UNOは最高に面白いね……
眼が覚めると、俺の横には誰もいなかった。紫や藍はおそらく着替えにでも行ったのだろう。俺は二人の姿が見えない事を両目でしっかりと確認すると、布団から上半身の身を起して昨晩起こった事を実感する。
昨晩の事を思い出すと一気に顔が熱くなり、恥ずかしいような嬉しいような不思議な気持ちになり、しばらく眼を閉じて自分を落ち着かせる。
それは人肌を感じる事ができた嬉しさか、温かみか、それとも恥辱感か。最後の選択肢は無いなと思いつつ改めて自分の愚行を省みる。
本当にとんでもない事をしてしまった……。そう自分の行動の浅はかさを後悔する。俺がもっと紫や藍の気持ちを察して素早く対応できていればよかったのにも拘らず……。
しかし、この朝の冷たい外気にその気持ちを阻害され、集中できなくなってしまう。
だが、起こってしまった事はもう取り返しのつかない事であり、この結果をもとに俺がどう行動するかによって今後の彼女達との関係がギクシャクするか、それとも円滑になるかが決まってくる。
俺はそんな事を考えつつ布団から這い出し、バスタオルを身体に巻き、サンダルで外に出て40℃の湯を創造し、シャワーのように身体全体に掛け、汚れを落とし、そして地面に流れ落ちていく湯を消していく。
また身体に着いた水分も消し、万全の状態になった所で服を着こんでいく。
着込んでいる最中にふと一つの考えが浮かびあがり、自然と口に出していく。
「そろそろ妖忌さんの手伝いに行った方がいいかな……?」
おそらくこの時間帯だと妖忌さんが朝食を作っているはずだ。さすがに泊らせていただいているのだから、手伝いに行かないと失礼にあたるだろう。
そう思い立ち、再び屋内へと上がり、台所の方へと歩いていく。
足を前に進めながらも、足の筋肉に違和感を覚える。やはり昨晩の疲れが残っているのだろう。その足取りは普段とは驚くほど違う。
いくら死んだように眠ったとしても所詮は人間。回復力にも限界はある。
けだるさを感じながらも、その歩みを止めずに長い廊下を歩いていく。さすが冥界の管理者の住居というべきか。一体どれほどの広さを持つのか皆目見当がつかない。
またこの屋敷といえば、その主である幽々子の言っていた、「貴方の魂が欲しい」という発言には随分と焦ってしまったとしみじみ思う。
もし幽々子が俺を殺したとしてその魂を一体どうするつもりなのだろう? 友人として付き合っていくためという建前があったが、実際の所俺の魂を吸収したいという願望もあったのではないだろうか?
そんな背筋が寒くなるような考えが、このしょうもない頭に浮かんでしまったために、気温の低さも相まってブルリと身体を身震いさせてしまう。
そうして歩いていく内に、台所と廊下を繋ぐ扉が視界に入るまで近づいてきた。せめて朝くらいは元気に挨拶をしようと決心し、その歩みを疲れから生じる抵抗感に逆らって速めていく。
歩みを進めていく内に視界に映る扉が大きくなり、もうそろそろだなと実感して足を止め、一回だけ深呼吸をする。
どうか今まで道理のように円滑な関係を、と思いながら足を一歩踏み出す。
すると、丁度3歩ほど進んだ先にある、来客用の寝室の扉が開き、二人の女性が姿を現す。その見覚えのある姿に思わず俺は驚きの声を上げてしまう。
そしてその女性達も俺の存在に気がついたのか、二人して口に手を当て、「あっ」と声を漏らす。
その姿はまぎれもなく、昨晩を共にした藍と紫の姿だった。
私と藍は朝日が昇らないほどの早朝に眼を覚まし、隣に眠る耕也を起さないように布団から出る。
