ファンタシースターオンライン2 「Reborn」EPISODE 4(休止中) 作:超天元突破メガネ
A.P241:4/10 14:50
地球:ラスベガス
その後。
私が目を覚ましたのは、1時間ほど後だった。
「すいません、私が至らないばかりに……」
「何言ってんだ。アイツとまともにやりあうだけで十分すぎる——つっ」
何とか起き上がった私の前で、エンガさんが顔をしかめる。
やはり、火の使徒にやられたのが響いているようだ。
「あ、アメリアスは大丈夫なの?」
「メイト飲んだからとりあえずは。もっとも……」
ヒツギの問いかけに答えて、顔を落とす。
「あれだけ手加減されれば、ね」
「て、手加減?」
やはりというか、ヒツギは気づいていなかったようだ。
先の戦闘。火の使徒———ファレグ・アイヴズの攻撃に感じていた違和感。否、正常故の異常というべきか。
「シエラ、さっきの戦闘なんだけど」
『———アメリアスさんのお考えのとおりです。火の使徒の一連の行動の中で、エーテル、ないしフォトンに干渉した形跡は一切ありませんでした』
その答えに、ヒツギが目を丸くした。
「じゃあ、ファレグは……」
「『生身のまま』、私達3人を一蹴したってこと……エンガさんの言った通り、『魔人』だよ。あれは」
ため息すら出ない。
おそらくギグル・グンネガムくらいは吹っ飛ばせたであろうエネルギーを受け止めるとか、そんなことができる人間が存在していいのか、とまで思えてくる。
「落ち着いたか?」
と、
エンガさんが改めて、そう尋ねてきた。
「本部に連絡は入れておいたが……ケガは」
「大丈夫です。それより会談の方は……」
「向こうに連絡は入れた。流石に、洒落にならない状況になったからな……」
そうですか、と頷いて、立ち上がる。
歩き出しかけてふと自分の体を見ると、着ていたパーカーはボロボロになってしまっていた。
「はぁ……割といい値段したのに」
さすがに、この格好で出歩くわけにもいかない……そういえば、着替えるならちゃんと脱がないといけないのか。
エンガさんも着替えたいということだったので、一度近くのトイレに移動することにした。
A.P241:4/10 15:30
地球:ラスベガス
「……これ、どこまで降りるんですか?」
エレベーターがゆっくりと下へ移動するのを感じながら、私はエンガさんに問いかけた。
「もう着くぞ。ほれ」
エンガさんが答えるのとほぼ同時に、エレベーターが止まり、ドアが開く。
「「………おわぁ」」
目の前に広がった景色に、思わず、ヒツギと二人で感嘆の声を上げた。
シンプルかつ豪奢な調度の、広い部屋。オラクルにはない雰囲気の装飾だ。
さらに私たち側から見て正面の壁はガラス張りになっており、直下には管制室のようなスペースが広がっていた。
「奇麗……ベガスの地下にこんなの作ってるなんて、アースガイドはどんな組織力してんのよ……」
『個人的意見ですが場所に驚きです。ラスベガスのカジノから地下へ、長い廊下とエレベーターの乗り換えが2回……居場所を特定されないよう、相当な注意を払っていますね』
シエラの声に、エンガさんはまあな、と苦笑する。
「このご時世、どこまで効果があるか分からんが。念のためってやつだ」
そうか、エーテルインフラ…これだけやっても、隠蔽は難しいのかもしれない。
「でも、本当に凄いですよここ。あの管制室なんて、まるでアークスシップみたいです」
『アメリアスさん、オペレーティングエリアを見たことが?』
「まあ、研修中に見学で」
肯定を返すと、ヒツギさんがへぇ、と声を上げる。
「いいなぁ、あたしもバックヤード覗いてみたい」
「……マイペースだな、お嬢さん方……」
ついつい盛り上がってしまった私たちを見て、エンガさんがため息を吐いた、その時だった。
「———ははっ。ずいぶんと賑やかだね、エンガ」
ボディーガードと思しき男性二人を引き連れ、白いスーツを着た青年が入ってきた。
「だから言ったろ、騒がしくなるって。それでも連れていこといったのはお前だぜ、王子様?」
「構わないさ。僕もこういう雰囲気のほうが好きだからね」
そちらに気づいて言ったエンガさんに、青年が微笑みを返す。
そして青年は、私たちの方を見て、
「初めまして、アメリアスさん。アースガイド代表、アーデム・セークリッドと申します」
