 」
「あなたの知ってる範囲で、答えてみて」
「う、う〜ん⋯ 」
珍妙な質問に、コオリはしばし悩んでから、話し始めた。
「⋯『
コオリはヒツギの脇で、彼女がさっきまで使っていたPCを指す。
「エーテル通信によって実現した、次世代クラウド型OS『
説明はしたものの、釈然としない様子のコオリ。ヒツギは首を振って、再び問いかけた。
「そういう一般認識じゃなく、『あたしたち』にとっては?」
一見、不可解な問い。
しかしコオリは、すぐにその意味を理解した。
「⋯ なるほど、『マザー・クラスタ』にとってはって事だね。いつでも何処でも、誰とでも簡単に、エーテルインフラ上でプレイ出来る点では一緒だよ」
ヒツギの左の壁にかかった、小さな旗を見るコオリ。
旗は青地に白で、斜めに配置された二重円に、丸みのある五つの菱形が重なったような模様が刻まれていた。
「『マザー・クラスタ』の目的は、『esc-a』の保守⋯ バグを取り除くことだからね」
ヒツギは頷いて、引き継ぐように口を開いた。
「そう⋯ そのために、巨大SNS『マザー・クラスタ』は存在する⋯ マザーによってスカウトされた、千人を超えるメンバーが、日々エスカの保全を行っている⋯ と」
「そういうこと。で、エスカのソフトであるPSO2内にも、バグが散見されてるみたい。AIとは思えない挙動を取るNPCとか、おかしなところが多いから、私たち『マザー・クラスタ』の所属者が調査してるの」
ヒツギはため息をついて、視線をPCに戻す。
「⋯ まとめると、PSO2はゲーム、って認識よね。そこにバグが生じてるって⋯ 」
「うん。マザーはそう判断してる」
その説明は、きっと昨日までのヒツギなら、納得できただろう。
(だけど⋯ 本当にあれは、ゲームの中の挙動なの? あの人達はあくまで、ゲームの中の人なの? アルも、アメリアスも⋯ ?)
「あれ⋯ ヒツギちゃん、どうしたの⋯ わ、私、変な事言っちゃった!? ごめんねごめんね空気読めなくてごめんね!」
急に慌てだしたコオリに、ヒツギは短く問いかけた。
「⋯ コオリ」
立ち上がり、詰め寄るようにコオリを見る。
「は、はひっ!?」
「コオリが男苦手なのは知ってる⋯ それでも、会ってほしい人が居るんだけど⋯ いいかな」
コオリは困惑した様子で、
「お、男の人⋯ ? ヒツギちゃんのお兄さんじゃなくて⋯ ?」
「うん、兄さんじゃ無くて⋯ 」
「炎雅さんじゃない⋯ って、まさか、その男の人って⋯ !」
コオリの顔が青ざめる。
「まさかまさかそんなそんな!? 駄目だよヒツギちゃん! 不純異性交遊だよ!!」
「違うわ! 仮に彼氏がいた所で、どうしてあんたに会わせるのよ!」
「⋯ いるの?」
「いないわ! 言わせんな!!」
ツッコミを入れて、肩を落とすヒツギ。
「はぁ⋯ あのねコオリ。会って欲しいのは、兄さんでも彼氏でも無くて⋯ 」
「じ、じゃあ誰! 誰なの!?」
「誰って⋯ 」
反応に困ってしまう。
あの少年を、どう説明するべきか⋯
「あたしの⋯ 」
ヒツギは少し迷って、
「⋯ 弟?」
「⋯⋯⋯ はいぃ!?」
予想だにしなかった答えに、コオリは名前通り凍りついた。
「夕景イエスタデイ」
当たり前の日々は、昨日の夕日がさらっていった。