東方高次元   作:セロリ

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48話 そりゃあムリな話ですよ……

なにせ能力効きませんし……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「攫わせていただきますわ。耕也さん」

 

私はその言葉と共に一度緩く振った扇子を反対側に強めに振る。そして後は妖力を込めるだけ。

 

こうすれば彼の足もとにスキマができて目的は達成だ。もしこの後、あちらでも抵抗するようならば身体を凌辱して徹底的に屈服させてしまえばいい。身体を快楽漬けにしてしまえば心がついてくるのは容易い。

 

拷問よりも遥かに早く、そして最も効率的なのだ。なぜならば抵抗する意思があるとそれだけ式にする事が難しい。おそらく耕也は抵抗するはずだ。長年住んでいたあの家に対して非常に執着していたのだから。

 

まあ、篭絡は経験豊富な藍が主導となるだろう。……私は、その、うん。知識としてなら豊富…。

 

だが、どのみち私達の式となれば彼は藍や私と同じ永い寿命を得る事ができるのだ。そして私の数少ない友人として。いや、もはや家族だろう。藍の意向も採用すると。

 

私は、そんな攫った後に描かれるであろう未来を少しだけ考えながら彼を攫う為に力をふるう。

 

今まで私の力を遮る事の出来たものはいない。おそらく耕也も物理的な攻撃関係を防ぐにとどまるのだろう。鬼たちの戦いを一部始終見たのだが……勇儀といったか。あの鬼との戦いでは物理攻撃だけを防いでいた。

 

そして先の幽香の場合は、幽香自身が耕也に触れられた事に気づいて妖力を引っ込めたのだろう。

 

だとしたら概念攻撃の私の力は防げまい。私のスキマにのまれて目的地へと移送される姿が容易に想像できる。

 

私はスキマを形成するために妖力を込める。また後で会いましょう? 耕也。

 

 

 

 

………………おかしい。いつもならすぐさまスキマが開くのだが、何故か開かない。

 

失敗したのだろうか? 彼の座っている場所の真下に開くように設定したのだが。おかしい。

 

そこでふと耕也の表情を見てみる。彼は私の事を見て、まるで何かあったのか? という風に首をかしげているだけである。

 

次に風見幽香の方に顔を向ける。彼女は私の顔を見ながら呆れたかのような表情をしている。まるで何をしても無駄だとでもいうかのように。

 

そして藍は、私の顔を心配そうに見ている。何故私の能力が発動しないのか? といった感じに。私の方こそ聞きたい。一体何故私の能力が発動しないのか?

 

唯私の失敗だったのならば、それほど心配することではないのだが、今回は明らかに違う。能力の使い方は全て合っている。

 

だとしたら何故?

 

私の中で疑問が大きく膨れ上がっていくのが分かる。それと同時に今まで体験したことの無いような焦りが出てくる。

 

風見幽香が何かしたのだろうか? それとも耕也が……。

 

まさか、私が分析を誤ったのだろうか? 自分の懸念の中で最もあり得ないと思っている事だったのだが、それが今現実味を帯びてきた。

 

どうしたものか。大正耕也がもし能力を妨害しているのだとしたら……。

 

おそらくここまでの力を妨害するには非常に高い霊力が必要になってくるだろう。それもとんでもない水準の。

 

もし彼がその霊力を持っていると言うのならば、納得できる。さらに全くと言っても良いほど霊力を感知させない隠密性。凄まじい。

 

そんな事を考えている内に、耕也から話しかけて来た。

 

「あの、紫さん、攫うだなんてそんな物騒な。もっと落ち着いて話し合いましょうよ。例えば妥協点を探すとかそういった感じで。」

 

確かに妥協点を探すというのも悪くは無い。悪くは無いのだが、今回はそれは却下だ。私の望みに、そして藍の望みにそぐわない。

 

だからこそこの攫うという事はさせてもらわなくてはならない。

 

そして私は、とある事を思い付いた。

 

わたしが耕也に直接触れてさえすればスキマを強制的に開かせる事ができるのではないだろうか?

 

もし私の能力を妨害しているのならば、わざと偽装してやればいいのだ。私しかいないのだと。

 

耕也の持つ身体の表面積の大半を私が覆ってやればおそらくスキマは私しかいないと思ってそのまま開くだろう。

 

何時になく焦っていた私は一気にその不完全な考えを答えであると認識して、行動に移していく。

 

さしあたって触れるのに邪魔な机をスキマに飲み込ませる。そのために膨大な妖力をその場に顕現させ、スキマを展開して排除していく。

 

そしてスキマが机を飲み込んだと同時に私は焦りを悟らせないように笑みを浮かべながら口を開く。

 

「仕方が無いわね。ふふふっ、私が直接案内いたしますわ!」

 

そう言いながら私は突然机が無くなった事に驚いている耕也に向かって一直線に飛び掛かり、押し倒す。

 

