ファンタシースターオンライン2 「Reborn」EPISODE 4(休止中) 作:超天元突破メガネ
SB2.5-1「メカクシコード」
A.D2028:3/30 13:55
「ヒツギちゃん⋯ ヒツギちゃん⋯ !
どうして⋯ どうしてっ⋯ !!」
コオリはただ、泣いていた。
「ずっと一緒にいるって、約束したのに⋯ !」
わからない。
なぜ、こんな目に会うのか。
なぜ、彼女は離れていったのか。
信じていたのに。必要としていたのに。
「どうして⋯ どうして⋯ !!」
涙が、止まらない。
当たり前を失う悲しみは、少女には大きすぎた。
「⋯ 鷲宮氷荊。君が泣く理由は何だ」
「⋯ え?」
それは、透き通るような女の声だった。
「奪われた事を嘆くのならば、失った事を悲しむのならば⋯ 硬く手を握り、強く意思を持て」
その声を、コオリは聞いた事が無い。
しかし、その声を、コオリは識っていた。
「君の願いを⋯ 私は識っている」
「ヒツギ⋯ ちゃん⋯ 」
コオリは、顔を上げた。
A.D2028:3/30
東京の一角。摩天楼に埋もれるように建つビルの上。
「⋯ くそッ!! くそッくそッくそッくそッ!!!」
ハギトが1人、地団駄を踏んでいた。
「何なんだ! 何なんだアレは!! 聞いてないぞあんなのがいるなんて⋯ !!!」
やり場の無い怒りは、幾ら吼えても治らない。
アークスの援護が間に合うのなら、まだわかる。
ターゲット⋯ 八坂火継のエーテル適性も、想定内ではあった。
しかし、あの清雅学園の連中は何だ。
何故どこにでもいるような高校生風情が、具現武装を扱えている⋯ !
「この私が、完全に出し抜かれた⋯ ! この亜贄萩斗が、選ばれた人間である私が⋯ !!」
このままでは、マザーへの面目が立たない。
何より、自身の沽券に関わる。
狼狽していたハギトは、ふと視界に入った、一本の尖塔に気がついた。
「⋯⋯⋯ 」
エスカタワー。
世界各地に設置されたエーテルインフラの中継基地であり、東京で暮らしていれば飽きるほどには見ている建物。
「⋯ まだだ。まだ負けた訳じゃ無い。私の軍隊は⋯ 不滅だ」
虚空へ右手をかざす。
「なぁ、そうだろう⋯ エメラルド・タブレット!」
現れたタブレットを、ハギトは空中へ放り投げた。
「あれで足りないのなら⋯ 」
空中を浮遊するタブレット。
「もっと強い物を、もっと凄い物を生み出すまでだ!!」
⋯ 瞬間。
タブレットが強い光を放ち、凄まじい勢いで周囲のエーテルを取り込み始めた。
エメラルド・タブレットは、要するに幻創種を統率する力を持った、エーテルの集合体。
その素材たるエーテルの量によっては、無尽蔵に強力な幻創を具現する事も可能⋯ !
「さぁ⋯ 吸え、エーテルを吸え!! エメラルド・タブレット!!」
それを見上げるハギトの表情は、創作に喜ぶ子供か、はたまた兵器に喜ぶ悪夢の科学者か。
「お前は私の創り出した最高傑作だ⋯ お前の力は、この程度では無い⋯ ! お前の具現に⋯⋯⋯ 限界は無い!!!」
不意に、青い光があたりを覆った。
「⋯ っつ!!」
ハギトは思わず顔を覆い、その隙間からタブレットを見る。
タブレットのあった位置に、浮いていたのは、
『⋯⋯⋯ 』
緑の軍服を纏い、一回り小さくなった、自分と同じ姿だった。
「⋯ は」
これこそが、彼にとっての至高。
「⋯ はは、」
彼の望んだ具現の果て、彼の愛した兵器の完成形⋯ !
