ファンタシースターオンライン2 「Reborn」EPISODE 4(休止中)   作:超天元突破メガネ

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なんかもう一章10話が板についてきた今日この頃。


SB4-10「キリハギロール」

AD2028:4/12 10:58

地球:ラスベガス

 

ビルの下に消える少女を見送り、エンガは目の前の敵に向き直った。

「……さて。もう逃げられないぜ、オークゥ・ミラー」

座り込む使徒……己と年の変わらない少女に、エンガはライフルを突きつける。

すると少女は、見下ろすエンガの瞳を見て、

「……躊躇ないのね、アンタ」

「今更、命乞いのつもりか?」

 

見上げる顔に、エンガは容赦なく言い放った。

「俺はヒツギを守るためにこの銃を取った。躊躇いなんて、瓦礫の下に置いてきたさ」

エンガの言葉に、オークゥはふっと笑う。

「そう……いいわよ、さっさと撃ったらどう?アンタが守りたいってヤツ、本当に大丈夫なのかしら」

「何……!?」

エンガが聞き返した、その時。

ぱっと光がオークゥを覆い、その姿が消え失せた。

 

「消えた……!?クソっ、どこ行きやがった!!」

辺りを見回すエンガの頭上で、また青光が散る。

オークゥは、空に浮いた紋章に立ち、

「……相手を侮るから、そうなる。想定外の事態に対応できんようでは学者とはいえんぞ、オークゥ」

その傍らには、東京でベトールにとどめを刺した、あの使徒が立っていた。

 

「……やっぱりこいつはテメェの芸当か、『オフィエル・ハーバート』!」

エンガは男を睨みつけた。

「水の使徒」……オフィエル・ハーバート。

一般には天才外科医として周知されている、使徒のひとりである。

 

「べ、別に助けろなんて言ってないじゃない!」

「……助けたわけではない。時が来た、それだけのことだ」

ムキになって言い返すオークゥに、オフィエルはため息交じりに右手を振る。

すると空に浮く紋章から光が広がり、一瞬で使徒たちの姿が掻き消えた。

 

「時……?まさか、ヒツギが!?」

『え……エンガさん!!』

はっとビルの端へ駆け寄るエンガの耳に、シエラの通信が突き刺さる。

それはエンガが聞いたことのないほどの、逼迫した声だった。

 

『ひ、ヒツギさんが、ヒツギさんが……!!』

冷静にオペレートできないほど、動揺した声。

それで、エンガは最悪の状況を悟る。

「落ち着けシエラさん!……っ!!」

ふらついた体を叩き、エンガはビルの下へと飛び降りた。

 

 

AD2028:4/12 11:02

地球:ラスベガス

 

「コオ、リ………」

血の海の中、事切れる少女。

「……やったよヒツギちゃん。わたし、ちゃんとできたよ………!」

その骸を見ることもせず、虚空に歓喜の声を送る使徒。

 

そして、その全てを目に焼き付けた守護輝士(ガーディアン)は。

「っ………あああアアアアアア————!!!!」

人のものとは思えない慟哭を上げ、駆け出した。

 

「な———!?」

尋常ならざる咆哮に振り向いたコオリの目に、血走った黄金の瞳が映る。

迫るジェットブーツの刃を、コオリは咄嗟に己が握る剣で受け止めた。

「「—————っ!!!」」

迸る閃光。

暴発したフォトンが急激に発散し、コオリの視界を覆い尽くす。

 

「こ、の……っ!」

前が見えないまま、コオリは剣の腹を眼前へと叩きつける。

「が———っ!!」

スタンコンサイドと同質の打撃をもろに受け、アメリアスはよろめき、その場に蹲った。

 

……一人立つ使徒は、緩慢に踵を返す。

「はあ、はあっ……ふふっ」

黒髪の下で、笑顔を形どる。

「は、ははっ、あははははははははははっ!!!」

狂気に満ちた笑いが、蒼穹に吸い込まれていく。

 

「—————お姉ちゃん」

———その時。

コオリの前に、青白い光線が集った。

「え………?」

球状に走る光の帯から、小さな影が現れる。

「アル、君………?」

それは、彼女のよく知る少年だった。

 

 

「ヒツギ—————っ!!?」

広場に飛び込んだエンガは、目の前の光景に絶句した。

倒れた妹と、その傍らで蹲るアメリアス。

そして剣を握るコオリ……それだけではない。

まるでコオリからヒツギを守るかのように、アルが間に立っている。

 

「アル……!しかし、あの格好は……?」

今のアルの姿は、ヒツギが着せていた服ではない。

黒と青を基調にした礼装……全く見たことない筈なのに、エンガはそれに妙な既視感を抱いた。

 

