ファンタシースターオンライン2 「Reborn」EPISODE 4(休止中)   作:超天元突破メガネ

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サブタイトルが嫌な予感しかしない件。


SB2-9「メーデー!」

A.D2028:3/30 12:20

地球:天星学院高校学生寮

 

「「⋯⋯⋯ っわあっ!!!」」

オラクルから引き戻された2人は、気づけばまた、部屋のパソコンの前に立っていた。

「⋯ ここ、あたしの部屋!? 戻ってきちゃったの!?」

 

戸惑うヒツギの耳に、パソコンのアラートが突き刺さる。

ヒツギがパソコンに駆け寄ると、見たことのないエラー画面が出ていた。

 

「エーテルインフラからの強制切断!? エラーコード『OLYMPIA』って、何よそれ⋯ !」

ヒツギはとっさに、机に置かれた携帯電話を掴み取る。

しかし、表示は圏外。

エーテルインフラに対応した携帯電話は、その接続を遮断されていた。

 

「こっちもダメ⋯ ってことは、この辺りのエーテルインフラが切断されてる⋯ !? でもなんで⋯ !」

ヒツギは頭を押さえた。

エーテルインフラの接続不良などあるはずも無い。

エーテルは、「一切の媒介を必要とせず、高速通信を実現する」粒子なのだから。

 

「何が起きてるってのよ⋯ !」

顔を上げ、振り向こうとした、その刹那。

 

「お⋯ お姉ちゃんっ!!」

アルの叫び声が聞こえ、ヒツギの視界の端が青白く輝いた。

「⋯⋯⋯ っ!!?」

ヒツギが飛び退くと、光の中から何かが現れる。

 

青く染まり、四肢が不気味に歪んだヒトガタ。

1週間前、ヒツギを襲った異形だった。

「こいつ、この間の⋯⋯⋯ !! 逃げるわよアル!」

ヒツギは咄嗟にアルの手を引き、部屋を飛び出す。

 

つんのめりながらも廊下に飛び出したヒツギは、瞠目した。

廊下に閃光が満ち、次々と同じ異形の化け物が生み出されて行く。

「なっ⋯⋯⋯ っ!!!」

立ち止まりかけたヒツギの目に、不安そうなアルの顔が映る。

 

止まってなどいられなかった。

ヒツギはその手をしっかりと掴み、異形の群れを潜り抜け、廊下を駆け抜ける。

そしてこの状況の中、ヒツギは感じていた。

(何⋯ !? いつもより動ける⋯ どうなってるの!?)

 

理由はわからない。

しかし、振り下ろされる異形のナイフが、敵の挙動が、見える。

相手の行動の回避。まず身体能力がついていけない筈の反射に、身体がついてくる。

「⋯ こっち!」

混乱するまま、化け物の群れを抜け、曲がり角を越えた、その時。

 

「⋯ こっちだよ、ヒツギちゃん」

廊下の端。

黒髪の少女が、立っていた。

「コオリ⋯ ! よかった、無事で!!」

考えてみれば、彼女は今日は寮にいたはず。

友人が襲われていなかったことに、ヒツギは安堵する。

 

「さっきエーテルインフラが切られて⋯ ! そうだ、コオリにも、あの化け物見えてるのよね!?」

「⋯ ヒツギちゃん、話は後⋯ 外に出よう」

コオリはヒツギの手を掴み、駆け出す。

 

(駄目だ、状況が理解出来ない⋯ !)

必死に思考を続けようとしても、混乱と恐怖がヒツギを襲う。

今だって、アルとコオリの手の触感で、辛うじて意識を繋いでいるようなものだ。

 

「⋯ 大丈夫」

「⋯ コオリ?」

「大丈夫だよ、ヒツギちゃん⋯ 何も心配いらない⋯ 心配いらないから⋯ 」

奇妙な程に無感情に、コオリは繰り返す。

 

コオリに引っ張られるまま走った末に、3人は寮を抜けた。

「こっち⋯ !」

コオリはそのまま、校舎の陸上トラックの方へと走り出す。

「ねえ、本当にこっちは安全なの⋯ !?」

「大丈夫、私を信じて⋯ 任せて」

一切振り向かずに、真っ直ぐに進むコオリ。

 

