ファンタシースターオンライン2 「Reborn」EPISODE 4(休止中) 作:超天元突破メガネ
A.P241:4/10 13:00
地球
蒼穹の空を衝く、無機質なビルと豪奢なタワー。
その下には広い大通りが走り、街路樹や人工池が、雄大な都市に花を添える。
「黄金の都」、ラスベガス。
「アースガイド」の本部が置かれる、米国有数の大都市である。
そして、大通りを行く人の中に。
「ひゅーっ、あっという間にラスベガスだ。1時間足らずで到着たぁ、改めてアークスの技術はすげぇな」
「ちょ、声が大きいですよエンガさん……」
金髪の少女と、スーツを着た赤毛の青年の姿があった。
「おっと、すまんすまん。それよりもほれ、なかなかの景色だろう?」
「それは、そうですね……文化差による景観の違いはハルコタンで経験していますが、こういうのはまた……」
アメリカという国は、日本より何倍も大きいと聞く。
建物は似ていても、使えるスペースの差だろうか。こちらの方が何倍も、町がのびのびとして見える。
「ま、日本はいろいろと詰め込みすぎだよな」
アメリアスの考察を見越してか、そんなことを呟くエンガ。
アメリアスは「
「ところでエンガさん…気づいてますよね?」
ふと、そんなことを呟いた。
「……これでも色々訓練してるからな。3分前くらいから気づいてるぜ」
なぜかため息交じりに答えるエンガ。
アメリアスも、どこか呆れたような表情を浮かべると。
「別出てきていいよ?ヒツギ」
「うぇ!?」
背後から突然、ばたばたと足音が鳴る。
その瞬間、アメリアスはぐっと膝を曲げ、
「ほっと!」
背後へ大きく跳躍し、車の側にいた少女の肩をがしっと掴んだ。
「はい確保」
「うぅ……」
なぜか周囲の人に歓声を貰いながら、少女…ヒツギをぐいぐいとエンガの方へ連れていく。
「何やってんだバカ妹。っていうかどうやって……」
エンガは何かに気づいた顔をして、オラクル側との通信回線を開く。
「……おい。シエラさん」
「すいません…頼まれたら断れないのが性分でして……」
通信からは、シエラの観念した声が聞こえてきた。
「はぁ……言ったよな。お前を連れてくるわけにはいかないって」
「ごめん……だけど、あたしにも譲れないものはある。あのままただ突き返されて、あたしがおとなしくしてると思う?」
険しい表情で言うエンガに、ヒツギは強気に返す。
「…そうか。じゃあ好きにしろ…っと、俺達からは離れるなよ」
エンガは意外にも、すんなりと折れた。
(……やっぱり、思うところはあったのかな)
アメリアスはそれを、ほっとした様子で見つめる。
やはり昨日の言動には、エンガも後ろめたいところがあったらしい。
「よかったね、ヒツギさん」
「う、うん」
ヒツギを加え、3人で通りを歩く。
「それにしても、本当にあっという間に着いちゃったわね」
「俺も驚いた。地球の技術じゃ、こんなことはまだ夢のまた夢だからな」
ヒツギに返しながら、エンガは内心、あることを疑問に思っていた。
地球には、アークスのような転送技術は存在しない。
だがあの時。ベトールが殺されたとき。
「水の使徒」…オフィエル・ハーバートは、空間転移の様なことをやってのけた。
(ありゃあ一体…具現武装と考えるのが自然だが……)
「兄さん?」
「?どうしました?」
考え込むエンガを見て、右側から2人が声を掛ける。
「ああいや、別に……ああそうだ、アメリアス」
エンガは誤魔化すように、アメリアスに尋ね返す。
「はい?」
「さっきスペースゲートで合流したときから気になってたんだが…その服は?」
ふぇ?と首を傾げ、自分の着ているものを見回すアメリアス。
下は黒いズボンに、上は小さくラッピーが描かれた白いシャツと、黒系のパーカー。先日地球に潜入したときにも、この服装だった。
「ど、どこかおかしいですか?」
きょとんとするアメリアスに、二人はもどかしい視線を送る。
「いや、なんというか……」
「もうちょっと、あたしの制服みたいな服ないの?」
ヒツギの指摘に、アメリアスはあっ、と声を上げた。
「とりあえず違和感ないようにって、地球で買ったのを着てたんだけど…ごめん、後で着替えるね」
「そのほうがいいかな…しかし、なかなか似合ってるじゃない」
「えへへ……よかった。ありがと」
気を取り直して、エンガを先頭に歩みを進める。
「それにしても、人が多いなぁ......」
都市の中心に近づき、道にも人が増えていく。
(......ん、なんだろあの人)
アメリアスはふと、向こうから歩いてきた1人の女性に目を止めた。
