ファンタシースターオンライン2 「Reborn」EPISODE 4(休止中)   作:超天元突破メガネ

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気づけば当小説、累計1万UAとなりました。
ちょこっとでも目を通してくださった方々、ありがとうございます。
EP4は此処からが本番です。
拙い文ですが頑張りますので、よろしくお願いいたします。


SB4-9「境界性ラインアート」

AD2028:4/12 10:41

地球:ラスベガス

 

「な—————!?」

目の前に現れた姿を、ヒツギは信じることが出来なかった。

ラスベガスに現れた「使徒」……それは、彼女の親友だった。

 

「コオリ……!どうしてあいつ等と一緒になんか!?」

「天羽々斬」を投げ捨て、ヒツギは問いかける。

「………」

鷲宮氷荊は答えない。

ただその紅い瞳が、静かにヒツギを見つめている。

 

「……っ!何か言ってよ!何のつもりなのよあんた!!」

当惑と疑心にかられ、ヒツギの語気が強まる。

「…………めろ」

「え……?」

そして、少女の返答は、

 

「……やめろ!ヒツギちゃんみたいなことを言うなっ!!」

叫びと共に放たれた、数発の氷柱(ギ・バータ)だった。

「っ!?」

咄嗟に刀を具現し、迫る氷柱を切り払うヒツギ。

 

「ヒツギちゃん、待っててねヒツギちゃん。すぐにわたしが元に戻してあげるからね、ヒツギちゃんを解放してあげるからね」

瞠目する親友に、コオリは語りかける。

「ヒツギちゃんは操られてるだけだから、わたしが助けてあげなくちゃ……いけないの。マザーも、そう言ってたから……」

「コオリ……!?何を言ってるの、コオリ…!!」

叫びかけたヒツギは、思わず喉を引きつらせた。

 

彼女は目の前の親友を、八坂火継を見ていない。

ではコオリが見つめているのは……彼女の前にいる少女(じぶん)は、何だ?

「いいんだよヒツギちゃん。わたしはヒツギちゃんを助けたいだけだから。気にしなくていいんだよヒツギちゃん」

コオリの周囲。

青い粒子が集い、凍てつく闇がコオリを覆う。

「だってヒツギちゃんはわたしを守ってくれた。ひとりぼっちだったわたしと一緒にいてくれて……わたしを救ってくれた!!」

 

収束する闇の中で、コオリの纏う正装が変異する。

開かれたアウターコートは下部が格子状に引き裂かれ、ボンテージドレスのようなベースウェアが露になる。

そしてその右手には、禍々しい紫色の大剣が握られていた。

 

「具現武装……!?」

変貌したコオリの姿に、ヒツギは言葉を失った。

エーテルが成すのは意思の具現。

その姿が想起させるのは、逸脱した狂気そのもの。

 

「これはね、ヒツギちゃんを助けるための力なの。ヒツギちゃんを、救うためにもらった力なの」

誇るように、見せつけるように、手の大剣を玩ぶコオリ。

掻き撫でたように顔を覆う前髪の間から、光のない紅瞳がヒツギを見る。

 

「コオリ……!」

「いつも、わたしはヒツギちゃんに守ってもらってた。ヒツギちゃんに救ってもらってた。だから今度は私が……ヒツギちゃんを守るの!救うの!!」

認めたくない事実に、ヒツギはようやく気付いた。

今の鷲宮氷荊にとって、目の前の少女は唯一無二の親友ではない。

 

「ヒツギちゃんはだまされてるだけなんだから……ヒツギちゃんは操られてるだけなんだから……わたしが、ヒツギちゃんを、助け出すの!」

そう。

その瞳の先にあるのは、邪魔をする敵の姿だけだった。

 

 

 

「こ、の野郎!」

幻創の双銃から飛ぶ銃撃が、飛行する目玉を弾き飛ばす。

「こっちを落としたところでキリがねぇぞ…!」

背後から、エンガさんが叫ぶ声が響く。

 

私はその声を背に疾走する。

「でやあああああああっ!!」

大型種へ叩き込んだ蹴撃が、またも逸らされる。

私は宙返りして着地し、大型種……「ラプラスの悪魔」を睨みつけた。

 

数分の交戦で確信した。この幻創種は、ただ攻撃を弾いているのではない。

「100%無駄よ。ラプラスにはどんな攻撃も通らない」

「本当に『何でもあり』か……驚くを通り越して呆れますよ」

頭上のオークゥを見上げ、吐き捨てる。

……「外れている」のだ。どれだけ的確な攻撃でも、ヒットするその瞬間に。

 

言うまでもなく、これではキリがない。ヒツギさんの下へ急がないといけないのに……!

