東方高次元   作:セロリ

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71話 長時間は勘弁……

手短にお願いしたいのですが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前にいるのは間違いなく四季映姫。ただ、何故ここに居るのかという疑問が噴出してくる。

 

映姫は、悔悟棒を少しだけふらふらとさせながらも、視線だけは俺へと完全に固定させており、余計なことはさせないという事がありありと読み取れる。

 

流石に俺が名前を知っているという事もおかしいので、此処は穏便に事が進むようにする。

 

「は、初めまして。……あの、もしかしてさとりさんの御客さまでしょうか?」

 

すると、微笑みながら映姫はコクコクと頷き、俺に向かって自己紹介を始めていく。

 

「察しが宜しい事で。その通り、私はこの地底を含めたある一定の区域を管轄する閻魔の四季映姫よ」

 

そう言いながら何かを探すように俺の身体をジロジロと見る。

 

それにしても、なぜヤマザナドゥが無いのだろうか? という疑問があったが、それはまだ幻想郷ができていないからであろうという結論が頭の中で浮かんでくる。

 

ヤマは閻魔という意味ではあるが、ザナドゥとは楽園という意味である。しかし今の時代は幻想郷という土地は存在しない。

 

だから、その後に名前が無いのだろう。いや、まだ正式な役職名が別れていないだけなのかもしれない。まあどちらにせよ、あと少ししたら名前がつくのであろうが。

 

と、俺が適当な事を考えていると、四季映姫は眉を顰めながら、自分の持っている手鏡のような円盤状の物体をしきりに見ている。

 

おそらく浄玻璃の鏡でも見ているのだろうが、あいにく俺の過去は見れないであろう。

 

領域が外れたとしても、俺の口から直接言わなければ、高次元の事柄については見れないかもしれない。俺の身体に害的干渉ができないと同じように、俺が知られては致命的な部分と思っている心の部分を覗く事自体が害的干渉であるからである。

 

多分、この世界に来てからの色々な行いについては見れるかもしれないが、それ以外を見ようとした瞬間に領域が遮断しにかかるだろう。

 

そんな事を映姫の行動を見ながら考えていた。

 

俺は映姫が黙りこんだのを後目に、先ほどの高野豆腐を皿に移し替え、鍋に新しい水を入れていく。

 

そしてガス炎で沸騰させていくと、映姫の表情は鏡を前にしながら、水の温度が上がるのとシンクロするかのように表情が険しくなっていく。

 

また、その身体から洩れる神力と負の雰囲気が強まる。……そりゃあそうだろう。

 

たかが人間の俺に、閻魔の力が全く通用しないのだから。もし逆の立場だったら、閻魔としての自信を喪失してしまうのだろうから。

 

ただ、さすがに映姫が俺としても万が一という事もあるから領域を外すことはできない。

 

第一、浄玻璃の鏡とは対象の者の過去に行ってきた様々な事柄を暴いてしまうという何ともありがたくない道具である。

 

つまりは…………現実世界の事は見られないとしても、この世界でしてきた紫達や幽香とのあんな事やこんな事がバレテしまうのである。

 

さとりの能力とは時間軸が違うとはいえ、これもまた厄介な力の一つであろう。

 

だが流石にこれ以上放置するのはかわいそうなので、俺から話しかけることとする。

 

「あの、閻魔様。……そこに御立ちになっているというのも御暇でしょうから、どうぞこの椅子にお掛けになってください。もうすぐで料理も完成しますので」

 

すると、映姫は俺の声に気付いたのか、ハッとした表情で俺の方に鏡から視線を移し、慌てて取り繕いながら椅子に腰を掛ける。

 

「あ、あ~、ありがとう。耕也……」

 

そう言いながらも、その顔は未だに険しくなっている。

 

俺はあえてそれに気がつかないふりをしながら、背を向けて再び料理に取り掛かる。

 

しかし、一向に視線が外れない。背中を向けているので正確な表情は分からないが、未だに厳しいままであろう。

 

そんな予想をしながら、熱湯に砂糖を溶かしてなじむように拡散させていくと、後ろから声がかかる。

 

「…………大正耕也。貴方に話があります。これは閻魔としての話です。いいですか?」

 

聞かなくても大体内容は分かるが、今は料理中であり、燐や空も腹を空かせているのだ。さすがに今話をするのは無理であろう。

 

だから、俺は話に応ずる代わりに、夕食後の自由時間という事にして貰おうと口を開く。

 