ここへ来て、ヒツギは冷静さを少し取り戻していた。

何かがおかしい。追いやられていた違和感が、ようやく頭をもたげる。

「⋯ ちょっと、コオリ!」

コオリの手を振り払い、ヒツギは立ち止まる。

突然手に取る物の消えたコオリは、つまづきかけて立ち止まった。

 

「⋯ ヒツギちゃん、聞こえてないんだね」

震えた声が、誰もいないトラックへ沈む。

コオリはゆっくりと振り返り、ヒツギを見る。

「マザーが全部教えてくれてるのに、どうして⋯⋯⋯ ヒツギちゃんには、聞こえてないの!!」

 

少女の慟哭に呼応したかのように、周囲に光球が瞬いた。

「⋯⋯⋯ だから言っただろう?」

再び現れる異形。

そしてトラックに、青年の声が響く。

「彼女は裏切り者で、マザーから見放されてしまったんだよ、ってさ」

プレハブ小屋の上から朗々と語るのは、黒いジャケット姿の、金髪の青年だった。

 

「亜贄萩斗⋯ !」

驚愕するヒツギの前へと、ハギトは飛び降りる。

「⋯ 改めて自己紹介しよう、お嬢さん」

立ち上がった青年の痩躯が、金色の光に包まれる。

 

ハギトの前へと浮かび上がる、金色の「esc-a(エスカ)」の紋章。

その瞬間、ハギトの黒いジャケットとスラックスは、白い正装に変わっていた。

「僕はハギト⋯ マザー・クラスタ『金の使徒』、亜贄萩斗さ!」

 

高らかに告げるハギト。

「使徒⋯ !? 何を言って⋯ !」

サングラスが消え、露わになったその双眸を、ヒツギは睨みつける。

マザー・クラスタは、「esc-a」の保守を行う為、マザーに選ばれた人々のはず。

使徒などという存在を、ヒツギは知らない。

 

「『esc-a』の管理を行うのが、マザー・クラスタ⋯ だが、今やエーテルインフラは全世界の通信を担っている。この意味がわからないほど、君も愚かではないだろう?」

さも愉快そうに、ハギトはヒツギを見る。

「そのエーテルを発見し、技術を伝え、世界中に普及させたのがマザー・クラスタ⋯ そのメンバーには、大企業や政府の要人も含まれている。君たちは末端、というわけさ」

 

ヒツギは言葉を失っていた。

末端、と見下されたからではない。マザー・クラスタの真実に愕然としていたのでもない。

彼の言う通りだった。エーテルインフラは、全世界を覆う。

それを整備するマザー・クラスタが、たかだかSNS程度の繋がりであって良いもののはずがない。

彼の語った真実とまでは行かずとも、全く違和感を感じず、マザーの言葉を信じ込んでいた自分自身に、ヒツギは愕然としていた。

 

「僕の会社がここまで発展したのは⋯ まあ僕の経営手腕に依るところが大きいが⋯ それでも、幾らかの便宜は測ってもらったかな」

絶句する少女に、ハギトは満足そうに言葉を重ねる。

 

「マザー・クラスタの力があれば、なんでも出来る。学校一つの掌握なんて朝飯前。世界だってあっという間に、意のままさ」

「何よ、それ⋯⋯⋯ それじゃあマザー・クラスタが、世界を支配してるって事じゃない⋯ !!」

 

ようやく思考が追いつき、ヒツギは辛うじて言い返す。

「⋯ 違うよ、ヒツギちゃん」

「コオリ⋯ !?」

それを遮ったのは、他でもない、彼女の友人だった。

 

「マザー・クラスタは、支配しているんじゃないの。世界を裏から支えてるの。マザーが、そう言ってたから、そう教えてくれたから⋯ 」

淡々と繰り返すコオリ。

 

彼女はまだ、その言葉を信じている。

たった今、マザーの偽りが露呈したというのに。

「⋯ ! あんたまさか、この化け物だけじゃなく、コオリまで操って⋯ !」

 

直情的に叫んだヒツギに、ハギトはやれやれと首を振る。

「⋯ 勘違いしないで欲しいな。確かにこいつらは私が使役している。だが別に、私はコオリちゃんまでは操ってないよ」

「そんな戯れ言⋯ !」

「彼女は彼女の意思で動いている。マザーから連絡を受けて、君を助けるために、ここまで連れてきたんだからね」

 

