ファンタシースターオンライン2 「Reborn」EPISODE 4(休止中) 作:超天元突破メガネ
⋯頑張れ、
AD2028:3/22 17:00
「ん、ううん⋯ ?」
ヒツギは気付くと、ベッドの上で眠っていた。
「⋯ 」
ゆっくりと起き上がり、パソコンを見る。
すぐに先ほどの出来事が思い出されたが、パソコンも部屋も、何も変わってない。
「⋯ は、ははは、あははははっ!」
不思議と、笑いがこみ上げてきた。
「なんだなーんだ! やっぱバケモノも何もかも夢だったのねー!! よかったよかったよかったー!」
ベッドから立ち上がり、ゆっくりと後ろを振り向いて⋯
「んうん⋯ 」
「⋯ はー⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
いた
やっぱり、いた。
「あはははは、あはは⋯ はは⋯⋯ はぁ」
がっくりと、うなだれる。
「⋯ やっぱり、夢じゃなかった⋯ 」
すやすやとベッドで眠る少年の傍、ヒツギはただ、肩を落とす事しか出来なかった。
⋯ だから、気づけなかった。
机の上から、パソコンのマウスだけが、落っこちていたことに。
AP241:3/23 8:00
アークスシップ:艦橋
翌日。
朝からシエラさんに呼び出された私は、艦橋に来ていた。
「おはようございます、アメリアスさん。後遺症などは起きてたり⋯ 大丈夫ですか?」
「すいません、朝弱くて⋯ 体は大丈夫です」
すっきりしない頭で、返事を返す。
「そうでしたね⋯ 次からは、もうちょっと遅い時間にしましょう」
シエラさんは頷くと、本題に入った。
「改めまして、昨日転送された惑星について、現段階で分かっている情報です。結論から言うと、あそこはオラクルのあるこの宇宙とは違う次元⋯ いわば異世界にある星のようです。」
「異世界⋯ !?」
想像もしていなかった言葉が飛び出してきた。
「でもそんな所⋯ 」
「はい⋯ 簡単に行き来出来るはず無いのですが⋯ 詳細は調査中です」
私は、先日の戦闘で遭遇したヒツギさんの顔を思い浮かべた。
違う世界の、ヒトが住む星。
「そんな別次元宇宙にある、知的生命体の存在する場所⋯ かの星の名前は、「
「地球⋯ 」
目を閉じて、その名前を反芻する。
「⋯ ところでアメリアスさん。昨日の戦闘の時、ヒツギさんと普通に会話出来てたの、覚えてますか?」
「ああ、そういえば⋯ 」
確かにそうだ。全く気にしていなかったが、別次元の星と同じ言語だなんてありえない。
つまり、
「どうやら地球の言語データは、情報部が既に入手済みだったみたいなんです」
⋯ ああ、やっぱり
「それだけじゃなく、今回の件を報告した途端、地球のデータが、情報部からたっくさん登録されていきました⋯ どうやら、独自に調査していたようです⋯ 」
⋯ 軽く、目眩がした。
もともと私は隠し事が大っ嫌いなタチなので⋯ まあそれは個人的な事だが⋯ それにしたって新しい惑星との接触を隠していたなど、信じられない。
「情報部が胡散臭い⋯ ウルクの言う通りになったわけか⋯ 」
「はい⋯ もっとも、地球の座標データや転送先設定は、あんまりうまくいってなかったみたいですね」
おそらくそれで、あんな緊急転送のような形になったのだろう。
「これも何処まで本当かは怪しいですが⋯ 地球との接続が確立された以上、あまりどうこうも言ってられません」
「接続が確立?」
「ほら、先の任務中、闇に飲まれたヒツギさんを助けようとして、手を伸ばしたじゃ無いですか。あの時、アメリアスさんのフォトンがヒツギさんに流れ込んだのか、あちらの反応を捉えられるようになったんです」
「じゃあ、あの転送は⋯ 」
「それもあったと思いますが⋯ ヒツギさんの強い願いに、フォトンが応えてくれたのだと思います」
⋯ まあ、こっちはだいぶ混乱する事になったが、ヒツギさんを助けられたのだから、災い転じてなんとやら、と思う事にした。
「と言うわけで、これからは自由に地球へ向かえます。もっとも、調査段階なので隠密活動ですが」
「隠密活動って⋯ どうやって?」
私が尋ねると、シエラさんは頷いて、
「フォトンによる空間隔離や認識偽装を行いますので、フォトンを扱えない地球の人々にはバレ無いと思います⋯ 多分」
ふーっと息をつくシエラさん。
「これも情報部から提供された物なので、正直当てにならないんですよね⋯ 」
「はあ⋯ でも、戦闘の隠蔽なんて⋯ 」
