ファンタシースターオンライン2 「Reborn」EPISODE 4(休止中)   作:超天元突破メガネ

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投稿再開早々遅刻⋯ 本当に申し訳ありません。


SB2-4「時代改正ドミナント」

A.D2028:3/28 11:00

地球:東京

 

「それにしても、だいぶ暖かくなったわよね〜」

「西の方じゃ、もう桜も咲き始めてるらしいしね〜」

「⋯ ねえ、これいつまで待つの?」

ヒツギとコオリ、そしてアルは、学生寮近くのバス停に立っていた。

 

「⋯ ごめんねアル、もっと早くに出るつもりだったんだけど、生徒会の仕事が終わらなくて⋯ 」

「ううん。それよりも、これいつまで待つの?」

「もうちょっとだよ、アル君」

退屈そうなアルをなだめながら、コオリはヒツギの方を見る。

 

「そういえば、今日どこ行くの?」

「とりあえず、ちょっと離れたとこの書店。欲しい本があってさ」

「⋯ そういうの好きだよね〜⋯ 」

相変わらずなヒツギに、苦笑するコオリ。

 

程なくして、バスが到着する。

「うわぁ⋯ ! 僕ここ!」

「あ、やっぱりアルは窓側がいい?」

「じゃあ、私こっち座るね」

後ろの方の座席に並んで座ったところで、バスが走り出した。

 

「凄い⋯ ! 動いてる⋯ !」

嬉しそうに窓を見るアル。

⋯ まるで、初めてバスに乗るようなはしゃぎっぷり。

「⋯⋯⋯ 」

ヒツギは複雑な顔で、それを眺めていた。

 

「ヒツギちゃん?」

「⋯ ああごめっ⋯ 」

反対側に座ったコオリに声をかけられ、慌てて振り向く。

「⋯ ん?」

 

その時。

ちらっと、見覚えのあるものが視界に入った。

「あの制服⋯ 」

空いたバスの前方の席。白い制服を着た、短い金髪の少女が、ポツンと座っている。

 

「コオリ、あれってさ⋯ 」

「あ、清雅学園(せいががくえん)の生徒さんだね」

清雅学園。

ヒツギ達の通う天星学院高校の姉妹校で、生徒会同士の交流も深い。

 

「清雅学園前ってこの先のはずだけど⋯ 生徒会の仕事で来てたのかな?」

コオリの推理を裏付ける様に、清雅学園前のアナウンスで、停車ランプが点った。

「⋯ そうっぽいわね。お疲れ様でーす」

 

校舎の側でバスが止まり、少女が席から立ち上がる。

前の席は向かい合う形。左側の席に座っていた少女の、青い右目が目に入る。

(あれ⋯ ?)

少女は運賃を支払って、滑る様にバスから降りて行く。

 

その何気ない姿に、ヒツギは何処か違和感を覚えていた。

「⋯⋯ ?」

ドアが閉まり、バスが再び走り出す。

「お姉ちゃん、お腹すいた」

「はぁ⋯ ? あそうだ」

 

ヒツギはポケットを漁ると、小さな包み紙をアルに渡した。

「昨日先輩からもらった飴だけど、これでも食べときなさい」

「わーい!」

嬉々として包装を破り、緑色の飴を口に放り込むアル。

 

「⋯⋯ !」

気づいた。

バスを降りていったさっきの少女の、左目。

翡翠(ひすい)の様な、緑色だった。

「⋯ いやいやいや、オッドアイなんてそうそういないって⋯ !」

向こうの生徒会メンバーなら、なんだかんだ言ってほぼ全員顔は知っている。

しかし、オッドアイの生徒など居なかったはず。

 

「まあ、見間違い、ってこともあるし⋯ 」

ぶんぶんと、小さく首を振る。

そもそも、天星学院高校に行っていたとも限らない。前提からして適当な推測だ。

「全く、疑心暗鬼になりすぎよ、ヒツギ⋯ 」

不可思議なことの連続で、戸惑っていたのだろう。

 

自分に言い聞かせ、外の景色でも見ようと、窓側を向いて、

「〜〜〜〜〜!!!」

「あ、アルぅぅぅっ!!?」

「アルくぅぅぅぅん!!?」

ほぼ同時に、アルが飴を喉に詰まらせた。

 

A.D2028 3/28 13:00

地球:東京

 

「はぁ⋯ なんかいきなり疲れた⋯ 」

テラス席のテーブルに、くったりと伏せるヒツギ。

「ごめんなさい⋯ 」

横には、アルが全く同じポーズで伏せている。

なんとかアルを救出した後、ヒツギの買い物も済み、3人は書店近くのレストランに来ていた。

 

「まあ、ヒツギちゃんの対応が早かったおかげで、なんとも無くて済んだし、いいんじゃない?」

「⋯ 昔あたしが詰まらせた時、兄さんにやられたのを覚えててよかったわ」

ヒツギは言いながら、ごそごそと袋⋯ 先ほど書店で購入した本を引っ張り出す。

 