ハギトは悠々と語り、コオリを見る。

「お願い、ヒツギちゃん⋯ 何も言わずにアル君を渡して!」

今にも泣きそうな声で、コオリが懇願する。

「そうすれば、マザーはヒツギちゃんを許してくれるって言ってたから⋯ マザーは絶対に、約束を守ってくれるから⋯ !」

 

「え⋯⋯⋯ ?」

ヒツギがコオリの言葉を理解するのに、数瞬を要した。

今の今まで、ヒツギはこの状況を、詮索をした末端の人間の粛清、ないし始末だと思っていた。

しかし、今のコオリの発言。

マザーは、自分が邪魔なのでは無く、傍の少年を必要としている。

 

だとしてもヒツギには、その真意が読めない。

「ま、マザーがアルを求めてる⋯ !? 一体どういう⋯ !」

ヒツギは思わず、コオリに問いを返そうとする。

しかしコオリは、ヒツギが言い切る前に、その問いを。

 

「そんなの⋯ そんなのどうだっていいのッ!!!」

その問いを、一蹴した。

 

「お願い⋯ お願いヒツギちゃん⋯ ! アル君を渡して、いつもの日常に戻ろう⋯ !!」

こちらへ手を伸ばすコオリ。

ヒツギはちらりと、傍を見た。

自分の横で怯える、小さな少年を。

 

ヒツギは目を閉じ、足を踏み出す。

そして右腕でアルを庇い、コオリを見た。

これが答えだと、知らしめるように。

 

「ヒツギちゃん⋯⋯⋯ !?」

「⋯⋯⋯ 何やってんだろうね、あたし。合理主義者のつもりだったんだけどな⋯ 」

自嘲するヒツギ。

彼女にとっても、この決断に自分の利は一つも見出せなかった。

 

それでも、理由はあった。

あの日⋯⋯⋯ 全てが始まった日。

突如現れた異形の徒から、アルは見ず知らずの自分を助けてくれた。

それはごく小さな、忘れてしまいそうな恩かもしれない。

それでもヒツギにとっては、それだけで十分だった。

 

ヒツギは顔を上げ、敢然と目の前の「敵」を見る。

「だけど⋯ そう簡単にアルを見捨てるほど、あたしも大人じゃないみたいね」

「⋯ 下がってなよコオリちゃん。ここからは私の役目だ」

その決意を嘲笑うように、ハギトは意気揚々とコオリの前に出た。

 

「そんな⋯ ! ヒツギちゃんは騙されてるだけなの! 話せばきっと⋯ !!」

「黙っていたまえ!!」

なおも縋り付くコオリを、ハギトは突き放す。

女子高生が受け身など取れるはずもなく、コオリは派手に倒れると、そのまま動かなくなった。

 

「コオリ⋯ !!」

「学生のお遊戯は終わりだ! ここからはビジネス⋯ 私とマザーの契約に従ったビジネスなんだよ、お嬢さん!!」

ハギトは高圧的に告げると、左腕を虚空へかざす。

「スムーズな仕事こそ、私の信条。効率よく簡単に⋯ そう、アプリをいじるようにね!」

 

ハギトの左手に、翠玉(エメラルド)の燐光が灯る。

そして一瞬で、それは緑の光を放つタブレットになっていた。

「光り輝くタブレット⋯ !?」

「へぇ⋯ これが見えるんだねぇ⋯ 大したエーテル適性だ」

エーテル適正⋯ 聞きなれない単語を呟きながら、ハギトは左手のタブレットを見せつける。

 

「これはエメラルド・タブレット。幻創の召喚、強化、統制諸々の指揮を行う、私の『具現武装』さ⋯ こんな風にね!!」

タブレットの光が強まる。

 

その瞬間、ハギトの背後に数個の光球が現れた。

「ヘリコプターに、戦車⋯ !!?」

光球から現れた鋼鉄の塊達に、ヒツギは息を飲む。

その現れ方は、今までのゾンビのような化け物と、全く同じだった。

 

「なんでこいつら、何処からともなく⋯ !」

「おいおい⋯ ここまで見せられてまだ、エーテルは通信だけに使うもの、とでも思っていたのかい?」

呆れたように、両腕を広げるハギト。

 

