ファンタシースターオンライン2 「Reborn」EPISODE 4(休止中) 作:超天元突破メガネ
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「ぶはあっ!⋯はあっ⋯戻って、これた⋯!?」
強制ログアウトを試みたヒツギは、次の瞬間、自室のイスに飛び込んでいた。
「はあ〜⋯なんとかログアウト出来たみたいね⋯」
本棚が並び、隅にベッドを置いた一人部屋。
周囲を見回したヒツギは、ため息をつく。
「全く、なんだったのよあれは⋯!エーテルインフラのバグにしたって動けなくなるとか、タチ悪すぎでしょ⋯!」
自分の手を見つめ、心を落ち着かせる。
「落ち着け⋯落ち着けあたし⋯!あれは『PSO2』内での出来事!こっちに帰って来れば、もう問題ない⋯!」
目の前の机に置かれたパソコン。
そこには、「PHANTASY STAR ONLINE 2」のロゴが踊っていた。
「そう⋯ ここは地球。母なる青い地球⋯! 戦いも争いもない、平和な場所⋯!」
あえて芝居掛かった口調で呟き、窓の外の空を見る。
窓に薄く映り込んでいるのは、赤毛をポニーテールにまとめて、青いニットセーターを着た少女⋯ 紛れもない、自分の姿だ。
ヒツギはすっと立ち上がり、自分の部屋を見回す。
「そしてここはあたしの砦、あたしだけの部屋!情報化社会に必要不可欠なパソコンも⋯ 」
視界が一周して、ベッドへ。
「疲れきった体を癒してくれるベッド⋯ も⋯⋯ え」
速攻、ベッドから目を背ける。
ベッドの上に、なにか⋯ いた。
「そ、そう!ここは地球、母なる青い地球!そしてあたしの、あたしだけの部屋!だからあのベッドは、あたしの⋯ ! 」
同じ台詞を繰り返し、もう一度視線をベッドへ⋯ !
「⋯ 」
やっぱり、なにかいる。
「あ⋯ あぁ⋯ 」
ヒツギはしゃがみ込み、胸を押さえた。
「餅つけ⋯ いや、落ち着けヒツギ⋯ !先ずは目を閉じて深呼吸⋯ !すーっ、はーっ⋯ 」
何度も深呼吸する。
「あたしはヒツギ、
ガバッと立ち上がり、ひたすら自分に言い聞かせる。
「ここは地球、ここは東京、ここは学校、ここは寮!PSO2の中じゃない、間違いなく現実の世界!」
言い聞かせて、言い聞かせて、
「だからあれは夢!ベッドの上にいるのはマボロシ!想像の産物目の錯覚っ!私は疲れてるだけええっ!!」
渾身のシャウトの後、もう一度ベッドへ振り向いた!
そこには⋯ むくりと起き上がった、なぜか何も着ていない、見覚えのある少年の姿。
「だあっ、まだいるぅ⋯ それどころか起きてるぅ!」
混乱するヒツギの前で、少年はぼんやりと周りを見る。
「⋯ ここ、どこ⋯ ? 」
「しかも喋った!いやいや、まだ幻聴という線も⋯ 」
「ねえ⋯ ここどこ? 」
「こっち見た!話しかけられた! 夢でもマボロシでも無かったーっ!! 」
頭を抱えたヒツギは、次には慌てて目を手で覆う。
全裸の少年が、心配げに、のそのそとこちらへ寄ってきたからだ。
「ど⋯ どうしたの? 」
「動くな動いちゃダメ色々見える! というか今の状態で相当際どい! というかなんで裸なのよ! 服どうしたのよおっ!! 」
「⋯ はだか? 」
「だから動くなあっ! あぁぁもぉぉぉ! うぅ⋯ 」
混乱しきった頭を抱え、うずくまる。
「どこかいたいの⋯ ? だいじょうぶ⋯ ? 」
「⋯ ちょっと待ってて。現実逃避を止めて、受け入れる準備してるから⋯ 」
もう、自分を誤魔化すわけにはいかない。
ヒツギは心を落ち着けて、顔を上げた。
「⋯ よっし落ち着いてきたぞ火継⋯ さあ、聞かせてもらおうじゃないの! 貴方は何者! 名前は何っ! 」
ビシッと少年に告げるヒツギ。
少年は考えるように、ぽーっと天井を見上げて、
「⋯ ヒツギ」
「それあたしの名前でしょう! あんたの名前よ! な・ま・え!!」
すると少年は、戸惑った様子で、
「ヒツギ⋯ はちがうの?じゃあ⋯ わかんない」
そう、答えた。
「あーもうっ! あんたは一体なんなのよー! 」
ヒツギの混乱は増すばかり。それもそのはず、この少年は⋯
「よく見るとあんた、あたしのアバターそっくりだし!まるでPSO2の中から出てきたみたいじゃない⋯ ん!? 」
ちらっと、パソコンに視線を動かす。
「まさか、本当に出てきたなんてこと⋯ ないない、そんなことありえない! 」
そう、そんなわけない。そんな筈はない。だって。
「『マザー』はそんなこと言ってなかったし⋯ ! 」
ヒツギが呟いた、その時、
ドンドンと、乱暴にドアが叩かれた。
「う⋯ 騒ぎすぎたかな⋯ 寮長だよねこれ、たぶん⋯ 」
再び、乱暴なノックが重なる。
「はーいはい! すぐに出ますっ!! 」
ヒツギが慌ててドアに駆け寄ったのを見ていた少年は、はっとしてヒツギに這い寄った。
「駄目⋯ ! 危ない!! 」
瞬間。
一気に開け放たれたドアに、ヒツギは押し飛ばされた。
「あいたたた⋯! どうしたのよ急に⋯!」
頭を押さえ、顔を上げたヒツギは⋯ 凍りつく。
目の前にいたのは⋯ 青い、ヒトガタをした化物だった。
「は⋯!? なにこのバケモノ⋯!? 次から次へとなんだってのよ⋯ ! 」
反射的に立ち上がったものの、じりじりと後ずさる。
その時、泣きそうな顔のヒツギに、化物が手に握ったナイフを振り下ろした!
