ファンタシースターオンライン2 「Reborn」EPISODE 4(休止中)   作:超天元突破メガネ

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バスタークエスト意外と面白いですね。


SB3-5 「ロストワンの号哭」

—————腹が立つ。

突進してきたラットファムトをデュアルブレードで斬り裂き、アメリアスは正面を睨みつけた。

「GOOOOOD!! いいmove(動き)だ!それじゃあNext sceneの撮影といこうじゃないか!!」

 

エーテルによる強制障壁の向こうで、クラッパーボードが打ち鳴らされる。

アメリアス達の戦闘に干渉できないところから、べトールは上機嫌にカメラを向けていた。

 

らしくもなく舌打ちして、アメリアスは新たな敵に剣を振るう。

アメリアスに飛び掛かろうとしたクロウファムトは、飛来したフォトンブレードに貫かれ、容易く霧散する。

 

以前のハギトの軍隊に比べ⋯⋯ 明らかに、弱い。

今ここにいる幻創種は、こちらに襲いかかりはするものの、エメラルド・タブレットのように統制はされていないのだろう。相手が障壁を張っているのも、幻創種を制御できていないからと考えれば頷ける。

 

(⋯⋯ リオ)

アメリアスは、隣に着地したリオに囁いた。

(突撃陣形。ヒツギさんが保ってるうちに終わらせる)

(⋯ 了解!)

二人の用心棒(バウンサー)、4本の剣が光を放つ。

 

最大出力で放たれたフォトンブレードが、幻創種を纏めて斬り裂いた。

「Ha!後ろがお留守だぜ、アークス!」

さらに打ち鳴らされるクラッパーボード。

クロウファムトの群れは⋯ アメリアスの、背後に具現した。

 

「アメリアス!」

「マスターっ!!」

光を纏った嘴が、アメリアスを狙って飛翔する。

アメリアスは歯を食い縛ると、デュアルブレードを放り投げた。

 

「この⋯⋯⋯ っ!!」

身を捻るアメリアスの手の中で、風が渦巻く。

そして、クロウファムトが迫るその瞬間、

「吹き飛べええええええええええ!!」

アメリアスは右腕を、全力で振り抜いた。

 

風が、吹き荒れた。

アメリアスを中心に広がった風の刃が、クロウファムトの群れをことごとく薙ぎ払う。

「零式ナ・ザン⋯⋯ !?」

「ってレベルの出力じゃないわよ、あれ!」

そして、それだけではなかった。

 

「⋯⋯⋯ !?」

ヒツギは瞠目した。

右手に握った天羽々斬が、ほんの一瞬、形を霞ませたのだ。

『周囲エーテル急低下⋯ 今のテクニックで、フォトンが周囲に充満しています!!』

「ってことは⋯⋯ !」

 

リオの目の前で、べトールの前に張られていたエーテル障壁が搔き消える。

「あ⋯⋯ unbelievable (あり得ない)...!! 」

「⋯ 後は、タイマン張ってもらうしかなさそうね! 映画監督さん!!」

 

ヒツギは天羽々斬を突き付け、べトールに言い放った。

「チッ⋯⋯ !! 覚えておくぜアメリアス! 君ほど手のかかるactor(演者)は初めてだ!!」

「何、逃げる気!?」

「今日の撮影は此処までだ!もっとお前達に相応しいplace(場所)extra(エキストラ)が用意できてから⋯ 本番といこうじゃないか!!」

 

クラッパーボードの音が響くと同時に、べトールのいた場所が爆発する。

その爆風が消えると、べトールの姿はかき消えていた。

 

「逃げられた⋯ 」

『やはり向こうの方が、エーテルの扱いは上ですね⋯⋯ って、アメリアスさん!!?』

呟いたシエラが、突然悲鳴を上げた。

ヒツギが驚いて振り返ると、アメリアスの身体が校庭に崩れ落ちていた。

「アメリアス!?」「マスター!」

 

二人に抱え上げられ、アメリアスはため息をつく。

「はぁ⋯ ごめん、ちょっと無茶しちゃった⋯⋯ 」

『無茶なんてレベルじゃないですよ⋯ とにかく、すぐに帰還してください』

「了解⋯⋯ マスター、とっとと立つ」

 

けしけしと膝を入れ、アメリアスを立たせるリオ。

「痛い、痛いって⋯⋯ そうだ、ヒツギさんこそ大丈夫?」

「う、うん⋯⋯ でも、兄さんが⋯⋯ 」

頷きつつも、ヒツギは肩を震わせる。

また、涙がこぼれた。

 

A.P241:4/2 19:30

アークスシップ:艦橋

 

