東方高次元   作:セロリ

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59話 長く続くと良かったのだけど……

でもやっぱり状況は刻一刻と……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やはりしばらく掃除をしていないと、普段使っていない部屋などは埃が大量にたまってしまう訳で。

 

俺は依頼を終えて帰ってから数日後の朝、たまたま来てくれた幽香、そして対抗するかのように来た紫と藍に手伝ってもらいながら掃除機をブン回して埃を吸い取っていく。

 

あたりには掃除機の吸気音と、ハタキを持った藍と紫、幽香が談笑している話声が響き渡る。

 

俺としては、三人とも仲良くしているのが心底落ち着きを与えてくれるのだと実感してしまう。もしあの三人が喧嘩なんてしたら……俺の家が壊れる。

 

だからこそ最初鉢合わせした時は、顔に出さすとも内心とてつもなくビクビクしていたのだが、今となっては欠片の心配も無い。

 

俺はそんな彼女たちの姿を見ながら掃除機を動かしていく。

 

……それにしても埃が酷い。少し掃除をしていないだけでこんなに溜まるものなのだろうか? 何だか意図的に埃をぶち込まれているかのような感じすらしてくる。

 

そう思いながらも、掃除しなければ埃は消えないと思いながら、箪笥を退けてその隙間に掃除機を差し込んでいく。

 

「耕也、掃除していて思ったのだけれども、貴方って陰陽師らしい装備が一切ないのだけれどどうしてなのかしら? ……貴方と初めて会った時も言ったかしらね。これについて」

 

突然声が背後から掛かってくる。それに反応して振り向いた先には幽香がいた。

 

幽香の言いたいことは良く分かる。昔にも同僚に良く聞かれた事で、妖怪退治の時には皆札やら有難みのありそうなジャラジャラした棒を持っていたが、俺だけはほとんど丸腰状態だった。

 

その時は聞かれる度に仙人だから大丈夫だと言って誤魔化していた。そう、都に行って陰陽師に聞けば十人中十人が妖怪に対しては精神的に効き目のある武器の方が退治しやすいと答えるだろう。

 

ただ、それは退治しやすいというだけであって、通常の武器でも十分にダメージを与えられる。もちろんこの時代では弓矢や刀などしかないから札などの方がダメージが大きい。

 

しかし、これが現代兵器となってくると話は全くの別物となってくる。銃などの兵器は刀剣類よりも圧倒的に威力が高く、札等比べて劣る精神的な補正を補って余りあるほどのモノなのだ。

 

だから俺は札を使わない。……というよりも霊力がこれっぽっちもないので使いたくても使えない。

 

そんな考えを自分の中でまとめて幽香に言っていく。

 

「あ~……確かに陰陽師っぽくないねえ。まあ、俺は他の人と違って霊力とか全く無いもんだから、札とか持っていても仕方が無いんだよ。おまけにこういった丸鋸や可燃性液体とかの方が倒しやすいし」

 

そう言いながら丸鋸を創造してキュインキュイン回転させる。その様子を見た幽香は、手を握りながら顎に持って行き、何やら考えるようなしぐさをして丸鋸の回転を見る。

 

一体何を考えているのだろうか? と思いながらも、このまま露出させるのはあまり良くないと思ってすぐに丸鋸を消す。

 

幽香はしばらく考えていたが、やがて答えを導き出せたのか、姿勢を元に戻して俺に向かって言う。

 

「ねえ耕也。少し結界みたいなものを解いてもらえるかしら? 私が直々に見てあげるわ」

 

そう言いながら右手を握ったり開いたりを繰り返して俺に領域の解除を促してくる。

 

あまり意味無いと思うのだけれどもなぁ。と思いながらも領域を解いてOKのサインを出す。

 

「じゃあちょっと失礼して」

 

そう言いながら目を閉じて、右手を鳩尾の部分に当ててくる。幽香は真剣な表情をしながら俺の中を探っていく。

 

だが幽香には悪いが、俺の中には霊力が無いというのは確かである。そもそも霊力が無い世界から来た上に、万が一あったとしても領域があるせいで常に打ち消されている状態なのだ。

 

だから調べても意味は無い。でも厚意で調べてくれるのは俺としてはものすごくありがたいです。はい。

 

そう考えているうちに、手を当てている幽香の表情がだんだん険しくなっていく。おそらく俺の霊力が全くないモノだからおかしいと思っているのだろう。

 

