東方高次元   作:セロリ

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38話 大変だなこれは……

勝ち抜きって辛すぎないか?……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は大蔵幕府に着いてすぐに実朝のいる部屋に通された。

 

さすがに幕府の頂点の部屋なだけあり、内装及び外装がしっかりしている。

 

この豪華さに戸惑い、驚き、感心しながら周りを座りながら見ていると、後ろの襖が開かれる音がする。

 

おそらく実朝が来たのだろう。

 

その予想をすると共に後ろから声を掛けられる。

 

「此度はよくぞ参られた。お主が大正耕也であるな?」

 

そして俺はその言葉を聞いた瞬間に平身低頭し、実朝に向かって返事をする。

 

「ははっ。おっしゃる通り、私が大正耕也にございます」

 

それっぽく言ってみたが大丈夫だろうか? 少しの不安が頭をよぎる。

 

すると実朝は俺の正面に移動し、そのまま腰をおろしてくつくつと笑う。

 

「よい、そんなに畏まらなくてもな。今回は私の無理矢理な願いを受けてもらったのだからな」

 

「いえ、そのような事は。私も国の平穏は第一と考えております。ですから上様がお気になさることは何一つございません」

 

その代わりマイホームが滅茶苦茶になってしまったが。

 

俺の言葉に実朝は頷きながら、一つの紙を差し出す。一体なんなのだろうかこれは。

 

受け取りながらそう思う。紙の質も普段使う物よりも一段劣っており、字も汚い。

 

「上様、これは一体……?」

 

実朝は俺の心の中の感想に答えるかのような返事をする。

 

「字が汚いであろう?」

 

「……はい」

 

返事を聞いた実朝はさらに言葉をつづけていく。

 

「これはな、鬼たちからの果たし状だ」

 

果たし状? 一体なぜだろうか?

 

確かに鬼は人間との勝負が人生での生きがいの一つなのだろうが、態々ここまでの事をする必要があるのだろうか?

 

だが、今回は人間たちの軍勢とのぶつかりあいだったと聞く。ならばこんな七面倒くさいことをする必要があるのだろうか?

 

人間と一対一で戦いたいのならば、幕府の重鎮でも人質にとって強制的にやってしまえばいいというもの。

 

だが、そんな事を考えた上で訂正しなければならない考えがフッと出てくる。

 

そういや鬼ってのは正々堂々がモットーだっけ?

 

だからこんな形でしか申し込むことしかできなったのだろうか?

 

そんな事をトヤトヤと考えながら自分の疑問を話す。

 

「一体何故挑戦状などを送ってきたのでしょうか? ……奴らは何が目的なのですか?」

 

「奴らはな、本来なら都に現れるはずだったらしい。だが、都には強い人間があまりおらず、襲っても大した満足感は得られない。そこで幕府周辺に大勢いる武士に目を付けたという事らしい。……だが、幕府の誇る武士や陰陽師でも鬼たちとの戦いではことごとくやられてしまってな」

 

そして実朝は明らかに先ほどとは打って変わって意気消沈してうなだれる。が、さらに言葉をつづけていく。

 

「……そして今回の果たし状の内容については見ても分かる通り、幕府で最も強い三人を寄越して決闘をしろとのことだ。どうも鬼はしびれを切らしたようでな。だが奴ら鬼どもに正面から太刀打ちできる人間は僅かしかいない。それほどに圧倒的な人材不足なのだ。そこで私はお前を呼んだというわけだ。最強の陰陽師よ。」

 

実朝の言葉を聞いて妙に納得してしまう。

 

確かに、鬼は確かに強いからな。人を遥かに超す力を持ち、妖力も妖怪の中では桁違いに高い。

 

陰陽師といえど、相当に強い者たちでなければ太刀打ちすることなどできやしないだろう。

 

ましてや四天王である萃香や勇儀、彼女たちと戦って勝てる人などいないのだろう。

 

では俺の場合ならどうなのだろうか?

 

そんな疑問が頭の中で次第に流れを得てグルグルと回りだす。

 

…確かに俺に攻撃は一切効かないし、外の領域で能力を封じることもできる。

 

だが、彼らのスタミナは人間とは桁が三つ四つ程違う。どんなに効かないと言っても、持久戦に持ち込まれたら俺の体力切れで事実上の負けとなってしまう。

 

どうしたものか。軍事兵器なら勝てるのだが…正々堂々の勝負で使えるほどの隙を見せてくれるだろうか?

 

鬼は、力が強いだけではなく動きも俊敏だと聞く。人間の平均的な体力よりも若干劣るほどの身体能力しかない俺が鬼のスピードについていけるだろうか? どう考えても望みは無い。

 

だが、その差を埋めるために卑怯な手を使ってしまっては相手を激怒させてしまう。だが、いずれにしろ後の歴史で人間と鬼の関係は崩れてしまうだろうが。

 

しかし、この依頼を受けると決めたからには必ず勝たなくてはならない。何が何でも。

 

だが、ここで自分の考えが最悪の事態を想像させてしまう。

 

…もし、俺が負けた場合、幕府が滅茶苦茶にされてしまうのだろうか?

 

ここに住んでいる人は食われてしまうのだろうか? それとも命が尽きるまでの労働力としてこき使われるのだろうか?

 

だが、どんな処分が提示されようとも負けるわけにはいかない。何が何でも。

 

せめて、せめて引き分けまでには持って行かなくてはならない。

 

おそらく3人での戦いという事は、俺の他に二人の武士か陰陽師を連れていかなくてはならない。

 

なら相手も3鬼。

 

もし総当たりなら、滅多な事が無い限り負けてしまう事になる。

 

でも決闘方法をこちらで指定できるのなら、勝ち抜きにしてしまえばいい。それで俺が全ての勝負に勝つ、又は引き分けに持っていけばいいのだ。

 

俺はそんな不確かな憶測を基にして皮算用を行っていく。

 

そして、このような思考を行っていると実朝から声を掛けられる。

 

「大正耕也。どうした? 身体の調子が優れんのか?」

 

どうやら考え事に耽っていた事が体調が悪いと勘違いされたようだ。

 

俺の考えている顔はそんなに病人のように映ってしまうのだろうか?