自分らに与えられた部屋へ行こうという合図を手で藍に出しながら、同時に耕也を起さないように右手の人差し指を立てて口元へと持って行き、「しーっ」とやる。
それに藍は頷き、静かに立ち上がる。私は自分の部屋へと繋ぐスキマを作り、足を滑らせるように入っていく。
藍も私の後に続き、私と藍自身の服を回収して滑り込んでくる。
服は全て藍が妖術で綺麗に洗浄をして私に返してくる。それに私は感謝の意を伝えながら、同時に自分の身体も綺麗にして服を着こんでいく。
そして服を着込むと同時に昨晩の記憶が一気に洪水のようになだれ込んでくる。顔が熱くなる。どうしようもないほど熱くなる。恥ずかしい。
藍が主導になったとはいえ、私も大胆な行動に出たものだと思う。そう思うと、恥ずかしさのあまりか身体に力が入らなくなっていき、私はその場にへたり込むように座り、大きくため息を吐く。顔が燃えそうだ。
そして同時に恐怖も湧きでてくる。
「いやねえ…………大妖怪ともあろう私が。こんな……こんな…」
どうして耕也に嫌われてしまうのではないだろうかという不安が湧きでてくるのだろうか。
いや、この不安は必然なのだろう。何せ無理矢理犯してしまったのだ。妖怪の欲に任せて。
身体がカタカタ震えだす。抑えきれなかったのだ。欲しくて欲しくて、手元に置いておきたくて、あの稀有な存在を内に引き入れたくて仕方なかったのだ。
まるで贖罪か、言い訳か、それとも自己の正当化か。どれともつかぬような考えを浮かべてグルグルグルグル回していく。
そんな私の様子を見かねたのか、藍が私の事をそっと抱きしめてくれ、ポツリポツリと私のこの消極的になった心に染み込ませるように呟いてくる。
「紫様……、確かに私達のしたことは耕也の気持ちを考えずに無理矢理の行為でした。しかし今更どうこうできるような問題ではありません……」
「ええ、そうね……続けて?」
「はい、そうですね、……多分耕也は私達の事を嫌いになったりなどしませんよ。これはただの言い訳にしかすぎませんが、私達は耕也が欲しくて仕方がなかった。昨晩しなくてもいつかはこのような事態になっていたでしょう。……ただ、それが早まってしまったにすぎません。」
私は藍の言い方に違和感を覚える。それは言い訳にしても苦し過ぎると。
だが、私の違和感が口から出るよりも先に、藍は
「そして何より耕也は優しい。というよりもお人好しすぎるといった感じですか。だから、もし怒っていたとしても、許してくれますよ。あれは罰だったのですから」
その言葉を終えると同時に私は藍の顔を見上げる。昨晩の事を思い出しながら言っていたのだろう。その顔は真っ赤になっている。
それに釣られて私も顔を真っ赤にしてしまう。当然だ。肌を重ねるのは初めてだったのだから。
藍の言葉に不安感が薄れ、再び恥ずかしさが台頭してくる。
行為の前後では藍の助けもあり、恥ずかしさを精一杯隠して余裕のある大人の女を演じていたのだが、今となってはもう無理だ。
先ほどの恐怖感はもう欠片も無いほど、この恥ずかしさで吹き飛ばされてしまっている。
ああ、これでは耕也に合わせる顔が無い。耕也の顔を目の前にしてしまったら顔が燃焼する。その自信がある。
私の恥ずかしがっている顔を見たのだろう。藍は顔をニヤニヤさせながら私の方に向かって口を開く。
「それにしても紫様。……随分と大胆でしたね? 私も少し驚いてしまいましたよ。それが演技だとしても……」
何て事を主に向かって言うのだろうか、この狐は。少し躾が必要かしら?
