ファンタシースターオンライン2 「Reborn」EPISODE 4(休止中)   作:超天元突破メガネ

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投稿が遅れた分、今回はちょっと長め。
…もう全部これくらいの量にしたほうがいいとは、思うのですが。


SB3-10「DAYBREAK FRONTLINE」

A.P241:4/5 13:00

アークスシップ:ショップエリア

 

「うぅ……」

リオは肩を落として、ショップエリアを歩いていた。

(マスターに渡されてたぶん、あっという間に溶けた……)

アメリアスにもらった資金とニレンオロチを抱え、アイテムラボに入った、10分後。

アイテムラボを去ったあと、抱えた飛翔剣の強化値は、まったく変わっていなかった。

 

「…?」

傷心のまま歩いていたリオは、ふと足を止める。

ショップエリアの一角、休憩用の長椅子のそばに、数人の見知った人影があった。

(ヒツギとアルと…よく見えないけど、イオ?)

ぱたぱたと走りよると、足音に気づいたヒツギが振り向く。

 

「あ、リオちゃんちょうどいいところに。ほら、見てこの子」

ヒツギはにこにこと笑って、イオの横を指さす。

そこには、青い羽毛の鳥のような生き物が浮いていた。

「ん?ああ、リオちゃんか。なんかこいつ、さっきぴゅーって飛んできてさ…」

 

リオに気づいて、イオは少し困ったように言う。

「この子、サモナーのペットだよな?おーいお前ー、主をほっぽってていいのかー?」

頭をなでるイオの手に、鳥型ペットは嬉しそうにすり寄っている。

「結構人懐っこいのね。そうだ、アルもなでてみたら?」

「うーん、ちょっとこわいけど…」

アルが近寄ると、すすっと高度を下げ、アルにも頭を垂れた。

「おお…!さらさらで気持ちいいね、この子!」

「よしよし、いい子いい子…ん、どうしたんだリオちゃん?」

 

ふとリオを見やったイオの目に、じっと鳥型ペットを凝視するリオが映る。

「トリム種で…青い羽毛で、独りぼっち……もしかして……」

果たして、リオの抱いた疑念は。

「ジ……ジョセフィイイイイイイイイイイイイヌウウウウウウウウウウウッッッ!!!」

ショップエリアに響き渡った青年の叫びで、現実であることが示された。

 

「あの人って…っていうか、こっち突っ込んできてるけど!!?」

「まずい、全然おれ達に気づいてない!!」

愛する子だけを捉えた突進が、イオたちに迫る…!

「…っ!」

その時、リオが動いた。

小さな体を相手とこちらの間に滑り込ませ、腕をつかみながらさらに体を入れ、

「……えいっ!!」

そのまま重心を崩し、ごろっと青年を転ばせた。

 

「のわあああっ!!」

「「おお……!!」」

周りから、どよめきと拍手が起こる。ちなみに、誰も青年は見向きもしない。

「サモナーの人…どうしたの…?」

「や、やあリオ君…なかなかに見事な投げだったよ……」

青年…ピエトロはふらつきながら立ち上がると、すぐに浮遊するトリムに視線を移す。

 

 

「そ、そんなことより…!こんなところにいたんだね、ジョセフィーヌ!」

「ああ、ピエトロさんのペットだったのか…」

「朝、話してた…ジョセフィーヌがいなくなったって……」

見つかってよかった、とリオは顔をほころばせた。

 

「まったく、心配かけさせて…さあ!帰ろうじゃないかジョセフィーヌ!!」

ピエトロはジョセフィーヌを抱きかかえ、すたすたと去っていく。

「もう君のことを離さないよ!大好きだよジョセフィーヌ……!!」

「…絶対、あれが家出の原因だろ…」「「「うんうん」」」

ピエトロの腕の中でもがくジョセフィーヌを見て、一同は眉をひそめた。

 

「まあ、一応主のところに戻れてよかったな。主といえば…リオちゃんはセンパイのとこにいなくていいのか?」

「マスターは出払ってるし…ボクは基本的に、ほっとかれてるから」

「…それでいいのかセンパイ」

苦笑いするイオの横で、リオはふとヒツギのほうを向く。

 

「…ヒツギ」

「リオちゃん?どうしたの?」

リオは少し、言いにくそうに口をつぐむと、

「マスター、東京に調査に行ってる」

「それは聞いたけど……」

「あと…昨日、東京で…爆破事故があったって」

「………!?」

 

