ファンタシースターオンライン2 「Reborn」EPISODE 4(休止中)   作:超天元突破メガネ

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小説内の時間管理が、意外と難しいんです。


SB1-8「有頂天ビバーチェ」

A.D2028:3/24 12:00

地球:東京

 

都市の一角。東京駅にほど近い、ビルの前。

「ふぁああああぁぁ⋯ ! たまらないよぉ⋯ !!」

コオリは、目の前の奇跡に酔いしれていた。

 

「想像通り⋯ いやいや、想像以上のクオリティだよ!」

コオリの前にいたのは、ハーフパンツとニットダッフルコートといういでたちに変わったアル。

 

「⋯ ?」

「アルくーん! こっち向いてこっち向いて! ほらほら、そこでクルッとターンして!!」

「⋯ お姉ちゃん⋯ これ窮屈。脱ぎたい」

ハイテンションなコオリに対し、アルは憮然とした目で、自分の体を見ている。

 

「だーめ。我慢しなさい」

そっけなく答えるヒツギ。

「⋯ 僕、なにか着るならお姉ちゃんみたいなのがいい」

そう言ってアルは、ヒツギの服装⋯ ピンクのパーカーを指差す。

 

「あんた男でしょ⋯ 」

「男のk」「コオリは黙れ」

どうしようもない友人に一喝して、ヒツギはアルを見た。

確かに、ちょっと大きめの白いコートは、アルによく似合っている。

 

「せっかく似合ってるんだから、大人しくそれ着ときなさい」

「⋯ わかった。お姉ちゃんが選んでくれたものだし」

観念したのか、納得したのか。

アルはそう言うと、にぱっと笑った。

 

「ああ、選んだのはあたしじゃなくてコオリよ。それにしてもコオリ、よくこんなコーディネート出来たわね」

ヒツギ自身、あまり服装に頓着しない方なのだが、コオリがここまでできるとは思っていなかった。

 

「いやいや、私も大したことはしてないよー」

そう言ってコオリが取り出したのは、エーテル通信用のデバイス。

「YMTコーポレーションの『トレンドクリエーション』ってアプリでね。身長とか予算とか入れたら、コーディネートを考えてくれるの」

「YMT⋯ って、今話題のアプリの会社?」

「うん。お店の場所も調べてくれたから、ささっと来れたし⋯ 」

 

と、そんな話をしていると、

「ねえねえお姉ちゃん! これなに!?」

興味津々といった様子で、アルがコオリのデバイスに食いついていた。

「あ、アル君も気になる!?」

嬉しそうに、アルに画面を見せるコオリ。

 

(さっき嫌われちゃったのも、これでプラマイゼロってとこね⋯ )

ヒツギがそんな事を考えていると、

「見て見て、お姉ちゃん!」

不意に、アルがデバイスの画面を見せてきた。

そこに映っていたのは、ヒツギと同じ服を着た、アルのCG。

 

「お姉ちゃんと同じ格好してる! 僕、こっちの方がいい!」

「⋯ コオリ」

「さっきお気に入りに登録したのをアル君に反映させたら、結構様になっちゃってさー」

しれっと答えるコオリ。

 

ヒツギはふーっと、ため息を吐いた。

「全く⋯ ん? そういえばこのアプリ⋯ 」

改めて画面を見ると、どこか見覚えがある。

「PSO2でキャラクリする時の画面に似てるわね」

「⋯ あ、そ、そうだねー」

 

青い背景に、左側に伸びる編集項目。

PSO2でも、キャラクタークリエイトでこんな画面になる。

「ほら、PSO2はエーテル通信確立の時からあるし、参考にしたのかな?」

「⋯ まあ、今じゃどんなデバイスでも、PSO2がインストールされてるし」

 

ヒツギはふと、辺りを見回す。

連絡を取るサラリーマン。

デバイスの画面を見る、同年代の学生。

ゲームをしながら、走っていく子供達。

 

(ほんと、エーテル通信がないと成り立たない世の中よね)

「⋯ お姉ちゃん、お腹すいた」

「⋯ 子供は無慈悲ね」

モノローグをへし折ったアルの声に、ヒツギは時間を確認する。

 

「そういえば、もうこんな時間か。丁度いいし、何か食べて行こっか」

「そうだねー。ちょっと待って、今お店調べるから⋯ 」

ささっとデバイスを操作するコオリ。

「お、ランチやってるお店、近くにあったよ」

「使いこなしてるわね⋯ じゃあ、行こっか」

 

コオリの案内で、交差点を渡っていく。

「やっぱりねー、食事にゲームにファッションに⋯ もっと青春を謳歌するべきだと思うんだよ!」

「今挙げたのって、本当に青春⋯ ?」

コオリの自説に呆れつつ、ヒツギは街を進んでいった。

 

A.D2028:3/24 12:00

地球:東京

 

東京の交通の中枢である、大型ステーション。

周囲と違って、ぽつりと古風な雰囲気を醸し出すそこに、7人のアークスが到着した。

 

「着いたっ!」

『皆さん、警戒を⋯ 来ますっ!!』

シエラの声と、ほぼ同時。

「!? なんだこの音⋯ !?」

「何かのサイレン⋯ ! 皆さん、あれ!!」

フーリエが指差した方向、虚空に浮かぶ線路から、何かが突っ込んでくる⋯ !

