東方高次元   作:セロリ

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69話 此処で再会とは……

無事でよかったよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地底に来てから早数日が経過してしまっていた。本来ならもう幽香達も知っているであろう封印の事を知らせて安心させてやりたいのだが、情報が漏れるのを恐れている部分が心の中にあり、まだ一歩を踏み出せずにいた。

 

しかし、さすがにほったらかしにするのは良くないという気持ちが、日に日に強くなっていると自分でも実感しており、今日ようやく彼女らに会いに行こうと決めたのだ。

 

それに今日は仕事が午前中で終わっており午後が暇になるため、丁度時機も合っているという事にも起因している。

 

しかし、その願望も目の前で繰り広げられる光景には脆くも崩れそうになってしまっている。

 

一体どうしてこんな時に限って来客があるんだ……?

 

今日に限って何故か。…しかも午後になって急に来たのだ。

 

「あの~燐さん? 自分、午後から少し用事があるので、できればちょっと今日は控えていただきたいなぁ~なんて……思ったりしているのですが…」

 

そう、燐が。

 

来たのは仕方が無いので昼食は振る舞ったのだが、いかんせん恩人の一人なのでお引き取り願いづらい。

 

くちくなった腹を撫でまわしている燐は、何とも眠たそうな表情をしながら俺に対して反論する。

 

「えぇ~……? 昨日は暇だって言ったから来たのにそれは無いんじゃないの?」

 

確かに昨日は特に何の予定も無いとは言ったが、訪問してくると聞いた覚えはない…。

 

今日になって地上へ出るのを決心した俺も悪いとは思うが、それにしても今日来るとは思わなかったのだ。

 

「燐さん、来るなら昨日の内にお願いしますよ……。今日はどうしても外せない用事ができてしまったものでして……」

 

そういうと、燐は暫し考え込みながら俺の言葉をかみ砕いていく。

 

「今日はどうしても外せない用事ねぇ…………。しっかたがないなぁ~~」

 

俺の言葉を反芻した後、ニヤリとして俺に向かってしぶしぶ了承すると、ポンという軽い音とともに猫の姿となり、空いた窓から外へと出て行った。

 

「ごはんありがとうねぇ~。おいしかったよ…」

 

そう言葉を残しながら。

 

「お、お粗末さまでした~……」

 

一応そう返しておかなければいけない気がして返しておく。

 

しかし何ともまあ……嵐みたいな妖怪だなと思ってしまう。

 

当然彼女としては、俺が暇だと思ってきたのだから今回の事は意外だったのかもしれないし、断られるのを前提できたのかもしれない。

 

どちらにせよ、彼女に対して悪い事をしてしまったなと思ってしまう。

 

そうだな……お詫びに後で何か甘い物でも上げようか。

 

そう思いながら皿を洗い、出かける準備をしていく。

 

とはいっても特に持ち物は無いので、家具の扉や戸締りの確認をするだけなのだが。

 

周囲を見回しながら、自分の声に出して確認を行っていく。

 

「え~と……家具とかは…………大丈夫そうだな。後は戸締りと窓だけか」

 

俺はその言葉と共に玄関へと歩み寄り、扉をキッチリと閉めて鍵を掛ける。そして居間に設置されている窓の鍵を掛ける。

 

正直なところ、鍵を閉めても妖怪が押し入ってきたら防げないというのが残念な所だが、掛けないよりも掛けた方がずっとマシであろう。

 

俺の希望としては、掛けても掛けなくても泥棒が近寄ってこない事を祈るばかりである。

 

そんな事を思いながら、俺は次に地上に行く場所を限定する。

 

まず、当然のことながら都や村などといった人間のいる場所には行かない。これは大前提である。

 

封印されて数日しかたっていないというのにも拘わらず、人間に見つかったら大騒ぎになること間違いなしである。

 

まあ、子供に見られるぐらいならまだ大丈夫であろうが、妖怪などといった存在に警戒心の強いこの時代の人々は、俺の存在が十分に伝えられていると推測できるので、やはり極力会わない方が身のためである。

 

そこまで考えてくると、結論として出てくるのが平助達の村には行けないという事だろう。村に襲いかかった妖怪を退治したとはいえ、あれほど迷惑をかけてしまったのだから恨んでいない人がいないわけがない。

 

よって、今回地上で行く場所は二つに絞られてくる。まずは太陽の畑。そして冥界。

 

