ファンタシースターオンライン2 「Reborn」EPISODE 4(休止中) 作:超天元突破メガネ
シエラかわいい。
A.P241:3/31 10:00
アークスシップ:艦橋
「⋯⋯⋯ 」
艦橋に繋がるテレポーター。
艦橋の大型ゲートの前で、ヒツギは立ち尽くしていた。
「あれ、お姉ちゃん、どうしたの?」
首を傾げるアル。
「⋯ ち、ちょっと待って。心の準備がもうちょっと⋯ 」
心を落ち着かせようと、深呼吸を繰り返す。
「すーっ、はー⋯⋯⋯ よしっ」
足を踏み出すと、大型ゲートが静かに開き⋯
(⋯ なぬっ!?)
ヒツギの頬を、ピリピリとした空気が叩いた。
「⋯⋯⋯ 」
コンソールの右側には、シエラとアメリアス。
「⋯⋯⋯ 」
左側には、昨日の戦闘の前、何人かのアークスを連れていなくなった少女。
そして、(誰? あのなんか偉そうな人⋯ )
シエラとは違う制服を着た、長身の男性が立っている。
それにしても異質なのは、この空気。
(ま、まさか⋯⋯⋯ )
ヒツギの中にあったとある疑念が、強まっていく。
「え、えっと⋯ 揃いも揃って険しい顔してるのは、やっぱりあたしが来たから⋯ ?」
作り笑いも、すぐに引きつる。
「あ、あたし⋯ やっぱり捕虜的な感じになるの?」
言いながら、ヒツギは視界が遠のいていくのを感じた。
「お姉ちゃん、ほりょってなに?」
意識を繋ぎとめてくれたアルの肩を、がしっと押さえる。
「心配しなくても大丈夫よアル。あたしに任せて⋯ そういう辱めを受けるであろうことも分かってて来たわけだし⋯ 覚悟は出来てるから⋯ !」
しかしその言葉は、アルに向けてのものではなかった。
(⋯ ああでも何されちゃうんだろう少なくとも身体は調べられちゃうよね!? くまなく調べられたりしちゃうんだよねぇ!!?)
微妙に偏った知識が、なおさら不安を増長する。
(うう⋯ 恥ずかしい事とか無いよねぇ!? あんなことやそんなことされちゃって⋯ あ〜う〜あ〜!!)
ピクピクと震え出す体。
(やっぱ駄目だった!? 簡単にこっちの人のこと信じちゃ駄目だった!?)
恐怖と後悔で、頭が爆発しそうになった、その時。
「もしもーし、ヒツギさーん? 妄想するのは勝手ですが、何か勘違いをなさっているのでは無いかとー」
どこか呆れたような、シエラの声が聞こえて来た。
「⋯ はえ?」
思わず変な声が出る。
「それに、お二人は大事なお客様です。歓迎こそすれ、捕虜扱いなんてとんでもない」
「は、はぁ⋯ 」
思わぬ返答に呆気にとられていると、端にいたアメリアスが口を開いた。
「大丈夫だよヒツギさん。この空気作ったのはそこの陰険⋯ あ」
アメリアスは言いかけて、反対側の少女に目を移す。
「まだ、この人のこと紹介してなかったね。彼女はアイカさん。昨日の戦闘で援軍を連れて来てくれたアークスだよ」
少女は頷いて、ヒツギの前に歩いてくる。
「紹介に預かった、情報部所属、アイカだ⋯ そうか、君も地球の人なんだな。イツキやリナと、同じ感じがする」
すっと手を伸ばすアイカ。ヒツギはぎこちなく、その手を握った。
「イツキ、リナって⋯ 昨日戦ってくれた、清雅学園の?」
「ああ、少し前まで、調査のため地球にいた」
寝耳に水の話とは、まさにこのことだった。
「ち⋯ 地球に!?」
「しばらく清雅学園にも通っていたからな。地球の常識は、身につけているぞ」
小さく笑顔を見せるアイカ。
「⋯ アイカ。一応清雅学園は機密事項なのだから、無闇に開示するのは慎んでください」