「ぐあっ!」「エンガさん!?」

「マクスウェル」の放つフォイエのような炎弾を受け、背後のエンガさんが体勢を崩す。

「こいつっ!」

私は背後へと飛び、そのままマクスウェルを蹴り抜いた。

 

「エンガさん、落ち着いて……っ!?」

声を掛けた直後、視界を焼く閃光。

叩き落としたマクスウェルが、一瞬の後に爆散する。

「うわあっ!?」

その時、私の眼は全周囲を捕捉していた。

否が応でも視界を埋め尽くす光に、思わず動きが止まる。

 

「アメリアスっ!!」

その一瞬で、「ラプラス」が目の前に現れる。

「っ————!!」

振り上げられる、巨大な爪。

咄嗟にデュアルブレードで受け止めるも、私は大きく吹き飛ばされた。

 

「こんのっ……」

「意外と大したことないのね、『守護輝士(ガーディアン)』!」

起き上がった私に、嘲笑の声が降り注ぐ。

込み上がる怒りを、私はコンクリートを踏みつけて抑え込んだ。

 

悪いが、おいそれと負けを認めはしない。

例えエーテルが生み出す幻想が相手でも、その元は人間。絶対に穴がある。

『アメリアスさん!ヒツギさんとの通信が……!』

……と。

そのシエラの声に、私ははっと閃いた。

 

『座標は掴めてるのですが、急に通信だけ途切れて…』

「シエラ、悪いけど彼女は後!私がこれから言うワードを検索して、リアルタイムでデータを送って!」

手短に指示し、エンガさんの方を振り向く。

 

「エンガさん…マクスウェルの方は任せます!」

「……ああ、わかった!!」

双銃を振り上げるエンガさんを背に、私はラプラスの眼前へと躍り上がった。

「ふっ、はあっ!!」

悉く弾かれる蹴撃。

振り回される両腕を躱しながら、私はラプラスへ攻撃を続ける。

 

流石にあの図体、威力は高くても攻撃のスピード自体は緩い。回避自体は容易だ。

「ちょこまかと……!マクスウェル!!」

「させるかよ!!」

私に迫るマクスウェルは、エンガさんが的確に撃ち落としてくれる。

そして私が一度着地したとき、シエラから検索結果が帰ってきた。

 

『テキストデータ送ります!』

「ナイスタイミング!」

すかさず端末のウインドウを背中側に展開。ラプラスを引きつけつつ、送られてきたデータを流し読む。

 

「ラプラスの悪魔」。地球で提唱された因果律理論の究極であり、宇宙の法則(ルール)全てを知ると仮定された存在。

「マクスウェルの悪魔」。熱力学第二法則を否定し、地球物理学の根幹を揺るがし得る存在。

……成る程。ラプラスのトリックは大方読めた。

具体的な数字と数式が与えられてしまえば、人間だって物理法則を理解することができる。全ての自然法則を理解するような存在であれば、どんな攻撃だって躱せてしまうだろう。

 

しかし、「マクスウェルの悪魔」の性質が引っかかる。

(常識を……既存の法則を否定?)

エンガさんが応戦している目玉と、自分が引き付けている巨躯を、もう一度見比べて、

「………そうか!」

思ったより簡単に、私は見つけ出した。

 

この2体の弱点。

人の意志から生まれた存在であるゆえに持ちうる、決定的な矛盾を。

私はラプラスの足元へ着地し、エンガさんの方へと飛び退いた。

「アメリアス……?」

「突破口が見つかりました。ちょっと見ててください…!」

 

言って、行動を開始する。

「ふっ、何をしたって100%無駄よ!」

オークゥの声に応じ、此方を狙うマクスウェル。

私は瞬間、思いっきり飛び出した。

 

「はああああっ!!」

大きな目玉と睨みあう間もなく、ブーツの爪先を叩きこむ。

吹っ飛びながらも自爆の兆候を見せるマクスウェル。しかし。

その吹き飛んでいく先には、ラプラスの悪魔がいた。

「っ!」

迸る閃光から目を覆い、直ぐに前方を再確認する。

 

マクスウェルの姿が消え、そこには。

もんどりうって倒れる、紫色の巨体があった。

「通った……!」

「なっ……マジかよ!?」

安堵の息を漏らした私の横で、エンガさんが瞠目する。

 

そしてその驚きは、此方だけではなく。

「な、なんでよ……!?」

オークゥさえも、その光景に驚愕していた。

 

そして私は躊躇なく、ラプラスの下へ突進する。

「に、200%あり得ない!!因果律を超えるなんて……!!」

起き上がるラプラスの、緩慢に振るわれた腕を縫い、

「何が、何が起こってるのよ!!」

フォトンの光が迸る。

「喰らええええっ!!!」

ラプラスの丸い腹に、私は全力のヴィントジーカーを叩きこんだ。

 