「透刃マイの先天能力の汎用化と言ってますが⋯ 出どころも怪しいので、実際どうだか」
「透刃マイ⋯ か」
ぽつりと、そんな呟きが、私の口から漏れた。
「全く、あっちもこっちも変なことだらけ。これはますます、私達で調査しないとですね⋯ 聞いてます?」
「ふぇっ!? 」
おっと、ぼーっとしてしまっていた。
「それと、惑星ナベリウスに出現した、あのダークファルスのような反応ですが⋯ あれ以来、何処にも見つかっていません。調査は進めていますが⋯ 期待薄って感じです」
「そうですか⋯ 」
まあ、正直そっちはこちらも期待していなかったが。やっぱり、わからないことばかりだ。
「当面は、アメリアスさんとヒツギさんの繋がりを頼りに、向こうからキャッチできる断片情報を集めていきましょう」
「え⋯ ? そんな事が出来るんですか!?」
「はい! アークスの技術力を持ってすれば、断片情報を基に彼女の日常生活を再現するのも容易! さてさてアメリアスさん、どんなシーンが見たいですか?」
「へえ⋯ そんな事まで、」
っておいおい待て待て、それってつまり、
「それ⋯ 要は覗きでは?」
「いーえ! シャオに誓ってこれは情報収集です! 情報収集なので問題無いのですよ、情報収集なので!!」
⋯ 3回言われた。シャオ君は今泣いていいと思う。
「とにかく、相手は知的生命体⋯ それも未知の惑星です。情報収集は、目下最重要課題と言えます」
真剣に、こっちの目を見るシエラさん。
「プライベートを覗き見るようで少し心苦しいですが、可能な限り、見せてもらいましょう」
AP241:3/23 17:00
アークスシップ:ショップエリア
「⋯ という訳で、」
時間はだいぶ飛んで、夕方。
「どういう事なんでしょうか、ヨハネスさん?」
私はショップエリアの展望台で、一人の男性を問い詰めていた。
『とは言われましても⋯ 』
私の前に置かれたウインドウに、そんな文字が映る。
その奥で縮こまって座っているのは、私より少し年上の、細い眼鏡をかけた青年。
真っ白な髪に紅い瞳。整った顔立ちは幼げなことも相まって、女性の様にも見える。
彼の名はヨハネス。アークス情報部の職員で、私の知り合いだ。
「未知の知的生命との接触履歴⋯ なんで隠してたんですか?」
『だから自分は一介の職員で⋯ 過去の接触は、殆ど指令が独自に行っていたんです』
私の声はそっくりそのまま、ヨハネスさんの前に置かれたウインドウに映り、ヨハネスさんの返事は、私に文字として返される。
⋯ 彼は耳が聞こえない。と言うより、聴覚を使えない体らしい。
まあそんな事より、今は「地球」という星のことだ。
どうやらというか、やはりというか。地球への接触は、情報部指令⋯ カスラが殆ど独自で行っていたらしい。
だとしたら、ヨハネスさんが知らないのももっともだ。
これで⋯ 情報部内での状況ははっきりした事になる。
私はふーっとため息をつくと、ヨハネスさんに言った。
「⋯ じゃあヨハン。そちらで把握してる情報は?」
ヨハンは眼鏡を外すと、その紅い瞳で、じっとこちらを見る。
そう⋯ これが本題。
知り合いと言ったが、彼と私は実際には、腐れ縁の様なものだ。
彼は、3年前は諜報員としてカスラの下で活動しており、その頃からこうやって、情報をリークしてもらっていた。
今朝シエラさんと話した後、速攻連絡を取り、わかる限りのことを調べてもらったのだ。
ヨハンは情報部でも、アークス内のネットワークを管理する部署にいる。
本人曰く「大して意味のない部署」らしいが⋯ それを逆手にとって、こうしてまた情報を流してもらおうというわけだ。
『僕の方で把握した中で、有益なものは1つ⋯ 向こうの、此方への接触手段だ』
「⋯ ! そんな情報を!?」
『苦労したさ。どういう理屈かは不明だが⋯ 向こうはあるゲームを通じて、こっちに接触しているらしい。君が会ったヒツギという女の子も、それを使っていたんだと思うよ」
不意に、昨日の事を思い出す。
ヒツギさんの部屋⋯ 机の上のディスプレイに映し出されていた文字は⋯
「それ⋯ もしかして『PHANTASY STAR ONLINE 2』?」
『あれ⋯ どうしてそれを?』
ヒツギさんの部屋で見た事を、かいつまんで説明する。
『なるほど。やっぱり、それは確かみたいだね⋯ にしても、よく翻訳出来たもんだ』
「たまたま字が似ていただけ。正直、合ってるなんて思わなかったし⋯ ふぁあ」
不意に、欠伸が出た。
ぺたんとソファに寝そべり、上目遣いでヨハンを見る。
