ファンタシースターオンライン2 「Reborn」EPISODE 4(休止中) 作:超天元突破メガネ
A.P241:3/30 11:00
アークスシップ:フランカ'sカフェ
「⋯ 流石に杞憂じゃないのか?」
ティーカップ片手に、レイは眉をひそめて言った。
ゲートエリアでぽけっとしていた私を、レイが呼び止めたのが30分前。
それから相談に乗ってもらおうとカフェに来て、昨日の話をした所、この返答である。
「でもでも、マグの撮影してた映像にはたしかにイル・フォイエの火球が映ってたんだよ?」
『マググッジョブだね。あ、君のマグが撃っちゃったって可能性は?』
隣に座ったヨハンが尋ねる。ちなみに、私とレイが来た時にもう彼がいた(なんか書き仕事をしていた)ので、2人で相席させてもらっている。
「それは絶対ない。マグは上級テクニックは使えないし、私のはグランツ撃つようになってるから」
「リオがテクニックを使わない以上、君を襲ったイル・フォイエはまずそのアイクという少年が放ったもので間違いない、か⋯ 」
レイがため息をつく。
混戦になれば、確かに誤射も発生する。
しかし何度も言うようだが、ビッグヴァーダーの最初のレーザーは直進回避するのが定石だ。
あのタイミングでイル・フォイエを撃ち、その座標指定をミスするなどまず無いと思うが⋯
『まあ、そっちは考えていてもラチがあかない。今問題にするべきは、アイク君の事だと思うけど』
「⋯ それもそうだな。アメリアス、彼は本当に消えたのか?」
私は頷いた。
あの時、シエラさんは解析と同時に、アイク君の信号が無いか確認したらしい。
結果、アイク君は私のいた探索エリアにはおらず、
短時間でシップ中を総ざらいできるあたり、流石は管理演算用ハイ・キャストといったところだが⋯ アイク君が突然姿を消したのは、これでほぼ確実になった。
『突然の消失⋯ 彼は例の出自不明のアークスの1人と見て間違いないか⋯ 』
「⋯ だとしたら、一つ推理ができるな」
レイは人差し指を立てて、話し始める。
「アメリアスから聞いた所では、地球という異世界の人間が、ゲームを通してこちらに干渉を試みている⋯ というわけだが」
果たしてレイの推理は、私の思考の隙を見事につくものだった。
「向こうにも、ゲームの中ではない⋯ と知る者がいるとすれば」
『なるほど⋯ 何らかの理由で、こちらに妨害を掛けてくることもありうるってことか』
あまりにも真っ当で、それでいて考えてもいなかった事だった。
そう言われてみればそうだ。ヒツギさんのように、向こうの人間が「ゲームの中に潜り込んでいる」と勘違いしているのは、理由があった。
⋯ 「マザー」と呼ばれる存在。
それが何かは判断できないが、ヒツギさんの言動からして、マザーは真実を知っていて、それでいてヒツギさんや「マザー・クラスタ」の人々に隠している事も考えられる。
それは逆に、マザーが真実を伝えた者もいるかも知れない⋯ という事。
『さらに言えば、今回の件は真実を知る人間にとってことさら都合が悪いよね。だっttt』
「こちらに⋯ オラクル側に、地球という星と、そこからの干渉がバレてしまった」
ヨハンのタイプを遮って、声が出た。
こちらで地球の事情を把握しているのは、アークスの中でもかなり限られている。
今こうやって話している2人にも、私が話していない情報は少なくない。
向こうは多くの人間が「PSO2」を利用している以上、こちら以上に情報隠蔽に努めていることだろう。
そんな中、こちらと関わりをもつ人間が現れてしまった⋯ ということは。
「⋯ 待て。仮に今回、アメリアスが狙われたと考えたら⋯ 」
『向こうの人間⋯ ヒツギ君も、もしかしたら⋯ 』
繋がりに気づいた何者かが、ヒツギさんを⋯ あるいは彼女と一緒にいるアル君を襲撃する。
⋯ 可能性は、否定できなかった。
「⋯ 向こうに何かあったら、一応こっちも分かるけど⋯ 」
『⋯ まだ、地球との距離は遠い。転移環境が安定する時間も含めると、片道40分以上掛かる⋯ 』