 

「あれは⋯ 鉄道!!?」

目の前に停車する、5両の鉄道群。

そして、7人の目の前でそれは⋯ 変形を開始した。

 

「おいおい、幾ら何でもそれは⋯ !」

左右2両の四角い車両は、大地を踏みしめる足に。

中央3両の特急車両は、先頭車両を、首のようにもたげ。

そして3つの首が、牙を剥きだす!

 

「登録種名⋯ 幻創種『トレイン・ギドラン』⋯ !」

現れた怪龍は、こちらへと大きく咆哮を上げる。

「でかい⋯ !」

「もう何でもありね⋯ ステラ?」

アメリアスはちらっと、ステラの顔を見て、気づいた。

 

「⋯ 」

小さく、震えている。

無理もない。彼女はアークスになって3日、まだ大型エネミーを相手取った事もない。

「何ビビってんの、ステラ」

とんと、強張った肩に手を置く。

 

「へ⋯ ?」

「そうですよお? こんなの、怖がることもないと思いますねえ」

「大丈夫です。7人もいるんですから、絶対倒せます」

「リサさん、フーリエさん⋯ 」

 

すっと、全員が動き出す。

ステラを中心に、アメリアスはじめ近接職が前、射撃職が後衛についた。

「さて⋯ 行こうぜ、相棒!」

「攻撃、開始します!」

 

再び咆哮を上げ、トレイン・ギドランが飛びかかる。

「おわあっ!」

思い掛けない機動力にピエトロがつんのめる横で、アメリアスとステラが右前足を狙う。

『解析、完了しました! 脚部及び、頭部のドアの位置に、組成の綻びが見られます! また、ミラージュによる行動妨害が有効です!』

 

シエラによって告げられる、弱点。

「了解、行くよステラ!!」

「オーケー!!」

ステラが一気に飛び込み、両の剣による斬撃を叩き込む。

「そらそらそらあっ!!」

アメリアスは足に肉薄すると、フォトンを収束させる。

「仕掛けるよ! 気圧干渉、大気圧縮!!」

ズィレンハイトが緑⋯ 「風」の色に輝く!

 

「ナ・ザン!!」

放たれた真空の衝撃波が突き刺さると、トレイン・ギドランが怯み、転倒した。

「ミラージュ入った!」

「弱点、確認したぞ!!」

先頭車両の根元に、他の幻創種と同じマークが現れる。

 

「吹き飛んで下さいっ!」

フーリエがランチャーを構え⋯ 気づいた。

「これ⋯ 隠されてる!!?」

弱点の光は、ドアに遮られている。

そのままフーリエが榴弾を当てると、数発でドアは吹き飛んだ。

 

「ちょっと手間かかるみたいだな⋯ よっと!」

起き上がったトレイン・ギドランの足に、アフィンの脆化弾(ウィークバレット)が命中する。

「奴の体勢を崩そう! 頼むカトリーヌ!!」

弱点となった部位へ、カトリーヌが駆ける。

 

「弱点以外は硬い系か⋯ リサさん!」

「はいはーい!」

イオとリサが首を補足しようと、正面に出る。

するとトレイン・ギドランの右の首が、銃弾のように突き出された!

 

「ぎゃああっ!」

「イオさん!? のわあっ!!」

イオがモロに吹っ飛び、緊急回避を試みたリサも撥ねられた。

 

「だ、大丈夫か!?」

「私が行く! アフィンは攻撃を!!」

2人の回復に向かうアメリアスの横で、アフィンは再びライフルを構える。

「あれは⋯ !」

突き出された右首。

そのドア越しに、燐光が漏れている。

「そういうことか!!」

アフィンのライフルが、その一点を向けて、弾丸を連射する。

 

それはドアの破壊には至らなかったものの、確実に足よりは効いている。

アフィンは自分の仮説を確信に変え、叫んだ。

「皆! こいつあれだ! ターン制エネミーだ!!」

 

エネミーの中には、攻撃力が高い反面、攻撃後の隙が大きい物がいる。

こういった敵を俗に、手番(ターン)制と呼ぶアークスもいる。

そして往々にして、そういったエネミーは相手取り易い!