そんな事を思いながら私はスキマを通して藍の後頭部に手刀を当てる。
「コォンッ!!」
突然の攻撃に狐語が出てしまったのだろうか? 妙な叫び声を上げる。
私はその反応を見てニヤニヤして藍の顔を見る。
「なっ……た、叩かなくても良いではないですか」
と、恥ずかしさからくるのか、顔を真っ赤にしながら焦ったように言う。
まあ、おそらく藍は私の気持ちを紛らわせようとしてくれたのだろう。そこには密かに感謝する自分がいる。
「ふふふ……ありがとうね。藍」
そう言うと藍は自分の行動の目的を読まれたからか
「い、いいえ……大したことではありません。従者として当然のことです」
と、恥ずかしさを隠せずも返答してくる。
私は本当に良い従者を持ったものだ。
それにしてもやはりあの時無理矢理だったのは、少なからず嫉妬という物もあったと言わざるを得ない。
こう、欲の他に、見ているとイライラしてしまったのだ。物凄く。…………幽々子という親友を前にしてだ。
私は藍にその時の気持ちはどういうものだったかという意見を聞いてみたくなって、つい口を開いてしまう。
藍は私よりも早くから耕也に対して接触しており、また好意も早くから胸の内に孕んでいた。だからこそ同じような嫉妬の念を抱いていたのではないだろうか?
「ねえ、藍」
「はい、何でしょうか?」
「藍は、あの時どう思ったのかしら? 耕也が幽々子に対してしてた行為。どう思ったのかしら?」
そう言うと藍は、少しだけ顔をしかめて私の質問に答えようと考え始める。おそらく様々な感情が渦巻いているのだろう。私の友人である幽々子に抱いてしまった嫉妬。少しの怒り、先を越されてしまったという後悔。
また、耕也を幽々子の能力によって失ってしまいたくなかったという危機感。様々だ。
やがて藍は答えを導き出したようで。ようやく口を開き始める。その答えは非常にシンプルかつ先鋭的であった。
「正直に申し上げますと、物凄く嫉妬しました。あそこまで密着していると……何故だか耕也をどこかへ連れ去ってしまう気がして……」
やはりそんな感じか……。
「そうね……私も同じような気分だったわ」
私とよく似ていると思ってしまう。やはり独占欲は、孤独だった分かなり大きいようだ。仕方ないと言えば仕方ないが。
私はそんな事を考えながら時間がたつのをノンビリと待つ。
しばらくすると、日が昇り、朝食の準備が終わるころだろうと予測し、藍を連れて部屋を出る為に立ちあがって襖へと向かう。
もう耕也は向かっているだろうから、耕也とは朝食の席で会う事になるだろう。その時は色々と話す事もあるだろう。もし耕也が怒っているのなら、真剣に謝らなくてはならない。
そう思いながら襖に手を掛け、右へと力を込めてゆっくりと開けていく。
そして廊下に出て居間へと向かおうと歩き始める。
しかし、そこで予想だにしない事が起こってしまった。
後ろから声がかかってくる。
「あ……」
と。私はそれにひかれるように後ろを見てしまう。藍も同じく振り返ったのだろう。
そしてその姿をこの目の中に入れた瞬間、心臓がドクリと跳ね上がり、顔が一気に熱くなるのを感じる。
やはりいくら藍のおかげで心が落ち着いて準備ができたとしても、実物を前にするとそんなことも吹っ飛んでしまう。
そして主従共に同じ声を上げてしまった。
「あっ……」
と。
「あ……」
そんな声が出てくる。明るく行こうという決心を付けた矢先に、その目的の人物があらわれてしまったからだ。
同時に顔に血液が集まってくるのを感じる。そして俺の視線の先に居る紫も顔を真っ赤にして右手に持つ扇子をフリフリと動かしている。
とりあえず、この空気はあまり良くないのではないかと判断して、挨拶を始める。しかし、どうにも心が落ち着かず、俺はどもりながらの挨拶をしてしまう。
「お、おはようございます。紫さん、藍さん」
そう言うと、藍は
「ああ、おはよう耕也」
スムーズに返してくるのに対し、紫の方はますます顔を赤くし
「お、お、おは、おはよう耕也」
と、ぎこちないカクカクとした動作で挨拶をしてくる。
俺は、紫も昨晩の事を引きずっているのだろうと思い、早急にこの事を解決しなければならないと思った。
何より、わだかまりは早く無くしてしまいたい。俺はそんな事を考えながら紫の方を見て、咳払いをして準備を整える。
そして口を開き、紫に言葉を発する。
「紫さん藍さん」