これも昔聞いた話だが、この世界の人間には、どんなに霊力の使えないものにも、量としては微々たるものでも必ず霊力は存在するとのこと。

 

それを幽香は知っているからこそ顔を険しくしているのだろう。まるで幽々子が俺の魂が見えないと言っていたような雰囲気を感じてしまう。

 

やがて幽香は諦めがついたのか、俺の身体から手を離してため息を吐く。

 

「……おかしいわねぇ。これっぽっちも霊力が無いだなんて……」

 

そう言いながら首を傾げる。

 

「まあ、でも良いんでねぇの? 特に何か支障があるわけでもないし」

 

「……それもそうね。だけど」

 

そう言い終わった所で俺たちに向かって別の部屋から声がかかる。

 

「耕也、幽香。こちらは終わったわよ~」

 

この声は紫か。もう掃除が終わったのか。何と言うか、紫は何事も手際が良い。物事を考えることも、手を動かすことも非常に効率的にこなす。

 

その1%程度でもいいからその手際の良さを分けてもらいたいと思ってしまう。

 

「はいはい、こっちももう少しで終わるから、そうしたら休憩にしよう。……じゃあ、幽香も自分の場所をお願いね。霊力の話はまた後でな」

 

そう言うと、幽香は分かったと返事をしながら手をヒラヒラさせて俺の元から去っていく。

 

俺はさっさと終わらせて皆で甘いものでも食べよう。と、思いながら作業を今まで以上に早めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

掃除は藍達の手伝いもあってか自分ひとりでやるよりも非常に早く終える事ができた。お礼として昼飯とおやつなどを御馳走し、今は皆思い思いの自由時間を過ごしている。

 

俺は自分のお気に入りのPCゲームを。紫は最近疲れが溜まっているのか睡眠をし、藍は俺のの隣でプレイの様を見ている。一度は勧めたのだが、何だか恥ずかしそうに断った。

 

結構面白いと思うのだがなあ。DEAD SPACEは。

 

最初の方こそ藍はどんなゲームなのか楽しみにしていたのだが、進んでいく内に段々と顔を青くしていく。

 

「な、なぁ……耕也。こんなおぞましい生き物がいるのか? この薄い箱の中に……」

 

今ものすごく貴重な意見を貰った気がする。俺も思わなかった。箱の中に生物がいるという言葉を聞く日が来るとは。

 

俺は思わず笑ってしまった。だが、笑ったままではかわいそうなので、これはカラクリの一種であり、中に本物の人間が入っているわけではないという事を何とか伝えて説得させる。

 

「耕也、この元人間の…ね、ねくろもーふと言ったか? こいつらは、何で主人公を襲ってくるんだ? 妖怪ではないのだろう?」

 

「ああ、こいつらは単に仲間を増やすために殺すんだよね。そして殺された人間を……あ、ほらほらこいつだこいつ。この……エイみたいな奴が死んだ人間をネクロモーフ化させるのさ」

 

参考となるエイの写真を渡しながら藍に説明していく。渡された写真のエイと画面に映るinfectorを見比べた藍は顔をしかめて俺に写真を返す。

 

「気持ちが悪いな。……というよりも九尾の私ですら怖く感じてしまうのだが……こんなの妖怪でもいないぞ?」

 

目の前で引き起こされていく惨劇に藍が青い顔を引き攣らせながら言う。確かに妖怪もここまでの事はしないだろう……。というかできないだろう。

 

俺がもしこの中に放り込まれたら一発で精神崩壊しそうな気がする。冗談抜きで。

 

俺はこのゲームの恐怖と孤独さを存分に楽しみながらストーリーを進めていく。

 

そしてついに藍が根を上げる。

 

「耕也、私にはどうも向いていないようだ……。少し外で気分転換をしてくるよ」

 

俺が暇つぶしの為にやっていたのだが、さすがに可哀そうだと思えてくる。

 

「あ~、そうだね。じゃあ別のゲームにしようか。……こういうのはどうだい?」

 

そういって立ち去ろうとしていた藍をひき止める。藍は一度は襖に手を掛けていたのだが、俺の声に再びこちらを見る。

 

俺は藍が見たことを確認すると、darkSectortというゲームを取り出して藍に良く見えるようにする。

 

「これなんてそこまで怖いものでもないし、主人公の行動がかなりカッコイイから俺とし「こ~う~や~?」……幽香?」

 

俺が藍にゲームの概要を説明しようとしたときに、藍の後ろから幽香が出てくる。

 

その顔は非常にさわやかな笑顔をしているのだが、どこか寒気がする様な雰囲気を身体全体から滲ませていた。

 

俺は幽香に何かしてしまったのだろうか……?

