東方高次元   作:セロリ

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82話 1度触れれば大丈夫……

盾役ってのは結構融通がきかない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……此処が貴方たちの望む魔界……とはいってもほんの一角である法界に過ぎませんが……」

 

と、魔界まで道を開けてくれた紫が呟くように言う。

 

確か設定において魔界には、強烈な瘴気が充満しており、普通の人間にとっては其処にいるだけで相当な害を及ぼすと記されてあったはず。

 

その証拠にか、領域を解除しようにも此方の解除命令を一切受け付けない。常に内部領域が発動したままである。その事を理解した瞬間に、何とも複雑な気持ちとなる。

 

本来ならば、俺の身体を守るための領域のはずなのにもかかわらず、この場では非常に圧迫感を感じるモノになってしまっているのだ。

 

とはいっても、それじゃあ領域が無かったら俺は生きていられるのかと言えば、んなわきゃあない。確実に死ぬだろう。

 

長年付き合ってきた領域に、今更文句をつけたいわけではないのだが、……何と言うか。少々やりづらい気持ちになってしまう。解除できないという事を知ったせいか。

 

何とも下らない事を考えながら、紫に礼を言う。

 

「ありがとうございます紫さん。何とか依頼を達成できそうです」

 

すると、紫は照れたように笑いながら、此方に返答してくる。

 

「良いのよ耕也。……大した労力ではないから」

 

嬉し事を言ってくれる。後で色々と御礼をしなければ。

 

そう思いながら、軽く礼をしてから一輪達の方に身体を向ける。そして、向けた時に一つの事に気が付いた。彼女達の顔色が家にいる時よりも良いのだ。何と言うか、まるで貧血を起こした人が回復するかのような差。

 

一体何が起きたのかと思いながら、尋ねる。

 

「随分顔色が良くなってますね」

 

そう質問すると、一輪達は互いに顔を見合わせ、顔を綻ばせながら何かを思い出したように頷き合う。

 

「ああ、これは魔界のおかげですね。この魔界では瘴気が満ち満ちているので、妖怪にとっては非常に過ごしやすい環境なのですよ」

 

と、一輪。

 

言われてから気が付き思い出した。ああそうだ、確か魔界では魔力が上昇するため、妖怪にとっても環境的に有利なのだと。だから魔法を習得するために訪れる妖怪もいるのだと。

 

そして同時にいやな事を思い出した。確か原作では、この魔界に出てくる妖怪は非常に強力だったはず。霊夢が装備を改めなければ退治を諦めるほどの強力な妖怪がわんさかいるのだ。

 

となると、想定していた以上に俺は苦戦を強いられる可能性もある。現萃香達よりはずっと弱いかもしれないが、それでも強いはず。ならば、ずっと早く俺が彼女たちを家にジャンプさせなければならない可能性も出てくる。

 

しかし、そこまでならないうちに紫の介入があると嬉しい。

 

これなら、紫に無理を言ってでも幽香を連れてきてもらえば良かったかも知れない。彼女なら鎧袖一触だろう。両極端な俺と違って攻撃力が安定している彼女なら。

 

しかし、事前にアポも取っていないから今更不可能だろう。

 

少し気落ちしそうになりながら、俺は一輪達に返答する。

 

「確かに瘴気が満ちていますね。これなら、雲居さん達の回復速度も速くなると思います。良かったですね」

 

と、その言葉を言ったすぐ後に、紫から言葉が発せられる。

 

「耕也、申し訳ないけれども私は作業があるから離脱するわ。何かあったらすぐに駆けつけるから安心なさい」

 

俺は、紫の言葉に、先ほど考えていた事を話そうと、口を開く。あまり良い事ではないが。

 

「あ、はい分かりました。ええとですね、その、藍さんは……駄目ですかね?」

 

すると、申し訳なさそうに

 

「ごめんなさいね。私の作業は非常に無防備に近くなってしまうから、藍の護衛が不可欠なの。最近は侵入してくる妖怪も増加しているから……」

 

