ファンタシースターオンライン2 「Reborn」EPISODE 4(休止中)   作:超天元突破メガネ

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一章はここまでになります。


SB1-10「Children『Re』Code」

AP241:3/25 10:00

アークスシップ:艦橋

 

「⋯ 部分的なものですが、以上が、ヒツギさんの昨日の動向となります」

デスクチェアを振り向かせ、シエラは背後のアメリアスに告げた。

中央の大型ウインドウには、ベッドに入ったヒツギの姿が映っている。

 

昨晩、シエラの手によって、アメリアスと会った翌日から昨夜までの断片情報が解析され、閲覧できるようになった。

その頃にはアメリアスは寝ていたため、こうして今日、改めて確認に来たと言うわけだ。

 

「なるほど⋯ まあ、言いたい事は色々ありますが⋯ 」

スツールに座っていたアメリアスは、ひょいっと立ち上がって、

「ヒツギさん、変わったお友達を持ってるようで⋯ 」

「あー、あのコオリさんという方ですか⋯ 」

 

シエラは苦笑すると、ぱぱっとウインドウを切り替える。

「今回手に入った大きな情報は3つ⋯ 『エーテル』という通信技術がある事、『マザー・クラスタ』という組織の存在、そして⋯ 」

「こっちの世界を、ゲームの世界だと思い込んでいる⋯ うーん⋯ 」

 

少々苛ついた様子で、髪をかきむしるアメリアス。

「あ⋯ すいません、やっぱり時間が早かったですかね⋯ 」

「⋯ いや別に、眠くて苛立ってた訳では⋯ そうだ、あのアル君という子は?」

「今のところは、どちらの世界の人間なのか⋯ データが少なすぎて、不明です。直に会えば、わかるかもしれませんが⋯ 」

「さすがにそうはいきませんよね⋯ そうだ、シエラさん的には、この映像、どう思いましたか?」

 

アメリアスが切り返すと、シエラは少し考えて、

「⋯ 歪な、感じがします」

そう、答えた。

「いびつ⋯ ?」

「はい。向こうの情報通信技術は、間違いなくこちらに比類するレベル⋯ ですが、製造技術⋯ ハードが明らかに追いついていません」

アメリアスは、見て来た内容を思い返す。

考えても見れば、あの程度の処理能力のデバイスなら、オラクルだったら腕時計サイズにもならない。

 

「不自然というか⋯ 異常進化と言えます⋯ 何らかの、作為すら感じますね⋯ 」

そう言って、シエラは肩を落とす。

「⋯ 兎にも角にも情報不足です。流石に覗き見程度では、限界がありますね⋯ 情報部も動いてくれませんし⋯ 」

「⋯ あのメガネ、一回蹴り飛ばして来ましょうか?」

「色々と冗談で済まなくなるのでやめといて下さい」

 

シエラは丁寧に制止すると、ウインドウに向き直った。

「ともかく、こちらで集められる情報はここまで、と言わざるを得ません。得られた断片情報は順次解析しているので、またお呼びしますね」

「⋯ わかりました。じゃあ、私はこれで」

 

シエラに礼を言って、アメリアスが歩き出すと、

「はぁ⋯ いいなぁ⋯ 」

そんな独り言が、シエラの口から聞こえて来た。

「? シエラさん?」

「はいっ!? ⋯ き、聞いてました?」

 

縮こまって、ゆっくりと振り返るシエラ。

「はい⋯ なんか、『いいなぁ⋯ 』って。なにかあったんですか?」

「そういう訳では⋯ ただ⋯ 」

モゴモゴと、シエラは答える。

 

「ちょっぴり、ヒツギさんが、羨ましくて⋯ 」

「⋯ 羨ましい?」

「私⋯ 基本的にずっとここにいるので、実はアメリアスさんが来るまで、誰かと話したこともなくて⋯ 正直、寂しかったんです」

「⋯ 」

 

アメリアスは、黙り込んでしまった。

シエラは管理演算専用に、オラクルの管理者であるシャオに創られた存在⋯ だとしても、人格のベースがあのウルクなのだ。

ずっとここに独りというのは、寂しかった事だろう。

 