「あ、はい……初めまして」
伸ばされた右手を、私は恐る恐る握り返した。
「そちらがエンガの妹さん……八坂ヒツギさんですね?お会いできてよかった」
「あ、ご丁寧にどうも……」
(緊張しすぎですよアメリアスさん)
(うるさい)
ヒツギさんとも握手を済ませたアーデムさんは、またこちらに向き直る。
「こんな所までご足労をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした。お噂をかねがね伺っていたので、どうしてもお会いしたいと思ってしまって……」
「あ、いえ……」
お噂をかねがね……?アースガイドも調査をしていたのだろうか。
「それに、アメリアスさん達は次元の隔てた宇宙よりいらっしゃったと考えると…この邂逅は一地球人として、とても感慨深いです」
「……全然気にしてなかったけど、何気とんでもない状況よね兄さん」
「……まあ、宇宙関係の研究してる学者なんかは、目を回してひっくり返るレベルだろうな」
するとエンガさんが、横から口を開いた。
「ところでアーデム、警戒態勢の伝達は」
「ああ、ラスベガスエリアの全員に通達した。君たちが『火の使徒』と交戦したと聞いたときは、気が気でなかったよ。本当に無事でよかった」
「……まあ、そこの規格外さんのおかげでな」
「え、それ私のことですか」
「たりめーだ」と、あきれた様子で答えるエンガさん。
「さっきも言ったろ、アイツと少しでもまともに戦えた奴なんていねえんだよ」
「エンガからの連絡が『事後報告』だったものだから、本当に驚いたよ」
と、アーデムさんも頷く。
規格外って、私も結局ぶっ飛ばされたんですが……まあいいか。
「彼女のことも気にかかりますが…今は僕たちがすべきことをしましょう。オラクルの方々に、地球の現状を話さないといけない」
アーデムさんはそう言って、向かい側の大きな机の前に座った。
「マザー・クラスタの活動がオラクル側で表面化し始めたのは、こちらも把握しています。そして地球側でも、彼らのアースガイドへの攻撃が激化しているんです」
「今まではにらみ合いの状況が続いていたが、ここへ来てかなり強引にこちらを潰しに来ている……正直、旗色は悪い」
お二人の話を聞きながら、少し思案する。
もともとマザー・クラスタはPSO2というゲームを介し、こちら側のことを探っていた。
それが直接行動に出たということは、何かトリガーになるものが見つかったか、はたまた発生したのか。
今のところ、心当たりは一つしかない。
(やっぱり、アル君か……)
「……結局、マザー・クラスタは何がしたいの?地球制服……とか?」
「それは違うんじゃないかな。それだけだったら、オラクルへの介入や、アル君を狙うことへの理由にならないでしょ?」
オラクル側を狙う、明確な理由があるのは間違いないのだ。
「元マザー・クラスタのバカ妹、その辺はどうなんだ?」
「いちいちトゲのある言い方しないでよ!でも、マザーの目的と言われても……」
考え込むヒツギ。
そう、ある意味これが、この状況を挽回しにくい原因だ。
ヒツギが知らされていたマザー・クラスタの活動内容は、「esc-a」の監視と保全。彼女がずっと混乱し続けているのは、何も知らされていない末端だったからに他ならない。
やはりヒツギの知っている限りの情報から、何か糸口が見つかればいいのだが。
「ヒツギ、その『マザー』っていうのから、何か言われたこととかないの?」
「と言われても、そもそも加入したのもだいぶ前だし……その時もただ『素質があるから』の一言で誘われたの」
「素質……PSO2を介して、オラクル側に入る能力だな。要するに、エーテル適性のある人間を集めてるってことか」
エーテルへの適性。これも、たびたび出てくる言葉だ。
「フォトンへの干渉操作に適性があるみたいに、エーテルを何処まで扱えるかも個人差があるんですね」
「はい。ですがエーテル能力の習得は、技術の習得と同じ。仕組みを理解し、正しい研鑽を積めば成長することもあります」
「え……?あそうか、ヒツギが……」
思わず聞き返したが、考えてみればその成長を、私は目の前で見ていたのだった。
「イメージとしては、エーテルの適性が上がるごとに、出来ることが増えていく、といったところでしょうか。例えば適性のない人でも、PSO2を介してアバターを投入し、遠隔から操作することはできます」