 

とりあえず、誤解を解かなければならないため、否定の意を伝える。

 

「いえ、体調が優れないという訳ではないのですが、今後鬼たちとの戦いにどのような戦法をとっていけばいいのか考えておりまして」

 

すると、実朝はほっとしたような表情を浮かべ、その場から立ち上がる。

 

そして俺の方を力強い芯の通った眼で見て口を開く。

 

「それならば安心した。……では、残りの二人はこちらから送る。頼んだぞ。まだ私には政でやらなければならない事があるのでな」

 

「かしこまりました」

 

その言葉を聞くと満足そうな顔をしながら部屋から去っていく。

 

俺は実朝が去ってすぐ後に、実朝の側近に連れられ幕府の出口まで案内される。

 

今日の宿はどうしようかと考えながら幕府を後にしようと思った時、突然側近が口を開く。

 

「大正耕也殿。どうか、どうかこの鎌倉幕府をお守りください。実朝様はこの幕府と幕府周辺に住む民草を何よりも大事にしておられるのです。実は実朝様は、鬼が襲来した時に自分の命と交換条件に民を守ろうとしたのです。ですからなにとぞ、なにとぞお願いいたします。」

 

そういって深々と頭を下げる。

 

ここまでされては逆にこちらがかしこまってしまう。

 

だが、俺はその思いをしっかりと受け取り、相手にしっかりと伝わるように返事をする。

 

「お任せ下さい。この命に代えても幕府は守ります」

 

その言葉に心底安心したのか、満面の笑みで言う。

 

「ありがとうございます。ありがとうございます」

 

このやりとりが終わった後、俺はこの側近としばらく談笑をしながら時間をつぶした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勇儀、幕府に新顔が来たようだよ。名前は、確か大正耕也だったかな?」

 

この広い横穴状に広がる洞窟に私の声が響き渡る。

 

この声を受け取ったのか、暗闇の奥から声が聞こえてくる。

 

「へえ、確かその男は一時期都で名を馳せていた陰陽師じゃないかい? 何でも最強だとか何とか。といっても所詮は人間の中ではだろうがね」

 

有名だったのか。あまりにも最近の陰陽師が弱すぎるから個人個人の名前なんて覚えていられない。

 

だが、確かに他の陰陽師とは雰囲気が違った。何と言うか、言葉では上手く表せないのだが…何かが違うのだ。

 

彼の存在というか…彼の周りの空気というか…そう、とにかく何かが違うのだ。霧となって監視してから初めて分かるほどの違いではあるが。

 

それに悪戯として、彼の心を少々操ってやろうかと思ったのだが、これまた不思議なことに私の力が一切効かない。

 

だが、おかしい。人間ごときに制されるような単純なものではないのだ。この力は。疎と密を操る力。この強力な力からくる限定的ではあるが心を陽気、陰気にしたりする事ができる。

 

これを使って影響から免れることのできた人間はいない。…おかしい。本当におかしい。不思議ではない。決して不思議という簡単な言葉で片付けられる物ではないのだ。

 

ただ純粋におかしい。だが、何がおかしいのか分からない。ただ、今考えられることは一つ。今回の決闘は一筋縄ではいかないという事だろう。

 

もしそうだとしたら、久しぶりに満足のいく戦いができそうな気がする。

 

勇儀もひょっとしたら心の中では戦いたくてウズウズしているのかもしれない。

 

「ねえ、勇儀。今回の戦い。かなり楽しくなりそうだよ? 私の能力が効かなかったのだからね」

 

それを聞いた勇儀は一瞬呆けた表情になったが、次の瞬間には両目を爛々と輝かせながら、笑みを浮かべる。

 

「へへえ、そいつは驚きだ。なら、今回は楽しめるかねえ……」

 

やはり、勇儀も心の片隅では期待していたのだろう。今回の戦いは茶番にすぎないものだったが、こんな大物が来るとは。

 

そう、あまりにも幕府の人間が弱かったものだから、より強い者を引き出すために態々このような面倒くさいことをしたのだ。

 

ええっと、これを人間の諺で言うなら……エビで鯛を釣る……だったかな?

 

まあ、とにかく楽しませてくれよ? 人間達よ。

 

「そうだ、勇儀。今回は私たちが戦う事になっているけど、残りの一人はどうするんだい? 書状を送った手前、欠席ですなんて事はできないだろうし」

 

その言葉を聞いた勇儀は、顎に手をあて、少しの間考えるしぐさをする。

 

やがて考えがまとまったのか顎から手を離し、酒を飲み喉を潤してから私の質問に答える。

 

「確か、才鬼じゃなかったかな? ずっと戦いたい戦いたいと言っていたのだし」

 

あの娘か。確かあの娘は

 

「ふ~ん、たしか才鬼は力だけを見れば私よりもあるんじゃなかったっけ?」

 

そう、力だけは。総合的に見れば私の方が上だが、それでも四天王を除けば一番強いのだ。

 

「そう、でもあの子は対戦相手を食おうとするからねえ。この前も一人やってしまったし」

 

「ああ、そうか。となると、今回も才鬼だけで片がつくのかなぁ。今回は勝ち抜きだし」

 

でもまあ、どうなるかは私にも分からない。

 

勝ち抜いてくる事を私は願うがね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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