と言ってくる。やはり駄目であったか。あの防御システムの重厚さと藍の攻撃の激しさ。やはり此方に出向いて来れるほどの余裕はあちらには無いらしい。

 

しかし、それでもピンチの時には援護してくれるだけまだマシといったところか。感謝せねば。

 

「いえ、此方こそすみません。極力御迷惑をおかけしないように致しますので」

 

そう言うと、微笑みながら手を振って隙間の中に潜る。

 

紫が潜った瞬間、何かが俺を圧迫している。そんな気がしてくる。首の裏というべきか、その周辺がピリピリする様な感覚がする。

 

なんとも困った事になった。やはり紫が居なくなった事でその辺の妖怪が殺気立ったか。

 

横目でチラリと見たが、2人ともすでに気が付いていたようだ。顔を少々しかめている。

 

やはり紫の存在は周囲に絶大な影響を及ぼしていたようで、威嚇のような役割も果たしていたようだ。

 

本当にこれじゃあ俺がジャンプさせなければならなくなるかもしれない。

 

「村紗さん。聖さんの封印場所は分かりますか?」

 

すると、村紗はグルッと周囲を見回した後、俺の真後ろを指差して言う。

 

「此処からずっと直線に進めば辿りつくかと。……法界の瘴気の密度が極端に小さい場所があります。また、瘴気が薄いためか若干明るいので、そこが白蓮のいる所かと」

 

言われた所を、双眼鏡で見てみる。

 

狭くなった視野から入ってくる魔界の拡大風景。その中に薄らとではあるが、他の場所よりも空の色が明るく、また若干の赤みがかった太陽光が刺し込んでいる。確かにそこが白蓮の封印されている場所だと断定するのが一番であろう。

 

そしてその光景を見たらその場所に行きたくなってくる。こんな赤と紫の織り混ざった禍々しい空よりも、早く飛倉の結界によって浄化されている空間にまで行きたい。

 

目算大凡10kmほど。いや、それよりもあるかもしれない。だが、それでも行かなければ依頼達成、聖白蓮解放にはつながらない。

 

そう思いながら、俺は一輪達に尋ねる。

 

「あの、そこまで飛べます……?」

 

念の為に聞いてみる。いや、もし飛べるなら俺も頑張って飛ぶし、飛べないのなら……

 

「いえ、すみませんが少しきついかもしれません……。上空は敵も寄ってきますし……」

 

魔界に来てから多少回復しているとはいえ、まだまだ長距離を飛ぶのはきついようだ……。となると、歩くか自動車かジャンプか。勿論ジャンプだろうなこの場合。つか最初からジャンプという選択肢を提示しておけばよかった。

 

「雲居さん、村紗さん。…………敵が来る前に何とか向こうまで行きたいと思います。現時点で戦闘は致命的になりかねません。ですので、ジャンプを使います」

 

「ジャンプ?」

 

と、村紗が不思議そうに首を傾げる。ああ、妖怪が集まってくるのが分かるから、説明は省きたいのだけれども。

 

仕方なしに、簡単に述べる。

 

「ジャンプとは、ええ、瞬間移動みたいなものと思って頂ければ問題ないです。一度来たり見たりした場所へ何時でも自由に移動できる術のようなモノです」

 

ソレを言うと、ほうほう、と一輪と村紗が頷く。まあ、対して驚くようなものでもないだろう。原作だと、瞬間移動のような術は妖精だって使っているのだから。世界を越えて移動できるのは……殆どいないだろうが。

 

「ええ、それとですね、そろそろ結界付近に行った方が良い気がするのですが……」

 

そう言いながら、俺は周りを見るように促す。具体的には、周りに指を指しながら。

 

勿論彼女達もその事は分かっていたようで、すぐに此方を見て黙って頷く。

 

「では、御二人とも私の側に。その方が確実性が増し、同時に安全性も増しますので」

 

そう2人に提示した俺は、ジャンプ発動の為に集中させる。今回は領域に守られている俺だけではなく、他人もジャンプさせるので、いつもよりも更に集中する。輝夜防衛の際に、大量の兵士、他人をジャンプさせた事はあるが、アレは殆ど咄嗟に行った事。それ以外では殆ど行った事が無い。