「……尤も、それでこちらの情報が漏れてしまってるみたいなんですけどね」
「はい、PSO2をマザーが情報源にしているのは、間違いないでしょう……そしてある程度の適性があれば、アバターを通じてPSO2に直接ダイブすることができるようになります」
それはヒツギが自分のアバター…現アル君の体を通じて、ずっとやって来たことだ。
「じゃあ、マザー・クラスタに選ばれる条件は…」
「その水準…仮にレベル1としておきましょう。レベル1の適性を持っていること、と考えられます」
「……そして、次の段階になると」
呟いたヒツギに、アーデムさんは頷きを返した。
「PSO2を使って、生身で直接オラクルにダイブできるようになります。それともう一つ」
「……具現化能力。自分で直接エーテルに干渉し、思い通りの形を取らせることができるようになる、ってことか」
エンガさんが何かを持ち上げるように、軽く腕を動かす。
すると小さな光が散り、その手の中に、一丁のハンドガンが現れた。
「はい。そしてそこまで至った人々が、マザー・クラスタの中核を担う存在となり、世界への影響力を強めていく」
マザーに協力する代わりに技術的援助を受け、「時代の寵児」と称えられた亜贄萩斗。
その能力と信念をマザーに認められ、復権を成した鬼才、ベトール・ゼラズニィ。
「さらにマザー・クラスタの中核において際立った能力を持つ7人は、『使徒』と呼ばれ、マザーの側近のような立場にあるようです」
そう、彼らだけではない。
ベトールの粛清に現れた4人の「使徒」…あの後アースガイドからの情報含め色々調べたのだが、なんと全員、こちらでは世界的に名の知られた著名人だったのだ。
「火の使徒」、ファレグ・アイヴズは例外のようだが、彼女の発言からするに、完全に組織の一人として動いているのではないのだろう。
「………よく、そんなのに気づけたわね」
ぽろっと漏れ出たヒツギの声に、アーデムさんは苦笑する。
「まあ…僕達もそれなりに、社会的影響力は備えていますから」
「そーだぜヒツギ。何やったかは知らないけど、こいつなんかナイトだナイト。サー・アーデムだぜ?意味不明だろ」
「……そのせいで、彼には時々『王子様』なんておちょくられますが」
アーデムさんは小さく咳払いすると、それに、と言って、
「ある程度の社会的地位がないと、アースガイドの活動は成り立ちませんから」
「んぇ……?」
アーデムさんのその発言に、私が首を傾げた、その時だった。
「—————!?」
突然、背後の指令室にアラートが鳴り響いた。
「どうした!?」
『報告します!本部付近にて大規模なエーテルの過剰反応を確認!!』
直ぐに通信をつないだアーデムさんの下に、構成員からの緊急連絡が届けられる。
『アメリアスさん!!』
「おっとシエラ!なんか黙ってたから忘れてた…!!」
『ひどいです空気読んで大人しくしてたのに!というか!!幻創種の固有反応が大量に……!!』
シエラの声を掻き消すように、爆発の揺れが一帯を襲う。
「随分早いご到着だな……アーデム、どうする?」
エンガさんの問いかけに、アーデムさんは毅然と答えた。
「———アースガイドの意思を、見せる時が来たんだよ」
「真っ向から迎え撃つってワケか。まったく、俺たち働き者だな、おい?」
ちらっとこちらを向いたエンガさんに、小さく肩をすくめて見せる。
何にせよ、私たちのすべきことは変わらない。
敵性存在を排除し、出会った星を護る。それが
すると顔を上げた私の前で、アーデムさんが机の端末を手に取った。
「皆、ついにこの時が来た。僕達の、
アーデムさんの声が、宣戦布告を伝える。
「———アースガイド本部、全エージェントへ通達。我々はアークスと共に、かの組織を…マザー・クラスタを打倒する!」
響き渡ったその声は、確かな「意思」そのものだった。
「砂の惑星」
こんな具合でまたすり減る運命 しょうもない音でかすれた生命
立ち入り禁止の札で満ちた 砂の惑星さ
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↑歌詞の順番はわざと変えていますのでお気になさらず。
そういえばオラクルサイドは、PSO2としてやってきている一般プレイヤーについてはどうしていたんでしょうね?