「はい、分かりました。……ですが、今は料理中ですので、申し訳ありませんが夕食後という事にしていただけませんか?」

 

それを映姫の方へ振り返りながら言うと、映姫もそれには賛成してくれたようで、悔悟棒を握り直しながら表情を解しつつ席を立つ。

 

「そうですね、さすがにこの場で話すというのも変ですし、……話す時間は夕食後に決めます」

 

そう言いながらスタスタと台所から出て行ってしまった。

 

映姫が出て行くと、思いっきりため息が出てくる。

 

「はぁ~~~~~~~……後でお説教かぁ…………心当たりがあり過ぎて泣けてくる」

 

そういうと、今まで黙っていた燐が近づいてきて、俺を慰めてくれる。

 

「あ~、耕也は……大丈夫だよ。能力とか効かないんでしょ?」

 

「いや、むしろそれが仇になってるんですよ……今回ばっかりは」

 

そう言いながら、高野豆腐を煮ていく。作業をしながらも先ほどの映姫との会話を思い出して、今後を予想して気分が暗くなる。

 

何とも困ったことになったもんだ。幻想郷ができても無いというのにも拘らず説教を食らうとは。

 

内容は……俺が地底に来た理由と、浄玻璃の鏡が干渉できないという部分であろう。

 

多分地底に来た理由は、紫達との関係に直結している上に、陰陽師の本文と相反している行為を行ったのだから、当然ながら雷が落ちるであろう。

 

どうにかその深い部分まで抉られたくはないなと思いながら、熱々の高野豆腐を室温で冷ましていく。

 

その作業する傍らで燐は、炊けた白米をドンドンしゃもじで茶碗によそっていく。

 

燐はよそいながら俺に尋ねてくる。

 

尋ねる表情は、苦笑というべきであろうか? 俺を気遣っているのであろうが、自分でも処理しきれないと言った感じである。

 

「耕也は……さ、色々と苦労しているようだし、閻魔も流石にそこまでしつこく聞いては来ないと思うんだけど」

 

確かにその可能性もあるかもしれないが、彼女は全て平等に裁く閻魔。裁かなければならない存在なのに、俺だけ裁けないから、はいそうですか。という訳にも行くまい。

 

だから彼女はしつこく聞いてきそうだ。

 

そういった考えが俺の中で浮かび上がり、燐にその事をやんわりと伝えていく。

 

「そうですね……。それだったらいいのですが、俺は彼女の沽券に関わるような事をしてしまっているので、さすがに手加減はしてくれないと思います」

 

すると、燐は困ったような顔をしながら、顎に手を当てて唸り始める。

 

俺に対して色々と策を練ろうとしているのだろう。

 

気遣いはうれしいが、流石に彼女にそこまで迷惑をかけるわけにはいかない。死体を集めて怨霊にしてしまうという閻魔にも嫌われそうな事をしている燐が、映姫に盾突くような行為は好ましくないだろう。

 

まあ、妖怪の本分であるからそれはそれで納得してはいるとは思うが。

 

そしてそんな事を考えている間にも、燐は俺の予想通りの言葉を言ってくれた。

 

「じゃあ、あたいが閻魔に頼んであげようか?」

 

俺は嬉しい気持ちになってしまいながらも、彼女の言葉に対してやんわりと断りをいれる。

 

「大丈夫ですよ。……何とかなると思いますよ? 閻魔様の攻撃も食らいませんし…」

 

そう断りを言うと、燐は俺の気持ちを汲んでくれたのか、ニャハニャハ笑いながら皿を運んでいく。

 

「そうだよね~。猛毒でも死ななかったんだもの。閻魔の攻撃も防げるよ」

 

俺は離れていく燐の姿を見ながら、自然と笑みを浮かべていた。

 

すると、燐は突然後ろを振り向き、こちらに向かって少し大きな声を出しながら話しかけてくる。

 

「そうだそうだ。さとり様が泊っていけだってさっ! 夕食作ってくれたお礼だってさ。部屋はこの前と同じだよ!」

 

その快活な笑顔が少し眩しく感じながらも、それに対して返事をしていく。

 

「分かりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

夕食を食べ終わった後、俺は部屋で待つようにと映姫に言われため、部屋へとつながる廊下をノンビリと歩いている。

 

しかし特に戦いでも何でもないのに、妙に緊張している俺がいる。理由は良く分からないが、何故か緊張してしまっているのだ。

 

何だろう? この感覚は。親に怒られる時の緊張感に非常によく似ているのだが、何かが違う。その良く分からない緊張を感じながら、頭の隅へと追いやることにする。

 

……それにしても、俺の能力を知った所で一体何を要求してくるのだろうか? 閻魔の沽券に関わるから領域は常に外しておけと言ってくるのだろうか?

