ファンタシースターオンライン2 「Reborn」EPISODE 4(休止中) 作:超天元突破メガネ
A.P241:3/30 11:10
アークスシップ:ショップエリア
子供というのは往々にして、高いところが好きなものだ。
「お姉ちゃん! あそこ行ってみよう!!」
アルはショップエリアの空中回廊が気に入ったらしく、はしゃぎながら最上部へと走り出す。
「す、ストップアル!! この高さで落ちたらやばいから!!」
ヒツギは慌ててアルの手を掴んだ。地上からかなりの高さがある最上部は、万が一落下でもしたら命の保証も出来ない。
「はーい。でもお姉ちゃん、すっごくいい眺め!!」
当の本人は、まるで気にせずはしゃいでいるが。
「ったくもう⋯ ん?」
ため息をついたヒツギは、最上部の人影に気づいた。
薄緑色のサンバイザーを被った、ツインテールの少女が立っている。アメリアスと同年代だろうか。
(アークス、だよね⋯ 声かけられでもしたらまずいかな⋯ )
アメリアスが席を外している今、こちら側の人間と接触するのは得策ではない。
「アル、ちょっと降り⋯ 」
⋯ というヒツギの思考は、その少女の顔に気づいた瞬間たち消えた。
「あ⋯ ああ! 歌姫クーナ!?」
「うえぇっ!? だ、誰!!?」
突如聞こえた大声に、少女⋯ クーナは驚いて振り向いた。
「⋯⋯⋯⋯⋯ 」
(や、やっちゃったー!?)
顔を真っ赤にした少女が、変な姿勢で突っ立っている。
クーナはしばらく、その顔を見つめると、
「⋯⋯⋯ な」
「え?」
「なんだー! 私のファンの人かー! いやーまさかもうバレちゃうとはー!」
弾けるように、上機嫌に笑い出した。
「あ、は、はい⋯ すいません、大声出しちゃって⋯ 」
「いやいや、別に良いって! 一応お忍びで来てるとはいえ、こんな所通るアークスもいないから!」
ヒツギがおずおずと謝ると、クーナはにこやかに答える。
その笑顔に、幾分ヒツギも冷静になった。
「あの⋯ いつもライブで曲聴いてます! とっても⋯ 好きです!」
「⋯ ありがと! そう言ってもらえると、いっつもアイドルやってて良かったって思えるよ!」
楽しそうに会話する2人。
「⋯ ねえ、あいどる、ってどういう人?」
不意に、アルがヒツギの袖を引き、そんな事を尋ねた。
「あ、アイドルの仕事? うーん⋯ 」
ヒツギは不覚にも考えてしまった。いざ訊かれると答えられない質問だ。
「⋯ アイドルはね、みんなを元気にするのが、一番の仕事だよ」
そこで答えを示したのは、クーナだった。
「みんなは一緒だよ、1人じゃないって伝えるの⋯ この身、この声、この心で。アークスのみんなが、淋しくないように」
ヒツギは思い出した。
2年前の「ダークファルス・『
ゲームの設定と思い込んでいても、彼女の歌を好きになり、元気をもらっていた自分がいた。
それはきっと、彼女が望んでいた事で⋯
「さびしく⋯ ないように?」
「そう。1人だと出来ることはたかが知れてるけど、みんなが一緒にいれば、なんとかなるものだからさ」
ライブでは見せない、穏やかな笑顔でクーナは言う。
「⋯ もっとも、どっかの
「守護輝士って⋯ 」
ヒツギが言いかけた、その時。
「あ、噂をすれば⋯ もしもしアリスー?」
通信が入ったらしく、クーナはそちらに喋り始めた。
『ごめんクーナ、ハガルの特命部隊からの報告、そっちで受け取って欲しいんだけど⋯ 』
「はあ? それ司令の仕事でしょ?」
端末から漏れ出る声は、近くのヒツギたちにも届く。
「ねえ、クーナさんの話してる相手って⋯ 」
「アメリアスお姉ちゃん、だよね⋯ 」
『カスラ司令に連絡つかなくて⋯ お願いします! クーナ次席!』
「⋯ 了解。すぐ部に戻るから、次席宛で送っといて」
少し言葉を交わした後、クーナは2人の方を向いた。
「ごめんねー、急用ができちゃった。ライブの準備もあるんだけどな⋯ 」
「あ、いえ⋯ ありがとうございました」
「今度のライブも見に来てね! それじゃ!」
ヒツギたちとすれ違う形で、クーナはテレポーターの方へ走っていく。
「ラッキーだったわね、アル」
「うん!」
嬉しそうに答えるアル。
ヒツギとしても、こちら側でクーナに会えたのは僥倖だった。
「連絡はない⋯ ってことは、アメリアスはまだ終わらないみたいね⋯ 」
さて、これからどうするか。
ヒツギはアルに尋ねかけて⋯ 階下を見て凍りついた。
「⋯ アル、降りるわよ、今すぐ」
「え、え? お姉ちゃん?」
アルの手を引き、足早にスロープを降りるヒツギ。
困惑したアルは、ヒツギが見ている方向を注視する。
「⋯⋯⋯ ?」
ヒツギの視線の先には、ちょうど最上部へと登ってくる、数人のアークスの姿があった。
A.P241:3/31 11:40
