ファンタシースターオンライン2 「Reborn」EPISODE 4(休止中)   作:超天元突破メガネ

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幾つかご意見を頂いたので、小説の書き方を少し変えてみました。
ご意見ありましたら、ぜひお願いします。


SB1-3「嗚呼、素晴らしきニャン生」

AD2028:3/22 16:00

 

「ぶはあっ!⋯はあっ⋯戻って、これた⋯!?」

強制ログアウトを試みたヒツギは、次の瞬間、自室のイスに飛び込んでいた。

 

「はあ〜⋯なんとかログアウト出来たみたいね⋯」

本棚が並び、隅にベッドを置いた一人部屋。

周囲を見回したヒツギは、ため息をつく。

「全く、なんだったのよあれは⋯!エーテルインフラのバグにしたって動けなくなるとか、タチ悪すぎでしょ⋯!」

自分の手を見つめ、心を落ち着かせる。

「落ち着け⋯落ち着けあたし⋯!あれは『PSO2』内での出来事!こっちに帰って来れば、もう問題ない⋯!」

 

目の前の机に置かれたパソコン。

そこには、「PHANTASY STAR ONLINE 2」のロゴが踊っていた。

 

「そう⋯ ここは地球。母なる青い地球⋯! 戦いも争いもない、平和な場所⋯!」

あえて芝居掛かった口調で呟き、窓の外の空を見る。

窓に薄く映り込んでいるのは、赤毛をポニーテールにまとめて、青いニットセーターを着た少女⋯ 紛れもない、自分の姿だ。

 

ヒツギはすっと立ち上がり、自分の部屋を見回す。

「そしてここはあたしの砦、あたしだけの部屋!情報化社会に必要不可欠なパソコンも⋯ 」

視界が一周して、ベッドへ。

「疲れきった体を癒してくれるベッド⋯ も⋯⋯ え」

速攻、ベッドから目を背ける。

 

ベッドの上に、なにか⋯ いた。

 

「そ、そう!ここは地球、母なる青い地球!そしてあたしの、あたしだけの部屋!だからあのベッドは、あたしの⋯ ! 」

同じ台詞を繰り返し、もう一度視線をベッドへ⋯ !

 

「⋯ 」

やっぱり、なにかいる。

「あ⋯ あぁ⋯ 」

ヒツギはしゃがみ込み、胸を押さえた。

「餅つけ⋯ いや、落ち着けヒツギ⋯ !先ずは目を閉じて深呼吸⋯ !すーっ、はーっ⋯ 」

何度も深呼吸する。

 

「あたしはヒツギ、八坂火継(やさか ひつぎ)!歳は16!今は西暦2028年、元号は⋯ 忘れた⋯ ともあれ、春から花の高校二年生っ!」

ガバッと立ち上がり、ひたすら自分に言い聞かせる。

「ここは地球、ここは東京、ここは学校、ここは寮!PSO2の中じゃない、間違いなく現実の世界!」

言い聞かせて、言い聞かせて、

「だからあれは夢!ベッドの上にいるのはマボロシ!想像の産物目の錯覚っ!私は疲れてるだけええっ!!」

渾身のシャウトの後、もう一度ベッドへ振り向いた!

 

そこには⋯ むくりと起き上がった、なぜか何も着ていない、見覚えのある少年の姿。

 

「だあっ、まだいるぅ⋯ それどころか起きてるぅ!」

混乱するヒツギの前で、少年はぼんやりと周りを見る。

 

「⋯ ここ、どこ⋯ ? 」

「しかも喋った!いやいや、まだ幻聴という線も⋯ 」

「ねえ⋯ ここどこ? 」

「こっち見た!話しかけられた! 夢でもマボロシでも無かったーっ!! 」

頭を抱えたヒツギは、次には慌てて目を手で覆う。

全裸の少年が、心配げに、のそのそとこちらへ寄ってきたからだ。

 