「危ないっ! 」
ヒツギの目の前に飛び出した少年が、その刃を背中に受け、倒れこむ。
ヒツギは倒れてきた少年を抱え、へたり込んだ。
「あ、あんた⋯ 私を庇って!? 」
化物が容赦なく、ヒツギに迫る。
「く⋯ 来るなっ⋯ ! 来るなあっ!! 」
無慈悲な刃が、ヒツギへと掲げられる。
「誰か⋯! 誰か、助けてえっ!! 」
涙を散らし、ヒツギは叫んだ。
そのヒツギに、ナイフが振り下ろされた⋯ その時!
「わあっ!」
一瞬光ったパソコンから、何者かが飛び出した!
「⋯ 此処は⋯ ?」
現れた銀髪の少女は、戸惑った顔で辺りを見渡す。
「あ、あんたは⋯ !? 」
ヒツギと化物との間に着地した「彼女」を、ヒツギは知っていた。
「あんたは確か⋯ アマリリス!? どうしてここに!? 」
「アメリアスですっ! ⋯ というか、貴女こそ一体⋯ !? 」
アメリアスはヒツギの姿に驚きつつも、ひとまず化物に顔を向ける。
「とりあえず⋯ 邪魔! 」
そして躊躇なく、その懐に突っ込んだ。
すかさず視線を化物の胸に合わせ、一気に地面を蹴る!
「はああああっ!! 」
まるでゲームに出てくるような綺麗なサマーソルトキックが、化物を吹っ飛ばした!
「正直、よくわからなすぎだけど⋯ 」
アメリアスはヒツギを見て、にっと笑う。
「ここは任せて、ヒツギさん! 」
起き上がった化物へ向き直り、すっと右手を上げる。
そして指を鳴らし、叫んだ。
「『
瞬間、アメリアスの姿が消えた。
「えっ!? 」「こっちだよ! 」
がら空きになった化物の背中に、ジェットブーツの刃が突き刺さる。
その一撃で、化物は青い光になって霧散した。
「よっし!」
アメリアスは立ち上がり、ヒツギの方を確認する。
「う、うわあああああっ!! 」
「ヒツギさん!? 」
いつの間にか背後にいたもう一体が、ヒツギの方へ向かっている!
「させるかっての!! 」
周囲への影響が不安だが、考えてもいられない。
「グランヴェイヴ!! 」
一瞬で化物に追いつき、
「ごめんね!大丈夫!?」
「え、ええ⋯ 」
駆け寄る少女に、頷きを返すヒツギ。
「よくわからないけど、ありが、と⋯ 」
礼を言おうと顔を上げたヒツギは、凍りついた。
アメリアスの後ろに伸びる廊下、その端から、さっきの化物が拳銃を構えている⋯!
「あ、あ⋯!」
拳銃から打ち出される光弾。何か叫ぼうにも、声が出ない。
光弾は、音もなくアメリアスへ迫る。
⋯ 駄目だ、当たる。
自分が知らせようが知らせまいが、当たる⋯ !
その時、ヒツギは確かに見た。
アメリアスの右目が、一瞬、金の輝きを放ったのを。
そして、青い光弾がアメリアスへと着弾する、まさに直前。
アメリアスは一気に体を投げ出し、ヒツギの上に覆い被さった。
「うわっ! 」
そのまま進んだ光弾は、ガラスにぶつかり消える。
「う、嘘⋯ !?」
「せーふ⋯ よっと」
すくっと立ち上がるアメリアスを、ヒツギは信じられないといった顔で見る。
あの光弾は、間違いなくアメリアスには見えていなかった。
音も殆どなかった上、自分の呆然とした顔を見たとはいえ、光弾が迫っていることには気づいていない様子だった。
(どういう、こと⋯?)