「ねむ⋯ とにかく、こっちはシエラさんが断片情報を解読するまで動かないから、そっちはそっちで知ってる情報、さっさとシエラさんに提示して」
『う⋯ わかった。出来ることはしよう』
ヨハンはちょっと顔を赤らめると、短く答えた。
「相変わらず、女の子には弱いんだねぇ⋯ 」
そんな動きを見て、苦笑する。
『君も相変わらず、眠り姫の様だけど』
「なんだとぉ!」
ガタッと立ち上がってしまい、慌てて座り直す。
『はは⋯ そう言えば、こうして会うのは2年ぶり、か⋯ 』
「こっちは寝てただけだけどね⋯ で、耳はどうなの?」
『どうもこうもない。完全に聴覚が死んでるんだ⋯ 最後に音を聞いてから⋯ もう7年か」
やるせない様子ながらも、ヨハンは淡々と語る。
「ヨハン⋯ 」
『おっと、湿っぽい話になっちゃったね、ごめん。』
すっと、ヨハンは立ち上がる。
『そろそろ戻らないと、怪しまれるかもしれない。何かあったらメールしてくれ。こちらでも出来ることはやっておく』
「了解。いつもありがとね」
『これ位しかしてあげられないからね⋯ あ、そうだ忘れてた』
思い出した様に、ヨハンはごそごそと、小さなケースを取り出した。
『君は忘れてただろうけど⋯ 誕生日おめでとう』
⋯ あっけに取られてしまった。
こっちはいつ話したかも覚えていないが⋯ 覚えてて、くれた様だ。
「ほんっと、すっかり忘れてた⋯ ありがと」
笑って、ケースを受け取る。
ケースをかぱっと開いて⋯ 固まった。
中に入っていたのは、メカニカルなデザインの小さな指輪。中央には、青みがかった中に褐色の模様が入った、独特な色合いの鉱物が入っている。
「よ、ヨハン⋯ !? な、なにこれ⋯ !?」
思いっきり動揺した声は、ちゃっかり文字になってヨハンへと伝えられていく。
『あー、スキルリングって言うんだけど⋯』
私の困惑を察してくれた様で、ヨハンはこの指輪について説明してくれた。
AP241:3/23 18:00
アークスシップ:アメリアスのマイルーム
スキルリング。最近、アークスの活動圏内にある惑星から見つかった、特殊な鉱物を用いた、戦闘用の装備品。
名前通り、クラススキルに似通った効果を発揮する物らしく、
『これは、
と、ヨハンは言っていた。
「こういうの、ありがたいよねぇ⋯ 」
ころんとベッドに転がり、私は左手親指のリングを眺める。
あらぬ誤解をしかけ、だいぶテンパってしまったが、いいプレゼントをもらった。
「今日は結局、出撃しなかったからなぁ⋯ 明日からは頑張るぞい、っと⋯ 」
ベッドの上で意気込んでいると、不意に部屋のドアが開いた。
「うーい姉ちゃん、相変わらず鍵はかけないんだー」
「ステラ⋯ 何しに来たのよ」
「ちょっと様子を見に。成る程、アフィンさんの言う通り、眠り姫なんだねぇ⋯ 」
にやにやと笑うステラ。
「⋯ちょっと表出なさい」
「姉ちゃん、殺気! 殺気出てる!!」
ため息を吐いて、ベッドに座り直す。
するとステラもそそくさと、横にくっついてきた。
「なんかまた、大変な事になってるみたいだけど⋯ 大丈夫?」
「アークスになって2日目の新米が何言ってんの⋯ 今は自分の心配をしなさい」
「うー、だって⋯ 」
私の横でステラは俯いて、呟く。
「私、姉ちゃんのことずっと見てたけど⋯ 姉ちゃん、すぐ1人で無理するじゃん。せめて私は、姉ちゃんの⋯ 助けになりたくて」
「⋯ 確かに、否定は出来ないね⋯ 」
目を閉じて、アークスになってからのことを想起する。
⋯ 思い返せば、これまで随分と無茶をしてきたものだ。
「だけどもう、大丈夫。私、わかったから⋯ 決して、1人じゃ無いって」
隣に座った妹の頭を、ポンポンと叩く。
「私を助けたいんなら⋯ 追いついてみなさい、ステラ」
「追い越されない様に精進するんだね、姉ちゃん」
生意気にこちらを見る、翠の瞳。
しかし私は、その瞳に、確かに安堵を感じていた。
⋯ くるるる
「あっ⋯ 」
不意に、ステラのお腹が小さく鳴った。
「あっはは⋯ お腹すいちゃった」
「あー、そういえば私も⋯ 」
1日くったりしていても、やっぱりお腹はへるものだ。
「姉ちゃん、まだカフェには行って無いでしょ? フランカさんが待ってたよ」
「ああ、あの人の⋯ ! よし行こう、すぐ行こう!」
明日になれば、シエラさんの方も準備が整うだろう。
私は立ち上がって、ステラと一緒に部屋を出た。
「チェチェ・チェック・ワンツー!」
明るみになる、二つの世界。