 

だからやはり集中を行う。

 

「どうぞ」

 

「どうぞ耕也さん」

 

と、一輪と村紗。

 

俺は黙って頷き、ジャンプを敢行する。敢行した瞬間に、景色がブレ、先ほどまで此方に迫って来ていた妖怪、妖精達が線状に引き延ばされてから、しだいに点となる。

 

ジャンプは非常に燃費が悪いため、高々10km程のジャンプでも若干の息切れを起こさせる。

 

俺は少しだけ息切れした身体を労わるように、深呼吸を行いながら正面を見据える。

 

結界まで大凡後100m程といったところだろうか。やはり双眼鏡で見た時よりも全貌が明瞭になってくる。

 

赤、紫が織り交ぜられ、ねっとりとしたような瘴気が渦巻くこの法界という空間を、一部分切りとっているかのように拒み続ける聖なる結界。聖を封ずる結界。

 

その内部には一切の瘴気が無く、唯赤い太陽が不毛で荒野な土地を照らしつけるのみ。原作では此処に星輦船で突っ込み、封印を飛倉の力で解除した。飛倉によって作られた結界を、飛倉によって解除する。まるで鍵穴に形の合った鍵を差し込み開錠するように。

 

しかし今回は違う。鍵を使って開錠するような方法ではなく、完全な反則行為と言っても過言ではない。

 

偽の飛倉を作り、それを基に解除するといった、ピッキングのような方法でもない。

 

後もう20分後に行うであろう行為は、鍵のかかったドアに、鍵ではなく爆薬を用いて爆砕し開錠するような方法である。

 

そんな事を考えながら、瘴気に曝され続けた結果であろう、高熱で焼けたような焦げ茶色の土にしっかりと足を着けながら、結界に足を運んでいく。

 

そして、結界まであともう少しのところで

 

「耕也さん……。妖怪達が……」

 

と、少々怯えたように此方へ報告する村紗。

 

「え?」

 

その声に釣られるように後ろを見やる俺。

 

「うわあ……」

 

参ったなこりゃ、という言葉を飲み込みながら感嘆の声を上げるだけにする。

 

真後ろを見ると、先ほどよりも多くの妖怪が此方に迫ってきているのだ。まだ距離があるためか、少々作戦会議できる程度には猶予はある。

 

しかしおかしい。何故奴らはこんなにも食らいついてくるのだろうか? これは侵入者に攻撃という言葉だけでは片付かないような気がしてならない。

 

現に、妖怪も外から入って修行しに来ることだってあるのだ。どのような方法で来るかは見当がつかないが、修行のために魔界に来るのだ。

 

だとすれば、一輪さん達を狙っているわけではないと考えるのが普通ではないだろうか? 襲いかかる妖怪を撃退するのが修行というのなら別ではあるが。

 

しかし、それよりももう一つの可能性の方がより現実味を帯びている気がする。

 

それは、俺の体質。高次元体が原因であろう体質のようなモノ。つまりは、俺の身体が非常に美味そうに見えるという事。

 

これが起因していると俺は考える。考えたくないが考える。

 

完全に憶測でしかないのだが、何と言うか、勘のようなものだろう。ソレが後押ししている。

 

だから俺は

 

「一輪さん、少しだけ待って下さい。今からある事を試しますので」

 

そう言った俺は、あまり時間が無いので一輪達の返事も聞かずに真横左方向に200m程ジャンプして、相手の様子を観察する。

 

すると、何とも面白い事に、まるで俺が左にジャンプする事が分かっていたかのように、一気にその方向を変えて此方に猛進してきたのだ。しかも一匹残らず。

 

憶測でしかなかった事が、何とも面白い事にドンピシャリだったのだ。

 

「排除するのは簡単かもしれないが……その騒ぎを察知して更に襲われるのは厄介だしなあ……しっかたねえべな」

 

一輪達に妖怪が向かわない事に安心すると同時に、妖怪達が俺だけを狙ってくるのに何とも複雑な気持ちになりつつも俺は一気に集中をする。

 