「でも、最近は貴女が来てくれるおかげで、とても楽しくて⋯ あのー、アメリアスさん? 」

「あっ⋯ すいません、また考え込んじゃって⋯ 」

こちらを覗き込むシエラに、アメリアスははっとして、作り笑いを浮かべた。

 

「そうですね⋯ じゃあ」

アメリアスはそう言うと、シエラの側に歩み寄った。

「もう少し、付き合ってもらえますか? 聞きたいこともあるので⋯ 」

突然の、そんな申し出。

「⋯ あ、はい! 是非!!」

シエラは笑顔で、頷いた。

 

AP241:3/25 11:30

アークスシップ:アメリアスのマイルーム

 

ガールズトーク(?)にも花が咲き、 私が艦橋から戻った時には、昼前になっていた。

「ただいまー⋯ あれ?」

「お帰り。お邪魔してるぞ、アメリアス」

入って左、掲示板が取り付けられた壁の側には、車椅子の少女⋯ レイツェルの姿。

 

「あれ? レイ入れたの?」

「ああ、リオに顔見せたら開けてくれた」

レイツェルはそう言って、つつっとこちらに寄って来る。

「そういえば、2年前そんな車椅子だったっけ?」

「いや、君が寝てから使ってるものだ⋯ 前の車椅子、使い過ぎて所々逝ってしまってな⋯ 」

「そうなんだ⋯ あ、ここじゃあれだから、こっち来て?」

 

レイツェルを連れ、隣の小部屋⋯ 私の寝室に移動する。

「お帰り⋯ マスター⋯」

「ん。ありがとね、レイ入れてくれて」

リオに声を掛けつつ、ドアの方を振り向く。

「あれ⋯ レイ?」

ドアは開いてるのに、入ってこない。

「す、すまない、引っかかった⋯ 」

⋯ どうやら車椅子が、閉まりかけたドアに引っかかった様だ。

 

「⋯ 手、かざしてみ」

「わ、わかった⋯ 」

自動ドアを開け直し、そそくさと入って来るレイツェル。

「まったく。段差を気にしなくていいのはありがたいが、大きいのも困りものだな」

「まあ、おいおい改良されるでしょ。あ、その辺にいて?」

声をかけて、私はベッドに座った。

「じゃあ、今日わざわざレイに来てもらった理由なんだけど⋯ 」

 

そう言って、再生用ディスプレイを用意する。

「これ見て。さっき連絡した時に言った、映像化した断片情報」

少し小さい画面に、数時間前に艦橋で見たものと全く同じ映像が映される。

「⋯ わざわざ服にカメラ仕込んで、隠し撮ったのか⋯ ?」

「だって、データくださいなんて言えないじゃん⋯ 調査用だから、画質はそれなりだと思う」

 

それから30分程、ヒツギさんの昨日の動向を、2人で眺めた。

「⋯ 以上、かな」

再生を止め、レイツェルの方を見る。

「成る程⋯ これは⋯ 」

しばらく目を閉じていたレイツェルは、はっと顔を上げ、言った。

 

「⋯ おそらく彼女は今日、仕掛けてくる」

「また、こっちに来るって事?」

レイツェルは頷いて、言葉を続ける。

「彼女は、椅子に座っている時に、必ず何かを弄っている⋯ 正確には、手元に何かある時に」

「それが?」

 

こちらに目を向けるレイツェル。

「現状に不満を持っているという事だ⋯ 貧乏ゆすりと同じだな。まあ、私は出来ないが。それと⋯ 」

レイツェルは小さく笑顔を見せて、

「彼女はきっと、取り敢えず行動するタイプだ。大方、向こうでログインしたくてうずうずしているだろうさ」

「脳筋ってこと?」

「それは君だ」

「なんだとぉ!!」

 

意地悪な笑みを浮かべたレイツェルは、ディスプレイに目を戻した。

「ここからは、君の領分だ⋯ そうだな、ネットワーク管理室に協力を仰いだらどうだ? 臨戦区域の監視、あそこでしているんだろう?」

「確かに⋯ ヨハン脅せば、いけるか⋯ ?」

「⋯ なぜとりあえず荒っぽい方面から行こうとするんだ、君は」

 