少々場所にそぐわない、美しい黒いドレス。
淑やかに歩く姿も、どこか周りと浮いて見える。
(カジノとかあるらしいし......結構いい身分の人もいたりするんだろうな)
一瞬エンガを見失いそうになり、慌てて視線を女性から外す。
そしてそのまま前進し、何気なくすれ違った......その時だった。
「—————!!」
アメリアスの足が止まる。
金に染まった瞳が捉える。アメリアスの背後で、さっきの女性も足を止めた。
間断なく往来を繰り返す人混みの中、その一箇所だけが沈黙する。
「......貴女、は」
声が震える。
アメリアスが振り向こうとした、その時だった。
「............アメリアス!!そこから離れろッ!!!」
鼓膜を掠った銃声に、アメリアスは現実に引き戻される。
エンガが撃ったのだ。周囲を完全に無視し、女性を狙って。
『ちょ、何してんですか———!!』
シエラの悲鳴とともに、辺りから人が消える。とっさに空間を隔離したのだ。
「何......!」
アメリアスは振り向き、
「———————っ!!?」
突然腹に強打を喰らい、数メートル先のエンガ達の前まで吹き飛ばされた。
「アメリアス!!?」
「———あら、申し訳ありません。反射的に打ってしまいました」
妙齢の女性の声が、先ほどまで居た場所から降りかかる。
「げほっ...!っ......!」
痛みが響く腹を押さえ、アメリアスは顔を上げ、
「こちらですよ?」
転移と見紛うスピードで背後に回った、女性の姿を視た。
「させるかよ!!」
背後のエンガが幻銃を放つ。
一瞬の間でアメリアスは起き上がり、振り下ろされんとしていた手刀を避ける。
瞬間、手刀が紅光に染まり、
「っ!!」
アメリアスのすぐ横のアスファルトが、一直線に焼き砕かれた。
「……なかなかの反応ですね」
女性はまた一瞬のうちに、3人の前へ転移する。
「それでこそ、ここへ来た甲斐があります」
「い、今の何……っていうか、あの人何者……!?」
「……よりにもよって、此処でお前に出会っちまうのかよ」
戦慄するヒツギの横で、エンガは恨めしく女性を睨む。
「マザー・クラスタ『火の使徒』…ファレグ・アイヴズっ!!」
『火の使徒』は静かに、立ち上がった
「ファレグ・アイヴズ……」
「そう邪険にされましても。私はただ、強そうな方の気配に惹かれてやって来ただけですので」
細められた瞳からは、うまく視線を伺えない。
しかし、アメリアスには分かっていた。
「マザーから伺いました…とても、お強い方がいると」
その瞳が射る先は、この金色の輝光だと。
「もとより私は、マザー・クラスタの在り方に賛同している訳でもありません。ただ個人的に、アースガイドの皆さんとお相手しているだけですよ」
「……そりゃあまた、はた迷惑なお心がけですね」
毒を返したアメリアスの白い肌を、一筋の汗が伝う。
暑い。
この場所が、ではない。
「先ほども申し上げたように、私の目的は一つ。ただ純粋な、人として当たり前の欲求に従っているだけ……」
このファレグという女の闘気が、言いようのない熱を放っている。
そこに善も悪もない。
混じりけのなさすぎる戦闘欲求が、アメリアスに襲い掛かろうとしていた。
「……強い方と、戦いたいだけですから」
風が唸り、ファレグの姿が消える。
アメリアスはレイJブーツを展開しながら、真正面に蹴りを出す。
「「——————————!!!」」
ジェットブーツに臨界寸前まで蓄積されたエネルギーが、風の号砲になって迸る。
しかしそれと同時に、機械がひしゃげる甲高い音が響く。
後方へ飛びのいたアメリアスの、左足のジェットブーツが粉々に砕けていた。
「嘘だろ……!?」
刮目するエンガの前で、互いが元の位置に着地する。
「出力は限界域だった、のに……!」
「その程度の武器では、私には追い付けませんよ?」
アークス最新鋭の武器を容易く破壊し、ファレグはまたアスファルトを蹴る。
「せめて、死なないでくださいね—————!」
「っ、あああああああああああ!!!」
滅茶苦茶にニレンオロチを抜き、追撃を受け止めにかかる。
「これで、如何ですか?」
肉薄したファレグの右手が、また炎のように輝く。
二人の間が、爆裂する。
「がっ………!!」
アメリアスは吹き飛ばされ、電灯に叩きつけられた。
「アメリアス!!?」
「クソッ……!!」
エンガは咄嗟に飛び出し、ファレグへ銃を向ける。
そしてヒツギも、
「馬鹿、テメェは逃げろ!シエラさん、こいつらだけでも転送を……!」
「嫌だ!ここで逃げたら、あたしは……!!」