後300m程で妖怪達が来る。

 

猛烈な地響きと、土ぼこりを上げ、更に涎を撒き散らしながら、いかにも肉を切り裂きためだけに存在するような牙を見せつけ接近する妖怪達。

 

普通の人間が見たら卒倒するようなおぞましい光景。

 

だが、それでも俺は怯まない。絶対的な防御力を誇る領域がもたらす安心感。そして、今まで陰陽師としての経験と、紫、幽香、藍等と接して生じた耐性。

 

だからこそ此処まで平静でいられる。

 

あと200m程。

 

もうあと10秒以内で此方に到達するであろう。接触する寸前まで引き寄せてからが本番である。もちろん接近距離はバラバラであろう。

 

だが、当然ながら全ての妖怪に対して効果を及ばせる。遥か彼方まで飛ばすために、確実に。

 

100m。もう少し。

 

何とも大きく感じる。集団で接近されるとやはり実寸以上の大きさに見えてしまうのだろう。だがしかし、鬼達と対峙した時よりも遥かにマシというもの。

 

(さあて、地の果てまでぶっ飛ばしてやる……)

 

そんな柄にもない事を思いながら、更に集中して敵の接近に備える。

 

あともう少し。もう少し。

 

鼓膜が破れるかと思うほどの怒号の中、一気にジャンプを敢行する。

 

「せえーのっ!!」

 

最早自分が喋っている声すらも聞こえないこの雑音の中、ジャンプが敢行される。

 

そして一瞬の青白いフラッシュが場を覆い尽くした瞬間、先ほどの雑音が無かったかのように、無音状態が築かれる。

 

いや、無音状態ではないのだろう。しかし、無音状態と言いたくなるほどの落差。

 

が、この心地よい状態を味わう暇も無く、ジャンプによるドギツい疲労が身体中を襲う。

 

足が一気に震え、その場に腰を下ろしそうになるが、グッと堪えて一輪達の所にまで戻る。

 

 

 

 

 

 

「すみません、では行きましょうか」

 

そう俺は彼女達に結界を越えてしまおうと促す。

 

しかし、彼女達は茫然とした表情で此方を見続けるだけである。ひょっとして、あの妖怪達が消えた事がおかしく感じるのだろうか?

 

そう思って、一応尋ねてみる。

 

「あの、どうかしましたか? もしかして、先ほどの妖怪の事ですか……?」

 

そう言うと、やはりドンピシャだったようでコクリと頷く。

 

「あの妖怪達が消えたのは、先ほど使用したジャンプですよ。空の彼方にぶっ飛ばしてやりました。此処に戻ってくるのは結構時間がかかると思いますので、その前に封印を解いてしまいましょう」

 

そう言うと、納得しきれないのか首を傾げるが、それでも首をようやっと縦に振り同意を表す。

 

その様を見た俺は、納得してくれた事に安心しながら再び巨大な結界を見やる。

 

何者をも拒み、そして瘴気の中に何百年も顕在し続けられる結界。紫も解除するのに相当な労力を要するか、もしくは解く事ができないであろう強固な術式。

 

あまりにも濃すぎて視認できるほどの瘴気を軽くはねのけるほどの強固な守り。これが集団の、人間の力かと。古き人間の力を思い知らされる。

 

確証はないが、他の妖怪、一輪達ですら触ったらタダでは済まないのではないだろうか?

 

「じゃあ、結界破って封印を解除しますよ?」

 

その言葉に、一輪達は待ちわびたかのように、力強く頷き口を開く。

 

「お願いします耕也さん」

 

「姐さんの封印を解いて下さい」

 

しかし、封印を領域で無理矢理解くという若干安全性に欠ける行為に、俺はほんの少し、ほんの少しではあるが引け目を感じてしまう。

 

原作通りに、星輦船による封印を待った方がいいのではないか? その方がずっと安全であり、俺の領域で解くよりも危険性が少ないのではないだろうか?

