ファンタシースターオンライン2 「Reborn」EPISODE 4(休止中)   作:超天元突破メガネ

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あけましておめでとうございます。
そういえば、PSO2プレイヤーズサイトのキャラ紹介が、EP4仕様になってましたね。


SB1-9 「サイバーサンダーサイダー」

A.D2028:3/24 13:30

地球:東京

 

「おいしい、これ!! とっても美味しいよ、ほねえひゃん(お姉ちゃん)!!」

オムライスをがっつきながら、アルは嬉しそうに言った。

 

「はいはい、食べながら喋らない。ほら、口周りこぼれてるじゃない」

隣に座ったヒツギは、アルの口周りを拭こうと、ナプキンを持った手を伸ばす。

 

「こら、動かないで、拭くから⋯ 」

「⋯ ひ、ヒツギちゃん! 私もこぼれちゃった⋯ 口周り!」

「⋯ あっそ、はいこれ」

ぐいっと迫ったコオリには、ぽいっとナプキンを渡した。

 

「むぅ⋯ 」

「⋯ それにしたって、店の予約と注文まで、デバイスで済むなんて⋯ 便利な世の中になったものよね」

テーブルにポンと置かれたデバイスを、感心しきった様子で眺めるヒツギ。

 

「ヒツギちゃん、持ってないんだっけ。便利だよー。ゲーム以外にも色々できるし、私はもう手放せない」

「あたしはまあ、部屋で1人でパソコンいじるのが好きだから⋯ そういうのよりも、本とか買って読みたい」

「そうはいってもこのご時世、こういうのないと不便なこともあるよー? 便利なアプリいっぱいあるし」

 

テラス席に差す日光を手で遮りながら、コオリはデバイスをつつく。

「特にこの『YMTコーポレーション』のアプリ、(かゆ)いところに手が届いてて、とっても使いやすいんだよね」

「ああ、さっきのコーディネートの?」

「そうそう。しかもここの社長さん、天星学園高校の卒業生らしいよ」

 

YMTコーポレーション。主にエーテル通信用デバイスのアプリを手がけている会社だ。

こういったことに(うと)いヒツギでも、名前くらいは知っている。

しかしそこの社長が、自分達の先輩だとは思ってもいなかった。

 

「そうなんだ⋯ にしてもコオリ、やけに詳しいのね」

「⋯ ヒツギちゃんが疎すぎるの。最近話題になってるんだよ、本当に」

するとコオリは、不意に向かいのビルを見た。

 

「あっ⋯ ! ほら、噂をすれば今! ワイドショーに出てるよ、その社長さん!」

「えっ⋯ ! ほんと!?」

ビルの外壁にある大型モニターに目を凝らす。

昼のワイドショーは、「時代の寵児」と銘打って、インタビューの様子を報じていた。

 

『今、大・大・大注目のYMTコーポレーション! その社屋にお邪魔させてもらっています! しかもしかも! 今や時代の寵児とも言われる、亜贄萩斗(ハギト)社長直々に、案内してもらってるいんですよ!!』

 

映っているのは、黒いジャケットを着て、サングラスをかけた、金髪の若い男。

字面だけだと誤解されかねないが、その姿にはしっかりと風格がある。

 

『社長、今日はよろしくお願いします!』

『⋯ こちらこそ、よろしく』

『社名、社長のお名前とかではないのですね。どうしてYMTコーポレーションと?』

『そうだね。どういう意味だと思う?』

『何かの⋯ 略称でしょうか? Year、とか、Multi、とか?』

『残念。答えは、Y()M()T()、だよ』

 

「「「⋯⋯⋯ ??」」」

首をかしげる3人。リポーターも不思議がって、

 

『ヤマト⋯ ですか?』

『ヤマト⋯ とは、心意気の事を指してもいい⋯ 私が日本人であることも、理由の一つ。

そして何より⋯ かの有名な戦艦大和をリスペクトしての名称⋯ それ故の、YMTさ』

『戦艦、大和⋯ ですか⋯ そ、そういえば、入り口にも模型が飾ってありましたよね! あれも?』

『残念。あれは大和ではなく、姉妹艦の武蔵だよ。就役1942年の、二番艦さ』

 

(なんか、話飛んでない⋯ ?)

(まあまあヒツギちゃん、それだけ思い入れがあるんだよ⋯ 多分)

 

『え⋯ そうなんですか?』

『まあ、区別がつかないのも無理はないね。この二隻は同型艦だし⋯ 話の流れからすれば、勘違いするのも仕方ないだろう』

『は、はぁ⋯ 』

『戦艦大和は、私の魂と言っていい存在だからね。ここではなく⋯ 自宅の最も映える場所に飾ってあるんだ⋯ どちらも見に来るかい?』

『ああいえ、流石にそこまでは⋯ 』

 

(粘るなぁ〜)

(あのリポーターさん、できる⋯ !)