太陽の畑にはもちろん幽香がいるというのが大きな理由である。だが、此処でも細心の注意を払って行かなければならないだろう。万が一という事もある。

 

もし太陽の畑で俺の存在がバレたとしたら、今度は幽香に軍が差し向けられる可能性もあるのだ。もしそんな事をされたら幽香ですらも状況が危うくなる可能性もあるのだ。

 

まあでも、幽香なら俺の時とは違って逃げるという選択肢も容易に取れるだろうし、大丈夫だとは思うが極力、いや絶対にこのような事になるのは避けなければならない。

 

携帯電話とかが使えればこんな心配はせずに済むのだが、もちろん携帯電話は使えない。唯の薄い箱と化してしまう。

 

だからジャンプするしかない。そしてジャンプする地点は、太陽の畑の中心付近が一番であろう。

 

幽香がいればいいのだが……。

 

そんな可能性について考えながら、俺は冥界について考えていく。

 

本来ならば紫の家に直接ジャンプしたいのだが、紫の家にはあいにく行った事も無い上に、どこにあるのかすらも教えてもらってない。

 

だから紫の友人である幽々子がいる冥界に行って方が遭遇する確率は一番高い。

 

流石に俺の家の跡地にいるとは考えられないし、あの場所は後処理で陰陽師や兵などが来そうだから行かない方がいいだろう。

 

だから今回は太陽の畑と冥界に行く。もしそれでも会えなければまた日を改めて行くしかないだろう。

 

俺はそんな計画を頭の中で立てると、最終確認として再び家の戸締りを確かめる。

 

「良し……頼むからいてくれよ?」

 

そう一人呟きながら玄関で靴を履き、家を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

たった数日いたとはいえ、あの殺風景な部分が多い地底と比べると地上という場所が如何に緑に溢れているのかがよく分かる。

 

これから幽香達に会えるという喜びと、地上に再び戻って来れたという喜びが重なり合って、太陽の畑のど真ん中で叫びだしたい気分になる。

 

しかしそれでも見つかると厄介だから、声を押し殺してその場で蹲りながら小さくガッツポーズをしてしまう。

 

それと同時に喜びのあまりか視界が霞んできてしまい、涙が少々零れてしまったのが分かった。

 

掌で涙をぬぐいながら、まだ始まったばかりなのだと気を引き締めて、前傾姿勢で足音をなるべく立てないように幽香の家へと近づいていく。

 

一応周囲を警戒するために耳を欹てているのだが、特に人の足音などといったような自然の音と違う音は聞こえない。

 

やはり幽香の住処であるという事も影響しているのだろう。妖精や木端妖怪の姿も見えない。

 

いや、それがむしろ非常に好ましい状況なのである。木端妖怪に見つかったら見つかったで戦闘になって周囲に大音量を響かせてしまうだろうし、それが元になって見つかったら眼もあてられない状況になるのは間違いない。

 

「頼むからバレないでくれよぉ~…」

 

そう小声で念じるかのように呟いた俺は、漸く目の前に近づいた幽香の家の玄関に忍び寄り、周囲に誰もいない事を再確認する。

 

自分の目に映る光景は、真っ黄色の向日葵畑であり、特に幽香が水やりしている姿も妖精や妖怪が飛ぶ姿も見受けられない。そして一番の人間の姿も。

 

俺はそれにひとまず安心しながら扉に向かい直す。

 

心配掛けた事をどうお詫びしようかという考えが浮かびあがってきたが、それを無視するかのように身体は自然と扉をノックする。

 

拳によって木製のドアが叩かれ、厚い木が放つ鈍い音が鼓膜を叩く。

 

だが、しばらく待っても反応が無い。

 

嫌な予感が俺の脳裏に走るが、それを無視して再びノックする。また、今度はより気付いてもらいやすくなるように声も添える。

 

「ゆ、幽香さん~? いるなら開けて下さい…」

 

大声で呼びかけるわけにもいかないので、少し控えめになりながらも扉を貫通するように手で口元を囲いながら呼びかける。

 

……それでも反応が無い。

 

流石にこの時間帯に寝ているという訳でもないだろう。つまり返事が無いという事は、外出を意味している可能性が高い。

 

俺はため息を吐きながら、心の中で幽香に謝る。

 

勝手にお邪魔して申し訳ありません。と。

 