 

それとも、お前は死ぬ事が無いだろうから、今ここで断罪するなどといった花映塚っぽい事をやってくれるのだろうか?

 

もしそれなら俺は此処から尻尾巻いて逃げなくてはならない。戦うとしても最低は外でやらなければ。

 

だが、戦いなんてものは不毛でしかないので、話し合いで何とか解決したいというのが本音。彼女の心もそれに傾いていると良いのだが、それはまだ分からない。

 

気分のせいか、何時もより暗く感じるこの廊下は、さらに俺の気分を沈ませ、深く思考してしまう要因となっていった。

 

少しネガティブになりながら廊下を歩いていると、後ろから突然声を掛けられる。

 

「耕也」

 

俺は思考の海から突然引き揚げられ、反射的に後ろを振り返り警戒してしまう。

 

しかし、その警戒は無意味であったようで、振り向いた先に居たのは、さとりであった。

 

「突然ごめんなさいね。少しだけ良いかしら? 部屋に着くまでで良いわ」

 

俺は目の前の人物がさとりであったことにホッとしながら、了承をする。

 

「ええ、どうぞどうぞ」

 

さとりは俺の返事を受け取ると、少し歩幅を大きめにしながら近づき、俺と一緒に歩き始める。

 

まず最初に口を開いたのはさとりであった。

 

「耕也。……映姫は貴方の力について随分と御執心だったわ。……それと、貴方と妖怪の関係についても。……あの後お燐に耕也と会っていた妖怪について聞いてみたのだけれど、八雲紫と八雲藍、風見幽香と関係にあったのね…」

 

「そうです、その通りです。……映姫さんはそれについてどんな事を言っていました?」

 

すると、さとりはこれでもかとばかりにため息を吐き、残念そうな顔をしながら話しだす。

 

「……物凄く興味を持っていたわ。……人間である貴方がこの地底に来た事や、先日の妖怪との関係。さらには貴方の能力についてもね…心を制御することに長けているさとり妖怪の私ですらあの浄玻璃の鏡では簡単に見破られてしまうの」

 

そう言って深く息を吸って次の言葉を話し始める。

 

「だから……話してしまったわ。貴方の力や此処に来た理由について。……ごめんなさい」

 

俺はその言葉を聞いた瞬間に即座に否定を始める。

 

「謝る必要なんてどこにもありませんよ。……そんな回避不可能な力を使われたら話すしかないですよ…お気になさらないでください。」

 

「……ええ、ありがとう。……頑張って」

 

「はい。ありがとうございます」

 

その言葉とともに俺は部屋へと入り、懐中電灯をつけて机の位置を確認する。

 

そして確認した後、照明スタンドを創造して机の上に置き、電力を供給させて点灯させる。

 

「さて……少しだけ寝る準備でもしますかねえ。説教が終わった後にいつ寝ても良いようにね」

 

俺はベッドシーツを整え、部屋に落ちている埃を掃除機で吸い取り、寝心地が良いように工夫をしていく。

 

「少しくらいかねえ? ……もう一個だけスタンド点けようか」

 

そう独り言を言いながら、俺は部屋の隅に同じ照明スタンドを立てて点灯させる。

 

すると、先ほどの一個の時よりも断然明るくなり、部屋の壁紙の色が薄らとではあるが見えるようになる。

 

まあ、夜なのだしこのくらいで良いのだろうと俺は思う。本来なら蝋燭などといった暗い照明器具で話すはずなのだ。これくらいの明るさならこの時代からすれば常識外であろう。

 

そんな事を思いながらベッドに寝転び、明日の仕事について考えていると、ドアをノックする音が聞こえてくる。

 

「どうぞ。開いてますよ」

 

そう言いながら俺は姿勢を直して出迎える。

 

当然のことながら、そこに立っていたのは映姫であり、顔を少し硬くしながら立っていた。

 

「失礼するわ」

 

そう言いながらゆっくりと歩いてくる。

 

俺は話しやすいように、予め用意してあった小さな丸テーブルに案内して座らせる。

 

しかし、映姫は俺の方を見ると思いきや、照明スタンドの方を注視している。

 