刀を抜き、ファレグに突きつけるヒツギ。
ファレグはヒツギの手を見ると、フッと笑みを浮かべた。
「………逃がしませんよ?」
「何……がぁッ!!」
一瞬でエンガの前に詰め寄ったファレグが、エンガの体を空高く蹴り上げる。
「兄さん!!?」
エンガはアスファルトに落下し、そのまま動かなくなった。
「気を失われただけですよ。元々、あなた方と戦う気はありませんでしたが」
「化物…!あ……あんた、本当に何なのよ……!!?」
「ひどい言い方ですね……私は人間ですよ。皆さん勘違いされてますが、人間にだってこのくらいはできちゃうんです」
ファレグは言って、ふと空を見る。
フォトンによる隔離の影響で、僅かに屈折して見える空。
「アースガイドもオラクルも、皆さんこうして、結界で隠した中で小競り合い……本当に、くだらない」
こそこそと動くつまらない人ばかりと、ファレグは吐き捨てる。
「人間には、このくらいのことだって出来ますと…私達が示さずに、誰が示すというのです?」
細目の微笑を崩さないまま、魔人は告げる。
「だったら……!!」
見せてやる。
その意思に答えるかのように、刀身が鈍く輝く。
カタナコンバットを具現し、ヒツギはファレグの懐に飛び込んだ。
「やああああああっ!!!」
「……遅いですね」
振り上げられた刀を軽くいなし、ファレグの手が空を切る。
「………っ!!」
しかし、
ヒツギは反射的に身を捻り、致命の一撃を躱しきった。
ファレグはわずかに驚いた顔を浮かべ、己の右手からヒツギに視線を移す。
「…少し、驚きましたね。咄嗟のことで手加減もできませんでしたが」
「はあっ、はあっ……!!」
一秒前の恐怖が頭をよぎり、思わずヒツギは路面に倒れこんだ。
「ですが……意志が弱い。戦うという覚悟が、致命的に足りていません」
軽蔑よりか、どこか口惜しげな声が降りかかる。
するとファレグは、徐に少し後ろへ下がると、
「ではこうしましょう。———一度、好きに斬らせて差し上げます」
両腕を開き、そう、ヒツギに告げた。
「は—————?」
立ち上がったヒツギの口から、戸惑いの声が漏れ出る。
しかし、ヒツギは一度ファレグを見ると、
「な、舐めないで……!」
静かに、天羽々斬をファレグに向けた。
「本当に、斬るわよ………」
「はいどうぞ、遠慮する必要はありません」
薄く輝く刀身を前に、ファレグは顔色一つ変えずに答える。
そして、
「当たり所次第では———そのまま私を殺せるかもしれませんね?」
「—————!」
そう告げられた瞬間、ヒツギの時間が止まった。
殺せる、と。
この手が誰かの命を奪えると、目の前の魔人は告げた。
「あたし、が………?」
腕にこもっていた力が抜ける。
刀身の輝きが消え、輪郭さえもぼやけていく。
「う、あ………」
立っていられなくなり、膝をつく。
ただ嗚咽を漏らすしかなかった、その時。
その嗚咽を掻き消す、暴風が吹き荒れた。
「「な——————!!?」」
二人の驚愕が重なる。
頽れたヒツギとファレグの間に割り込んだのは、倒されたはずの少女だったのだから。
「———っ!!」
ファレグはたまらず、右腕を突き出す。
「はあああああああああっ!!!」
「うわああっ!!」
ヒツギの体を吹き飛ばすほどのエネルギーが、二人の間で炸裂する。
数メートル弾き飛ばされたファレグは、そこで初めて、紅色の
「これは………」
立ちふさがる少女は傷だらけ。
しかしボロボロの体でも、血走った金の瞳だけが、こちらを突き刺すように睨みつけている。
ファレグはゆっくりと目を細め、溜息を吐く。
「……そうですか。では、今日はここでやめにしておきましょう。貴女がそれを望むなら」
立ち続ける少女に、何を思ったのか。
その一言と共に、ファレグの姿は消えた。
「アメリア、ス……?」
残されたヒツギは、ふらふらとアメリアスに歩み寄る。
「ヒツギ、っ……」
アメリアスは振り返った途端、足からガクンと崩れ落ちる。
ヒツギは慌てて腕を伸ばし、辛うじて少女の体を受け止めた。
「…………」
ヒツギも立っていられなくなり、そのまま膝をつく。
「ううっ……!!?大丈夫か、2人とも!!」
目を覚ましたエンガが、蹲った2人に駆け寄っていた。
「無気力クーデター」
ほらこんなに上手に溶け込んで
実際問題騙ってだって 必要とされたい
—————
ファレグさん一回戦はサクッと終わらせるつもりでしたが、案外文字数が増えてしまいましたね。
なおアメリアスの服装ですが、スパダン2の狛枝の服と同じ感じと思っていただければ。