そう思いながらジャンプを敢行し、家の中へと侵入する。

 

やはり幽香の気配は感じられず、留守だという事を俺に示していた。

 

仕方なしに、またため息を吐きながらもマジックペンとA4の紙を用意し、自分が無事であるという事をつらつらと書いていく。

 

「え~と、……すでにご存じでしょうが、大正耕也は地底に封印されております。ですが健康上の問題等は全くございませんのでご安心ください。日を改め再度お伺いいたします。御心配をお掛けしてしまった事を深くお詫び申し上げます。……こんな感じで良いだろ。うん」

 

内容を口に出して確認しながら書いていく。

 

書き終わった後、扉を開けた時に一番目につきやすいテーブルの上に置き、すぐに気がつくように赤く点滅するLEDランプを置く。

 

点滅を確認すると、俺は急いでその場を後にする。

 

此処より可能性は低いが、冥界に紫がいるようにと心の中で切に願いながら。

 

 

 

 

 

 

 

向日葵畑から冥界までの居地は非常に長いため、ジャンプを敢行した結果、俺は無様にも息切れしてしまっている。

 

やはり長距離の移動にはあまり向いていないらしい。全くもって紫の能力がうらやましい。あんなに長い距離を息一つ切らせずに移動できるのは反則である。

 

俺はこの嫌な疲労感を引きずりながら、魂魄妖忌の姿が見える所まで歩いていく。

 

やはりこの時間帯は木々の手入れをしていたようで、俺の視線の先にいるのが分かる。

 

そして俺が此方の存在をアピールするために声を掛けるまでも無く、こちらに気がついてくれたようで、驚きの表情を浮かべながら近づいてきてくれた。

 

「耕也殿、どうしたのだそんなに息を切らせて。何か急ぎの用事でも?」

 

と、俺の体調を気遣ってくれる妖忌。その気遣いに俺は感謝しながら本題へと入る。

 

「すみません。あの、此処に紫達は来てませんか?」

 

と、少しの希望を織り交ぜながら。

 

しかし、俺の希望は叶うことなく、妖忌の首が横に振られた事によって砕かれてしまった。

 

「いや、来てはいないな……。もし言伝があれば言っておこう」

 

確かに紫達は神出鬼没な部分が多いから、保険として伝えてもらった方が良いだろう。

 

俺は短くその事を考えて、妖忌にそう伝える。

 

「お願いします。……内容は、今は地底にいるけれども、心身ともに無事なので安心して下さい。と」

 

すると、俺の伝えてほしいという内容に引っ掛かりを感じたのか、眉間にしわを寄せて質問してくる。

 

「お主、何かしでかしたのか?」

 

「あまり長居するのもアレなので手短にお教えします。……紫達との関係がバレまして、地底に追いやられてしまいました」

 

すると、さらにしわを深くして俺の両肩をグワシッと掴んで言う。

 

「気にするでないぞ耕也殿。お主は自分の道を信じるがいい」

 

「は、はい…」

 

言われた俺は、気圧されてしまって、そう返事するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と深い穴ね。この穴の最深部が地底なのかしら? 紫」

 

「ええ、そうね。人間に忌み嫌われ、封印され、追いやられた者達が住む場所よ。最近では封獣ぬえ何て妖怪が封印されてるわね」

 

そう紫とやりとりしながら私は藍も含めて3人で地下をゆっくりとでは降りている。

 

この巨大な縦穴から時折吹き上がってくる生温かい風は、ほんの少しだけども焦げのような臭いがし、私の焦燥感をさらに高める。

 

降りれば降りるほど穢れというのだろうか? 地獄に存在していたある種の悪性の気が残っているのが分かる。もちろんこれは私のような強い妖怪でないと分からないほどの微弱ではあるが、

 

それにしても耕也はこんな酷い環境にいるのか。思わず眉間にしわを寄せてしまいそうになるが、グッとこらえる。

 

と、横で渇いた鋭い音が鳴る。それはまるで何か軽量の竹を圧し折ったかのような軽い音。

 

私は音の発生源が気になり、その方向に顔を向けて見る。その瞬間に、ああ、こいつも怒っているのだなと思ってしまう。本気で耕也を心配しているのだなと。

 

紫が先ほどまで余裕の表情を浮かべながら開いていた扇子が、手の中で砕かれていたのだ。おそらく同じような事を紫も考えていたのだろう。

 