「どうしたのですか?」

 

と、聞くと、映姫は目を瞬かせながら指を指して話す。

 

「これは……貴方のかしら?」

 

「ええ」

 

そう返事をすると、少し羨ましそうな顔をしながら

 

「明るいですね。……これが仕事場にあればどんなに楽か……」

 

そう言いながらため息をついて再び椅子に座る。

 

確かに夜の仕事はこのレベルの光量がなければ厳しいであろう。この時代の蝋燭で読書なんて眼に悪いことこの上ない。ましてや映姫が書類仕事等をしているのだから眼が疲れるであろう。

 

照明スタンドを分けて何とかしても良いのだが……。

 

そう思いながら彼女の方を見ていると、映姫は先ほどの表情が嘘のように真面目になり、口を開く。

 

「さて、話に入ります。……この照明についてもそうでしょうが、貴方の力は一体何なのですか? 明らかに人間を逸脱しています。浄玻璃の鏡ですら効かない貴方の力を話してもらえませんか?」

 

「力というのは……例えばこう言った事ですか?」

 

そう言いながら俺は出し忘れていた飲み物を出して、映姫に渡して自分も飲む。

 

「どうぞ。熱いので注意してください……」

 

この世界ではまずお目にかかれないであろう、ホットミルクココアを出してやる。

 

ソレを映姫は少し中腰になりながら、受け取り、礼を言ってくる。

 

「ありがとうございます。……あ、甘くておいしい」

 

「これはココアという飲み物なんですよ。自分のお気に入りでして」

 

そういうと、映姫はほうほうと頷きながら啜っていく。

 

「確かにこれは良いモノ……ってそうではなくてですね。貴方の力ですよ、その妙な力です。見た所何の代償も無く力を振るっているというのがおかしいのです。おまけに浄玻璃の鏡さえも効かないのです。これでは貴方の死後、苦労しますよ?」

 

少しでも話題を逸らそうとしてみたのだが、駄目であった。

 

まあ、これが話題逸らしになるはずが無いのは分かり切っていた事ではある。ひょっとしたらという程度の事でやっていたのだから。

 

しかし、この力についてを話せとは……結構な人物に聞かれているのだが、これほど断りにくく、誤魔化しにくい相手もいない。

 

おそらく、いや絶対にしつこく聞いてくるであろう。万が一断ったとしても事あるごとに聞いてきそうなのだ。この人の性格上。

 

すると、映姫はさらに食い込んだ質問をしてくる。

 

「話してくださいますよね? 貴方の死後の裁判が非常に不利になるのですから。閻魔の力を妨害するなど重罪なのですよ?」

 

と、俺は話さざるを得ないような状況を作りつつ。

 

確かに俺が死んだら魂は彼岸に行くというのが正規の方法であり、それが最も良い方法でもあるのだろう。ただ、俺が死んだ場合は幽々子や紫が魂ごと回収しそうなんだけどね。

 

そして、俺が死ぬという可能性は無いと言っても過言ではないだろう。

 

だから死後の裁判を気にする必要性はないし、さらに言えば映姫の説教を聞く必要性も無いのだ。

 

だが、それでは今後の関係が今よりももっと悪化してしまうだろうから、ありがたい話として一応聞いておく。

 

とはいっても、こればっかりについては断らざるを得ないが。

 

だから

 

「四季映姫様。……この力の根幹部分については話す事ができません。……申し訳ありませんが」

 

そう言いながら俺は頭を下げる。

 

そういうと、映姫はあからさまに機嫌を悪くし、俺に対して口を開く。

 

「貴方は……閻魔に対しての秘匿が過ぎている。もっと開示すべきです……この件については時間が無いので後日聞かせていただきましょう。次です。貴方は何故この地底に居るのですか? 詳細に話しなさい」

 

閻魔だからといって流石にプライベートに入り込み過ぎなんじゃないのか? と、思ってしまうほど入り込んでいる内容である。

 

まあ、普段は浄玻璃の鏡を使って見抜き、色々と助言や罪の軽減をするのが常なのだから仕方が無いのといえば仕方が無いか…。

 

俺はこれについては、特に現実世界の話と結びついているわけではないので素直に話す。

 

「はい、……これは私が陰陽師でありながら、妖怪と懇意になってしまったがために、封印されてしまったという訳です」

 

「では、その懇意になった妖怪は一体誰ですか? もっと詳細に話しなさい」

 