それを遮るように、隣の男が口を挟んだ。
「別に必要な事かと思いますが?それより、何故今になって情報部がこちらへ? カスラ司令?」
「⋯ 全く、貴女は相変わらず当たりがきついですね⋯ 」
何故かムッとして言い返すアメリアスを、カスラと呼ばれた男は軽くあしらう。
「そう邪険にしないでくださいよ。その理由の説明も兼ねて、こちらへ情報共有に伺ったんですから」
カスラはサイバーグラスの奥から、黒い瞳をヒツギに向ける。
「まず、ヒツギさん⋯ 貴女がここに招かれているということ」
「あ、あたし?」
するとカスラは、やれやれと首を振って、
「⋯ 甘いんですよ、総司令は。見捨てるべきものを見捨てられない、助けなくて良いものも、助けてしまう⋯ もっともそれが、彼女のいいところなのでしょうが」
「⋯ お姉ちゃん、どういうこと?」
「⋯ 大丈夫よアル。あたしにもさっぱりわかんないから」
当惑する2人の前で、シエラが不機嫌そうに口を開く。
「⋯ ウルク総司令に伝えると、見捨てるべきものまで助けようとするから、調査が終わるまで待っていた、と?」
「さすがはシャオの後継、理解が早くて助かりますよ」
カスラは答えると、ちらりと背後に目をやる。
大きなフロントウインドウには、青い惑星が映っている。
「まあ総司令が絡んでいようがいまいが、結末は変わらなかったでしょうがね」
「あ、そっか⋯ 」
不意に、アメリアスが相槌をうった。
「⋯ 今回の援護射撃、もしかしてアイカさんが?」
「ああ、作戦立案は私だ⋯ 地球の人々を、切り捨てたくなかった」
肯定するアイカ。
「⋯ とまあこのように、私の部下も総司令と同じ判断をしましたので、もう隠しておく必要もないと思った次第です」
カスラはそう続けると、困ったようにアメリアスに目を移す。
「それに余り暗躍まがいの事を続けて、彼女に目をつけられたら敵いませんから」
「⋯ そりゃどうも」
ヒツギがちらっとアメリアスの顔を見ると、凄まじく渋い顔をしていた。
⋯ 手遅れじゃないでしょうか?
「今後、こちらの情報は全て共有します。地球の環境や地理、そして⋯ 」
『⋯ 地球にいる、協力者の方々、ですね?』
突如響いた声。
大型ゲートが開き、1人の青年が入ってくる。
「待っていましたよ。直接会うのは久し振りですね、ヨハン」
『お久しぶりです、カスラ司令』
キャストに似た合成音声とともに、ヨハネスがヒツギの横に立った。
「ヨハン⋯ ! 珍しいね、
『こうも人が多いと、さすがに筆談じゃ限界がありますからね。それに⋯ 』
ヨハネスは答えると、シエラの方を向く。
『音声変換、問題ないです。凄いですね⋯ 環境全ての音声を、瞬時に文字化出来るなんて』
「えへへ⋯ 私の演算能力をちょーっと割けば、これくらいどうってことありませんよ」
照れ笑いを浮かべるシエラ。
どうやらこの中に限り、ヨハネスは健常者と同様に会話できるようだ。
『初めまして、ヒツギさん。自分はヨハネス、情報部所属です』
「あ、ど、どうも⋯ 」
アークス、と言わなかったことに引っかかったが、ヒツギはぎこちなく会釈した。
「でも、なんでヨハンが?」
アメリアスが尋ねると、ヨハンは肩をすくめて、
『小間使いですよ。こちらの問題に優先的にかかれる人ってことで、元々カスラ司令と一緒に動いてた自分に白羽の矢が立ったみたいです』
「彼の部署は基本、暇ですから。ヨハン、例の方々について報告を」
ヨハンは頷いて、その場で話し始めた。
『先日共闘してくれた、イツキさん、リナさんのお二人ですが⋯ 数日オラクルに滞在するそうです。ヒツギさんにも会いたがっていましたよ』