紫は自分で折った事にも気付かないのか、そのまま地底の奥深くを睨み続けている。

 

しばらくすると、私が見ている事に気がついたのか、慌てて自分の手を見たり、そこで漸く自分が扇子を握りつぶしているのに気がつく。

 

「お、おほほほ……。ご、御免遊ばせ?」

 

そう言いながら苦笑いして、扇子をスキマに仕舞い、また新しい扇子を取り出す。

 

私はその様子を見ながら、少し冷静になり紫にも助言を出す。

 

「紫、そんなに気を張り詰めさせてたら後々持たなくなるわよ…?」

 

そう言うと、少し顔を赤くしながら恥ずかしそうに

 

「わ、分かっておりますわ……」

 

「紫様、耕也は大丈夫ですよ。こんな環境でも無事に生きてますって」

 

「それは分かってるわ。大丈夫よ藍」

 

そう藍が紫に助言を出すと、紫は冷静になりながら返答する。

 

何というか……今まで焦っていた自分がアホらしくなってしまった。

 

結局のところ耕也を心配しているのは誰だって同じであり、私もそこまで気を張り詰めなくても良いのだと再認識させられたのだ。

 

そんな事を考えていると、自然と険しくなりかけていた表情が自然と緩む。

 

と、そこで私は妙なモノを視界に入れた。

 

それは、巨大なクモの巣であり、それは縦穴の一部に侵食するように形成されていたのである。しかもそこには人型の女妖怪がいるのが見て取れる。

 

私は自然と口に笑みが浮かび、紫に提案をする。

 

「紫、あの娘に聞いてみない? 結構良い情報をもたらしてくれそうな気がするのよ」

 

そういうと、紫も笑みを浮かべて私の意見に賛成する。

 

「ええ、そうしましょう。藍、行くわよ」

 

「はい」

 

私達はゆっくりとその巣に近づいていく。その巣の上で寝転がっている女は近付く私達に漸く気がついたのか、少し顔を青くしながら顔をひきつらせている。

 

私はできる限り威圧しないように笑みを浮かべて朗らかに話そうとする。

 

しかし女はますます顔を青くするばかりであり、此方の意図とは反対に向かってしまっている。

 

それが少々気に食わないと思いながらも、努めて朗らかな笑みを浮かべて質問を開始する。

 

「今日はお穣さん」

 

すると、少し震えた声で此方に挨拶を返す。

 

「こんにちは……な、何か御用…ですか?」

 

「いえ、ちょっとね。聞けば最近、人間の陰陽師が封印されたと聞くじゃない。何でも大正耕也という強い陰陽師だとか。…………それで、此処に来ているかしら?」

 

そして質問の内容にさらに駄目押しとして言葉を付け加える。

 

「正直に話してくれると、……私うれしいなあ? ………………ねぇ?」

 

すると、その妖怪は面白いように首を縦に振りながら、縦穴の下の方を指さす。

 

「し、下で元気に暮らしてます……」

 

私はその言葉に一定の満足感を覚えながら、蜘蛛妖怪に礼を言う。

 

「ありがとう。……貴女の名前は?」

 

「黒谷ヤマメです…」

 

「そう、良い名前ね」

 

そう言いながら再び下へと下っていく。

 

終始紫達は黙っていてくれたのが円滑に進む要因となったのであろう。

 

まあ、任せてくれたと言った方が正しいのか。

 

少しそれに心地よさを感じながら重力に身を任せて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地底につくと、紫はもちろんの事、藍や私の発する妖力のあまりの巨大さに、この商店街らしき並びにいる妖怪達から視線を集める。

 

途中にいた橋にいた妖怪も此方を茫然と見ていたが、それと似たような視線がこちらに注がれる。

 

私はあまりその視線に良い気がしないため、少し笑みを浮かべてやると、雑魚妖怪はスッと顔を引っ込めたり視線をそらしたりする。

 

それでも私の笑みを見ても視線を逸らさなかった妖怪の集団に近づき、耕也についての情報を収集する。

 

「ねえ、一つ聞いていいかしら?」

 

「な、何だ?」

 

私はその答えを聞くと、努めて朗らかな笑みを浮かべながら質問を開始していく。

 

「大正耕也の住んでいる所を知らないかしら?」

 

すると、目の前の妖怪は少しだけ怯えていた表情を崩し、どんどん笑いへと転じさせて行った。

 