「ど⋯ どうしたの? 」

「動くな動いちゃダメ色々見える! というか今の状態で相当際どい! というかなんで裸なのよ! 服どうしたのよおっ!! 」

「⋯ はだか? 」

「だから動くなあっ! あぁぁもぉぉぉ! うぅ⋯ 」

混乱しきった頭を抱え、うずくまる。

 

「どこかいたいの⋯ ? だいじょうぶ⋯ ? 」

「⋯ ちょっと待ってて。現実逃避を止めて、受け入れる準備してるから⋯ 」

もう、自分を誤魔化すわけにはいかない。

ヒツギは心を落ち着けて、顔を上げた。

 

「⋯ よっし落ち着いてきたぞ火継⋯ さあ、聞かせてもらおうじゃないの! 貴方は何者! 名前は何っ! 」

ビシッと少年に告げるヒツギ。

少年は考えるように、ぽーっと天井を見上げて、

「⋯ ヒツギ」

「それあたしの名前でしょう! あんたの名前よ! な・ま・え!!」

すると少年は、戸惑った様子で、

 

「ヒツギ⋯ はちがうの?じゃあ⋯ わかんない」

そう、答えた。

 

「あーもうっ! あんたは一体なんなのよー! 」

ヒツギの混乱は増すばかり。それもそのはず、この少年は⋯

「よく見るとあんた、あたしのアバターそっくりだし!まるでPSO2の中から出てきたみたいじゃない⋯ ん!? 」

ちらっと、パソコンに視線を動かす。

「まさか、本当に出てきたなんてこと⋯ ないない、そんなことありえない! 」

 

そう、そんなわけない。そんな筈はない。だって。

 

「『マザー』はそんなこと言ってなかったし⋯ ! 」

ヒツギが呟いた、その時、

ドンドンと、乱暴にドアが叩かれた。

「う⋯ 騒ぎすぎたかな⋯ 寮長だよねこれ、たぶん⋯ 」

 

再び、乱暴なノックが重なる。

「はーいはい! すぐに出ますっ!! 」

ヒツギが慌ててドアに駆け寄ったのを見ていた少年は、はっとしてヒツギに這い寄った。

「駄目⋯ ! 危ない!! 」

 

瞬間。

 

一気に開け放たれたドアに、ヒツギは押し飛ばされた。

「あいたたた⋯! どうしたのよ急に⋯!」

頭を押さえ、顔を上げたヒツギは⋯ 凍りつく。

 

目の前にいたのは⋯ 青い、ヒトガタをした化物だった。

 

「は⋯!? なにこのバケモノ⋯!? 次から次へとなんだってのよ⋯ ! 」

反射的に立ち上がったものの、じりじりと後ずさる。

その時、泣きそうな顔のヒツギに、化物が手に握ったナイフを振り下ろした!

 

「危ないっ! 」

 

ヒツギの目の前に飛び出した少年が、その刃を背中に受け、倒れこむ。

ヒツギは倒れてきた少年を抱え、へたり込んだ。

 

「あ、あんた⋯ 私を庇って!? 」

化物が容赦なく、ヒツギに迫る。

「く⋯ 来るなっ⋯ ! 来るなあっ!! 」

無慈悲な刃が、ヒツギへと掲げられる。

「誰か⋯! 誰か、助けてえっ!! 」

涙を散らし、ヒツギは叫んだ。

そのヒツギに、ナイフが振り下ろされた⋯ その時!

 

「わあっ!」

 

一瞬光ったパソコンから、何者かが飛び出した!

「⋯ 此処は⋯ ?」

現れた銀髪の少女は、戸惑った顔で辺りを見渡す。

「あ、あんたは⋯ !? 」

ヒツギと化物との間に着地した「彼女」を、ヒツギは知っていた。

 

「あんたは確か⋯ アマリリス!? どうしてここに!? 」

「アメリアスですっ! ⋯ というか、貴女こそ一体⋯ !? 」

アメリアスはヒツギの姿に驚きつつも、ひとまず化物に顔を向ける。

「とりあえず⋯ 邪魔! 」

そして躊躇なく、その懐に突っ込んだ。

すかさず視線を化物の胸に合わせ、一気に地面を蹴る!