 

『あぁ、見てくれ。そこに飾ってある模型は、2000年代に正式採用された10(ヒトマル)式戦車! これもまた美しい⋯ そうは思わないかい?』

『あ、あの〜』

『昨今は型式や種類、年代の統一に強いこだわりを持つ人も多いと聞く。だけど私は⋯ 』

 

もはやリポーターも意に介さず、モニターの中の青年はノリノリで喋っている。

「これは⋯ 」

「この人は⋯ 」

 

『旧大戦の兵器も、新大戦の兵器も等しく愛することで、歴史の変遷を⋯ 』

「⋯ オタクだ」

「⋯ オタクだね」

「⋯ おたくって、何?」

 

頷きあう2人に、アルは不思議がって尋ねた。

「コオリみたいな人の事よ」

「説明がざっくり過ぎるよヒツギちゃん!」

がばっと立ち上がるコオリ。

そそくさと腰を下ろすと、すかさず訂正を試みる。

 

「アルくん、オタクっていうのは、趣味に夢中になっちゃう人の事だからね?」

「ふーん。じゃあ、コオリはなにに夢中なの?」

「うあぁ、訂正出来てない⋯ 」

コオリは唸って、テーブルに突っ伏した。

 

A.D241:3/24

地球:天星学院高校学生寮

 

「んーっ⋯ はぁぁぁぁ⋯ ! 久しぶりにいっぱい歩いて疲れた〜!」

寮に戻るなり、コオリはヒツギのベッドに飛び込んだ。

「⋯ だったら自分の部屋で寝なさいよ」

「ヒツギちゃんは〜、一日付き合ってくれた友人を、もっと労ってもいいと思いま〜す。ねえアルくん? ほら、このベッドふかふかだよ〜」

 

アルを誘うように、転がっていると、

「しってる。ぼくもそこで寝てたもん」

「なん、だと⋯ !?」

コオリは慌てて跳ね起きた。

 

「ひ、ヒツギちゃん! それってどういう⋯ !?」

「変な想像しない! 気づいたらアルがいたの!!」

「⋯ ! じゃあ、このベッドには2人の汗が⋯ !」

「⋯ 率直に気持ち悪いから止めて」

 

腕組みしていたヒツギは、ふと気づいた。

「そういえば、結構汗かいたわね⋯ 」

「今日、暑かったもんねー」

今日は朝から晴天で、気温も高かった。

そこを一日中歩き回ったのだから、それは汗もかくことだ。

 

「うーん、時間も丁度いい感じだし、先にお風呂に⋯ ん?」

「アルくんも汗かいただろうし⋯ あれ?」

2人とも、言葉が途切れる。

そういえば、ここは女子寮だ。

つまり、

「「アル(くん)のお風呂、どうしよう⋯ 」」

 

数分後。

「ねえ、本当にコレで良かったの?」

タオルを巻いた姿で、誰もいない浴場にやって来たコオリは、隣に同じ格好で立っているヒツギに問いかけた。

 

「いいの。ほら、こっち来る!」

「お、お姉ちゃんー! この目のやつ取ってよー!」

彼女が引っ張って来たのは⋯ タオルを腰に巻いて、さらにギチギチに目隠しされたアル。

 

「絶対駄目! 取ったらブン殴るわよ⋯ !」

「そんなガッチガチに目隠ししなくても⋯ 私は別に、見られても気にしないけどなー」

「うるっさい! ほら、体洗うから、こっち来なさい!」

アルの手を引き、椅子に座らせる。

 

「じゃあ、さっさと洗っちゃいます、かっ!」

ヒツギの手が、アルの頭を少々乱暴に洗っていく。

「わぷっ⋯ お姉ちゃん、苦しいー!」

「少しの辛抱よ、我慢しなさいっ!!」

シャワーのお湯に、苦しげにもがくアル。すると、

「ひゃっ!!?」

「? なに、この柔らかいの??」

滅茶苦茶に振り回されたアルの手が、コオリの胸にのびていた。

 

「あっ⋯ ちょっ、アルくんったら⋯ 」

どこか満更でもないような顔で、コオリはアルを振りほどこうとする。

「こら、離しなさいよアル! コオリもちゃんと抵抗しろ!!」

「こんな所で、はずかしい⋯ でも、アルくんが触りたいって言うのなら⋯ !」

 

ヒツギはおもむろにシャワーの温度を上げると、アルにかからないようにコオリに向けた。

「熱ッ!? あっ、熱ァッ!?」

「ばっっっかじゃないの!?」

「⋯ お姉ちゃん、まだ?」

 

再び、適当にのばされる手。

「わっ!?」

絶妙な高低差により、その手がヒツギの胸に触れる。

「ど、どこ触ってんのよ!?」

「みえないからわかんないよー⋯ でも、こっちの方が小さい⋯ ?」

「ーーーーー!!!」

 

躊躇なく、ヒツギは最高温度のシャワーを振り回した。

「みゃああああああっ!!」

「お姉ちゃん! あつっ、あづっ!!」

「⋯ か、体洗うのお終い! さっさと風呂つかって、さっさと出るわよ!!」

 