「……っぷ、ははははははは! この地底くんだりまで来て言う事があの人間の事かよ。お笑いだなこりゃっ! ははっはっはっは!」

 

そいつの笑いにつられたのか、周囲の妖怪までも笑いだす。

 

私はその笑いに切れかけそうになるが、少しの間だけ我慢してさらに質問する。

 

「で、教えてもらえないのかしら? 私達の大事な人なのよ……」

 

「くっくっくっくくく。ははははは! 人間にかまけてる甘ちゃんに教える事なんざなにっ――――!」

 

最後の言葉を聞かずに私は攻撃を敢行しようとした。

 

しかし、私が攻撃をする前に、その妖怪は身体を折り曲げながら横に吹き飛ばされていったのだ。

 

私が攻撃する前に攻撃を行ったのは、紫だったのだ。

 

紫が行ったのは横に傘一閃。たったそれだけ。

 

その攻撃で雑魚は地面を抉りながら吹き飛ばされていく。当然接地面は鑢で削ったような有り様になっている事だろう。

 

私はその事を見ても、何の感情も生まれず、ただ先ほど立っていた雑魚の後ろの妖怪に向かって殺意が湧くだけであった。

 

「耕也の居場所を吐くまで……いじめてあげるわ」

 

無論、吐く前にいじめるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「け、結局見つからなかった……」

 

そう言いながら白玉楼を後にする。

 

全く、運が悪いにもほどがある。いつもなら幽香は家にいるはずなのに今日に限って居ないとは……。

 

自分の運の悪さに嫌気がさしながらも、自宅に向かってジャンプする。

 

すると、何故かそこには燐とこいしがいた。

 

俺は疲れながらも、二人がここにいる理由を尋ねる。

 

「あの……一体何でここにいるんですか? 鍵閉めたはずなんですけど」

 

すると、燐が尻尾を振りながらニコニコと

 

「台所の窓があいてたよ~…」

 

「え?」

 

俺はその言葉に思わず変な言葉を出してしまい、釣られて窓を見やる。確かに開いている。開いているのだが……。

 

……忘れてたのか? 本当に? 2回も戸締りの確認をしたというのに。

 

まあ、侵入したのがこの2人だからまだ良かったものの、見知らぬ輩だと荒らされそうで怖いな。今度はもう少し念入りに確認しよう。

 

……もしかしたらあの時焦っていたから忘れてしまったという可能性もあるし。

 

俺は仕方なしに、2人に此処に来た理由を尋ねる。

 

「それで、自分に何か用ですか?」

 

不法侵入をしたんだ。急ぎの件や立派な用事があるのだろう。単に暇つぶしで俺の家に侵入したというのなら流石に俺も注意するが。

 

そんな事を考えながら2人の反応を待っていると、燐が尻尾をピンと立たせて俺に掴みかかる。

 

「そうだ、耕也! 大変だよ。商店街で大喧嘩が始まってるんだよ。見に行こう!」

 

こいしは燐の言葉にウンウンと頷き、手で行こう行こうと合図する。

 

……何で俺が喧嘩なんて見にいかにゃならんの?

 

ゆっくりこのまま休ませて欲しいというのが本音なのだ。

 

しかし、それを伝えた所でこの2人は退きそうにない。

 

俺はその事を考えると、早めに行ってサッサと切り上げた方が簡単だなという結論が頭の中で出て、二人に了承する。

 

「分かりました分かりました。じゃあ少しだけですよ?」

 

「にゃはは~……乗りが良いねえ耕也は」

 

「うんうん」

 

「はぁ……」

 

と、俺はため息を吐きながら2人に連れられて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3人で数分の距離を歩いていくと、いつもよりも大きな喧騒が鼓膜を刺激する。

 

これが地底の喧嘩なのか? と思いつつも商店街へと入っていく。

 

すると、俺達が入るなり、周囲からの視線が集まる。

 

まあ、いつもの事だと思いながら歩いていくと、誰かが指を指して声を発する。

 

「ほ、本人が来たっ……!」

 

すると、その言葉を皮切りに俺達の歩いている方も騒がしくなってくる。

 

……いや、本人ですよ? 確かに俺は大正耕也本人ですよ? でもそれが何なんだい……。

 

そう疑問が浮かび上がっては沈んでいき、その声を無視しながら歩いていく。

 