「結構探してたみたいだけど⋯ 何買ったの?」

「んーっとね、来年必要かなって思って⋯ 」

ヒツギが袋から出したのは、「esc-a」の表計算ソフトの参考書だった。

 

「そっか⋯ 生徒会の仕事も忙しくなるだろうからね⋯ 」

「実物見て選びたかったから、ちょっと遠出して、大きな書店に行きたかったの」

パラパラっとページをめくり、ヒツギはうんうんと頷く。

 

「そうそう、こういうのを求めてたのよ」

「別にソフトの使い方くらい、ネットで調べればいいと思うけど⋯ 」

「こういうのは信頼できる資料を探すのがいいのよ。あ、料理来た」

テーブルの上に、3人分の料理が置かれる。

 

「わーい! いただきまーす!」

「いただきまーす!」

「全くこの2人は⋯ いただきます」

はしゃぐ2人に呆れつつ、ヒツギも料理に手をつける。

 

「⋯⋯⋯ 」

気晴らしも兼ねた外出。少しくらい、羽を伸ばせればと思っていた。

(でも⋯ )

それでも、アルに対する疑念は尽きない。

 

(アルもあたし達と同じ様に食べてる⋯ この間だって、おやつにあげたドーナツやら何やら、ばくばく食べてた⋯ )

 

アルは⋯ この少年は、変わらない。

自分たちと⋯ 何も、変わらない。

 

(あたし達と⋯ 人間と同じ様に、食事はするし⋯ 笑うし、驚くし⋯ )

そう。本当に彼は、ただの少年だ。

 

(⋯ アルだけの話じゃない。やっぱり、あの世界は⋯ )

 

今までずっと、虚構と信じ込んでいた存在。

考えれば考えるほど、ヒツギは思わずにはいられなかった。

 

⋯ やっぱり、騙されているのは、あたしの方なの?

 

「ヒツギちゃん? 料理全然減ってないよ?」

不意にコオリに声をかけられ、ヒツギは慌てて我に帰った。

 

「うあっ⋯ ああごめん、ぼーっとしちゃった⋯ 」

ヒツギが考え込んでいる間に、2人は食べ終わりかけている。

 

「それにしてもさ〜、アル君似合ってるね〜、その服〜」

「そう? ちょっと窮屈だけど、あったかいよ」

「また買いに行きたいね〜。えっへへ、今度は⋯ 」

「はいストップ。邪な妄想はそこまで」

にやけるコオリを諌めて、ヒツギは残った料理を片付けた。

 

「ふー、食べた食べた〜。お腹いっぱい、大満足だよ〜」

「⋯ あたしはちょっと食べすぎちゃったかな。お茶でも飲んでのんびりしましょ。っと、店員さんは⋯ 」

ヒツギが店の方を向いた、その時。

 

「飲み物でしたらどうぞ。僕からのプレゼントだよ」

不意に、四つのグラスが乗ったトレイが、テーブルに置かれた。

「え⋯ ?」

ヒツギ達のテーブルの横に、黒いスーツを着て、サングラスを掛けた青年が立っている。

「あ、貴方は⋯ ?」

「ああ、お気になさらず。むしろ感謝したいのは私の方だ」

 

青年は3人を見て、

「美しいお嬢さん達とお茶をする⋯ それはとてもインスピレーションを刺激する。いやいやまったく、私も君たちも幸運だ」

 

(⋯ なんか変なのが来たけど、誰? コオリ、あんたの知り合い?)

(ち、違うよ⋯ こんな変態さん知らないよ⋯ )

顔を見合わせ、小声でやり取りしていると、

 

「⋯ おやおやお嬢さん達、ひそひそ話かい? 駄目だよ、声が漏れてしまっているぞ?」

言いながら、青年が余った席に座っている。

 

「「「⋯⋯⋯ 」」」

呆気にとられる3人。

すると青年は、白いタブレット型のデバイスを取り出した。

「そんな君達にオススメなのが、弊社開発のアプリ、『トラトラ!』だ」

 

タブレットには、「esc-a」の文字が映っている。

「これは自信作でね、文章を打ち込まなくても、アプリを起動し、思うだけで言葉が相手に伝わる。テレパス気分になれるアプリなのさ」

 

「は、はぁ⋯ 」

「他人に聞かれたくない内緒話にうってつけ。そして⋯ 内緒話といえば高校生、高校生といえば、花の女子高生」

少々強引な連想を並べ、青年はずいっと3人に寄る。

 

「本リリース前に君達に使ってもらって、使い勝手を聞いて見たいのだが⋯ どうだろうか?」

(あ、そゆこと⋯ )

要は、配信前のアプリをモニターして欲しいということのようだ。

 

青年はタブレットをもう2台取り出すと、ヒツギとコオリの前に置いた。

(ふーん⋯ )

ヒツギとコオリは、恐る恐るタブレットに触れ、

 

『⋯ 何このキモい人。モニター目的でもキモい⋯ 』

『あー、聞こえる聞こえる! 確かに、ちょっと変な人だよね⋯ 』

音は聞こえないが、互いの声は直接響くように聞こえてくる。

 