「エーテルの本質は、空想の具現! エーテルを掌握すれば、このように自分の軍隊を創り出す事も、容易なんだよ」

ゾンビのような異形の歩兵。

戦争の為の鋼鉄群。

亜贄萩斗にとって、自身が具現したそれらは、まさに自分の命令に従う「軍隊」だった。

 

輝くエメラルド・タブレットとともに、ハギトは現れた戦車へ飛び乗る。

「さあ⋯ 私の部下よ! 私の手足となり⋯ 無駄なく効率よく、仕事を完遂しろ!!」

指揮を執るようにかざされる、エメラルド・タブレット。

創造主の命を受け、ずっと傍観していた異形の群れが、ヒツギへと走り出す。

 

ヒツギを囲む敵。すでに逃げ場など無い。

(ここで、終わりなの⋯ ?)

為すすべなく、ヒツギは立ち尽くす。

無手の少女へと、化け物は容赦無く、ナイフを振り上げる。

 

無意識に後ずさる足。

後退した体が、背後に隠れるアルへとぶつかる。

(⋯⋯⋯⋯⋯ !!)

小さな体に触れる手。確かな熱が、ヒツギに伝わる。

 

忘れかけていた。

アルを守るという、誓いを。

そう、ここで諦めるわけにはいかない。

失うだけの結末など、認めない。

 

「違う、あたしは⋯⋯⋯ 」

 

ヒツギの体が、青く輝く。

収束するエーテルが、ヒツギの「意志」を形に変える。

 

「あたしは⋯ 守ってみせるんだ!!!」

 

瞬間。

横薙ぎに振るわれた何かが、寸前に迫った異形達を一気に斬り裂いた。

 

「何ぃっ⋯ !!?」

「これは⋯⋯⋯ !?」

 

ヒツギは茫然と、両手に握られた物を見る。

左手に握られた物。黒い(こしらえ)の刀の鞘。

右手に握られた物。豪奢な飾りのついた日本刀。

 

「具現武装⋯ !? この土壇場で覚醒したというのか⋯⋯⋯ !!?」

驚愕するハギトの声は、ヒツギには届かない。

 

ヒツギは自らの握る剣を見つめ、確信する。

本来日本刀には、装飾の類などない。

僅かに反り返った美しい刀身、黒漆の拵などの特徴はあるものの、この刀は日本刀として、この世界に存在するものではない。

 

何故なら、ヒツギはこの刀剣の名を知っている。

古の神話に語られる神剣。奪還と救世の証たる、十束剣とも呼ばれるそれは⋯

 

「成る程⋯ わざわざ私が呼ばれる訳だ」

ハギトの声が耳に入り、ヒツギは我に帰る。

「⋯ うっ!!」

瞬間、ヒツギは急に立っていられなくなり、膝をついた。

「はぁ⋯ はぁ⋯⋯ !」

極限下での緊張のせいか、はたまたこの刀が原因か、短時間で異常に消耗している。

 

「しかしこの程度のイレギュラーなど織り込み済み⋯ それに具現直後ではもう立てまい」

ハギトは余裕を取り戻し、膝をつく少女を見下ろす。

被害といっても、数体のゾンビ型が倒されただけ。まだ主力は幾らでも残っている。

「今度こそ終わりだよ、お嬢さんッ!!」

 

だが、こんな危機にこそ。

繋がった希望は、宙から舞い降りる。

 

『させるかってのおおおおおおお!!!!』

響き渡る、咆哮にも似た叫び声。

ヒツギが上空を見上げる間も無く、トラックに凄まじい衝撃が走る。

 

「つわっ⋯ !!」

アルを衝撃から庇い、ヒツギはごろっと横転する。

しかし反射的に体が動き、体勢を立て直した。

 

ヒツギは顔を上げる。

「あ⋯⋯⋯ !!」

上空を飛ぶキャンプシップ。

そこから飛び降りてきた少女が、ゆっくりと立ち上がる。

「⋯ 遅れちゃってごめん、ヒツギさん」

 

腰まで伸びた銀髪、黒いバトルドレスの脚を覆う、コバルトブルーの魔装脚。

「アメリアス!!!」

舞い降りた戦士は、ヒツギへ振り向き、小さく頷いた。

 




「メーデー!」
その知らせが、その願いが、その力を呼び出した。

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