燐とこいしはほとんどスキップしている状態であり、辛うじて俺のペースに合わそうという気持ちが2人の移動速度を抑えているようだった。

 

そして商店街の中を歩いていくと、ついに喧嘩の行われている場所にまでやってくる。

 

だが、人ごみのせいかその現場を見ることは叶わない。

 

「どれどれ~……ちょっとすみませんよ。と」

 

そう言いながら通ろうとしたとき、何故か皆が俺の方を振り向いてギョッとし、まるで海が割れるかのように道ができる。

 

その様に俺はおっかなびっくりにその道を歩いていくと、やがて現場が直視できるような場所まで出てくる。

 

そして現場を見た瞬間に声を上げてしまう。

 

この声は心の底からの驚きの声だったのだろう。燐とこいしは俺の方を見ながらどうしたのという表情を浮かべる。

 

2人には分からないだろうが、俺にとっては一大事である。

 

何故かよく分からないが、幽香と紫、藍が周囲を威圧するように立っていたのだ。

 

そしてその3人も俺と視線を合わせた瞬間に同じような顔をした。

 

あ。……と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は幽香達を見た瞬間に驚きが心を支配していた。しかし、その中で急速に何かが驚きを上塗りして支配しようとしているのだ。

 

その二重のモノが拮抗して、その良く分からないモノが上回り心を支配した瞬間に、視界が歪み始めた。

 

そして歪み始めた瞬間に、一気にそれが溢れだした。もう止まらない。止められないのだ。

 

両目から大粒の涙が溢れ出し、地面をポタポタと濡らす。

 

俺は立ち止まる事ができずに、3人に向かって歩き始めていた。

 

そこで漸く3人も目の前の現実を認めたのか、駆け寄ってくる。

 

まず最初に来たのが、幽香。

 

幽香はそのままの速度で俺に抱きつき、大粒の涙を流しながらしゃくりあげ、その場で俺に言葉を放つ。

 

「ば…か……。何で連絡の一つも……寄…越さ……ないのよ……うう、うううぅぅぅぅぅっ」

 

俺はそれにどう反応していいかも分からず、ただただその場で泣きながら謝るだけであった。

 

「ごめん……本当にごめん……くぅ…ごめんなさい」

 

その場でしばらく同じような応酬が続き、互いに抱き合って泣きあっていた。

 

俺はその場で幽香の背中にまわしていた手をポンポンと叩いて落ち着かせるようにしたやる。

 

大体5分ほどそうしていただろうか? おそらくそうしていただろう。

 

ソレが効果を出したのか、幽香は先ほどよりもかなり落ち着いて俺の傍から離れる。

 

「一人占めはね……後がつかえているし」

 

そういうと同時に今度は紫と藍が同時に抱きついてくる。

 

「全く、……耕也は本当に心配させるのだから……仕方のない人ね……少しは頼りなさいな…ばか……」

 

一筋の涙を流しながら強く強く抱きしめてくる。そして俺の右半身に顔をうずめる。

 

「耕也……私を放って置くとは……くっ…罰が必要だ……」

 

涙を流しながら、紫と同じように左半身に顔をうずめる。

 

そんな俺はただ2人を強く抱きしめ返して、涙を流しながら謝罪するのみ。

 

嬉しさ等といった感情がごちゃ混ぜとなって碌に思考ができない状態となっていたのだ。

 

「ごめん…ごめんなさい。……もっと早く連絡すれば良かったね……本当にごめんなさい」

 

幽香と同じぐらいの長い時間、俺達は観衆をよそにしばらく抱き合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく時間が経ち、漸く落ち着き始めた俺達は、互いに真っ赤に充血した眼をしながらその場で恥ずかしそうに笑い合っていた。

 

観衆は、俺達の行動にやってられなくなったのか、ほとんど帰って行ってしまった。むしろそっちの方がこちらとしては都合がいいのだが……。

 

「さあ、耕也。積もる話もあるから、貴方の家に案内してくれないかしら?」

 

と、紫が俺に微笑みながら言う。

 

「そうですね……じゃあ、行きましょうか? 幽香、藍?」

 

そう聞くと、幽香と藍は頬笑みながら頷く。

 

「ええ、そうね。そうしましょう」

 

「長い話になりそうだな耕也……」

 

そう言いながら俺の傍までついてくる。

 

俺は3人を案内するために、少し前を歩き始めようとする。

 