『どっかで見たような気もするけど⋯ コオリ、本当にあんたの知り合いじゃないの?』

『わ、私に押し付けないでよ⋯ 確かにどこかで見たような気もするけど、知らない人だよ⋯ 』

 

ヒツギはちらっと、青年を見る。

金と黒のグラデーションに染められた、整った髪。

視線こそスモークのかかったサングラスでよくわからないが、どこかで見たような気もするし、声も聞き覚えがあった。

 

『⋯ 生き別れの兄妹だったりしない?』

『こんな気持ち悪い家族はいないよ!』

『⋯ まあ、仮に兄妹で行動が似ているとしても、ここまで露骨に気持ち悪く迫って来たりはしないよね、ごめんごめん!』

『⋯ ヒツギちゃん⋯⋯ こんな気持ち悪い人と私の行動に、似ている部分を見出してたんだね⋯ 』

と、冗談交じりに会話を続けていると、

 

「⋯⋯ ! き、君達っ! そうやって裏でこそこそ他人を卑下したりするのは良くないことなんだぞ!?」

突然ガバッと、青年が憤慨した様子で立ち上がった。

 

ヒツギが青年のタブレットに目を移すと、自分たちの前にあるものとは違う画面が見える。

「あれ⋯ なによ、思いっきり傍受されてるじゃん! 全然駄目じゃないのこのアプリ⋯ !」

「開発者なんだから当然だろ⋯ ! モニターだと言っただろモニターだと!」

 

怒り心頭の様子で、青年はタブレットを回収する。

「まったく最近の女子高生は遠慮が無くておっかないな⋯ 」

ぶつくさと呟く青年。

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯ だがそれがいい」

 

青年はヒツギの方を向くと、サングラスの下から、小さくウインクした。

「コオリー、警察呼んでー。ヘンタイがいるー! って叫んでー」

「躊躇ないね君!?」

「ヘンタイがいるーーーーーーーっ!!!」

「そっちの君も少しは躊躇えよ!!?」

 

青年は咳払いすると、冷静に2人を見る。

「まったく⋯ どちらにせよ来ないと思うよ。ここら一帯のエーテル通信は遮断させてもらってるから」

「え⋯ !?」

ヒツギは慌てて周りを見渡した。

確かに⋯ 側のビルに設置されたモニターが消えている!

 

「これでも私、結構有名人でね。騒ぎになって人が集まったら迷惑だから、外出中は周囲に通信制限を掛けさせてもらっている。申し訳ないね」

「は、犯罪者ってことですか⋯ !? 未成年に対するあれこれの罪状とか⋯ !?」

急に怯え出すコオリ。

 

「ちーがーうーよ! ああ、ほらこれ、名刺」

そう言って、青年は小さな名刺をテーブルに置いた。

「YMTコーポレーション代表取締役社長、亜贄(あにえ)萩斗(はぎと)? って、なんかどっかで聞いた名前ね⋯ 」

「あ⋯ ! この間アル君の服を買う時に使ったアプリ! あれを作った会社さんだよ!」

 

2人は顔を見合わせた。

あの時映っていたワイドショー。

画面の奥で、目の前の青年が、インタビューに答えていた。

 

「そう! エーテル通信時代の最先端を走るYMTコーポレーションの若き社長にして⋯ 時代の寵児! それがこの私、亜贄萩斗さ!!」

青年⋯ ハギトは立ち上がると、満足そうに腕を組む。

 

ヒツギはあぁ、と頷いて、

「思い出した思い出した、あのミリオタの人か。そんな時代の寵児さんが、あたし達フツーの女子高生に何のご用ですか?」

「フツーの女子高生、ねぇ⋯ 」

皮肉交じりに言うヒツギに、ハギトはなぜか含みのある声で呟く。

 

「⋯ 何か不満でも?」

「いいや、何でもないよ。美しい2人のお嬢さん、ご協力ありがとう⋯ また会える日を、楽しみにしているよ」

そう言うと、ハギトは伝票を持って、店内へと歩いて言った。

 

「⋯⋯⋯⋯⋯ 」

何も言えずに、店内を見つめるヒツギ。

「⋯ なんかあの人、いやな感じ」

すると不意に、ずっと黙っていたアルが呟いた。

「そうだねアル君、変な人だったねー」

 

アルはヒツギを見て、

「まるでコオリみたい」

「あ、そうね」

「アル君辛辣っ!? ヒツギちゃんもあっさり同意しないでよ〜!」

 

言って、コオリはふうっと息をつく。

「それにしても⋯ あの人、本当に何だったんだろう」

「さあ⋯ あたしにもさっぱり。あ、でも1つだけ言えることがあるわ」

 

ヒツギは深刻な顔で、2人を見つめ、

「⋯ あたし達のお茶代、浮いた!」

「ぷっ⋯ ヒツギちゃん〜!」

2人揃って、笑った。




「時代改正ドミナント」
時代の寵児が握るもの。それは今を握るもの。

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