「な、何かしら?」
「なんだい?」
そして俺は紫の返事を聞くと同時に、頭を下げて言う。
「今回は本当にごめんなさい。もう少し俺が早く二人の気持ちに気付いてあげればこんなことにはならなかった。でも、どうしても怖かったんだ。俺なんかが良いのか? 俺ごときの人間が本当に彼女達と釣り合うのかと思ってしまって。……だから今一歩を踏み出せなかった」
そう言って紫の顔を見ると、紫は驚いているのか口に手を当てている。
藍は、紫とは逆に頬笑み、紫の方を眺めている。
確かに俺がいきなり謝り始めたことに関しては、驚くのも無理はないだろう。
だが、俺には一つ言っていない事がある。それは幽香の事だ。俺には幽香がいる。もし俺が妻を持つとしたら幽香が間違いなくその位置にくるだろう。
だから紫や藍はこの時代の立場で表すのなら、妾という立場になってしまう。もし、もしその妾でも良いというのならば、平等に愛を注ぐ決意はある。
ただ、幽香がその妾という存在を認めるかどうかだ。おそらく認めてくれない気がする。……あの肉体関係を持ったとしても私が一番。という言葉を鵜呑みにするのならば、認めていると思っても良いのかもしれないが。
そんな事を考えながらも、彼女の返答をひたすら待つ。
すると、紫はしばらく固まってはいたが、藍が耳元で小声で話しかけると、ゆっくりと頷き、俺に向かって話しかける。
先ほどの顔を真っ赤にした紫とはまるで違う、最強の妖怪に相応しい威厳を兼ね備えた堂々とした態度で。
「耕也、私の方こそごめんなさい。今回は少し無理矢理すぎたわ……でも、これだけは言っておくわ。私達は貴方を好いている」
「うん、それはわか「あと、幽香も分かっているとは思うわよ」……え?」
俺の言葉を遮ってさらに紫は言葉をつづけていく。
やはり、俺の考えはすべてお見通しのようだ。一番の懸念事項である幽香の事もすでに考えていたようだ。
「幽香も分かっていると言ったのよ。あの妖怪はかなり賢いからこの島国の情勢や夫婦の制度といった物は理解しているはずよ。だから、妾という立場もね……? 今のところは共感はしてはいないだろうけども、頭では理解しているはずね」
と、俺に諭すように紫が言葉を投げかけてくる。
藍は、俺に対して特に何も言わなかったが、主を立てるためにおとなしくしていたのだろう。
そして俺の方に、手を差し伸べてくる。無論藍も。
紫は、少しだけ頬を赤く染め、手を差しのべながら一言言う。
「まあ、これからも色々あるだろうけれども、よろしく……ね?」
「耕也、お前はドンと構えていればいいのだ。な?」
その言葉に俺は後押しをされるように二人の手を掴む。
左手は、藍。右手は、紫。二人の手は暖かく、また非常に心を落ち着かせるオーラを持っており、俺は自然と二人の傍まで近寄る。
そして俺達は、幽々子の待つ居間へと足を運んで行った。
朝食の場で散々幽々子にからかわれたが、何とか回避して現在俺達はUNOをしている。
この提案は俺であり、提案の思惑としては、どうせ今日中に俺は帰ってしまうのだから、何か楽しい事を一つでもやろうという事である。
また、妖忌も俺とようやく話しあってくれるようになった。原因としては、幽々子に止められていたからだとさ。
理由としては、まず俺の魂を抜き取るのを効率よくするため。そして妖忌が口を挟んでくると思ったからだとのこと。
まあ、俺としては別に気にはしない。実害が無かったからな。
俺はそんな事を思いながらも、目の前にあるカードをどのようにして減らしていこうかを画策する。
ちなみにUNOの配置は、俺から時計回りに、紫、幽々子、妖忌、藍となっている。
そして、今回は非公式ルールを交えた変則ルールを行っている。内容としては、あまり知られていない公式ルールのチャレンジがあったり、Draw Twoカードの組み合わせや、同じ数字のカードや同一のカードの複数出しといった非公式ルールである。
上がる時は、複数枚での上りがOKだったり。
ルールは比較的簡単なモノなので、俺よりも頭がいい皆はすぐに飲み込み、それなりに楽しんでいる。
俺は自分の手札を見つつも、今どれほどのカードが出されているかを確認する。とはいってもカードの量が多すぎて把握しきれないというのが何とも悲しい状況だが。
それにしても、一体何で俺のカードの包囲網をを縫うような上手い戦法をとれるんだ?