そう言って、つつっと出口に向かうレイツェル。

「あれ、もう帰んの?」

「要件はこれで済んだのだろう? あいにく、私も微妙に忙しい身でな」

ため息をつくレイツェル。

市街地エリアの管理というのも、なかなか大変な仕事の様だ。

 

「そっか⋯ 頑張ってね、レイツェル」

「無論だ。私は私の最善を尽くす⋯ 君がそうしてきた様に」

「ありがと。それじゃ!」

出口前のレイツェルに、笑顔で手を振る。

手を振り返して、レイツェルが部屋から出て行⋯

「あっ⋯」

閉まりかけた自動ドアに、つっかかってしまった。

 

A.D2028:3/25 12:30

地球:天星学院高校

 

「はぁぁぁぁ⋯ アルくん可愛いよぉ⋯ ! とってもとってもめんこいよぉ⋯ !!」

生徒会室のパソコンの前で、コオリはにへらと笑っていた。

「またこの前服買った時の写真見てるの? コオリ⋯ そういう趣味だったのね⋯ 」

反対側でパソコンを操作していたヒツギは、呆れた口調で尋ねる。

 

「ちがうよちがうよ、可愛いもの見れば、誰だってこうなるんだよ!」

じーっと、ヒツギを見つめるコオリ。

「そういうヒツギちゃんだって、そんな可愛いアルくんと、寝食を共にしてるんでしょ⋯ いいないいなぁ!」

コオリの視線が、羨望の眼差しに変わる。

「なんかないのー? 襲ったり⋯ 襲われたりとかぁ⋯ !」

「⋯ あんたの本性を垣間見れただけで、アルが来てくれた意味があった気がするわ」

 

呆れを通り越して、信じたくないといった程のヒツギ。

「でもヒツギちゃん、アルくんを親族って事にして、同居を誤魔化すなんて⋯ 出来るの?」

天星学院高校の寮は、親族の宿泊が認められている。

ヒツギはアルを自身の弟という事にして、春休みの間誤魔化すつもりだ。

 

「まあ、姉弟に見るには無理があるかもしれないけど⋯ 最悪生徒会⋯ マザー・クラスタの権限で、煙に巻けると思う」

「ふふっ⋯ マザー様様だね⋯ 」

無茶な様だが、実現性は高いと、コオリは納得した。

 

「あぁ⋯ ほんとに可愛い⋯ ! PSO2の中にいたヒツギちゃんが、私に会いに出てきてくれた感じ⋯ !!」

「あんた⋯ 今すっごく際どい発言してる事に気づいてる⋯ ? まあ、いいけどさ」

ヒツギはパソコンに向き直った。

「ほらコオリ。写真愛でるのは後回しにして、PSO2について調べてよね」

 

ヒツギのパソコンの画面に出ているのは、PSO2のプレイヤーズサイトや、様々な関連するホームページ。

「もちろん、ちゃんとやってるよー。でも、ヒツギちゃんが集めていた情報と同じじゃないかなぁ⋯ 」

コオリの方も、芳しくない様だ。

 

「はい、メールにして送ったよ」

コオリから送られてきたメールを、パソコンと照らし合わせつつ読んでいく。

「2016年⋯ 12年前に発見された、媒介を必要とせずに、一切の遅延なく情報伝達ができる素子、『エーテル』⋯ これを用いたエーテルインフラは、世界中の情報通信に革命を起こした⋯ そして」

「次世代クラウド型OS『esc-a』が作成され、各国の協力のもと、各地に『エスカ・タワー』が建設⋯ 世界中にエーテル通信が広がり、情報技術環境が、横並びになった⋯ 」

 