しかし、それは目の前にいたこいしと燐に遮られた。

 

「ねえ、耕也。……あの…さ。3人は耕也と親しいようだけど……地上に帰ってしまうのかい?」

 

と、燐は若干悲しそうな声で言ってくる。

 

そうだな……地上に行く機会は多くなるかもしれないが、基盤は地底になると思う。というのが俺の考えである。

 

「…………そうですね。地上に行く事が多くなると思います」

 

すると、後ろから紫の声が聞こえてくる。

 

「……耕也、その妖怪達は?」

 

「右の方が火焔猫 燐さん。そして左の方が古明地こいしさん。……御二人とも自分が地底に来た時にお世話になった恩人の方々ですよ」

 

「へえ……そうなの」

 

と、なんだ……とでも言いたそうな表情で紫はこちらに返す。

 

すると、今度はこいしから声がかかる。

 

「え……? ずっと此処に居てくれるんでしょ? 一緒に遊んでくれるんでしょ? ……何で帰っちゃうの?」

 

と、随分と焦った表情で、信じられないと言った口調で俺に尋ねてくる。

 

いつもとは違った口調に俺は違和感を覚えながらも、さすがに恩人を蔑ろにするわけにはいかないと考え、弁明を始める。

 

「いえ、そういう訳ではないので安心して下さい。ちゃんと生活基盤はこの地底にありますので」

 

此処までは良かった。此処までで終われば俺は救われていた。

 

……………しかし、次の一言がいけなかった。そしてこの言葉を放つ前の一瞬のニヤリとした表情もいけなかった……。

 

「嘘よ嘘嘘っ!……嘘言わないでよっ! 最初に来た時なんて土下座しながらペットにしてくださいって大声で叫んでたのに!」

 

俺はその言葉に、一瞬にして全思考が止まり、動けなくなってしまった。

 

「しかもしかも、この前なんて燐のお尻をずぅ~~~~~っと、舐めまわすように見てたじゃない! なのになのに、そんなに私達の事が嫌いだったのっ!?」

 

俺は漸くその言葉で硬直が解け、上手く回らない舌を無理矢理回しながら反論する。

 

「ペットにしてくれだなんて一言も言ってませんよ! ……確かにお尻みてたのは認めますけど、あれは尻尾の付け根に興味があってですね……!」

 

そう反論しつつ、俺の罪を少しでも軽減させようとする。しかし、現実は非情であり、そう簡単に上手くいくものでもなかったのだ。

 

背後で何かが圧し折れるような音がする。……非常に嫌な予感がする。

 

その嫌な予感は良く当たるようで、ゆっくりと、背中から胸辺りをクロスするように腕が巻かれ、抱きつかれる。

 

「耕也ぁ……、貴方そんな事をしてたの……そう、そんな事をねえ……」

 

まるであの時のようなねっとりとした妖艶で甘い声を出しながら俺に囁く幽香。

 

俺は誤解だと思い弁明しようとするが、今度は右腕に柔らかい大きなモノが当たり、抱きつかれる。

 

「あらあら……耕也ったら本当にいけない人ね……お仕置きが必要だわ…………ね?」

 

と、紫が男なら100%堕とされるであろう笑みを浮かべながらそんな事を言ってくる。

 

もはや俺には反論する事も出来ずに唯その事を見守るばかりである。

 

そして最後の駄目押しで左から

 

「耕也はそういう事が趣味なのか……もっと早く言ってくれなければ……罰が必要だなぁ…」

 

そして少しでも反論しようと、俺は口を開く。

 

「あの……無実なんですけど……一部を除いて」

 

しかし、幽香が俺の言葉を抹消しにかかる。

 

「耕也…………私達が貴方をペットで性奴隷にしてあげましょうか? 今夜からたっぷりとね?」

 

「耕也の為なら何でもしてあげるわぁ……ふふふ」

 

「壊しはしないが……壊れる寸前まではするからな……?」

 

俺は3人に押されるままに自宅へと案内をさせられる羽目となった。

 

そして後ろで何とも酷い言葉が聞こえる。

 

「お燐…明日になったら死体が手に入るかもよ? やったね」

 

「でも多分、何もかも搾り取られて干からびたのしか手に入らないような……にゃあ~…」

 

まんまと嵌められた……。もう勘弁してくれ……。

 

2人の言葉にそんな感想を持ちつつ渇いた笑いをするしかなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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