「は⋯ はははははははは!!!」
高笑いを上げるハギトの後ろで、姿を変えたエメラルド・タブレットは、エーテルの光になって消えていった。
A.P241:3/30 13:20
アークスシップ臨戦区域:情報部
(ん)
情報部の一角にある、小さめの事務室。
デスクワークに勤しんでいたヨハネスは、通信用端末がチカチカと光るのに気づいた。
(ああ、アイカさんからか⋯ )
応答すると、たちまち文字が並んで行く。
『アメリアスから連絡が入った。作戦は成功した様だ』
『そうですか⋯ 良かった⋯ 』
ヨハネスは安堵して、椅子にもたれかかった。
『こちらも忙しくなる。そちらもしっかり頼む』
『了解です。それでは』
あっという間に切れる通信。
(相変わらず素っ気ないな⋯ )
アイカの通信は本当に最低限だったが、何かあればアメリアスが自分で連絡を寄越すだろう。
などと考えていると、突然何者かにフードを掴まれ、ばふっと被せられた。
「うぶぁっ!?」
慌てて振り向くと、ニューマンの青年が笑っていた。
『何やってんだよタキ⋯ 』
「ーーー! ーー!」
『だから聞こえないって』
そう返すと、青年はいそいそと端末を開く。
『室長ー、飯行きませんかー?』
『おっと、いつの間に昼過ぎか⋯ 』
デスクを纏め、立ち上がる。
普段から、仕事をしていると時間を忘れる事が多いが、先程の緊急転移の後からは、その影響が無いか確認するので急に忙しくなり、時計などまるで見ていなかった。
(確かにお腹すいたな⋯ )
2人で事務室を出ると、タキは廊下の中程で足を止めた。
『うわぁ⋯ あれが地球っすか⋯ 』
小さな窓の外。
青い惑星が、その美しい姿を見せている。
『アークスシップごと異次元に転移するとか、なかなか無茶やってくれますよねぇ⋯ 』
『それなー。前々から準備はしていたとはいえ、何も連絡せずに突然転移するのはどうかと思うけど』
ヨハネスは少々不満気な顔をして、
『⋯ おかげで
『普段ヒマな部署っすからねぇ⋯ まあ、何処にも影響が出てなくて良かったじゃないですか』
すると、タキは不意にニヤリと笑った。
『⋯ 彼女さんも、無事で良かったっすね』
『ちょっ!? アメリアスは別にそんなんじゃ⋯ 』
狼狽えるヨハネスを、タキは心底愉快そうに見る。
『今更何言ってんすかー。あいつが起きた途端、顔見に行くなんて言って出てったの、覚えてるっすよー』
『それはアメリアスに急に呼ばれたから⋯ 』
『その割には、満更でもない顔してたっすけどねー』
『なんでそこまで⋯ ってああ!』
盛大にボロを出したヨハネスは、はあっ、とため息をついた。
『⋯ あのなぁ、僕にとってあいつは、妹みたいなもんなんだ。心配するくらい当然だろ?』
『ふーん⋯ 』
頭の後ろで手を組んで、ちらっとヨハネスを見下ろすタキ。
するとヨハネスは、思わせぶりに笑って、
『ははーん⋯ さては、まだアレの事根に持ってるな?』
『あ、アレ!? ⋯ そんな事ないっす! 2年前のことなんか忘れたっす!』
今度はタキが狼狽える番だった。
『さーって、お腹すいたなーっと』
ヨハネスは満足して、先を行く。
『あっ! 逃げんなこの女型室長ー!』
タキは慌てて、その後を追った。
A.P241:3/30 14:00
アークスシップ:ドミトリーエリア
(⋯⋯⋯ 今更だけど、どうなるんだろ、あたし)
アークスシップの一角。
隊員の自室が集まるエリアを、ヒツギとアルは歩いていた。
キャンプシップが無事アークスシップに到着したのが、30分ほど前。
そして数分待たされた後⋯ とりあえず、空いている部屋で休んでいてほしいと、アメリアスに告げられた。
(まあ、それは良いんだけどさ⋯ )
きっと、シエラ達も混乱しているのだろう。
ヒツギもアルも、一息つきたいのが本音でもあった。
しかし⋯⋯
「⋯⋯⋯ 」
「あ、あの⋯ 」
目の前を行く、「案内役」に声をかける。
黒を基調にしたロングワンピースを着た、金髪の少女。
目を引くのはその身長で、1mもない。
そう⋯ アメリアスが案内役として寄越したのは、自分のサポートパートナーだった。
「あ、あの⋯ 」
「⋯ あ、はい、はいはい」
