ファンタシースターオンライン2 「Reborn」EPISODE 4(休止中) 作:超天元突破メガネ
—————腹が立つ。
突進してきたラットファムトをデュアルブレードで斬り裂き、アメリアスは正面を睨みつけた。
「GOOOOOD!! いい
エーテルによる強制障壁の向こうで、クラッパーボードが打ち鳴らされる。
アメリアス達の戦闘に干渉できないところから、べトールは上機嫌にカメラを向けていた。
らしくもなく舌打ちして、アメリアスは新たな敵に剣を振るう。
アメリアスに飛び掛かろうとしたクロウファムトは、飛来したフォトンブレードに貫かれ、容易く霧散する。
以前のハギトの軍隊に比べ⋯⋯ 明らかに、弱い。
今ここにいる幻創種は、こちらに襲いかかりはするものの、エメラルド・タブレットのように統制はされていないのだろう。相手が障壁を張っているのも、幻創種を制御できていないからと考えれば頷ける。
(⋯⋯ リオ)
アメリアスは、隣に着地したリオに囁いた。
(突撃陣形。ヒツギさんが保ってるうちに終わらせる)
(⋯ 了解!)
二人の
最大出力で放たれたフォトンブレードが、幻創種を纏めて斬り裂いた。
「Ha!後ろがお留守だぜ、アークス!」
さらに打ち鳴らされるクラッパーボード。
クロウファムトの群れは⋯ アメリアスの、背後に具現した。
「アメリアス!」
「マスターっ!!」
光を纏った嘴が、アメリアスを狙って飛翔する。
アメリアスは歯を食い縛ると、デュアルブレードを放り投げた。
「この⋯⋯⋯ っ!!」
身を捻るアメリアスの手の中で、風が渦巻く。
そして、クロウファムトが迫るその瞬間、
「吹き飛べええええええええええ!!」
アメリアスは右腕を、全力で振り抜いた。
風が、吹き荒れた。
アメリアスを中心に広がった風の刃が、クロウファムトの群れをことごとく薙ぎ払う。
「零式ナ・ザン⋯⋯ !?」
「ってレベルの出力じゃないわよ、あれ!」
そして、それだけではなかった。
「⋯⋯⋯ !?」
ヒツギは瞠目した。
右手に握った天羽々斬が、ほんの一瞬、形を霞ませたのだ。
『周囲エーテル急低下⋯ 今のテクニックで、フォトンが周囲に充満しています!!』
「ってことは⋯⋯ !」
リオの目の前で、べトールの前に張られていたエーテル障壁が搔き消える。
「あ⋯⋯
「⋯ 後は、タイマン張ってもらうしかなさそうね! 映画監督さん!!」
ヒツギは天羽々斬を突き付け、べトールに言い放った。
「チッ⋯⋯ !! 覚えておくぜアメリアス! 君ほど手のかかる
「何、逃げる気!?」
「今日の撮影は此処までだ!もっとお前達に相応しい
クラッパーボードの音が響くと同時に、べトールのいた場所が爆発する。
その爆風が消えると、べトールの姿はかき消えていた。
「逃げられた⋯ 」
『やはり向こうの方が、エーテルの扱いは上ですね⋯⋯ って、アメリアスさん!!?』
呟いたシエラが、突然悲鳴を上げた。
ヒツギが驚いて振り返ると、アメリアスの身体が校庭に崩れ落ちていた。
「アメリアス!?」「マスター!」
二人に抱え上げられ、アメリアスはため息をつく。
「はぁ⋯ ごめん、ちょっと無茶しちゃった⋯⋯ 」
『無茶なんてレベルじゃないですよ⋯ とにかく、すぐに帰還してください』
「了解⋯⋯ マスター、とっとと立つ」
けしけしと膝を入れ、アメリアスを立たせるリオ。
「痛い、痛いって⋯⋯ そうだ、ヒツギさんこそ大丈夫?」
「う、うん⋯⋯ でも、兄さんが⋯⋯ 」
頷きつつも、ヒツギは肩を震わせる。
また、涙がこぼれた。
A.P241:4/2 19:30
アークスシップ:艦橋
「⋯⋯ 報告は、以上」
アメリアスの代理で艦橋に来たリオの報告を聞いて、シエラとヨハネスは揃って頭を押さえた。
『アメリアス、無茶しやがって⋯⋯⋯ 』