「会長さん達が⋯ 」
ヒツギが呟くと、シエラがあっ、と声を上げる。
「そういえば、あのお二人とヒツギさん、お知り合いなんでしたっけ」
「清雅学園と天星学院高校は姉妹校で⋯ 一応、生徒会の仕事でね」
殆ど事務的な付き合いだったけど、と苦笑する。
「とまあ、こちらからの説明はそんなところです。あとの情報は纏めてお送りしますので、シエラ、貴女の方から説明をお願いします。行きますよ、アイカ」
すると唐突にカスラが話を纏め、アイカに声をかけた。
「あ、ちょっとちょっとー!」
シエラの声を背に、2人は艦橋を出て行く。
『⋯ 置いてかれました』
取り残されたヨハネスは、ぽつりと呟いた。
「⋯ ったくもう! 言うだけ言って帰っちゃうなんて、情報部は勝手なんですから⋯ 」
ぶつぶつと悪態をつきながら、コンソールへ向かうシエラ。
「んしょ⋯ えーっと、情報部からのメールがっと⋯ 」
ワークチェアに座り、少しコンソールを操作した途端、
「わ、わわわわぁ!?」
突然、大量のウインドウが映し出された。
「すごいいっぱいぶわっときた!? なにこれこんなに溜め込んでたんですか情報部!? せ、整理が追いつかないですよー!!」
情報部が送り付けた大量の未整理データを、シエラは目を回して整理していく。
「情報隠すんならその間の管理くらいしっかりしてくださいよー! そうだヨハネスさん! 整理手伝ってください!!」
『はいぃ!!?』
「元々そっちの不行き届きです! ほらほら、操作権限渡しますから!!」
ヨハネスもそこへ駆け寄り、ばたばたとウインドウを叩き始める。
「大変だなぁ⋯ 」
そんな簡単に権限あげていいのかなー、と思いながら、アメリアスがその光景を眺めていると、
「そうだアメリアスさん! ヒツギさんとアル君に、アークスシップの案内してあげてください! その間に終わらせますので!!」
「あ⋯ はい!」
アメリアスはわたわたと頷き、2人の方を向く。
「と言うわけで、ちょっとした見学だね。ついてきて?」
「「はーい」」
大わらわのヨハネスとシエラを残し、3人はテレポーターへと歩いていく。
「頑張ってねヨハンー」
「う、うん! ありがと!!」
去り際にアメリアスが声をかけると、ヨハネスはウインドウを見たまま、小さく手を振った。
A.P241:3/31 10:30
「⋯ 司令」
情報部まで戻る道の、エレベーター。
後ろをついてきていた部下に声をかけられ、カスラは振り向いた。
「あの程度の内容であれば、私1人で事足りましたが⋯ 」
「まあ、報告だけならそうでしょうね」
神妙な顔で尋ねるアイカに、肯定を返す。
「ですが、私は見ておきたかったんですよ⋯ あの人の顔を」
「随分と殺気立っていたように見えましたが⋯ 過去に彼女と何か?」
更に気になっていたことを尋ねると、カスラはため息を漏らした。
「はぁ⋯ 彼女はああいう人なんですよ。反りが合わない人に、妙に敵愾心を向ける⋯ 根は至って真面目なんですが」
⋯ とりあえず何かあったんだなということは、アイカでも理解できた。
「おっと、変な話をしてしまいました」
カスラは珍しく微笑を浮かべ、アイカを見る。
「さあ、これから忙しくなります。貴女にも十分働いてもらいますよ、アイカ」
「⋯ 無論です、司令。地球は⋯ 私の第二の故郷ですから」
窓に映る青い惑星を見つめ、アイカは頷いた。
「問題ないぜ」なんて言って、君は変わらない。
胡散臭い咄も、心強い所も。