「………泣かないで、お姉ちゃん」

ヒツギの方へ振り向き、しゃがみ込むアル。

「お姉ちゃんたちが、ぼくを真っ暗闇の中から助け出してくれた……ひとりぼっちがいやなのは、ぼくも一緒だから……!」

ヒツギの胸に翳される、アルの小さな手。

瞬間、そこから光の奔流があふれ出した。

 

「うわあっ!」「っ———!!」

立ち上る極光が、コオリの体を弾き飛ばす。

「だから今度は……ぼくが助ける!絶対に、死なせたりしない!!」

『そんな、こんな事って……!』

瞠目するエンガの端末から、シエラの驚嘆の声が漏れ出る。

 

「シエラさん、あれは……!!」

『ヒツギさんのバイタルが回復しています!いえ、これは復元……!?あのフォトンが、ヒツギさんを再構成して……!!』

言いかけたシエラの声を遮り、端末のアラートが鳴る。

 

エンガの対岸、コオリがいる更に向こう側に、

「オフィエル、何よあれ!あんなの100%聞いてない!!」

「案ずるなオークゥ……私も知らん」

先ほど戦闘から離脱した二人の使徒が、いつの間にか立っていた。

 

「だがこれなら、我々が出向いたのにも合点がいく……!」

「彼奴ら……!」

走り出すエンガ。

抜き放たれた双銃に、起き上がったコオリが反応する。

 

「させるか…」「邪魔なんだよ!!」

エンガは躊躇しなかった。

怒声と共に叩き込まれる銃撃が、コオリを吹き飛ばす。

「きゃあッ!!」

「くッ……!オークゥ、出るぞ!」「オーケイ!!」

 

飛び降りるオークゥの背後で、伸ばされるオフィエルの右手。同時に、エンガの目の前からコオリが消える。

「な、何だ……!?」

「隔離術式開始……目標を確保する……!」

立ち止まったエンガの背後。

 

「……もう、大丈夫だよ。お姉ちゃん」

光が少しづつ弱まり、傷が癒えたヒツギの姿が露になる。

「だから、泣かないで………」

直後、収束する光の中にいたアルを、直方体状の領域が覆う。

 

「しまっ……!!」

エンガが目を見開いたその時、アルが叫んだ。

「……っ!アリスお姉ちゃん!!」

「—————!!」

瞬間、輝光が蘇る。

音もなく驀進したアメリアスが、アルを覆う領域を叩き割った。

 

「何っ!!?」「……っあ!!」

勢いを殺しきれず、アメリアスがそのまま倒れ込む。

「隔離領域を割っただと……!ならば!」

オフィエルの手が、気を失ったヒツギに向けられる。

「クソっ!!」

エンガがライフルを向ける間もなく、ヒツギの姿は掻き消えた。

 

「最良叶わず…だが、次善要項は果たした。……ここまでか」

「この…!待ちやがれ……!?」

叫んだエンガの横を、風が通り抜ける。

「はああああああああああっ!!」

「まだ動けるの!?マ、マクスウェル!!」

 

飛翔しようとしたアメリアスを、マクスウェルの悪魔が牽制する。

「きゃっ———!」

そして2人の動きが止まった、その瞬間、

「オフィエル、早く!」「問題ない……!」

2人の使徒は、光と共に虚空に消えた。

 

『………使徒の反応、完全にロスト、しました……』

消え入りそうなシエラの声に、アメリアスが糸が切れたように座り込む。

「ヒツ、ギ………」

呆然と空を見上げたエンガは、沈黙するアメリアスに気づいた。

 

「はっ……お、おい…アメリアス……?」

俯いたままの後ろ姿へ、そろりと歩み寄る。

そして、八坂炎雅は気づいた。

「……っ、ううっ……!!」

嘗て大切な人を救い、星の護り手と称えられた少女は。

守護輝士は、泣いていた。

 

———————————————

 

———その時。

「……成る程」

彼らの知らぬ所で、彼らを傍観する存在があった。

「この力、このフォトン………やはりか。やはり、そうなのだな」

 

他に聞く者のいない場所で、それは呟く。

「待っていたぞ、その力を……」

少年が剣を弾き、少女が隔絶を叩き割る最中に、

「その目覚めを、私は待ち侘びていた……!」

たったそれだけの言葉を残し、それは戦場から立ち去った。

 

I promised never to lose anyone.

I promised never to lose anything.

This was my only oath. And my only identity…

 




「キリハギロール」———「モザイクロール」

殺したっていいじゃないか アタシが嫌うキミなんて
殺したっていいじゃないか アタシが嫌うアタシなんて
—————
………

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