 

「はああああっ!! 」

まるでゲームに出てくるような綺麗なサマーソルトキックが、化物を吹っ飛ばした!

「正直、よくわからなすぎだけど⋯ 」

アメリアスはヒツギを見て、にっと笑う。

「ここは任せて、ヒツギさん! 」

起き上がった化物へ向き直り、すっと右手を上げる。

そして指を鳴らし、叫んだ。

 

「『守護輝士(ガーディアン)』、アメリアス! 私の疾走、止められるものなら止めてみなさい!! 」

 

瞬間、アメリアスの姿が消えた。

「えっ!? 」「こっちだよ! 」

がら空きになった化物の背中に、ジェットブーツの刃が突き刺さる。

その一撃で、化物は青い光になって霧散した。

 

「よっし!」

アメリアスは立ち上がり、ヒツギの方を確認する。

「う、うわあああああっ!! 」

「ヒツギさん!? 」

いつの間にか背後にいたもう一体が、ヒツギの方へ向かっている!

 

「させるかっての!! 」

周囲への影響が不安だが、考えてもいられない。

ジェットブーツ(リンドブルム)が、光とともにアメリアスを突撃させる!

「グランヴェイヴ!! 」

一瞬で化物に追いつき、(ヴェイヴ)の如き蹴りで消し飛ばす。

「ごめんね!大丈夫!?」

「え、ええ⋯ 」

 

駆け寄る少女に、頷きを返すヒツギ。

「よくわからないけど、ありが、と⋯ 」

礼を言おうと顔を上げたヒツギは、凍りついた。

アメリアスの後ろに伸びる廊下、その端から、さっきの化物が拳銃を構えている⋯!

 

「あ、あ⋯!」

拳銃から打ち出される光弾。何か叫ぼうにも、声が出ない。

光弾は、音もなくアメリアスへ迫る。

⋯ 駄目だ、当たる。

自分が知らせようが知らせまいが、当たる⋯ !

 

その時、ヒツギは確かに見た。

アメリアスの右目が、一瞬、金の輝きを放ったのを。

そして、青い光弾がアメリアスへと着弾する、まさに直前。

アメリアスは一気に体を投げ出し、ヒツギの上に覆い被さった。

 

「うわっ! 」

そのまま進んだ光弾は、ガラスにぶつかり消える。

「う、嘘⋯ !?」

「せーふ⋯ よっと」

すくっと立ち上がるアメリアスを、ヒツギは信じられないといった顔で見る。

 

あの光弾は、間違いなくアメリアスには見えていなかった。

音も殆どなかった上、自分の呆然とした顔を見たとはいえ、光弾が迫っていることには気づいていない様子だった。

 

(どういう、こと⋯?)

思案するヒツギをよそに、アメリアスは眼前の敵⋯ 光弾の射手を睨みつける。

「さてと、覚悟は出来てるんでしょうね⋯ 」

さっきまでのアメリアスとは一線を画す、背後のヒツギにも伝わる程の闘志。

 

(あ⋯ あの化物、終わったな⋯ )

なぜか、ヒツギはそんな事を考えていた。

「はああああああっ!! 」

一瞬でアメリアスを化物へ運んだジェットブーツが、凄まじいエネルギーを吹き出す。

 

解き放つのは、終幕の突風(ヴィント)

「ヴィント⋯ ジーカー!! 」

アメリアス渾身の蹴りが、化物を廊下の奥へと吹き飛ばす!

吹っ飛んだ化物は、奥でうろついていた別個体諸共、廊下端の壁に叩きつけられ、霧散した。

 

「これで全部、かな⋯ 」

廊下を滑るように一回りして、アメリアスはヒツギの部屋に戻る。

「あ、あのバケモノは⋯ !? 」

「大丈夫。全部倒したよ」

「よ、よかった⋯ 」

ヒツギは安堵の表情で、アメリアスを見る。

「よくわからないけど、助けてくれて、ありが⋯ と、う⋯ 」

ヒツギの意識は、そこですうっと途絶えた。

 

AD2028:3/22 16:30

 