「⋯ 無事を祈るしか、無いのか⋯ 」
3人同時にため息をついた、その時。
『姉ちゃん姉ちゃん!!』
通信端末の緊急回線から、最近聞いていなかった声が聞こえてきた。
⋯ 音信不通になっていた、生意気な妹の声が。
「す⋯ ステラ!!? あんた今まで何やって⋯ !!」
「話は後! ヒツギさんが来た!!」
「はぁ!?」
思いがけない通達に、思わず立ち上がる。
『すぐ来てくれって、シエラさ⋯ 』
「わかった2分待って!!」
言い終わる前に連絡を切り、2人に向き直る。
「ごめんね、ちょっと行かなきゃ⋯ 」
「ああ、この話はまた今度⋯ ヨハン?」
『109、108、107⋯ 」
「「数えなくていいから!!!」」
挨拶も適当に、私はカフェを飛び出した。
A.D2028:3/30 12:00
地球:天星学院高校学生寮
ヒツギは、パソコンの前に立っていた。
ディスプレイには「PSO2」のログイン画面が映され、クリック一つでゲームが始まる。
ただ⋯ 一つだけ、いつもと違う点があるとすれば。
ヒツギの横には、金髪の少年が、ヒツギと手を繋いで立っていた。
(5年前⋯ 両親を亡くしたあたしに、優しく声をかけてくれた⋯ それが、マザーとの出会いだった)
ヒツギは目を閉じ、想起する。
エーテル越しに聞こえた、マザーの声。
直に会うことは無くても、その声は優しく、暖かく⋯ いつだって正しかった。
(だからこそあたしは、マザー・クラスタに入った。マザーの声を聞き、マザーのために動く、そのための組織に)
そっと、マウスに手を伸ばす。
左クリックと同時に、エーテルの燐光が、周囲を覆う。
(でも⋯ !)
傍の少年の⋯ アルの手を、強く握る。
瞬間、青い閃光が、辺りを照らした。
A.P241:3/30 11:31
アークスシップ:ゲートエリア
「⋯ もう目を開けて大丈夫よ、アル」
聞こえてきたヒツギの声に、アルはゆっくりと瞼を開く。
そこには、見たことのない景色が広がっていた。
「うわぁ⋯⋯⋯ ! 本当に、べつの世界に来ちゃった⋯⋯ !!」
アルは嬉しそうに、くるくると辺りを見回す。
ヒツギはそれを、ただじっと見つめていた。
アルがゲームから引き込まれたのなら、その逆もまた可能ではないか。
そう思って手を繋いでいたのだが、それだけで、本当に連れて来てしまった。
(だけど、アルはアルのまま⋯⋯⋯)
言うまでもなく、彼は本来、自身が使っていたアバター体の筈。
しかしこうして、自分と離れて、嬉しそうに歩き回っている。
ヒツギの予想が、確信に変わる。
現実と同じ姿で、現実と同じ服装で。
自分たちは明らかに、「生身でこちらへ来て」いる。
マザーがゲームと言った、この世界に。
「⋯ シエラさん」
前回の邂逅で受け取っていた、簡易型の通信機⋯ オラクル版PHSの様なものに囁く。
「はいはーい! 呼ばれて飛び出てシエラですよー⋯ って、ヒツギさん、真面目な感じですね」
シエラは元気よく返事をして、すぐにヒツギの意思に気づく。
「アメリアスも、いるよね? アルの事を調べて欲しいの。艦橋、行ける?」
「⋯ はい。ヒツギさんのバイタルデータで認証できるようになっています⋯ お待ちしています」
通信が途切れる。
「行くよ、アル」
アルの手を取り、歩き出す。
アルは不安げに、ヒツギに問いかける。
「お姉ちゃん⋯ どこ行くの?」
今まで、迷いはなかった。
マザーが正しいから、そのために動く⋯ それだけでいい、はずだった。
だが、その前提は揺らごうとしている。
傍の少年を見る。
⋯ それでも、一つだけ信じるもの。
1週間前のあの日、ヒツギは決めたのだ。
自分は、彼の味方でいたいと。
自分を助けてくれた少年の、力になりたいと。
自分にとって、今すべき事。
ヒツギは顔を上げ、告げた。
「何が正しいか⋯ 見に行くの」
歩く2人の背後。
テレポーターの陰から、少女はじっと、その背を見つめていた。
「イドラのサーカス」
きっと、観客は気づかない。
自らが、「理想」を守る刃たることに。