アークスシップ:ショップエリア
「あっれー⋯ 」
きょろきょろと、ショップエリアを見渡す。
私がショップエリアに戻ってくると、ヒツギさんとアル君の姿はなかった。
「用事終わったー」と連絡したら、「ぁぃ」とやたら小さな声で返事が来たのだが⋯ 十分ほど探しても、見つからない。
「ヒッツーギさーん⋯ あ」
ステージ側への階段を降りたところで、足を止める。
「⋯ あ」
壁の裏に隠れて、ヒツギさんがアル君とうずくまっていた。
「どうしたの?」
「⋯ あそこ」
小さく壁から広場を伺い、指を指すヒツギさん。
見れば、ショップの前で数人のアークスが話している。
「あの人達がどうかした?」
「あれ、うちの生徒会のアバターなの。まぁつまり⋯ マザー・クラスタのメンバーってこと」
私ははっとした。
ヒツギさんは今、マザー・クラスタに追われている状況であって、それが何らかの形で、生徒会といった下部のメンバーにも伝わっている可能性は高い。
「お⋯ いなくなったわね」
生徒会の人達が消えるのを確認して、ヒツギさんが立ち上がる。
「挨拶しなくてよかったの?」
「あんたを思ってのスニーキングよ⋯ !」
首をひねるアル君をよそに、ヒツギさんはため息をついた。
「そういえば⋯ あたしの扱い、学校じゃどうなってるんだろう? 自業自得とはいえ、退学とかになってないよね⋯ 」
心配そうに呟くヒツギさん。
そういえば彼女は、丸一日寮を開けてしまっているわけで⋯
「あれ、何やってんだセンパイ?」
⋯ と。
ステージ側から、デューマンの少女が声をかけてきた。
「あ、イオだ。どっか行ってたの?」
「
疲れた様子のイオは、ヒツギを見て首をかしげる。
「は、はじめまして⋯ あたし、ヒツギっていいます。こっちはアル⋯ えっと⋯ ?」
「イオ。呼び捨てでいいよ。ヒツギ達は、何でセンパイと一緒に?」
「あ、えっと⋯ ちょっとこの人にお世話になってて⋯ 」
たどたどしく答えるヒツギさん。
イオはヒツギさんと私を交互に見ると、うんうんと頷いて、
「なるほど。またセンパイの面倒ごと関連か」
「面倒ごとって⋯ まるで否定できないけど⋯ 」
落ち込むヒツギさんに、イオは気にする事じゃないよ、と苦笑する。
「センパイはもともと、面倒ごとを抱え込む人だからさ⋯ 全く、責任感が強すぎるのもどうかと思うぞ、センパイ」
「むう⋯ そんな事ないよ」
言い返すと、イオは小さくため息をついた。
「⋯ センパイはそういう人だもんな。もっとおれ達を頼ってくれよって言ってるのに、結局1人で何とかしようとしちゃうんだもんな」
「⋯ ? 1人でやっちゃ、ダメなの?」
アル君が問いかけると、イオは少し考えてから、
「別にそれが悪いんじゃない。無理しないでほしいってことさ。後は⋯ もっと信頼してほしい、かな」
「別に信頼してないわけじゃないよ。最近なんか、イオにいいとこ持ってかれっぱなしだし⋯ 」
「ふふん⋯ ミリオンストームの本気を侮るなよ、センパイ」
上機嫌になるイオ。
ヒツギさんの方で何もないうちに、何度か一緒に任務に行ったのだが⋯ 少し、差をつけられた気がする。
「だってレンジが違いすぎるもん。後ろからどんどんイオが撃ちまくるから⋯ 」
「ジェットブーツは極近接戦闘だからな⋯ っと、それは置いといて」
⋯ 置いとかれた。
「1人で無理してるといつかつまずくからな。仲間を蔑ろにするなよ、センパイ」
「⋯ はーい」
⋯ なんか怒られた。
「まあ、これだけ言ってもセンパイのスタンスは変わんないからな。こっちがフォローしてやんないと⋯ ま、これは慣れだな」
⋯ やめて、追い打ちかけないでぇ⋯
私が完全にしょぼくれていると、
「⋯ アメリアスって、案外強引だったりするの?」
ヒツギさんが、イオにそんな事を尋ねた。
「強引も強引。決めた事は絶対に曲げない。曲がった事嫌いだかんな⋯ あそうだ、2年前のマトイさん救出の顛末とか、聞く?」
「あぁ⋯ 聞きたい聞きたい!」
えっ、そこ頷きますかヒツギさん!?
慌てる私をよそに、イオは意気揚々と語り出す。
「女の子1人助けるために、アークスのほぼ全戦力投入させて、ナベリウスで大立ち回り⋯ 」
「ち、ちょっとイオ⋯ !」
「おまけに『深遠なる闇』が復活しそうになったら、それを身を呈して⋯ 」
「それ以上はいけないっ! てか別に後半は私じゃ⋯ !」
イオを止めようとして、ヒツギさんが食い入るようにイオを見てるのが目に入った。
「⋯ うえぇ! イオがいじめるー!」
「あ言い忘れてた。意外とすぐ折れる」
さらに追撃をかますイオ。
「ぷっ⋯ 強引な割に弱いとこあるのね」
「わーん! ヒツギさんもウケないでよー!」
⋯ もうなんか、涙が出てきた。
おれの距離だ!(某ガンダムマイスターは無関係)