「よいしょ、っと⋯ 」

少年と少女、2人の体を、ベッドに寝かせる。

すやすやと眠る2人を見た後、私は無線をつけてみた。

 

「シエラさん、聞こえますか?」

「アメリアスさん!?よかった、通信は問題ないです、さっきまでの戦闘も、一応モニター出来ていたので⋯ 」

「それはそれとして、2人の方は⋯ 」

「バイタル安定してます。心配しなくても大丈夫ですよ」

 

若干ノイズの混じった声が、2人の無事を知らせてくれる。

「それよりも、さっきの不可解なバケモノですね⋯ ダーカーとも違いますし、あれは一体⋯ 」

シエラさんも、まだ混乱しているようだ。

 

「リハビリがてらの簡単な任務かと思ったら、未知の座標に転送、そして戦闘⋯ 想像以上に大事になりそうですね⋯ 」

そんなシエラさんの声を聞いていたら、不意に一瞬、視界が眩んだ。

 

「わっ⋯ 」

慌てて、近くの机に手をつく。

はずみでそこにあった小さなデバイスが動き、机に置かれたディスプレイの画面が変わった。

「ん⋯ ? 」

ふと目に付いたのは、変化した画面の文字。

「あ、アメリアスさん!? 大丈夫ですか!? 」

シエラさんの声にも耳を貸さず、私は画面の中の文字を見つめる。

 

かなり形が違うが、これは、、、

「オラクルの文字に、似てる⋯ ? 」

念の為、探索用端末のカメラで一枚撮っておく。

「アメリアスさん! 」

「あっ、す、すいません! ちょっとふらっとして⋯ 」

「無理も無いです。大変な1日でしたからね⋯ とりあえず、帰ってきてもらえますか? 」

 

頷いて通信を切り、今日2回目のテレパイプを展開する。

「⋯ 」

こんこんと眠る2人が気になったが、今はここにはいられないと自分に言い聞かせて、テレパイプに入った。

 

AP241:3/22 20:00

アークスシップ:アメリアスのマイルーム

 

「つっかれたーっ!! 」

長かった1日(半日?)を終え、私はベッドにどさーっと倒れこんだ。

帰還早々フィリアさんに捕まり、メディカルチェックを受けさせられ、やっとこさ解放されて、今に至る。

必要性は重々承知なのだが⋯ やっぱり、検査というのはどうも嫌いだ。

 

「マスター⋯ お疲れ様⋯ 」

女性デューマン型のサポートパートナー、リオが、声をかけてくれる。

キャンプシップからメールを送った所、私が帰ってくる前に、最低限のルームグッズを置いといてくれたのだ。

 

「ほんとにありがとね〜リオ〜」

「⋯ 帰ってきたら絶対、どさーってしたいと思ったから⋯ 」

嬉しそうに、リオは短めの金髪を揺らす。

それを眺めていると、やはり眠気が差してきた。

出来ればもう、このまま眠ってしまいたかったのだが⋯ もう一つ、小さな仕事が残っているのを思い出した。

 

「さてと⋯ 」

うつ伏せに寝転んだまま布団を被り、目の前にウインドウを展開する。

映し出されたのは、さっき撮った一枚の画像。

そこに映った見たことも無い文字を、じーっと凝視する。

 

「これは⋯ P?うーん、変な形のもあるなぁ⋯ 」

分からない所は文脈から推察して、くるくると文字を回転させたり、裏返したり。

「L、わかんない、N、これは多分E⋯ 『ONLINE 』かな。最後のは⋯ 数字? 」

2時間ほど考えた末、一つの文が浮かび上がった。

 

「『PHANTASY STAR ONLINE 2』⋯? なんのことだろ⋯ ? 」

集中力には自信があるつもりだが、正直ここまで眠いと当てにならない。

「明日また考えよ⋯ おやすみ〜 」

アメリアスはウインドウを閉じて、ぽふっと顔を枕にうずめ、目を閉じた。




「嗚呼、素晴らしきニャン生」
現れた少年は、嘘みたいに純粋だった。

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