シャワーを止め、浴槽へ向かう。もちろん、シャワーは適温に戻しておいた。

「はあ〜、疲れた体に染み渡る〜。最近、すごい肩凝ってさ⋯ 」

「⋯ そりゃあ、そんだけ大きなもの抱えてりゃ、肩も凝るでしょうねっ!」

 

体を伸ばし、くつろぐコオリに対して、不機嫌にそっぽを向くヒツギ。

「⋯ 大きくても別に良いことないよ? 無遠慮にじろじろ見られるだけだし⋯ 」

「はあ⋯ 持つ者に、持たざる者の苦悩はわからないのよ⋯ ぶぶぶ⋯ 」

コオリの返答に、ヒツギはさらに不機嫌な様子で、浴槽に沈み込んだ。

 

「持つとか持たないとか、なんの話?」

「⋯ あんたには関係ないわよ」

すると、アルの顔を見ていたコオリが、

「そうだ⋯ 春休み明けてから、アルくんのお風呂どうするの? 人がいない時間見計らってたら、多分、お風呂入れなくなっちゃうよ?」

「う⋯ それは⋯ 」

 

ヒツギは言葉を詰まらせた。

そう、春休みの今、寮に残っているのはごく一部。

新学期になれば、寮の人は一気に増える。

「あ〜あ、アルくんが女の子だったら、こんな心配なかったのにね〜」

アルの頭を、ちょんちょんとつつくコオリ。

 

「ぼくが女の子だったら、お姉ちゃん困らなくてすむの? ⋯ じゃあぼく、女の子になる!!」

「なろうと思ってなれるものじゃない!!」

「⋯ ! アルくん、女の子にはなれなくても、限りなくそれに近づく事なら⋯ !」

「コオリは黙れぇっ!!!」

 

3人が騒いでいると、

「あれ? こんな早い時間から誰か入ってるんだ、めずらしー」

「ちぇー、一番風呂もーらいって思ってたのにー」

脱衣所から、女子生徒の声が聞こえて来た。

 

「し、しまった⋯ ! 春休みの部活動勢がもう帰って来たっていうの!? こ、コオリ! 時間稼いで来て!!」

立ち上がり、すぐにコオリに指示を出す。

「時間稼ぎって⋯ どうやって!?」

「ちょっと待ってもらうだけで良いから! その間にアル隠すから!!」

 

「う、うん!!」

慌てて浴槽から上がり、入り口へ向かうコオリ。

「えーと、どうしよう⋯ こんのぉ!!」「わあっ!!?」

ヒツギもアルを担ぎ上げると、浴槽を飛び出した。

 

A.D2028:3/25 0:00

 

「は〜あ⋯ 」

ベッドの上で、ヒツギは小さくため息をついた。

「買い物行って、お風呂入っただけなのに、今日はどっと疲れた⋯ 」

 

呟いてから、ベッドの下に視線を移す。

予備を出して即席で作った布団には、アルが入っていた。

「大丈夫、アル? 枕もちゃんとあるわよね?」

「あ、うん⋯ お姉ちゃん⋯ 」

「それじゃあ、明かり消すわよー」

 

アルがいるのをもう一度確認して、明かりを消す。

「はあ⋯ 夢の中くらい、ゆっくりのんびり⋯ くかぁ⋯ 」

重いまぶたを閉じ、寝息を立て始めて、しばらくした頃。

 

「ひゃあっ!?」

右腕を握られ、ヒツギは慌てて明かりをつけた。

「アル⋯ !? どうしたの、あんたの布団はそっちよ!?」

アルの顔を見て、気づく。

「⋯ アル、震えてるの⋯ ?」

「ごめんなさい⋯ でも、暗いのが怖くて⋯ 」

 

アルは怯えきった顔で、ヒツギを見ている。

「何処かに連れてかれちゃうみたいで⋯ 吸い込まれていくみたいで⋯ 」

「アル⋯ ?」

「なんだか、お姉ちゃんと会う前のぼくに戻ってしまいそうで⋯ お姉ちゃんと離れるの、が、こわく、てっ⋯ !」

 

今にも泣きそうなアルの頭に、ヒツギの手が乗った。

「お姉ちゃん⋯ ?」

「⋯ 大丈夫。おいで、アル」

「え⋯ いいの?」

ヒツギは笑って、頷いた。

 

「あたしはお姉ちゃんだからね。怖がりな弟を放っては置けないでしょ⋯ いよっと!!」

アルの肩を抱き上げ、ベッドへ持ち上げる。

「重っ⋯ 大丈夫?」

「うん。ありがとう、お姉ちゃん⋯ 」

 

アルはそう言うと、再び寝息を立て始めた。

「ほらほら、ちゃんと布団かけなさいっての⋯ 」

すやすやと眠る姿に、自然に顔が綻ぶ。

「⋯ まったく」

ヒツギはアルの頭を撫でると、また明かりを消した。

 




「サイバーサンダーサイダー」
サイバーに潜む、黒い光。

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