「うわああっ!!?」

オークゥの横を掠め、ラプラスの悪魔が転がっていく。

そして私はそれを追い、

「……私の勝ちだ。オークゥ・ミラー」

持ち替えた銃剣(ガンスラッシュ)を、起き上がろうとしたオークゥに突きつけた。

 

「な……何よ!まだラプラスは……!!」

顔を上げるオークゥ。

その視線の先には、ビルの縁で起き上がろうとするラプラス。そして、それに銃口を向けるエンガさんがいる。

「悪いが終わりだ、数学者サン」

ライフルが火を噴く。

因果を奪われた悪魔は、ビルの下へと落ちていった。

 

それを見たオークゥが、諦めたように項垂れる。

『ラプラス、落下の衝撃による消滅を確認しました』

「……どうやら年貢の納め時だな。使徒サンよ」

同時に消滅したマクスウェルの残滓を払い、エンガさんが歩いてくる。

 

「しかしアメリアス、何であのデカブツに攻撃が通ったんだ?」

「ネタばらしをしている時間はありません。エンガさん、彼女の確保をお願いできますか」

仮説の説明はするべきなのだろうが、今は時間が惜しい。

エンガさんもそれを悟り、オークゥを見る。

「……そうだな、地球のことは地球人がケリをつける。お前はヒツギの方に急いでくれ」

私は頷いて、ビルを飛び降りた。

 

 

AD2028:4/12 11:02

地球:ラスベガス

 

 

「がっ………!!」

吹き飛ばされたヒツギの体が、タイル敷きの地面に叩きつけられる。

「やめて……!やめてよ、コオリっ!!」

大剣を引きずり迫るコオリへ、ヒツギは掠れた声で叫ぶ。

「ふふ……やっぱりそうだ。アナタは迷ってる。迷ってるんだ」

黒髪に遮られた奥で、コオリが嗤った。

 

「迷って、る……?」

「そうだよ。わたしは自分の意思でここにいる。わたしがヒツギちゃんと一緒にいたいと思ったから。でもアナタは違う。その意思はニセモノ」

振り下ろされる刃。

重力に従順な剣を身を捻って躱し、ヒツギは首を振る。

 

「違う、あたしは迷ってなんかいない……!」

「わたし、前にも言ったよね?何事にも迷わず突き進んでいくのがヒツギちゃんだって。そんな迷ってるヒツギちゃん、ヒツギちゃんじゃない」

コオリの握る大剣が、黒く光る。

瞬間、コオリの体は弾丸の如く驀進した。

 

(ギルティブレイク———!?)

一瞬のうちに迫った刃を、ヒツギは真正面から受け止める。

「ぐうっ———!!」

「ヒツギちゃん、ねぇヒツギちゃん?どうしてヒツギちゃんはそっちにいるの?」

淀んだ紅が、交錯する剣の向こうから問いかける。

 

「その場所に迷ってまで———なんでわたしと違うところにいるの?」

「………っ!?」

その時何を思ったのか、ヒツギは覚えていない。

コオリの言動に恐怖したのか。

はたまた、その言葉に動揺したのか。

 

ただ、気づいた時には。

目の前に翳した「天羽々斬」が、粉々に砕け。

「がっ……ああああっ!!!」

コオリの振り下ろした刃が、ヒツギの左肩を深々と斬り裂いていた。

 

肩口から鮮血が噴き出し、ヒツギは地面に倒れ込む。

「う、ぐあっ……!?痛い、いた、い、っ……!!」

溢れ出で、タイルに広がる血の上で、ヒツギの刀は形を失い消えていく。

そして、

「ほら……嘘でできた武器はぺらぺら。こんなに簡単に折れちゃったよ」

床に倒れた少女の姿に、コオリは嘲笑うように言い放った。

 

「待っててねヒツギちゃん、わたしがすぐにこの……偽物を殺してあげる」

何もない虚空へ呼びかけながら、コオリはふらふらとヒツギの下へ歩み寄る。

「やだ……コオリ……!!」

「こんなヒツギちゃんはいらない……わたしが大好きなヒツギちゃんは、ここにはいないから……」

黒い魔剣が、ゆっくりと振り上げられる。

 

「やめ、て………!!」

「大丈夫だよ、すぐに終わるから……そうしたら、マザーが光に戻してくれるから……!」

霞む目の前に、コオリの向けた刃が迫る。

「やめて……!!来ないで………っ!!!」

「——————————ヒツギっ!!!!」

 

何処からか聞こえた少女の声に、意識を向ける間も与えられるまま。

「……ヒツギちゃんはそんなこと言わないよ」

———冷たい刃が、ヒツギの胸を刺し貫いた。

 

 




「境界性ラインアート」
ものくろの善悪に塗れて無我夢中で踊るだけ
我儘な君なんて要らない
意図辿って愛頂戴頂戴

—————
すまねぇコオリちゃん……!
君の心を映すには、自分のボキャではこれが限界なんだ……!!

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