 

そんな疑問が湧いてくる。いや、俺の中で特にヤバい事をしたという記憶は無いのだが……。

 

俺はそれを聞くのが少し億劫になってしまったが、一応聞いてみる。

 

「え~と、幽香さん? ……私めが何かしてしまったのでしょうか?」

 

そう当たり障りのないように聞いてみる。そして対する幽香は、今まで後ろに隠していた両腕を前に持ってくる。

 

その瞬間に俺の全血液が凍りつき、脳の活動が完全に停止してしまった。

 

藍も、幽香の持っているモノに目が行き、俺と同じように固まる。

 

そして俺はもう内心大慌てであった。………何でそんなものを幽香が持っているのだろうか? 確かそれは俺の部屋の、しかも押し入れの中にあったはず……。

 

今日掃除したのって確か俺の部屋以外だった気がするのだけれども……。

 

「あらあら、耕也。これは何かしら?」

 

その言葉に俺は思考の産廃所から一気に現実へと引き戻される。俺は幽香が持っているモノが、見間違いであるようにと僅かな希望を抱きながらソレを再び見やる。

 

だが現実は非情であり、目に映るモノは先ほどと全く変わらない。

 

とんでもない。それはもうとんでもないものであった。というよりもバレたら普通に自殺したくなるほどの恥ずかしさ。

 

「………ゆ、幽香? ……な、ななな、なんでソレ持ってるの?」

 

俺は幽香がニッコリしながら持つソレに対して質問する。

 

「あら、今日掃除してない所があったなって思ったから……そうしたらこんなモノが出てきたのよ?」

 

そして藍は漸く固まりが解けたのか、俺の事をジト目で見てくる。

 

「題名言ってあげましょうか? ……そうね、紫? 耕也がナースにおまか「はいアウトおおおおおおッ!!」……何するのよ変態」

 

俺は口に出される事があまりにも恥ずかしく思い、ソレを自分の腕の中までジャンプさせて、急いで炬燵の中へと放り込む。

 

元の場所に戻すという考えもあったのかもしれないが、あまりにも焦ってしまっていたため考えつかなかった。

 

「へんた……幽香っ! 俺も男なんだから…………たかが1個ぐらい見逃してくれても良いんじゃないか?」

 

そう言って男なら仕方が無いという事を盾にして何とか怒られないように言い訳を開始していく。

 

確かに良く聞く話ではあるが、男がそういった物を持っていると女性は怒る。つまり幽香もこれに当てはまるのだろう。……多分藍も。

 

だが、世の中そううまくいくとは限らないわけであり、俺の言い訳で押し切る作戦は次の声で見事に崩壊するのであった。

 

「あら耕也。起きてみれば……何だか大変なことになってるわね?」

 

そう言いながら炬燵の中に放り込んだはずの、箱を持っている紫が俺の横に仁王立ちしていた。

 

表情はもう大体の想像はできたが、笑顔。そう、とびっきりの笑顔。あまりにも怖いためその場から逃げだしたくなる。

 

だが、逃げたくても身体が言う事を聞かない。

 

紫は、俺の様子を見ながら満足してパッケージの感想を言っていく。

 

「あらあらこれは……何ともまあ、なあすというのは良く分からないけれども、何ともまあ……」

 

と、顔を真っ赤にして口をヒクヒクさせながら。

 

正直言って拷問である。顔が恥ずかしさのせいか物凄く熱く、今にも火が出そうだ。

 

俺は先ほど幽香に言ったような言い訳を再びしていく。

 

「ほら紫……俺も健康な男子なんだし……ね? 一つぐらい持ってても別に良いかと思うのだけれど……」

 

そういうと、顔を赤く染めていた紫がこちらをキッと睨みつけ一言言う。

 

「へぇ……一つぐらいねえ……。じゃあ、これは何かしら?」

 

そう言って持っていた扇子を横に一閃すると、大きなスキマが開かれ、そこから大量に箱が落ちてくる。

 

その大量の箱に、幽香と藍は目を丸くし、俺はもう何の反応もできなくなってしまった。

 

そう、だから必死に言い訳することしかできない。

 

「あ、いや、あの、こ、ここ、これは…………」

 

何かを言おうと俺は必死に声に出すが、余りの恥ずかしさと焦りに言葉が形を成さない。

 