声を掛けると、短めの髪を揺らし、くるっと振り向く。
(やだ、意外と可愛い⋯ じゃなくて)
「あっと⋯ サポートパートナー、よね? 名前は?」
「⋯⋯⋯ リオ」
ぽつっと答え、リオはまた歩き出す。
(⋯ ダメか。そんなぶっきらぼうな子にも見えないけど⋯ )
やはり、人(確かサポートパートナーはロボットだが)は見た目に似合わないということか。
ヒツギがまた歩き出そうとした、その時。
「怪我とか⋯ 無い⋯ ?」
不意にリオが、ちらっとこちらを向いた。
「え⋯ ? あ、うん。なんかアークスみたいに、エーテルの保護があったみたいで⋯ 」
「そっか⋯ よかった⋯ 」
顔を綻ばせるリオ。
「⋯ 適当⋯ だよね。マスター⋯ 」
「適当?」
「口下手なの、知ってるのに⋯ 案内役⋯ 任せてさ」
「ああ⋯ 」
ヒツギは理解した。
要はこの子は、人と会話するのが苦手のようだ。
「ボクが、無理だって言っても⋯ 『大丈夫だよ!』とか、言うし⋯ 」
「ぼ、ボクっ娘!?」
「無責任だし⋯ 適当だし⋯ 地雷タップダンサーだし⋯ 」
「意外と毒舌! てか最後の何⋯ ?」
⋯ それに、意外と個性的な子の様だ。
「それにしても⋯ 」
リオの顔を、まじまじと見る。
アルに似た雰囲気の、ボーイッシュな顔立ち。またコオリが変なテンションになりそうな⋯
「⋯ コオリ」
置いてきた友人を、思い出した。
彼女はあの時、何を思っていたのだろうか。
「⋯⋯⋯ っ」
ヒツギは立ち止まった。
自分が、恐ろしい間違いを犯してしまった気がして⋯
「大丈夫」
「リオ⋯⋯⋯ ?」
不意にリオが、ぽんぽんとお腹の辺りを撫でた。
「⋯ 届かない」
「そりゃそうでしょ⋯ 」
頭を撫でたかったらしい。
リオはそれならと、ヒツギの手を取り、
「マスターが、いる」
そう言って、にこっと笑った。
「⋯ 信頼してんのね。アメリアスのこと」
「うんっ⋯⋯⋯ 」
嬉しそうに頷くと、リオはアルの前に立つ。
「君も、信じてるよね」
「⋯ うん!」
元気よく頷くアル。
リオはぐいっと背伸びして、アルの頭をわしっと撫でると、足早に歩き出した。
「あ、待って待って」
ヒツギもアルの手を取り、ついていく。
いくつかの部屋を通り過ぎると、リオがぱたと足を止めた。
「ここ⋯ 」
リオがロックを少し弄ると、ドアが開く。
「「おお⋯⋯⋯ !!」」
中は本当に、PSO2でのミニルームそのものだった。
初期配置では何もない部屋だが、すでにベッドも置かれている。
「へぇ⋯ 」
ヒツギが感服していると、不意に通信端末が鳴った。
『ヒツギさん、聞こえますかー?』
「あ、シエラ。何?」
通信端末越しのシエラの声は、少し申し訳なさそうな雰囲気を醸し出している。
『えっと⋯ とりあえず、明日の朝に艦橋に集まることになったんですが、それで⋯ 』
「それで⋯ ?」
『はい⋯ 混乱を防ぎたいので、今日1日、なるべく部屋から出ないで頂けないでしょうか⋯ 』
ヒツギは少し考えて、
「⋯ 確かにそうよね。アルにも言っとくわ」
『助かります。それでは⋯ 』
通信が終わる。
「じゃあ⋯ ボクも、これで⋯ 」
「あ、ちょっと待って」
立ち去ろうとするリオを、ヒツギは引き止めた。
「⋯ リオは、この後忙しかったりするの?」
「⋯ ? 特に何も、無いけど⋯ 」
「それじゃあ⋯ しばらく、一緒にいてくれるかな。ちょっとまだ混乱してて、2人だけだと心配で⋯ 」
リオは呆気にとられたが、はあ、と呟くと、
「⋯ わかった。ボクでいいのなら」
そう答えて、小さく頷いた。
「ありがとう。よかったねアル、リオも居てくれるって」
「わぁ⋯ ! ありがとう、リオ!」
アルは笑って、リオの手を握る。
「リオリオ! このベッドふかふか!」
「⋯ 違う。もっとこうずさーっと⋯ 」
早速ベッドに飛び込む2人。
「もう、結局似た者同士じゃない⋯ 」
ヒツギはそれを眺めながら、苦笑する。
やはりアルも、ヒツギ1人では心細かった様だ。
「⋯ まだまだね、あたし」
もっと、頼れる存在にならなければ。
ヒツギは、そう心に誓った。
仲間たちは動き出す。
だって希望の消えた世界は、ちょっとも飛べないじゃないか。