「うわっ!」

 

押し倒された耕也は反応できなかったのだろう。そのまま畳の上に私諸共倒れ、驚きの声をあげる。

 

私はそのままスキマを一気に開いて………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわっ!」

 

突然飛び掛かってきた紫に対して驚いてしまい、情けなくも驚きの声をあげてしまった。

 

領域は、俺の身体にダメージは及ばないと判断したのか、紫を弾き飛ばさなかったが、攻撃なのかどうなのかというギリギリの衝撃は俺を畳の上に背を付けるには十分な力があった。

 

紫は俺の上に覆いかぶさったまま力を使おうとしているのか、焦りの表情を浮かべている。

 

そして俺はなぜこのような行為に及んだのか分からないうちに紫の口から一つの言葉が漏れる。

 

「妖力と能力が使えない……」

 

その言葉と同時に紫の表情が、焦りから一気に驚愕へと変わっていく。

 

そりゃそうだろう。俺は自分の持つ力について一切話したこともないし、幽香にだって全てを話してあるわけではない。無論藍にも。

 

おそらく俺に飛び掛かってきたという事は、一度能力を使用して、攫おうとしたのだろう。まあ、あの動作を見れば分かる事なのだが。

 

そしてさらに、能力が効かないという事に焦って強制的に自分ごとスキマに潜り込もうとしたのだろうか? 状況を鑑みるにこの見解で合っていると思うが。

 

俺はしがみついて茫然としている紫をそっと抱き起してやり、声を掛ける。そして何より、俺の身体に大きな二つの柔らかいモノと、まるで強力な媚薬か何かを思わせるような香りが俺の身体に入ってくるので色々とヤバい。

 

「あの~、紫さん? 俺を連れ去るというのは止していただけませんか? 式になるというのはできませんが、自分にできうる限りのことはさせていただきます。ですからそんなに焦らずともよろしいかと思います」

 

俺は紫の機嫌を損ねないようにできる限り言葉を選んで伝える。今の彼女は、俺が予想するにかなり驚きによって不安定なはずだ。

 

そう、本来ならば俺が怒るべき状況なのだろう。しかし、彼女は唯遊び半分で俺を式にしたいと思ったわけでもないだろうし、何より胡散臭いと言っても真剣な表情で言っていたのだから、怒る気が起きないのだ。

 

第一そんなに怒っていたら俺の胃がもげる。

 

自分の胃の状態を心配しながら俺は彼女様子を見る。紫は段々と動揺を抑えつつあり、自分の座っていた位置までのそのそと戻っていく。

 

「あ、ありがとう……」

 

その言葉を残しながら。

 

俺は幽香の方を向き、話は後で聞くから今は我慢してください。という旨を口ぱくで伝える。

 

幽香は俺に任せると言った手前なのかは分からないが、軽く俺のジェスチャーに頷く。

 

幽香もこれ以上騒ぎを大きくすると状況的に芳しくないと判断したのか、そこまで表情の変化や、態度の変化は見せない。

 

まあ、とりあえずは安心といったところなのだろう。幽香に関して言えば。

 

俺は紫の方を再び見る。幽香とのやりとりの間に落ち着きを取り戻したらしく、冷静な表情を浮かべている。だが、胡散臭い笑みを浮かべる余裕はないと見える。

 

そしてしばらくの沈黙の後、紫が口を開く。

 

「なぜ、私の能力等が通用しないのかしら」

 

そういうと同じ疑問を持ったのか、隣に座っている藍も大きく何度もうなずく。

 

そして幽香も俺の方向に顔をゆっくりと向ける。

 

記憶は多分あっているとは思うが、藍にもこの力を見せたのは初めてだろう。防御に突出しているだけなのだが。

 

俺としては、植物を操るだの、式だの境界だのそっちの方が驚きだよまったく。ゲームの世界の事がこうして目の前に存在するのだから参ってしまう。

 

でも諏訪子や神奈子のほうがスケールとしては大きいが。

 

だが実際の所彼女に俺の事を話すわけにはいかない。前に幽香に同じような事を聞かれたのだが、どんな影響があるのか分からないから適当にはぐらかした。

 

だから、今回の件も適当にはぐらかしておきたい。できれば素性などについてはずっと。

 

よっておれはそれとなく不自然の無いように

 

「いや~、それについてはちょっとですね。えっと………………勘弁して下さい」

 

言い訳をしようと思ったができなかった。言い訳が全く浮かばない。

 

攫おうとした妖怪に嘆願とか情けなすぎて泣けてくるよ。でも仕方がない。咄嗟に聞かれた上にいきなり抱きつかれたのだから少々俺も動揺してしまっているのだ。

 

一応言葉の上では平静を装っているが。

 

そして俺の言葉に幽香は予想通りとばかりな雰囲気を出して紫の方を見やる。

 