思案するヒツギをよそに、アメリアスは眼前の敵⋯ 光弾の射手を睨みつける。
「さてと、覚悟は出来てるんでしょうね⋯ 」
さっきまでのアメリアスとは一線を画す、背後のヒツギにも伝わる程の闘志。
(あ⋯ あの化物、終わったな⋯ )
なぜか、ヒツギはそんな事を考えていた。
「はああああああっ!! 」
一瞬でアメリアスを化物へ運んだジェットブーツが、凄まじいエネルギーを吹き出す。
解き放つのは、終幕の
「ヴィント⋯ ジーカー!! 」
アメリアス渾身の蹴りが、化物を廊下の奥へと吹き飛ばす!
吹っ飛んだ化物は、奥でうろついていた別個体諸共、廊下端の壁に叩きつけられ、霧散した。
「これで全部、かな⋯ 」
廊下を滑るように一回りして、アメリアスはヒツギの部屋に戻る。
「あ、あのバケモノは⋯ !? 」
「大丈夫。全部倒したよ」
「よ、よかった⋯ 」
ヒツギは安堵の表情で、アメリアスを見る。
「よくわからないけど、助けてくれて、ありが⋯ と、う⋯ 」
ヒツギの意識は、そこですうっと途絶えた。
AD2028:3/22 16:30
「よいしょ、っと⋯ 」
少年と少女、2人の体を、ベッドに寝かせる。
すやすやと眠る2人を見た後、私は無線をつけてみた。
「シエラさん、聞こえますか?」
「アメリアスさん!?よかった、通信は問題ないです、さっきまでの戦闘も、一応モニター出来ていたので⋯ 」
「それはそれとして、2人の方は⋯ 」
「バイタル安定してます。心配しなくても大丈夫ですよ」
若干ノイズの混じった声が、2人の無事を知らせてくれる。
「それよりも、さっきの不可解なバケモノですね⋯ ダーカーとも違いますし、あれは一体⋯ 」
シエラさんも、まだ混乱しているようだ。
「リハビリがてらの簡単な任務かと思ったら、未知の座標に転送、そして戦闘⋯ 想像以上に大事になりそうですね⋯ 」
そんなシエラさんの声を聞いていたら、不意に一瞬、視界が眩んだ。
「わっ⋯ 」
慌てて、近くの机に手をつく。
はずみでそこにあった小さなデバイスが動き、机に置かれたディスプレイの画面が変わった。
「ん⋯ ? 」
ふと目に付いたのは、変化した画面の文字。
「あ、アメリアスさん!? 大丈夫ですか!? 」
シエラさんの声にも耳を貸さず、私は画面の中の文字を見つめる。
かなり形が違うが、これは、、、
「オラクルの文字に、似てる⋯ ? 」
念の為、探索用端末のカメラで一枚撮っておく。
「アメリアスさん! 」
「あっ、す、すいません! ちょっとふらっとして⋯ 」
「無理も無いです。大変な1日でしたからね⋯ とりあえず、帰ってきてもらえますか? 」
頷いて通信を切り、今日2回目のテレパイプを展開する。
「⋯ 」
こんこんと眠る2人が気になったが、今はここにはいられないと自分に言い聞かせて、テレパイプに入った。
AP241:3/22 20:00
アークスシップ:アメリアスのマイルーム
「つっかれたーっ!! 」
長かった1日(半日?)を終え、私はベッドにどさーっと倒れこんだ。
帰還早々フィリアさんに捕まり、メディカルチェックを受けさせられ、やっとこさ解放されて、今に至る。
必要性は重々承知なのだが⋯ やっぱり、検査というのはどうも嫌いだ。
「マスター⋯ お疲れ様⋯ 」
女性デューマン型のサポートパートナー、リオが、声をかけてくれる。
キャンプシップからメールを送った所、私が帰ってくる前に、最低限のルームグッズを置いといてくれたのだ。
「ほんとにありがとね〜リオ〜」
「⋯ 帰ってきたら絶対、どさーってしたいと思ったから⋯ 」
嬉しそうに、リオは短めの金髪を揺らす。
それを眺めていると、やはり眠気が差してきた。
出来ればもう、このまま眠ってしまいたかったのだが⋯ もう一つ、小さな仕事が残っているのを思い出した。
「さてと⋯ 」
うつ伏せに寝転んだまま布団を被り、目の前にウインドウを展開する。
映し出されたのは、さっき撮った一枚の画像。
そこに映った見たことも無い文字を、じーっと凝視する。
「これは⋯ P?うーん、変な形のもあるなぁ⋯ 」
分からない所は文脈から推察して、くるくると文字を回転させたり、裏返したり。
「L、わかんない、N、これは多分E⋯ 『ONLINE 』かな。最後のは⋯ 数字? 」
2時間ほど考えた末、一つの文が浮かび上がった。
「『PHANTASY STAR ONLINE 2』⋯? なんのことだろ⋯ ? 」
集中力には自信があるつもりだが、正直ここまで眠いと当てにならない。
「明日また考えよ⋯ おやすみ〜 」
アメリアスはウインドウを閉じて、ぽふっと顔を枕にうずめ、目を閉じた。
「嗚呼、素晴らしきニャン生」
現れた少年は、嘘みたいに純粋だった。