「⋯⋯ 報告は、以上」

アメリアスの代理で艦橋に来たリオの報告を聞いて、シエラとヨハネスは揃って頭を押さえた。

『アメリアス、無茶しやがって⋯⋯⋯ 』

「取り敢えずアメリアスさんには、メディカルチェックを受けてもらっています。ヒツギさんは⋯⋯ 」

「ステラとアル君と一緒に、部屋にいる⋯ 」

 

リオはそこまで言って、俯いた。

「マスター、きっと落ち込んでる⋯⋯ どうしよう⋯⋯ 」

垂れ下がった金髪の間から、震えた声が漏れる。

 

ヨハネスはそれを見ると、ゆっくりとリオに近づき、

『⋯⋯ だったら、なおさらリオがしっかりしなきゃ』

リオの小さな頭を、くしゃっと撫でた。

『あいつ、メンタル弱いからさ。1番付き合いの長い君が、寄り添ってくれないかな』

「そうですよ。リオさんは、アメリアスさんの相棒(パートナー)なんですから」

 

「パート、ナー⋯⋯ 」

不意に、リオは思い出した。

『命令はひとつだけ。ずっと、一緒にいてほしいな』

彼女のマスターが、彼女に最初に言った、つまらない命令を。

 

「⋯⋯⋯ うん」

でもその命令は、リオにとっていつまでも、最優先事項である事に変わりはなかった。

『よしよし。しっかり頼むね』

「うん⋯⋯ じゃあ、失礼します」

頷いて、てくてくとゲートへ戻る。

 

リオがゲートの前に立った、ちょうどその時。

「シエラー、入るわよー」

ゲートが急に開き、リオは入って来た少女と正面衝突した。

「あだっ⋯⋯ !」

「あっ、ごめんなさい!!⋯⋯ って、なんだリオか」

 

正確には、少女が走って来たのと体格差で、軽く吹っ飛ばされたのであったが。

リオは頭をさすって、こちらを屈んだ姿勢で覗き込んでいる少女を見上げた。

 

戦闘部次席、クラリスクレイスと同型の黒い戦闘服を来た、黒髪のヒューマン。

「ごめんごめん。ちっこいから弾きとばしちゃった」

「ちっこい言うな、サラ」

リオはむくれて、少女⋯ 総務部次席、サラに言い返した。

 

「あれ、アメリアスは?」

「メディカルチェックに放り込まれた⋯ マスターに用事?」

「いいえ、別に。シエラに報告があっただけだから」

サラは立ち上がって、シエラの方へ歩いていく。

リオもぷいっとゲートを向いて、艦橋を出た。

 

A.P241:4/2 20:00

アークスシップ:ゲートエリア

 

ステラは気づけば、ぼんやりとゲートエリアのベンチに座っていた。

憔悴しきった様子のヒツギが帰って来て、1人部屋を出てから、ずっとここにいた事になる。

 

ステラはずっと、考えていた。

もしも、姉がいなくなったら。

 

「⋯⋯⋯⋯⋯ 」

血の繋がった姉妹ではあるものの、つい3年前まで昏睡状態であったステラにとって、アメリアスという少女(えいゆう)はそこまで繋がりの深い人間ではない⋯⋯ そう、思っていた。

しかし数週間前、ショップエリアで再会を果たした時、その考えは変わった。

 

彼女は、アークスの英雄で。

でも、確かに自分の姉なのだと。

実験の影響で朧げになってしまった記憶の中に、アメリアスは確かにいたのだ。

 

だからこそ、決めた。

彼女に追いつき、そばに居続けようと。

「⋯⋯ そうだよ。私は姉ちゃんが大好きだ。離れ離れになんか、なりたくない」

自分に言い聞かせるように呟いて、立ち上がる。

 

「⋯⋯ そうだよ。ヒツギさんだって同じのはずだ⋯⋯⋯ 」

そこで、ステラは再び考え込む事になった。

「⋯ 何か、してあげられないかな」

今のヒツギには、何かしらのケアが必要だ。

しかし⋯⋯ 幼い自分に何が出来る?

 

「うわー⋯⋯⋯⋯⋯ 」

思いつかない。

そのまま頭を抱えそうになった、その時。

「マスター?」

キャストの声が、ステラの耳に入った。

 

「ん、フェオ。お疲れ様」

「いえ⋯ 如何されたのですか? 普段はもう部屋にいらっしゃるのに⋯⋯ 」

「⋯⋯ なんでもない。じゃ、行こっか」

首を傾げるサポートパートナーの手を引いて、足早にテレポーターへと向かう。

 

難しい事は、寝てから考えよう。

ステラにとって、それが今の最適解だった。




「ロストワンの号哭」
この心を黒く染めたのは———
少女の号哭も、世界には届かない。

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