そしてついに雷が3発ほど落ちた。

 

「こ~う~や~……?」

 

「耕也……」

 

「耕也っ!!」

 

幽香、藍、紫の順に落ちてきた雷は、俺の頭に殴ったような衝撃を与え、思わず

 

「ご、ごめんなさいっ!!」

 

謝る羽目になってしまった。しかしそれで彼女たちが納得するわけもなく、その後は延々と説教らしきモノが繰り広げられていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と酷い目にあった気がする……理不尽な気もしてきた……幸せな事なんだろうけど」

 

そう言いながら俺は自分の布団を敷いて寝る準備を整える。

 

3人はそれぞれの翌日の用事などに備えて自宅へと帰って行った。

 

……それにしても幽香と紫達は良く喧嘩しなかったな~。

 

争っても双方の無駄になるだけだから表面上は自粛していたのだろうか? と、そんな考えが浮かんでくる。

 

まあ、今日は色々あったけども、危ない事は特別といってなかったし、皆で飯を食えたから大満足かな。

 

そんな感想を頭に浮かべながら俺は自分の今後について考えていく。

 

履甲の件での報酬は村長が出してくれたからそれなりに財布が膨れたけれども、今後依頼が来てくれるかどうかに掛かっているんだよな……。

 

妙な斡旋みたいな事したらそれこそ評判はがた落ちになる上に、都からはさらにハブられるだろうな。

 

……どうしたものか。昨日も色々と無視されたしなあ……。一般の都民は良くしてくれるけれども……どうも陰陽師や貴族とかがなぁ…何とかならないだろうか?

 

自分の中で、特に妨害活動や都に迷惑を掛けた事など無いものだから、余計に訳が分からなくなっていく。

 

明日あたりにももう一度都に行って粘ってみようかな?

 

と、自分の中で明日の予定を決めつつ部屋の電気を消し、読書用のライトのみをつけて布団をかぶる。

 

そして何気なく寝ながら首を右に向けると、あるモノが目に映って来た。

 

……これは、櫛?

 

そう思いながら手を出してソレを手に取る。

 

……これは幽香のじゃないか。

 

その櫛には名前は書いてないものの、凄まじく綺麗に掘られた向日葵があったためすぐにそれが幽香のモノであると断定する事ができた。

 

明日あたりにでも持っていってあげるかな?

 

そう考えながら俺は瞼を閉じ、深い眠りへと突入していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……一体何のだろうか? 冬だというのにやけに周囲の温度が高い。その温度に段々と眠りから引きずり出されていく。

 

やけに明るい。そして暑い。そんな感想が覚醒しきっていない頭に浮かんでくる。

 

一体何なんだ? そう疑問を持ちながら、瞼をゆっくりとではあるが開けていく。

 

その瞬間に嫌でも脳が覚醒しなければならないモノが目に飛び込んでくる。

 

火。一面の火。視界全てが火。

 

僅かではあるが、ソレを自分の脳が理解し、消化し切るのに時間がかかってしまう。

 

「――――――――――っ!? やっべぇっ!! 火事じゃねえか!」

 

理解し口から自然と大声が出た瞬間に、一気に自分の中の全ての神経が沸騰し始め、脳が身体に鞭を入れる。

 

俺は弾かれるように起き上がり、枕元にあった幽香の櫛だけを掴んで着の身着のまま襖をぶち破り廊下を走っていく。

 

幸いにも領域のおかげで火傷や呼吸困難に陥る事が無く、廊下を駆けていく事ができた。

 

一体何故火事が起きたのだろうか? 俺の火の不始末だろうか? それともガス漏れか? いや、もしかしたらプラグの火花によるものか?

 

そういった考えが次々と浮かんでは沈んでいき、俺の頭をさらに混乱させていく。

 

そんな原因特定が不可能のまま、俺は玄関の金属製の扉に手を掛ける。

 

……動かない。ビクともしない。

 

火のせいで膨張して歪んでしまったのだろうか? いや、今はそんな事を考えている場合ではない。

 

俺は一気に力を込め、生活支援によって扉をぶち破って外に出る。

 

本来ならばジャンプすればよかったのかもしれないが、焦りに焦っていた俺にはそこまで考えが及ばなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扉をぶち破った先で目に飛び込んできたのは、数えきれないほどの松明の炎と兵士、陰陽師。そして無数の矢と札が俺に向かって降り注ぐ光景であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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