そして目の前には、藍が出した青の5と黄色の5、緑の5が出される。つまり俺が出していいのは、緑か5かwildか。
さて……俺の手札は…………悲しいほどにパプリカ。黄色と赤しかない……しかも全部数字である上に5が無い。
藍の方を見ると、俺の方を見ながらニヤニヤしているのが見て取れる。ちくせう、一体どうしてこんなに強いんだ。
正直運の作用もあるだろうが、それも実力の内。だから泣く泣く俺は山札からカードを引く。……青のスキップか。
そして出せるカードが無いので、俺は仕方なくパスをする。
一方俺の隣に居る紫は、順調にカードの枚数を減らしつつあり、すでに4枚となってしまっている。
その表情には、余裕が手に取るように分かる。というよりも見なくても雰囲気がそうなっている。
紫は自分のカードの一枚に手を掛けると、こちらの方を見ながらニコリと笑う。
ん? 一体なにするの? ……まさか? そんな嫌な予感と疑問と共に出されたカードは……何で緑のリバースなんだよ!
出せるカードが無い状態なので、またもや一枚引くことになる。しかも黄色の4……もう嫌。
そんな事を思っていると、今度は藍が妖忌に対して攻撃を仕掛ける。
Draw Twoか……数は小さいが、地味に精神的にきついカードなんだよな。特に上がる寸前でのぶち上げはきついモノがある。
だが、妖忌は俺の視線に気がついたのか、ニヤリと笑いながら言う。
「耕也殿、私はこの程度で屈するほど甘くは無い」
そう言いながら出してきたのは、何とDraw Twoの二枚出し。あ~あ、こりゃ幽々子の大損だな。
俺は自分の最下位が遠のいたことに少しの安心感を持てる。
あとは堅実に一枚ずつでもいいから出していけば、俺は何とかビリにならずに済みそうだな。
ところが、世の中そう甘いものではなく、幽々子が紫の方を微笑みながら三枚のカードを出す。
うそだろおい……Draw Two三枚出しとか拷問だろ……。
俺は自分の前の紫でカードが止まってくれるように祈るしかない。大丈夫残りDraw Twoは二枚。そうやすやすと返せるものではない。
隣の方をチラリと見て紫の表情を確認する。紫は困ったような顔をしている。
やったねたえちゃん! カードが増えるよ!……紫のだけど。
そんなしょうもない事を考えながら次のカードを出す事を考える。
しかし、紫の行動は、俺の肩をポンポンと叩いて、振り向かせることだった。
俺が紫の顔を見た瞬間、紫の表情は困った顔から胡散臭い笑みへと変わり
「ごめんなさいね?…UNO」
そう言いながら2枚のカードを場札に出していく。
ああ、どうせもう分かってましたよ。そんな世の中うまくいかないって事ぐらいはさ……。
そしてそのカードを見た瞬間にもう俺は真っ白になりそうになった。
なんで……何で……Wild Draw Fourなんだよっ!
「ウソだろおい~っ!!」
合計20枚のカードを引くことになってしまったのだ。
俺が悲鳴ともとれるような声を上げた瞬間、紫と藍、幽々子は耐えきれなくなったのか噴き出して爆笑する。
妖忌も腕で鼻から口元を隠して必死に笑いをこらえているのだが、眼から涙が滲んでいる時点で台無しだった。
「ちっくしょう、引けばいいんだろ引けば!」
俺は山札からごっそり20枚取って手札へと持って行き、並び変える。
本当にドジなのか分からないが、並び変える途中でカード同士が引っかかってしまい、その場にカードを全てぶちまけてしまう。またもや大笑いされる俺。
絶対に勝ってやると決心した俺だが、結局ビリだったのは言うまでも無い。
後に分かった事だが、紫はスキマを使って俺の手札を見るなどといったイカサマをしていたらしい。こんちくせう。