ヒツギの顔が強張る。

「一応、伝えたから……」

リオはそう言うと、ダッとゲートエリアへ駆けて行った。

「ち、ちょっとリオちゃん!?」

「爆発事故…東京で……!?」

戸惑うイオの横で、ヒツギは震えた声で呟く。

「お姉ちゃん…?」

「……ごめん、大丈夫よ、アル。部屋…戻ろっか」

 

アルの手を引き、歩き出しかけて、やめる。

「………」

オラクル用の端末を取り出し、メールを開いてから、

「…おっと、今は意味ないか……」

何かに気づいて端末をしまい、また歩き出した。

 

A.P241:4/5 17:00

アークスシップ:艦橋

 

いやはや。

東京で起こった爆破事故の調査のはずだったが、結局帰還が夕方になってしまった。

「帰還しましたー」

「あ、お疲れ様です」

すいっと艦橋に入ると、シエラさんがこちらへ振り向く。

「姉ちゃんおかえりー」

「お疲れ。さっきアイカも戻ってきたそうだ」

さらに艦橋には、ステラやヨハンその他、地球担当のメンバーが集まっていた。

 

まあその目的は…言うまでもないだろう。

「データは一通り送ってあるから。表示できる?」

シエラさんが頷いて、コンソールを操作する。

ウインドウに現れるのは、爆破されたビルの写真や、その周囲の地形データ。

「これが問題のビル。思ってたより、規模は小さかったけど…」

『まあ、あえて控えめにしたんだろう』

「あそこで大爆発なんて起こったら、大変なことになるし」

うんうんと、ステラとヨハンが頷く。

 

「えっと、皆さんいいですか?」

シエラは皆に声をかけると、一つのウインドウを指し示した。

「アメリアスさんが調査している間、エーテルの流れをリアルタイムで解析しました。そして…」

シエラの声が、少し険しくなる。

「残留したと思しきエーテルの反応が、正午近くまでビル周囲にありました」

「…えっと、それはつまり?」

 

首をかしげるステラ。

「爆発が…エーテルによって、行われた?」

「はい、アメリアスさん。その可能性は高いと思われます」

それを聞いたレイツェルとヨハンが、納得したようにうなずく。

「エーテルによる具現…『この程度の被害』なんて条件にも応えられ、証拠も残りづらい」

情報部(こっち)の調査でも、爆薬の種類などの情報はなかった…』

 

二人の声を聴いて、思わず私はため息を漏らした。

「こんなことする奴は1人しかいないとは思うけど…何のために?」

頭に浮かんだ男の顔を払いのけながら、呟く。

「……規模が小さいのを見るに、まだデモンストレーションだろう。きっと本命はこれからだ」

「で、でも、これ以上被害が出始めたら…!」

ステラが不安そうな声を漏らす。

「ステラさんの不安はもっともですが…直接『使徒』を補足することは、現状不可能です」

「出来るとしたら、爆破の直後くらい、か…」

 

後手に回ることしかできない歯がゆさに、唇をかみしめる。

「…それでも、止めないと」

そう口にしたのは、シエラだった。

「シエラ……」

「逆を言えば、規模が小さいうちがチャンスです。全力で反応を追跡し、ベトールの居場所を補足して見せます」

シエラは宣言するように言って、こちらを見る。

「…私にできるのは、そのくらいですから」

「勿論、シエラだけじゃないぞ」

 

隣から、レイツェルも口をはさむ。

『探知補助なり、シエラさんのネットワーク管理補助なり…こっちも、やれることはやるさ』

「出来る限りのバックアップはして見せよう。だから、君は君ができることをしてくれ」

私は頷いた。

「…わかった。ありがとう、皆」

……と、

 

礼を言ったところで、思い出したかのように疲れが押し寄せてきた。

「はあ…報告はこんなところかな。ちょっと、休んでていい?」

「はい。今日はお疲れさまでした」

「おつかれー、あーあ、私も東京行きたかったなー」

シエラのねぎらいとステラの愚痴を背に、私は艦橋を出た。

 

―――――

 

「……さて」

数分後。

情報部の二人も部署に戻り、艦橋にはステラとシエラだけが残っている。

「リオさん、出てきていいですよ」

シエラが呟くと、ブリッジ下からてくてくと、小さな影が出てきた。

「あ、リオさん。ずっと下に隠れてたんですか?」

「あそこなら…マスターにも、ばれないから……」

目を丸くするステラに答えると、リオはくりんとオッドアイをシエラに向けた。

 