 

そんな事を同時に思ってしまったのだ。

 

しかし、あれほど必死に頼み込んできた村紗や一輪達は、この機会を逃すと数百年も我慢しなければならないのだ。

 

それは心の天秤に掛ければすぐに分かる事。人間としての感情、人情とも言うべきだろうか? それとも唯俺の中の常識的な観点から下されているモノなのか?

 

どれかは分からないが、とにかく解除をしなければならないという考えが前面に出てくる。

 

出てくると、先ほどの戸惑いが非常に恥ずかしく思え、アホらしさのあまりその辺を絶叫しながら転がりまわりたくなる。

 

「では、行きます」

 

しかし考える余裕など無く、俺は彼女の言葉に背中を押され、内部領域を纏っている手を結界に突っ込む。

 

その瞬間に、結界の様相が一気に変化し始める。急変し始める。

 

軽い地響きの後、ほんのりと白く輝いていた結界がその輝きを失い、ついには透明になる。

 

「封印は……結界は……?」

 

と、俺が思わず呟くように言った瞬間、一瞬ではあるが、まるで閃光弾のように結界全体が光る。

 

「うわっ!」

 

「わわっ!」

 

「ふえっ!?」

 

俺と、一輪、村紗が驚きの声を上げた時にはその光は収まり、元の透明な状態になる。

 

そして、数秒後には結界が軋みを上げ始める。それはまるで、限界を越えた曲げ率の為に、ガラスが悲鳴を上げるかのように。結界が崩れたくないという意志を此方に投げかけているかのような断末魔にさえ聞こえる。

 

その悲鳴を上げ続ける結界は、俺達の真反対の方向からボロボロと破片を撒き散らすように、罅が入り、内側へと落ちて行く。しかし、幻想の物であったためか地面に落ちることなく空中で霧散し消えていく。

 

まさにそれは短時間でのみ存在し続けられる芸術とも言うべき光景であろう。崩壊が芸術というのも変かもしれないが、俺にはそう感じてしまったのだ。

 

そして完全な崩壊に数分の時間を要し、最後には俺の手が突っ込まれた部分が消え去る。

 

「これで何とか……ですかね」

 

その言葉と共に、後ろに控えていた2人は弾かれるように、中へと走って行く。

 

さすが妖怪というべきか。身体能力は人間のそれを優に超えており、あっという間に点となってしまった。

 

「あー……俺も行きますか……いや、少し待った方が良いかな?」

 

おそらく白蓮を発見した後は再会を喜び合うであろう。親子……ではないが、水入らずの時間を過ごしたいだろう。

 

俺はそう思いながら、ゆっくりと歩いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

走る。走る。走りまくる。己の力全てを出し切る勢いで走る。結界が崩壊した瞬間に走る。

 

妖怪の身体能力を存分に生かせ村紗。一刻でも早く白蓮に会うのだ村紗。会って無事な姿を確認するのだ村紗。

 

そう思いながら、全速力で結界の中心へと走る。

 

赤い不吉な太陽が私達を照りつける。まるで此処には来てはいけなかったかのように、拒むかのように、侵入者に罰を与えるとでも言うかのように照りつける。

 

しかし、そんなことなど気にしてはいられない。私達の白蓮がいるのだ。理想を掲げ、人間に迫害され、離された白蓮がもうすぐ私達と再会するのだ。

 

再会できるのだ。

 

今の私に出来る最大の事を尽くして白蓮に近づく。まだ見えない。しかし、結界を解除した瞬間に感じ取ったあの魔力は間違いなく白蓮のモノ。

 

力強く、そして自らを律し続けた白蓮その人のモノだ。

 

「白蓮…………白蓮…………っ!!」

 

そう自然と言葉が口から洩れてくる。もうそんなことを気にする余裕など無い。

 

「一輪! 見える!?」

 

そう走りながら、後ろを着いてくる一輪に尋ねる。

 

「まだだわ! まだ見えない!」

 

あとどれぐらい走ればいいのだろうか? そんな考えんが浮かんでくる。

 

しかし、それでも白蓮に近づいているという確証はある。私達が走っているというこの状態から、白蓮から溢れ出す魔力が強くなっているのだ。

 