「それなら、戦術は決まったも同然だな!」

「はい! 相手が止まった時に、ドアを狙って下さい!!」

 

中央の首が削岩機に転じ、正面にいたアメリアスへ振り下ろされる。

「ふっ、遅いよ!」

しかしアメリアスは、そのことごとくをかわしていく。

そして最後に振り下ろされた首が、アスファルトの地面に突き刺さった。

 

「おおっと、チャンス!」

アメリアスは一気にブーストし、ドア越しに弱点を蹴り抜く。

ドアを壊されたトレイン・ギドランは、咆哮とともに尾を振り上げる。

 

「後ろ、来るよ!!」

背後を取っていたステラとフーリエ向けて、地面に尾が叩きつけられた。

「危なっ!」

「援護します、ステラさんはドアを!!」

「ありがとうございます!」

 

衝撃波をかい潜り、ステラの剣が躍る。

尾部の弱点も砕かれたトレイン・ギドランが、頭部に青い光を纏った。

「き、キレたか!?」

「うふふふふ! 面白くなって来ましたねえ!!」

 

激昂したトレイン・ギドランが暴れ、、左の首を叩きつける。

奇怪な形状に変化したそれは、正面方向の物を吸い寄せ出した。

「わ、わっ、わわっ!!?」

イオが足を取られ、どんどん首に引き寄せられていく。

 

「こんのっ⋯ 」

イオは覚悟を決めると、首に激突する、まさにそのタイミングで、

「せいっ!!」

一気に飛び出し、首裏へと回り込んだ。

 

「おれだって、これ位!」

すかさずバレットボウを乱射し、左の首も弱点をさらけ出す。

『トレイン・ギドラン体力低下、行けます!!』

シエラが叫ぶと同時に、トレイン・ギドランの脚が爆発し、その巨軀が倒れこんだ。

 

「ようやく、倒れてくれたな!!」

戻って来たカトリーヌを撫で、ピエトロが爆発した前足を見る。

地道に攻撃し続けたのが、ここへ来て、チャンスをもたらしたのだ。

 

「「「叩けええええええええっ!!!」」」

露わになった弱点へと、全力の猛攻が始まる!

「リサさん、アフィンさん!!」

「「了解!!」」

アサルトライフルを持ち、3人のレンジャーがしゃがみ込む。

 

「対象捕捉⋯ !」

「座標収束⋯ 完了!!」

トレイン・ギドランの下に、3つの光輪が展開される。

それはレンジャーに許された、射撃の極地!

「サテライトカノン! 行けえええっ!!」

光輪へ向け、上空から3つの巨大な光線が降り注いだ!!

 

『トレイン・ギドランの体力、あとわずかです! やっちゃってください!!』

「よし⋯ 行け、ステラ!」

「う、うん!!」

姉の声に後押しされ、ステラは駆け出す!

 

「やあああっ!!」

瀕死のトレイン・ギドラン、その首の光へ、フォトンブレードが突き刺さり、

「終わらせる!!」

交差した2本の剣が、ステラと共に迫る!

 

「ディストラクト⋯ ウイング!!!」

 

刹那。

首に刻まれた斬撃から、青い光が漏れ出す。

そこから一気に、トレイン・ギドランの巨軀は、光になって消え去った。

『討伐⋯ 完了です! 幻創種の反応、終息しました!!』

「っしゃああああああっ!!!」

「姉ちゃん、それ女の子が言うセリフじゃないから!!」

 

喜ぶ姉を宥め、ステラはふーっと息をつく。

「無事、終わりましたね⋯ 」

「結構データも集まったんじゃないか?」

長かった任務の終了に、皆が胸をなでおろしている。

 

「ステラもお疲れ様。よく頑張ったね」

アメリアスがとんとんと、ステラの頭を撫でると、

「うん⋯ んあっ」

不意にふらっと、ステラがよろめいた。

「わっ⋯ ステラ!?」

「だ、大丈夫⋯ ごめん」

腕に掴まったステラの体を、アメリアスはそっと支える。

 

やはり、少し無理をしていたのだろう。

「あらあら、お疲れですかあ?」

「仕方ないよ。うん、カトリーヌもお疲れ様」

仲間たちが、2人の元に集まる。

『帰還準備、完了しました。隔離も解除するので、至急帰還をお願いします』

 

シエラの声が、皆に全行程の終了を伝えた。

「了解。じゃあ、帰りましょうか」

「お疲れ様、相棒!」

「今度また同行願うよ。マイフレンドとシスター!」

「ありがとうございましたー!!」

アークス達は語らいながら、帰還の途についた。

 




「有頂天ビバーチェ」
ちょっと変わった同級生と、トリガーハッピーは有頂天。

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