と、より一層目つきを厳しくさせながら聞いてくる。

 

これは……話しても良いものか。……話した場合、彼女らに被害が及ぶ可能性がある。しかも好戦的な人がいるので、戦闘になる可能性も十分にある。

 

すると、負ける可能性が高いのは勿論妖怪側。閻魔に勝てる妖怪は存在しない。本気の殺し合いに発展した場合でも。舌戦でも。

 

そしてこの妖怪について聞いてきたという事は、さとりが言っていた先日の妖怪との関係について興味があるからであろう。

 

おそらくその中でも一番関係がありそうなのは紫。

 

もちろん俺は、映姫と紫を衝突させたくはない。ただ、本気で衝突した場合にはもちろん紫側につくが。

 

少し後々の事を考えてみると、話してしまうのは不味いのではないかという気持ちが強くなり、俺はその場で少しの間黙秘をする事にした。

 

「……………………」

 

すると、映姫は仕方が無いとばかりにため息を吐きながら俺の方を睨みつけながら言う。

 

「だんまりですか……。閻魔の前でだんまりなど…………はぁ……」

 

そう言いながら浄玻璃の鏡を取り出す。

 

「この浄玻璃の鏡の前では…………………………………素直に話した方が身のためですよ?」

 

と言いながら顔を赤くしながら鏡を仕舞う。見えないという事を思い出したのだろう。

 

俺はその仕草に噴き出しそうになりながらも、その場で黙り続ける。

 

すると、平静になった映姫は、ある言葉を言い始める。

 

「八雲紫…………ですね?」

 

ドンピシャリである。……まあ、どう推測してきたのかは分からないが、よくもまあ此処までピンポイントで予測できたものだ。

 

俺はそれに素直に感心しながら、動揺をさとられないようにココアを飲んで表情を隠す。

 

しかし、その行為を肯定と受け取ったのか、映姫もココアを飲みながら、話し続ける。

 

「やはり八雲紫ですか……。まあ、他の二人はおいおい確かめるとして、……貴方に言いたい事がいくつかあります」

 

そう言いながら、少し乱暴にココアをテーブルの上に置いて、大きめの声で説教をはじめてくる。

 

「いいですか? 貴方は少し人間としての道を外れ過ぎている。片や人間側に味方したと思えばその裏側では妖怪と密接な関係にある始末。そして、さらには自分の力を振りかざして閻魔の力を妨害し、話すべき事情も話さないという言語道断な行為をしているのです。もう少し自分の立場というモノを自覚しなさい。そして、貴方は人の道を外れていると同時に力を持ち過ぎている。力を持ち過ぎたものはいずれその自らの身を滅ぼすのです。今のあなたが三途の川にいけば間違いなく途中で振り落されるでしょう。もっと人間としての本分を果たしなさい。本分を! そして恩人に対して恩を返していきなさい。それが今のあなたに積める善行です」

 

映姫の言っている言葉は全て自分の事に当てはまっている。これが耳に痛い言葉というやつであろう。確かに自分自身の力を過信しすぎて平助の村に大迷惑を掛けたのは記憶に新しい。

 

そして、燐にも言われていたように、人間でありながら妖怪と関係を持つ事がいけない。鏡が使えないのにも拘らずよくここまで判断できるものだ。

 

と、俺は素直に感心してしまう。

 

しかし、映姫は俺を説教するだけでは足らず、悔悟棒にどこから取り出したのか、筆を走らせる。

 

「さとりから聞きましたよ。貴方は不老のようですね。……死ねば裁判で非常に不利になるのは間違いないでしょう。ですが死ぬ確率は極めて低い。……ならばここで罪を悔い改めなさい」

 

そう言いながら俺の名前をスラスラ書いていく。

 

しかし、書いた所で映姫が固まり、顔をしかめる。

 

「……数が出ない」

 

しかし、その硬直も一瞬であり

 

「ならば数は私が判断します!」

 

と、硬直が解けて、そう言いながら悔悟棒を振りかぶり、振り下ろしてくる。

 

「えいっ!」

 

説教だけなんじゃないの……? という突っ込みが湧くも、威勢よく振り下ろされた悔悟棒は、当然のことながら俺の領域に阻まれ

 

「あっ!?」

 

映姫の声とともに真中から、ポッキリと渇いた小気味良い音を発しながら無残にも折れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当然のことながら、後にはとんでもなく気まずい空気しか流れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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