「揃った?」

「いえ、もう一人」

シエラの返答とほぼ同時に、艦橋のドアが開く。

現れたのは、青い装甲のキャスト型サポートパートナーだった。

「お、フェオだ。おつかれさん」

「指示通り、担当者全員の退室を確認しました」

「ありがとうございます。それでは…」

シエラは頷いて、3人を見る。

「『私たち』も、動きますか……!」

4人は顔を突き合わせ、ニヤッと笑った。                

 

A.P241:4/5 20:00

アークスシップ:ドミトリーエリア

 

「……」

ドアの前で、ヒツギは無言で立ち尽くしていた。

いつの間にか戻ってきていたアメリアスに、夜に顔を出すと連絡したのが、1時間ほど前。

そしてさっきフレンドリスト(少し前に登録してもらっていた)で在室を確認し、部屋の前までやってきて、今に至る。

 

「アメリアスー?」

呼び鈴(?)を鳴らしてみても、反応がない。

(もしかして、もう寝ちゃったとか…?)

8番艦の眠り姫、などと呼ばれている彼女のことだ。連絡を忘れて寝ている可能性もなくはない。

どうしたものかと首をひねった。その時だった。

 

『う、うわあっ!!』

壁越しに、少女の悲鳴が聞こえてきたのは。

「アメリアス!?」

それなりに防音もなされている部屋越しに聞こえるほどの、悲鳴。

ヒツギは反射的にドアスイッチを叩き、中へ飛び込んだ。

 

「いったいどうし………」

ヒツギに反応してすっと開いた、小さなドアの向こう。

アメリアスの私室なのだろう、小さめのスペースに置かれたベッドに、彼女はこちらを向いて座っていた。

「………?」

何者かが部屋に飛び込んだというのに、反応がない。

見ればアメリアスは食い入るように、自分の前に置かれたウインドウを見つめていた。

 

ヒツギは何か言いかけて、思わず口をつぐむ。

ウインドウを見つめる視線は、まるで敵を見据えているかのように鋭く、真剣だった。

(な、何見てるの…?)

そそっと、横に回り込む。これだけ動いても、気づく様子はない。

ヒツギはウインドウをのぞき込んで、

 

「へ?」

おもわず、間抜けた声を上げた。

アメリアスが見ていたのは…なんと、地球の映画。

「あ、あのー?」

つんつんと、肩をつついてみる。

「?…うわああああああっ!!ひ、ヒツギさん!!?」

するとようやく気付いたようで、アメリアスは盛大に驚愕して振り向いた。

 

「あ、えっと、呼び鈴鳴らしても反応なくて、なんか悲鳴まで聞こえてきたから…」

「呼び鈴…?ああ、そういえばメールもらってたんだった…」

案の定、メールは失念していたらしい。

しょんぼりと肩を落とすアメリアスを見て、ヒツギはふと、違和感に気づいた。

「あれ、どうしたのよその恰好?」

 

今のアメリアスの服装は、ラッピーをあしらったグレーのパーカーとスウェット。

ふと感じた既視感に、ヒツギはそれが以前、アルを連れて行った店にあったものだったことを思い出す。

「え、えっと…ちょっと地球に、調査で。これはついでに」

「はあ……」

日中出払っていたのは、それが理由だったらしい。

「で、その今見てたのは?」

成り行きで質問を重ねると、アメリアスは急に様子を変えた。

 

「あ…!?えっと、これは、その…」

狼狽の色に塗り替わる少女を見て、ヒツギは思わずため息を漏らす。

何を見ていたかなど、ヒツギにはわかりきっていた。

アメリアスの体越しに見えるのは、三つ首の巨獣に蹂躙される街。

「…いいよ、CM見て知ってるから。『THE LINER』…ベトールの映画でしょ?」

ヒツギがそう問うと、アメリアスは観念したようにうなずいた。

 

…きっと、気を使ってくれていたのだろう。

「別に気にしなくてもいいのに…でも、なんでそんなの見てたの?」

「うーん…なんとなく、気になって」

アメリアスは答えると、そそくさと端末を片付ける。

「えーっと、それで、どうしたの?」

「あ、その……」

 