「取り敢えずアメリアスさんには、メディカルチェックを受けてもらっています。ヒツギさんは⋯⋯ 」
「ステラとアル君と一緒に、部屋にいる⋯ 」
リオはそこまで言って、俯いた。
「マスター、きっと落ち込んでる⋯⋯ どうしよう⋯⋯ 」
垂れ下がった金髪の間から、震えた声が漏れる。
ヨハネスはそれを見ると、ゆっくりとリオに近づき、
『⋯⋯ だったら、なおさらリオがしっかりしなきゃ』
リオの小さな頭を、くしゃっと撫でた。
『あいつ、メンタル弱いからさ。1番付き合いの長い君が、寄り添ってくれないかな』
「そうですよ。リオさんは、アメリアスさんの
「パート、ナー⋯⋯ 」
不意に、リオは思い出した。
『命令はひとつだけ。ずっと、一緒にいてほしいな』
彼女のマスターが、彼女に最初に言った、つまらない命令を。
「⋯⋯⋯ うん」
でもその命令は、リオにとっていつまでも、最優先事項である事に変わりはなかった。
『よしよし。しっかり頼むね』
「うん⋯⋯ じゃあ、失礼します」
頷いて、てくてくとゲートへ戻る。
リオがゲートの前に立った、ちょうどその時。
「シエラー、入るわよー」
ゲートが急に開き、リオは入って来た少女と正面衝突した。
「あだっ⋯⋯ !」
「あっ、ごめんなさい!!⋯⋯ って、なんだリオか」
正確には、少女が走って来たのと体格差で、軽く吹っ飛ばされたのであったが。
リオは頭をさすって、こちらを屈んだ姿勢で覗き込んでいる少女を見上げた。
戦闘部次席、クラリスクレイスと同型の黒い戦闘服を来た、黒髪のヒューマン。
「ごめんごめん。ちっこいから弾きとばしちゃった」
「ちっこい言うな、サラ」
リオはむくれて、少女⋯ 総務部次席、サラに言い返した。
「あれ、アメリアスは?」
「メディカルチェックに放り込まれた⋯ マスターに用事?」
「いいえ、別に。シエラに報告があっただけだから」
サラは立ち上がって、シエラの方へ歩いていく。
リオもぷいっとゲートを向いて、艦橋を出た。
A.P241:4/2 20:00
アークスシップ:ゲートエリア
ステラは気づけば、ぼんやりとゲートエリアのベンチに座っていた。
憔悴しきった様子のヒツギが帰って来て、1人部屋を出てから、ずっとここにいた事になる。
ステラはずっと、考えていた。
もしも、姉がいなくなったら。
「⋯⋯⋯⋯⋯ 」
血の繋がった姉妹ではあるものの、つい3年前まで昏睡状態であったステラにとって、アメリアスという
しかし数週間前、ショップエリアで再会を果たした時、その考えは変わった。
彼女は、アークスの英雄で。
でも、確かに自分の姉なのだと。
実験の影響で朧げになってしまった記憶の中に、アメリアスは確かにいたのだ。
だからこそ、決めた。
彼女に追いつき、そばに居続けようと。
「⋯⋯ そうだよ。私は姉ちゃんが大好きだ。離れ離れになんか、なりたくない」
自分に言い聞かせるように呟いて、立ち上がる。
「⋯⋯ そうだよ。ヒツギさんだって同じのはずだ⋯⋯⋯ 」
そこで、ステラは再び考え込む事になった。
「⋯ 何か、してあげられないかな」
今のヒツギには、何かしらのケアが必要だ。
しかし⋯⋯ 幼い自分に何が出来る?
「うわー⋯⋯⋯⋯⋯ 」
思いつかない。
そのまま頭を抱えそうになった、その時。
「マスター?」
キャストの声が、ステラの耳に入った。
「ん、フェオ。お疲れ様」
「いえ⋯ 如何されたのですか? 普段はもう部屋にいらっしゃるのに⋯⋯ 」
「⋯⋯ なんでもない。じゃ、行こっか」
首を傾げるサポートパートナーの手を引いて、足早にテレポーターへと向かう。
難しい事は、寝てから考えよう。
ステラにとって、それが今の最適解だった。
「ロストワンの号哭」
この心を黒く染めたのは———
少女の号哭も、世界には届かない。