紫はやっぱりといった感じの表情でカラカラと笑いながら言葉を放つ。

 

「ですわよね。そんなに簡単に自分の正体を吐露する人なんていませんわよね。ふふふっ。でも、私の能力と妖力、さらには物理攻撃を完全に防いでしまうその反則な力。いや、創造もしてしまうのでしたっけ? ふふっ、本当に見事よ。それでこそ藍が認めた男。まあ、内面の方が評価は断然高いらしいのですが」

 

これは素直に褒めていると認識してしまっていいのだろうか? なんだか裏があるような気がしてならない。

 

そして紫の言葉を聞いているうちにひとつ疑問が湧いてきた。俺の能力について何も話していないのにもかかわらず、何故物理攻撃を防いだり、創造するという事について知っているのだろうか?

 

なんかもやもやするので少し聞いてみる事にしようか。もしかしたら風のうわさで聞いたのかもしれないが。

 

「では、私からも。なぜ、私が能力について何も明かしてもいない、実演してもいないにもかかわらず能力を知っているのですか?」

 

どうせ答えてはくれないだろうという予想を立てながら言ったが、俺の予想が見事に当たった回答をしてくれた。喜べない事であるが。

 

「ふふっ、それはどうかしら? あなたが能力を使う場面なんてそこらじゅうにあるのではないかしら?」

 

そして紫の顔は、自分の事を話してくれないのに此方が話すなんて事はしないわ。という感じである。

 

全くその通りであります。何とも虫のいい話を持ち掛けました。すみません。

 

俺がため息を吐くと同時に今まで黙っていた幽香が口を開く。

 

「ねえ、もうあなた達の目標は達成できないという事は分かったのでしょう? だったら早く帰りなさいよ」

 

幽香……、そんなに邪険にしなくても良いじゃないか。そんな事を思っていると、目の前にいる紫が扇子を振るってスキマを開く。

 

「先ほどは大変失礼いたしました。机をお返ししますわ。本当は攫ってしまいたかったのですが……」

 

物騒な事を言って苦笑しながら紫は、スキマから先ほどの卓袱台を元の位置に置く。相変わらず幽香の位置の角が大きく破損しているが。……まあ、後で直せばいいか。

 

そして紫は扇子を開いて口元にやり、最初の時のような胡散臭い笑みを浮かべて一言言う。

 

「今日はここで引かせていただきますわ。でも、諦めておりませんわ。いつか攫って差し上げ、必ず私達のモノにいたしますので御覚悟を。では今度会う時は、……矛盾しておりますが友人として、ね?」

 

そういうと少し顔を赤くしながらスキマを開き、藍を促して紫はスキマへと潜っていく。

 

そして潜る前に今度は藍が、紫のいない事を確認して俺の方に歩み寄り耳元に口を寄せてくる。

 

俺も藍が話しやすいように立ち上がり耳を寄せる。

 

「紫様はな、ああ見えて結構な寂しがりで、だから今回の攫うというのは突発的にやってしまったのだと思う。私達大妖怪というのは、非常に孤独になりやすいからな。私にとっても今回の式にするという事以外は予想外だったのだ。そして耕也だったらこの理由は分かるはずだ。……また後日来るからその時は、な?」

 

その声はどことなく不安そうな声であり、いかに主を心配しているのかが分かるものであった。

 

だから俺は藍をこれ以上心配にさせないためにも言葉を紡いで安心させてやる。

 

「うん、分かってるよ。怒って無いから安心しておくれ。あれぐらいじゃあ俺は怒らないよ」

 

その声を聞くと藍は心底安心したような顔を浮かべて

 

「ありがとう。お前で良かったよ」

 

と礼を言ってくる。俺もなんだかむずがゆくなって一緒に少しだけ笑ってしまう。

 

そして藍は残ったスキマに身体を滑り込ませて帰っていく。

 

最後に

 

「また来るよ」

 

一言残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやあ~、何とか無事に終わったか。まるで嵐が通過したみたいだ」

 

そんな感想を述べながら背伸びをして緊張をほぐす。

 

そして幽香の方に向いて、今晩の飯はどうするのか聞く。

 

「幽香、今夜の飯はどう………どうしたんだ?」

 

幽香は立ち上がっているのだが、少し俯いており、前髪のせいで表情が見えない。もしかして体調でも悪いのだろうか?

 

そんな不安が脳を駆け巡り、急いで彼女の方へと向かい、気遣いの言葉を言う。

 

「幽香どうし」

 

しかし言葉を言い終える前に幽香が突然歩み寄って俺の胸倉をつかむ。

 

そして掴みながら俺に体重と力を込め、後退させ、壁に俺の身体を押し付ける。

 

そのままの態勢で、幽香は暗い瞳をしながら俺の耳に顔を寄せて一言つぶやく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ…………………………なんであの女狐は藍という名前だったの? 前にあなたがよんだ……ねえ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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