アメリアスに尋ねられ、ヒツギは思わず口をつぐんだ。

「ヒツギさん?」

少し間を開けて、口を開く。

「……今日の、調査ってさ。昨日の爆破事故のこと?」

「…うん」

「……やっぱり、ベトールの仕業なの?」

「……その可能性は、高いって」

 

ヒツギは、右手を握りしめた。

「多分、目的はあたし。こうやって事件を起こして、あたしを引きずりだそうとしてる……」

「そんな…」

言いかけて、アメリアスも口をつぐむ。

考えてみれば、そうとしか思えない。ベトールはアルと、ヒツギを狙っているのだから。

彼の言う、「本当の恐怖」を撮るために。

 

「あいつとは、あたしがケリをつけなきゃいけない…だけど…」

ヒツギの声が、震える。

「だけど…あたしだけじゃ……!」

「…いいよ、ヒツギさん」

固く握られた手を、アメリアスはそっと、両手で包み込んだ。

 

始まりの時と、同じように。

アメリアスは、ヒツギに手を差し伸べた。

「アメリアス…」

「私も、戦うよ。それが、私にできることだから」

澄み切った碧い瞳が、力強くヒツギを見上げる。

 

「だから、大丈夫だよ。ヒツギさんは、一人じゃないよ」

だけどその声は、何よりも優しく、暖かかった。

「…ありがとう。あなたにそう言ってもらえて、安心した」

ヒツギは笑って、アメリアスの隣にぽすっと座る。

 

「なんかごめん。こんな話につき合わせちゃって」

「ううん、全然。あんな映画見てるよりはね」

「あんな映画って…」

苦笑するヒツギ。

話を聞くに、アメリアスはパニック映画の類は苦手らしい。

 

アメリアスははあ、と息をつくと、ふと思い出したように

「あ、そうだヒツギさん」

「ん、何?」

「前に具現武装の話になったとき、ヒツギさんのカタナの由来、聞けてなかった」

ヒツギはああ、と相槌を打った。

 

「でも、聞きたいの?」

「うんうん。何か由来があるんでしょ?」

「まあ、あるっちゃあるけど…」

若干気恥ずかしそうに、ヒツギは右手を軽く振る。

 

天羽々斬(アメノハバキリ)…日本神話に出てくる、ヤマタノオロチっていう怪物を倒すために使われた剣…要するに、物語の剣ね」

「へえ…なんか、格好いいね」

ヒツギの右手に現れたカタナを見ながら、アメリアスが呟く。

するとヒツギは、少し意外そうな目でアメリアスを見た。

 

「そ、そう?ちょっと恥ずかしいかなとも思うんだけど…」

「全然。ヒツギさんって、そういう物語とかが好きなの?」

ヒツギは頷いて、

「うん。英雄譚とかが好きかな…何かつらいことがあっても、物語を読んでる間は、救われたような気になれる」

 

そう言ったところで、ヒツギは少し顔を赤くした。

「…って、何話してんだあたしは!ま、まあそんなところ。そういう憧れが、エーテルで形になったみたい」

「へぇ…空想の具現、か……」

するとアメリアスは、ずいっとヒツギに寄ってきた。

 

「そういう武器って、他にもあるの?」

「え、そりゃまあたくさん…グングニルとかロンギヌスとかエクスカリバーとかデュランダルとか天叢雲剣とか…」

なぜか食いついたアメリアスに、戸惑いながら説明する。

「じゃあじゃあ、靴は?」

「く、つ……?」

 

ヒツギの目が、点になった。

「靴…?靴ね……」

額に手を当て、考えるヒツギ。

(靴…!?えっと、何かあったような…)

ちらっと右を見ると、きらきらと期待の目を向ける、少女の姿。

 

(く、靴、靴ぅ……!)

やがて、その視線に耐えられなくなり、

「ご、ごめん!ちょっと調べてからね!!」

そう言い残して、部屋を飛び出した。

「ひ、ヒツギさんっ!?」

引き留める間もなく、廊下に消えていく。

「あー、行っちゃった…」

一人残ったアメリアスは、ぱたっとベッドに寝そべる。

 

「靴…無いのかなぁ……」

ころんと横になると、そのまますぐに眠ってしまった。

 

 




「DAYBREAK FRONTLINE」
私も、みんなも一緒に。
止まらないさ、きっと光の待つほうへ。

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