コオリはデバイスを見ながら、立ち上がる。

「『esc-a』には、エーテルの導入や普及に伴うソフトがインストールされていて、『PSO2』も、その1つ⋯ ここまでが、表向きの話」

ヒツギは頷いて、口を開いた。

「でも、エーテル技術は発展途上⋯ 『esc-a』の中にもバグが潜んでいると、マザーは言った⋯ だから、私達の様な選ばれた人々⋯

『マザー・クラスタ』の所属者が、エーテルインフラに⋯ PSO2に『潜入』し、その調査を行っている⋯」

「⋯ これが、裏の話⋯ マザー・クラスタ以外には、秘密のお話だね」

 

ヒツギはぐったりと、うなだれた。

「だめだぁ⋯ 普通のことしか書いてない⋯ 私みたいな体験をした人いないの?」

むくっと起き上がり、キーボードを叩く。

「NPCが出てきた様に思えた⋯ って、去年のファンフェスの話か⋯ これは、この前のPSO2 プレイヤーの失踪事件⋯ うーん、これも違う⋯ 」

 

朝からずっと漁っているが、やはりめぼしい情報は見つからない。

と、その時、

「あ⋯ そうだ! いっちばん簡単な方法があるよ! 全部まとめて解決する方法が!」

突然閃いた様に、コオリが叫んだ。

 

「え⋯ !?」

「マザーに直接聞けば良いんだよ! マザーはなんでも知ってるもん!」

そう言って、デバイスに指を走らせるコオリ。

 

⋯ 確かに、それが一番良い方法だろう。

「待ってね、すぐ連絡してみるから⋯ 」

⋯ しかし

 

「⋯ ! 待って、コオリ!!」

気づけば、ヒツギはコオリを引き止めていた。

「⋯ ? ヒツギちゃん? なんで止めるの?」

「⋯ 」

理由。

理由は⋯ 無かった。

殆ど本能的に、ヒツギはコオリを引き止めていた。

 

「マザーに聞けば、きっと解決するよ? それに『esc-a』の調査はマザーから依頼されたものだし、報告は必要だと思うけど⋯ 」

「分かってる⋯ けどごめん、もう少し待って」

俯いて、答えるヒツギ。

 

理由はわからない。

しかし⋯ 嫌な予感が収まらない。

「ほ、報告は、きちんとしたいの⋯ アルのことも、PSO2の事も⋯ 自分でちゃんと調べて、報告したい」

とっさに出た言い訳。

直感だけで、取り繕う。

「春休み明けには、きちんと報告するから⋯ それまで、待って?」

 

コオリは少し、ヒツギの顔を見ると、

「⋯ うん。わかった。ヒツギちゃんがそう言うんなら、それが合ってるはずだから」

そう、笑顔で答えた。

「⋯ もちろん」

短く答えて、椅子に座りなおす。

「うわあ忘れてた、生徒会の仕事もしなきゃ⋯ !」

 

戸棚へ歩くコオリの後ろで⋯ ヒツギは、体を抱えてうずくまった。

(次世代クラウド型OS『esc-a』に、標準インストールされたゲーム『PSO2』。そこに存在する人々は、AIとは思えないほど精緻な動きをする⋯ )

「ヒツギちゃん?」

「あ、大丈夫、なんでもないよ」

 

コオリに声をかけられ、慌てて姿勢を直す。

(その詳細を調べるために、私達マザー・クラスタが、エーテルに入って調査をする⋯ それは、バグかもしれないから⋯ 『esc-a』を脅かすかもしれないから⋯ )

 

ヒツギは辺りを見回した。

パソコンをいじるコオリの姿。

壁に貼られた、「マザー・クラスタ」のエンブレム。

そして外には、天に伸びるエスカ・タワー。

 

(マザーが、そう言っていたから⋯ )

 

ヒツギは思い出した。

PSO2 で、自分を捕らえようとした黒い影。

それを助けてくれた、あの少女。

そして⋯ PSO2から現れた少年、アル。

「自分で進まないと、何も見えない⋯ 何も知り得ない⋯ 何も解らない」

ならば、為すべきことは1つ。

「⋯ もう一度、行ってみるしかない、か」

 

 

I believed it until now.

Is the world full of lies?

 

To be continue...




「チルドレンレコード」
「子供達」の作戦が、始まる。

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