つまりは、私達は確実に近付いているという事。

 

そんな事を思いながら、土ぼこりを立てて走って行く。

 

すると

 

「村紗、見えたっ!!」

 

という突然の報告。咄嗟に

 

「えっ!?」

 

と返答してから、私は目を凝らして白蓮の存在を確認していく。

 

いた。

 

目を瞑り、姿勢よくその場に座り込む白蓮の姿がそこにあった。

 

「いた……いたぁっ!」

 

大声でその存在の確認を示す私。

 

すると、私の声に気が付いたのか、白蓮がそっと目を開ける。

 

そして驚いたのか、すっくと立ち上がり、目を見開いて口に手を当てる。

 

その仕草までも私にとっては、解放された白蓮なんだという実感を湧かせるものであり、嬉しくなる。

 

キュウウウウゥゥゥゥッと一気に気道が締め付けられるような感覚の後、一気にその感覚が眼頭に集まってくる。

 

熱い……もう堪え切れない。

 

「白蓮! ……びゃくれん!!」

 

眼頭が熱くなり、鼻声になりながらも私は白蓮の下に近寄って行く。

 

視界はもうぼやけてしまっているが、段々と白蓮の姿が大きくなる事が確認できる。

 

まるでそれに比例するように涙の量が増えていく。

 

「一輪……水蜜……どうしてここに……」

 

白蓮の詳細な表情はもはや見えない。しかし、口調からするに私達が来た事に戸惑いを覚えているのだろう。

 

「白蓮を、 白蓮を助けに来たのよ……!」

 

と、一輪が大声で叫び散らす。

 

あともう少し。もう少しで白蓮の腕の中に。

 

あの温かくも全てを抱擁し受け入れてくれる私の救いの人。

 

「そう、そうだったの……ありがとう……水蜜、一輪……」

 

そう言いながら、手を広げて抱きとめる動作をする白蓮。

 

その言葉が聞こえた瞬間に、私達は白蓮に抱きつく。最早嬉しさのあまり、減速することすら忘れてしまうほどに。

 

「白蓮、白蓮…………っ!!」

 

熱くなった眼頭から、少しの痛みと共にボロボロボロボロ涙を流す。流しながらただひたすら白蓮の名を呼び続ける。

 

嬉しさやら何やら色々とごちゃ混ぜになった感情が脳天を直撃し、泣き癖まで出てきてしまう。

 

もっと早くこれなかったものなのか?

 

もっともっと速くこれなかったのか?

 

そんな後悔も生まれてくる。

 

「白蓮……姐さん……ひっく……無事でよかった……うぅ…………」

 

普段冷静な一輪ですらも堪え切れなかったらしい。

 

「2人とも……こんな危ない魔界に来るなんて……なんて無茶をしてきたの……?」

 

ずびびっと鼻を啜りながら私達に尋ねてくる白蓮。

 

「だって……だっでええええええええ」

 

「姐さんをたすけだぐで……だずげだぐで…」

 

最早言葉になっているかもわからない何かを発し続ける私達。

 

でもそんな事は関係ない。この溢れる感情を今口に出さなければ死んでしまいそうだ。

 

唯側にいなかった期間が、実際よりも何倍にも何十倍にも長く感じた。

 

息を荒げて白蓮の鼓動を聞きながら、涙を流し続けるのみ。

 

確かに最初は白蓮を封印された事が悲しくもあり、人間に対しての恨みもあった。

 

だが

 

「……ありがとう2人とも……本当にありがとう皆…………」

 

そんな白蓮の言葉を聞いた瞬間、もう白蓮を封じた人間、自分たちを地底に追いやった人間の事などどうでも良くなってしまった。

 

今はただ白蓮との再会に心が一杯になり、他の事が考えられないのだ。

 

「白蓮……白蓮…………」

 

白蓮が今私の側にいると考えるとポワポワ暖かくなる身体が、今は何とも心地よく、私はただ抱きついたまま白蓮の名を呼び続ける。

 

 

 

 

 

 

 


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